カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第3話 ペンション探索

 060号室に荷物を置いた玄咲は即座に部屋を退散した。ルディラと同室など玄咲の心臓が持つはずがないからだ。

 

「ペンションも色々な施設があるんだよな。ちょっと見て回るか」

 

 玄咲はラグナロク・ペンションの探索を開始した。まずは104号室に足を向けかけて、

 

 ――離れていても心は一つ、だよ。

 

 いつか聞いた言葉が胸に蘇る。少し考えて、進行方法を変えた。

 

「まずはラグマに行くか」

 

 

 

【ラグナロク・マート】

 

 茶色で縁取られた白い壁に挟まれた赤い廊下を行く。

 階段を下り、1階へ。

 すぐに見慣れた店構えと人集りが見えた。

 それだけで玄咲は不思議と安堵に包まれた。

 なるほど、こういう事かと思いながらラグマへ入店。

 ピンコーン。

 

「いらっしゃいませ」

 

(ッ!)

 

 玄咲は息を飲んだ。

 声のした方角。

 レジ。

 そこに、褐色の肌と銀色の長髪を持つ美しき店員がいた。

 ラグナロク・マート総括店長。

 黒田ミカエラ。

 裏方で作業することが多いためヘルプの時くらいしかレジに立たないレアキャラ。

 ゲームでは100回に1回しか出現しないヒロインにも負けず劣らずの超絶美少女。

 そのミカエラがレジに立っている。

 とんとことん饅頭を個人的嗜好から私的発注している所がチャームポイント。

 サブキャラながら人気投票順位が神楽坂アカネより上の16位と中々の人気キャラ。

 玄咲も当然好きなキャラだった。

 玄咲は鋭く思考する。

 

(なるほどな。ヘルプ。確かにこの出張ラグマの経営は通常以上の力が求められる。だからこそ最も優秀なミカエラ店長が派遣されてきたという訳か。いい仕事するぜ。……しかし、列の偏りが酷いな)

 

 5台あるレジ。その中でミカエラのレジだけ明らかに人が多い。玄咲は呆れながらその列を見送り、商品を選んで、そして自分もまたミカエラの列に並んだ。当然の正位置。

 

「次の方。どうぞ」

 

「はい!」

 

 玄咲は適当に選んだ一冊の漫画をレジに差し出した。

 

 逢魔尖線学園血風録1 散華編

 

 ピッ。

 

「390円です」

 

(安い)

 

 思いながら生徒カードをレジに通す。

 

 ピッ。

 

「ありがとうございました」

 

 ミカエラが頭を下げる。美しい頭頂部。ゲームと同じ角度。玄咲は反射で口にした。

 

「スマイルをください」

 

 ドン引きの気配。後ろからも。玄咲は速やかに背を翻しポーカーフェイスでその場を去ろうとした。

 

 その背に。

 

「……そりゃ、不安にもなりますよね」

 

 天使のような心の気配。玄咲は振り向く。その眼に映るは。

 

 やはり、天使のような――。

 

 

 

 

(ありがとう、ございました……!)

 

 玄咲は購入した漫画を大事に胸に抱えて店を出た。ミカエラのスマイルはその1回で打ち切りになった。後続の全てに対応するとキリがなかったので他の店員に静止されたからだ。

 

 

 

 

【カードショップ】

 

 大満足の買い物の後は同じく1階にあるカードショップ。

 ラグナロク学園のようにショーケースが並んでいるということはなく、基本カードファイル管理。それでもドロミテ大樹海に有効なカードなどの目玉カードなどはガラス張りの板に飾られている。店内を見回っていると、

 

(む、あれは神鐘マルタか)

 

「じー、なの」

 

 カードをじっと見ている。欲しいカードがあるのかもしれない。玄咲は話しかけようと思ったが、やめた。マルタはあまり仲がいい方ではない。玄咲の交友関係は狭く深い傾向にある。

 

「あ、マルタちゃん」

 

「む、アカネなの。このカード買おうか迷ってるの」

 

「そのカードはクソカードよ。やめた方が良いわ」

 

