カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「ダークネス・スナイプ・バレット」
黒条の閃光が夜空を突き抜ける。
頭蓋を撃ち抜かれた鳥型モンスターが地に堕ちる。
こともなげに一瞥を落とし、そしてまた警戒しつつの探索を続ける玄咲の背後でルディラが感嘆の息を落とす。
「凄まじい制度ですね。百発百中です」
「俺の数少ない取り柄ですから」
「時折先読みじみた座標に撃ってますよね。これだけ正確に射撃されるとカードバトルする相手もやりにくいでしょうね」
「最近はセルフバフを真っ先に使うことが多いです。高速不規則起動で撹乱しながら射的、接近すれば得意の近接戦闘で制圧。今はそのスタイルが自分に一番合ってるのかなと思います」
「インファイト・ガンナーの理想形ですね。クロは格闘技術も一流ですから、尋常なバトルではそうそう負けないでしょうね」
「だからルディラ先輩には勝てる気がしませんよ」
「……そうですね」
雑談しながらも探索は続く。
ドロミテ大樹海を探索開始してから1時間が過ぎた。
今の所、危機たる危機はない。
ふと、玄咲が立ち止まる。ルディラも玄咲に習い立ち止まる。
「――1時の方向に」
玄咲がシュヴァルツ・ブリンガーの銃口を右斜めに向ける。そして、
「敵、1体」
それだけ告げる。
「はい。アクア・ボール」
ルディラがSDを巻いた手首を銃口の方向に向ける。そして詠唱する。SDが光る。
水晶杖クリスタル・ロッドを玄咲が銃口で指した方向に向ける。そして、詠唱する。
ランク1 水属性 アクア・ボール
それは規格外のサイズで放たれた。
ルディラの体躯ほどもある直系の魔法の水球が障害物を無き物として蹴散らしながら直進する。
そして、目標を爆散させた。
悲鳴も上がらない。2人は爆発が起こった地点に近づく。
散らばる黒い甲殻と黒い体液。Aランクの虫型モンスター【ブラック・ビート】の死体。鋼鉄よりも固い甲殻と角を活かした突進が脅威のモンスターだ。対応が一歩遅れると致命傷になる。ドロミテ大樹海の生態系の中でも虫系モンスターの中では上位に位置する。
それをランク1の魔法で一撃。しかも明らかなオーバーキル。
玄咲はルディラの規格外の魔力に改めて舌を巻く。
(流石この世界で学園長に次ぐ魔力の持ち主なだけはある。最強の固定砲台の異名は伊達じゃない。単体攻撃魔法じゃ分かりづらいが)
その時、羽音が聞こえた。玄咲は再度銃口を今度は左斜め上空に向ける。
「敵、複数」
「アクア・スプレッド」
ルディラが再度銃口の咆哮に水晶宮クリスタル・ロッドを向け詠唱する。
ランク1 水属性 アクア・スプレッド。
水の波涛が森を破壊した。
放射状に放たれた苛烈な砲撃のような魔力波。それは射程範囲内に飛沫広がりあっという間に視界を埋め尽くした。水を撒き散らす小型の原子爆弾を指向性爆破したかのような光景。猟奇的な破壊力が射程範囲内の全てを蹂躙する。
跡に残るのは細切れになった森の死体のみ。
その中にはもちろん原型をとどめない襲いくるモンスターの死体も含まれていた。僅かに残る見分可能な特徴からして襲ってきたのは群体で評価Bランクの蜂型モンスター【ハニー・B】。美味しい蜂蜜を作ることから付けられた可愛らしい名前だがその戦闘力は本物。しかし、相手にもならなかった。
相手が悪すぎた。
この樹海にあって、おそらく真っ向から戦ってルディラの相手になるモンスターなど1体もいない。
そしてその戦闘にはランク1以上のカードを必要とすらしない。
高ランクのカードを使ったらまさに手が付けられない最強と化すだろう。ルディラが風に煽られる髪を手で抑え憂え気な表情を作る。
「こんな魔法を集団の中で使ったら他生徒を巻き込んでしまいますね。魔力が高過ぎるのも考えものですね」
「確かにこれはどうしようもなく他の生徒を巻き込みますね……」
「だから単独行動にこだわったのですよ」
「……そうですね」
突っ込まない。それもまた事実であろうから。
ルディラ・メルキュールはゲーム通り最強だった。
あるいは。
ゲーム以上に最強だったと表現した方が相応しいかもしれない。
(……本当に)
ルディラの産み出した破壊痕を見て玄咲は内心思う。
(強い。絶対に埋められない才能の差、か……)
(……本当に)
強い。ルディラはルディラを牽引するその背を見て何度目かも分からない感嘆の息を吐く。
(強い。なるほど。これが本当の強さ……)
玄咲はルディラの見込んだ通りの、いや、それ以上の働きを見せていた。
その表情。佇まい。常在戦場を体現している。恐ろしい程の集中に身を浸し、本当の意味では一時も途切れない。ルディラにはどんな人生を送ればこの年でここまで強靭な在り方を確立できるのか想像もつかない。どんな魔物が出てきても冷静に対処を指示してくれる。訳の分からない制度で魔物を察知してくれる。そして時には単独で処理する。欠片も揺るがない。凄まじい精神力。ルディラはその背の後ろにいると安心できた。
凄く、頼もしかったから。
(……私はやはり弱いですね。魔符士としてではなく、根本的な所で。魔符士としては私の方が間違いなく強い。でも、この場の全ての主導権を握っているのはクロ。私は、ただクロの判断に従っているだけ。上級生、なのに……)
ルディラは胸の前で拳を握る。想いが、過る。
(……私は、クロのいいなり。いいように使われるだけの、道具……)
……。
トクン。
「……輩! ルディラ先輩!」
「はっ!」
「ヘルズ・ファイア!」
玄咲は群れなしてきたハニー・Bを纏めて焼き払った。ルディラに尋ねる。
「何か、気がかりでも」
「うっ、す、すいません。ただ、少し緊張が行き過ぎて」
「無理もない。この環境、360度どこから敵が飛び出してくるのか分からない。神経が参るのも仕方のないこと――? どうしたんですかルディラ先輩。顔が赤いですが」
「余熱です」
「なるほど」
「行きましょう。あっ!」
ルディラは躓いた。体勢を安定させるため目の前にあるものにしがみついた。玄咲に後ろから抱き着くような格好になる。慌てて離れる。だが、その顔は真っ赤だ。
「す、すいません。失礼しました」
「い、いえ。俺は構わない。全く構わない、のですが――っ! 3時の方向! 数1!」
「は、はい! アクア・ボール!」
2人は安定して道を進んでいく。相性は悪くない。