カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
8時30分。
「――待たせたね。試験前の挨拶の時間だ」
ペンション前の大広場。そこに全校生徒が集う圧巻の光景が広がっている。教壇。そこに、懐中時計で時間を計っていたマギサの顎で登壇を促されたヒロユキが登壇する。無難な、しかし暖かい、今日という日はその温かさがやけに胸に染みる名演説が終わる。そして、マギサと入れ替わる。マギサは頭を掻いて、
「……あー。何というかな。言おうとした言葉が吹っ飛んじまった」
突然の暴言に生徒たちが戸惑う。マギサは鼻息を一つ飛ばして、
「何せ言う意味がなさそうだからねぇ……言葉が届きそうにない程肝っ玉縮こまってる奴にはこれが一番聞くんだよ。すぅ」
マギサが息を吸う。そして、
「生きて帰ってこい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
――ドロミテ大樹海さえもその大音声にたじろぎ揺れた。そう錯覚するほどの大音声を飛ばした。大きすぎた。うずくまり耳を防いでいる生徒が大勢いる。目を回している生徒がいる。気絶しかけている生徒がいる。大きな笑い声が響く。ラグナロク学園の敷地内だと錯覚するような空気が一瞬で生まれていた。無茶無謀など当たり前。それでこそ。だからこそ。
超えた先の未来で強くなれる。
そのことを思い出した生徒たちの目が光る。そして、とてもシンプルなメッセージが臓腑に染みる。生きて、帰ってくれば、殆どそれだけで合格できる試験。考えて見ればいつもより随分と優しい試験内容。他人を蹴落とす必要もなく、ただ魔物をぶち殺せばいいだけ――そうだった。それだけの試験だった。改めて生徒たちはその事実を認識した。虚勢ではない勢いが場に生まれていた。マギサは満足気に頷いた。
「うむ。それでいい。弱気なんかは」
グラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
その時、魔物の大音声が響いた。ドロミテ大樹海から巨大な影が飛び出す。それは、巨大な龍。マギサの大声に反応して飛び出してきたらしい。突進してくる。その口が膨らむ。でも、誰も怯えていない。マギサが右手を向けた。
「マジック・ボール」
巨大な魔力弾が放たれた攻撃を全て吹き飛ばして龍の頭に着弾し、そしてそのまま貫通し空に突き抜けた。龍の頭が一撃で爆散した。敵にもならない。死体がドロミテ大樹海の近くに落ちる。マギサは鼻を鳴らした。
「私がいる限り最悪は起こらない。本当に手に負えない敵が出てきた時は間引きしてやる。こんな恵まれた環境が他にあるかね? 手に負える範囲で魔物を狩ってりゃいい。生きて帰ってくればそれでいい。あんたたちにはそれが出来る力がある――さぁ」
気づけば時計の針は9時目前。時計が時を刻む。3,2,1――。
0。
「試験開始だ。魔物どもをぶち殺してきな」
試験が始まる。ドロミテ大樹海にラグナロク学園の黒白の制服が雪崩れ込む。
「……ヘクター様」
「なんダ」
ヘクターと呼ばれた黒ローブを纏った存在は己が蘇らせた部下の報告を魔導実験の最中耳にする。
「王魔種グリーン・タイラント・ドラゴンが殺されました」
「なニ?」
「それも、人間の放った魔法で一撃で。人避けに丁度良かったのですが……」
「……勇者カ?」
「いえ。婆です。それともう一つ」
「……言ってみロ」
「魔符士の集団がドロミテ大樹海で魔物たちを虐殺しています。イカれたペースです。強すぎる。あまりにも。……異様な集団です。あんな人間たちがいるはずがない……」
「……」
ヘクターは少し考え、結論を出した。
「おそらく、ここを嗅ぎつけて、人類の総力をつぎ込んで討伐しにきたのだろウ。ちっ、どこから計画が漏れタ。少し、計画を変更する必要があるカ」
「主よ、どうしますか?」
「問題なイ」
ヘクターは不敵に笑う。
「2日持てばいイ。その程度の戦力はあル。その間ニ」
目の前にある巨大な魔力の残滓。それはかつて最悪と呼ばれた存在の残滓。そしてヘクターにとってはそれそのもの。醜悪に笑顔を歪ませる。
「王魔王アイギスを復活させればいイ。それで全て終わりダ」