「そうなの? じゃあ――」

 

 代わりに神楽坂アカネが話しかけた。2人はゲームより仲がいい。何があったのだろうと思いながら今更買うカードもないし必要なカードも既に揃えているので玄咲はカードショップを後にした。

 

(なんかカードショップって思ったより寄る機会が少ない気がするんだよな。なんでだろ……)

 

 

 

 

 

【ADショップ】

 

「よう天之」

 

「司くん」

 

 炎条司と会った。長大な赤い炎剣シリーズ特化型AD炎剣伝承ファイ・ロードを肩に載せていた。試験前に軽く点検してもらったばかりらしい。司はキョロキョロと辺りを見回し、

 

「今日は女と一緒じゃないんだな」

 

「どういう意味だ」

 

「いや、お前いつも女と一緒にいるから」

 

「そんな訳――」

 

 否定できなかった。

 

「一人でいるとなんかお前」

 

「なんだ」

 

「根暗なオタクみたいだな」

 

 否定できなかった。司は笑った。憎めない笑顔だった。

 

「それじゃ、用も済んだし俺はこれで」

 

「これからどうするんだ」

 

「軽く剣振ってから飯食いに行くわ。習慣なんでな。じゃあな。魔符収納」

 

 ラフな感じで背中越しに手を振って司は去っていった。格好良かった。玄咲も今度真似しようかなと思った。

 

「あ、ゲンサック!」

 

「! クゥか!」

 

 学内で最も友人という言葉が相応しいかもしれない相手。

 クゥ・クロルウィン。

 向こうも同じように思っているのだろう。

 笑顔で駆け寄ってきた。

 今日のクゥは眼鏡モード。

 だが、無邪気な笑顔を浮かべるさまは十分に可愛らしい。

 

「ゲンサックもADの点検しない?」

「その予定はなかったけどせっかくだし一緒に受けようかな」

「やった! じゃ、一緒に」

 

 クゥはADの点検に来たらしい。

 玄咲はクゥとADの点検を受けた。

 

「これは……凄いな。見たことない技術が使われてるし、品質もハイグレードだ」

 

 シュヴァルツ・ブリンガーに使われている技術と品質に店員が驚く。

 玄咲は少し得意げな気持ちになった。

 

 

 

【マッサージルーム】

 

「ああ。生き返る。生き返るよ……」

 

「ああ。生き返るなぁ……」

 

「学園長も理事長もなんだかんだ高齢なんですね……」

 

「加齢は魔符士の最大の敵だもんね」

 

「もうボロボロさ。特に生命力はエレメンタルカードを使う度衰えを実感するね。寝ずにはいられない……」

 

「寄る年波には勝てんなぁ……」

 

 マギサとヒロユキが並んでマッサージを受けていた。玄咲は他の生徒同様その姿を入り口から眺めただけでその場を去った。

 

 

 

 

【廊下】

 

 時刻は7時。

 

 丁度いいので夕飯にしようと食堂に向かう。

 

 その最中、玄咲は背後から声をかけられた。

 

「む、天之玄咲じゃないか」

 

 リュートだった。

 今日は一人。

 隣に誰もいない。

 

「良かったら僕と食事を一緒に摂らないか」

 

「いいぞ」

 

 玄咲はリュートと食堂に向かった。

 

 

 

 

【食堂】

 

 食堂はラグナロク学園の食堂と似たような構造をしていた。

 あえて似せているのだろう。

 過酷な試験な分、試験外の配慮が行き届いている。

 間違いなくマギサの発案ではないと断言できる。

 SDを使って食券機で注文する方式なのもラグナロク学園と同じ。

 2人は食券を見合わせる。

 

「ドロミテ定食か。君はバランスのいい食事を好むな」

 

「リュートは本当にチーズバーガーが好きだな」

 

「まぁね。余裕のある初日くらい好きなものを食べておこうという計算もある」

 

「なるほどな。まぁ道理か」

 

「そうか。お、SDの通知が鳴った」

 

「俺もだ。取ってこよう」

 

