カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「大体、行きましたね」
「……」
玄咲とルディラはまだドロミテ大樹海の入り口にいた。全生徒が出発してから向かう。ルディラのその方針によって。玄咲は不安になった。
「置いてけぼりですけど大丈夫でしょうか」
「大丈夫です。私は強いですから」
「しかし、この大樹海の広大さを見ると、俺たちはちっぽけに思えますね」
「不安を煽るようなことをいうのはやめなさいクロ」
「えっ」
「やめなさい」
――ルディラは先端に水晶を戴く己の杖型AD、水晶宮クリスタル・ロッドの柄を握りしめて、強い口調で言った。固く固く、握り締めて。頑なに、自分の判断は正しいのだと言い切る。でも、握り締めるその手は――玄咲はルディラに謝った。
「――すいません。そうですね。絶対大丈夫ですよ……ルディラ先輩」
「なんですか。クロ。私の判断に不満があるなら帰宅後に――」
「先輩は俺が絶対守る。だから、絶対大丈夫です」
「――」
ルディラは眼を丸くした。玄咲は視線を合わせて絶対の意思を籠めて見つめる。
「……そうですか」
ルディラは顔を背けて、それから体の向きも変えて、一歩を踏み出し。
ドロミテ大樹海へと初めの一歩を踏み出した。
「……頼りに、してますよ」
「――はい!」
玄咲は勢いよく頷いてルディラの後に続く。柔らかな雰囲気がルディラの背から漂った。
「あ」
ズテン。
その瞬間ルディラは何もない所で躓いて転んだ。玄咲は駆け寄り、
「大丈――」
そして言葉を失った。
――黒だった。こちらに突き出されている。完璧なサイズ。大きさ。ライン。そして肌。白と黒の完璧なコンストラクション。こちらに突き出されている。スカートが丸っと捲れ上がっている。隠すべき役目を放棄している。むしろ強調してしまっている。その白と黒の艶めかしさを。こちらに突き出されている。見ようと思えばへそまで見えそうな角度。白く艶めかしい脚線。それは全て視界の下に睥睨できる。その源も、僅かに――。
「ッ!」
ルディラが慌てて尻を地面につけてスカートを手繰り寄せてパンツを隠した。無言が生まれた。無言だ。玄咲はこんなこともあろうかと用意しておいたティッシュでこっそり鼻を拭った。小さく鼻を噛んだ。ルディラは立ち上がった。慌ててティッシュを茂みの中に玄咲は捨てる。
「行きますよ」
「えっ、あ、あの、ごめんなさい」
「謝罪は不要です。100%こちらの落ち度ですから。さて、魔物退治でもして気晴らしを――」
べき。
「っ!」
ルディラは木の枝を踏みつけて体勢を崩した。ルディラの足は震えていた。だからどうせまたすぐこけるだろうと予測していた玄咲は今後はすぐさま動き出しルディラの腕を掴んだ。ルディラの体がガクンと触れる。転ぶのは回避した。しかし、転倒によりバランスを崩した体は玄咲の腕を支点に回転し、引き寄せられるを機に完全に正面を向き――。
「大丈夫――です、か……」
「あ――」
――ルディラの顔は耳まで真っ赤だった。
そしてとても恥ずかしそうな表情をしていた。
それも普通の恥ずかしそうではなかった。
羞恥の果てに死んでもおかしくない表情をしていた。猛烈に恥ずかしそうだった。
涙目だった。唇が震えていた。戦慄いていた。頬がふるふるしていた。口の線がよれよれだった。弛緩して締まらなくなった。そんな感じだった。涙目だった。涙目だった。涙が一粒零れた。その瞳の奥の揺らめきは普通の少女の――いや。
普通の少女より尚ずっとか弱い小動物の、あるいは童女のそれだった。ルディラがバッと玄咲の腕を振りほどき、正面を向き直り、そしてそのまま自分の胸の前で腕を交差して上体を縮こまらせて動かなくなった。しばらくその状態が続いた。
「……う」
「……」
「あの……」
「……」
――試験開始直後のアクシデント。玄咲とルディラはいきなり予測困難な窮地に叩きこまれた。玄咲は冷や汗を流す。しかし――。
「――ルディラ先輩」
「なん、ですか……」
「失礼」
「きゃっ!?」
玄咲はルディラの前に出てルディラを背後に庇った。そして、既に武装解放していたシュヴァルツ・ブリンガーを前方、茂みの中に向けて、
ランク5
闇属性
銃魔法
「ダークネス・アサルト・バレット」
――闇色の閃光が深緑の闇より飛び掛かってきたものを撃ち貫いた。その正体は――。
「――Aランク。シャドー・ケルベロス。音もなく影と同化して忍び寄る魔物。いきなり、Aランクの魔物。いや、それより、クロ、何で接近が――」
「俺に奇襲は通じない」
地面に転がる死して尚極度に存在感の薄い闇色の獣の額に穴の開いた死体――己に殺意を向けて迫ってきた敵を見下ろし、一瞬で戦闘モードに頭のスイッチを切り替えた玄咲はルディラに断言する。
「作戦通りいきましょう。ルディラ先輩は戦闘を行う。俺は戦闘以外の全てを行う。そして、ルディラ先輩のサポートも適宜行う――だから、安心してください」
ルディラに手を伸ばす。
「絶対あなたは大丈夫だ。死力を尽くして俺が守る。これはただの事実だ」
「……クロ」
「だから、前に進みましょう。大丈夫です。ちゃんとルディラ先輩は強い。その本領を発揮できればこんな試験楽勝です」
「ッ! 当たり前です! 私を誰だと思っているのですか! 私は――」
ルディラは玄咲の手を取った。そして立ち上がり――。
「ルディラ・メルキュールですよ!」
前に一歩を踏み出す。
――果て無き深淵が待ち受ける大樹海。
そこに脆弱な心と巨大な力。
そして足りないもの全てを補うパートナーを伴って。
少女は小さな、そして大きな一歩を踏み出した。