 リュートと2人で食事を取る。ハンターらしい見識に満ちた会話は得るものが大きかった。たまには男友達と食事を取るのも悪くないと玄咲は思った。そして、

 

「あ、玄咲!」

 

「探したんですよ。さ、一緒に食べましょうか」

 

 最後はシャルナと明麗も加えての食事となった。

 とても楽しい時間だった。

 やっぱりシャルナと一緒に食べる食事が一番美味しいなと玄咲は思った。

 

 

 

【スポーツルーム】

 

「ふぅ、いい汗掻きましたね」

 

「はい」

 

「まぁ、そうですね……」

 

 食後は軽く運動して腹ごなしをした。この施設は本当に至れり尽くせりだった。

 

 

 

 

 その後は少しだけシャルナと明麗と施設を回り、それから別れ、部屋に戻った。そして、

 

 

 

【606号室】

 

「クロ、遅かったですね」

 

 机の上で何やら作業をしていたルディラがノートを閉じて玄咲を振り返った。

 

「はい。あ、そうだ」

 

 玄咲はポケットの中からビニール袋に包まれた漫画を取り出してルディラに差し出した。

 

「これ、お土産です」

 

「えっ? あ、ありがとうございま――」

 

 ピタっ。

 

 ルディラは逢魔尖線学園血風録1 散華編に伸ばしかけた手をピタッと止めて尋ねた。

 

「なぜ、私がこのようなものを読むと?」

 

「え? あ、いや、ただ、何となく面白そうだと思った漫画がラグマにあったので購入して、面白かったからルディラ先輩も読むかなと思って。それだけです。はい」

 

「……」

 

 疑いの眼。玄咲はさらに言い訳を重ねた。

 

「その、会話の間が繋げなくて、咄嗟に思いついた行動を取ってしまったという側面もあります」

 

「ああ、なるほど。クロらしいですね」

 

 らしいらしかった。玄咲は漫画を引っ込める。

 

「よく考えたらルディラ先輩が読むような本じゃありませんでしたね。失礼しました」

 

「待ちなさい」

 

「えっ?」

 

「やや暇を持て余していた所です。普段読まない本を読むのもたまには悪くないでしょう。貸しなさい」

 

「はい」

 

 玄咲は素直に漫画を渡した。ルディラはノートをバッグに仕舞い、そしてベッドに向かった。

 

 ボフン。

 

 そしてベッドに横たわり漫画を読み始めた。ややだらしない光景。

 

 それだけ漫画に夢中になっているのかもしれない。

 

「……」

 

「? 何か」

 

「いえ、もう遅いですからね。就寝には丁度いいかなと」

 

「そうですね。もう9時です。少し早いですが試験前日と考えたら眺めに就寝を取るのは悪くないでしょう」

 

「俺も――温泉に入ってきてから寝ましょう」

 

「? この時間ならもうシャワールームでいいのでは? 私はもう済ませましたよ」

 

 本当だ。ルディラはパジャマ姿だし髪を少ししっとりしている。だからこそ玄咲はルディラに背を向けた。

 

「せっかくだし温泉に入ってきます。他意はない」

 

「まぁ、入りたくなる気持ちは分かりますよ。こういう状況の定番イベントですからね。では、いってらっしゃい」

 

 いってらっしゃい。その言葉に大分ときめきながら玄咲は温泉に向かった。

 

 

 

 

【温泉】

 

 温泉は混浴ではない。男子風呂だ。当たり前だ。

 

 その時間のメンバーは――。

 

「こ、これは、何という筋肉! これだけの体を含有する権利を得るために一体今までどれだけの……! この体には神、いや、悪魔が宿っているッ!!!」

 

「リーダー、凄ぇ。凄ぇぜ。美しいぜ……!」

 

「ハァ、ハァ……天之くん。君は素晴らしい男だな……! 教育してあげたいよ……!」

 

「……」

 

 しるけんとさとしとケビンに囲まれた玄咲は最低限の穢れ落としだけして素早く温泉を出た。何故か入浴前より穢れた気分で一杯になった。

 

 

 

【060号室】

 

「――あっ。お帰りなさい、クロ」

 

 ドアを開けてから一拍空けての返答。ルディラは相変わらず漫画を広げている。その姿を見ただけで一日の穢れが体から蒸発していく感覚を覚えながら、玄咲は、

 

「――ただいま。ルディラ先輩」

 

 そう言って、己もまたベッドに向かい、端で固まった。ルディラが目を丸くする。

 

「? その体勢で寝るのですか?」

 

「えっ、はい」

 

「横になって寝なさい」

 

「えっ」

 

「視線がこっちを向いて怖いです」

 

「横になって寝ます」

 

 普通に横になって寝た。

 

「クロは本当に変わってますね……」

 

 布団に包まれて聞くその言葉が、やけに優しく、暖かく感じられた。寝る時、誰かが傍にいる。

 

 それはとても落ち着くことだとこの世界で玄咲はたくさん学んだ。ふと思い出し、玄咲はベッドから降りた。

 

「どこに?」

 

「トイレ」

 

「ああ。行ってらっしゃい」

 

 トイレに入った玄咲はSDからカードを抜き出し唱えた。

 

「簡易召喚」

 

 ブン!

 

「お待たせ玄咲! いつもいつでもあなたの最高の相棒! 過激に素敵な未来を切り開く――トイレで呼び出されるのは流石に初めてね……」

 

「いや、これは違くて」

 

 かくかくしかじか。

 

「なるほど。玄咲。早めに出た方が良いわ。そして別の所で呼び直しなさい」

 

「なんで?」

 

「大を長くしていると思われるのは心象にクリティカルな影響を与え今後の試験にも悪影響を」

 

「送喚」

 

 玄咲は速やかにトイレを出た。そして外に向かう。

 

「? どこに」

 

「外の風を当たってきます。ドロミテ大樹海の視察も兼ねて」

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってきます」

 

 玄咲は外に出て誰も見ていないのに律義にドロミテ大樹海を一望できる場所に立ってバエルを簡易召喚した。

 

「――さっきよりマシなロケーションね。うん。便器の上に呼び出された時は新手の侮辱かと思ったわ」

 

「す、すまない。その時は最善だと思ったんだ」

 

「あなたらしいから気にしてないわよ……なるほど、これが」

 

 ――玄咲たちの視界一杯に大樹海が広がる。鬱蒼とした緑の群れ、まるで大河のように広がっている、不揃いな高さの樹木たち、見上げるような高さの木もある、奥地には山脈、終盤はあそこまで探索することになるだろう、を見下ろしながらバエルが感慨深く呟く。

 

「ドロミテ大樹海。なんだけど、んー?」

 

「? どうしたバエル」

 

「いや、なんだか、私の魔力の残滓を感じるような……」

 

「えっ?」

 

「……もしかして私が全力を出した影響? 液体化した魔力があまりにも激しく揺れ過ぎた。そして何らかの未知の影響が――あり得るわね」

 

(えっ、あり得るのか……)

 

「とにかく、玄咲」

 

 バエルが玄咲に忠告する。

 

「このドロミテ大樹海はゲームと何かが違うわ。いざとなったら躊躇いなく私を呼ぶのよ」

 

「分かってる。最終手段だがな」

 

「よろしい。……一体」

 

 バエルがわざとらしく額を拭って呟いた。

 

「このドロミテ大樹海で何が起こっているのかしら……」

 

「……」

 

 玄咲は突っ込まなかった。バエルが原因かもしれない異変の調査ももし行えればやろうと若干の責任感と共に思った。

 

「それじゃ」

 

「むっ。シーマ!」

 

「最後はいつも通り私とお話して終わろうか!」

 

 シーマとの15分程の会話。それがその日最後のイベントとなった。その後は060号室に戻り、その頃にはルディラも漫画を読み終えており、ついでなので進呈して、ルディラはそれを受け取り、

 

「お休みなさい、クロ」

 

「はい。お休みなさい」

 

 消灯して寝た。玄咲がスイッチを切った。

 

「ルディラ先輩」

 

 パチン。

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