カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
一方その頃。
他の生徒たちも危なげなく探索を続けていた。
「エメラルド・フリューゲル」
ランク5・風属性・銃魔法・20万P。
フリューゲル――翼の意を魔法名に冠する射程距離に特化した銃魔法。
頭上をエメラルド色の弾丸が加速し駆け行き雲を突き破った。悲鳴が上がる。
岩のような鱗で覆われた爬虫類とも鳥ともつかぬ頭部を持つ魔物が、その頭部に風穴を開けられてクゥ達の近くに落ちてくる。近隣を共同探索しているラグナロク学園の生徒たちから感嘆の声が上がる。クールフェイスを微塵も崩さない美しい裸眼を曝け出したクゥ、いつものように右目を白い髪で覆い隠している心亜が瞳を煌めかせてワッと声かける。
「凄いです! 神業です!」
「どうも」
「クールです……! 格好いいです……!」
「……どうも」
「相変わらず凄いねー。頼りになるよ……しかし」
真央が地面の死体――見たことない魔物の死体を見て、ポツリと、
「この魔物、まだ生息してたんだ。ドロミテ大樹海の異変は本当みたいだね……むっ」
真央の猫耳がピンと立つ。背後に、声をかけた。
「コスモちゃん。そっち一体。森の奥からくるよ」
「了解。やっちゃるよ」
コスモがデストロイアームを打ち鳴らし、前へ突き出すようにして構えた。ほどなくして森の奥から魔物が現れる。
「WROOOOOOOOOOOOOOO!」
それは真央の察知と合致した魔物だった。大ダンジョン時代には絶滅したと言われる、爬虫類に獰猛化の限りを尽くしたようなフォルムの魔物。恐竜種の下位魔物。
ディエゴサウルス。特徴的な唸り声が最大の特徴だ。獰猛な瞳と鋭利な牙をギラつかせ、コスモに突進する。コスモは一歩も動かない。
ただ悠然と、両腕を突き出す。
それだけで、ディエゴサウルスの突進が止まった。
「W、WO?」
爪とデストロイアームでがっつり取っ組み合う形。ディエゴサウルスは信じられないものを見たものの目つきでコスモを見た。コスモの口が動く。
「アイアン――」
ランク5・土属性・機械魔法・15万ポイント。
「フィスト」
爪を捩じ切り拳を突き出す。ディエゴ・サウルスの頭が弾けた。まるでトマトのように。真っ赤に熟れた下顎の断面。コスモはパッパッと手を振りデストロイアームの血糊を落としながら言った。
「これならカードのランクを落としても良さそうですね。魔力節約です」
苦戦意識など欠片も見受けられない。心亜は真央の袖を引いた。
「ねぇねぇ真央。あんなこと言ってますよ。ていうか魔法抜きで普通に取っ組み合って圧倒してたし素手で勝てるんじゃないですか。素手で」
「あはは。どっちがモンスターなのか分からないにゃー。ま、頼もしい限りだけどね。……にしても」
真央はコスモの倒した魔物――ディエゴサウルスの傍にかがみ、見分する。
「やっぱこれ、ディエゴサウルスだよねー。古代モンスター図鑑に載ってた。そしてあっちも」
クゥが仕留めた鳥のような爬虫類のような魔物――プテラノドンをちらと振り返り、真央は顎に手を当てる。
「プテラノドン。どっちも同じく恐竜種。ラグナロク・ウォーの戦乱の中でラグナロク・ウェポンの試し打ちに生属地が選ばれて一匹残らず氷漬けにされて絶滅したっていう強力な魔物種だよ。まだ、生きてたんだねー……」
すらすら口にする真央にコスモが感嘆の声を上げる。
「相変わらず、詳しいです」
「まぁ、子供の頃から魔物が好きで魔物図鑑読んできたからね。魔物って生態系が面白いんだよね。食べても美味しいし」
「確かに、美味しいです」
「それにしても」
心亜が補足する。
「本当、異常ですよ。過去ドロミテ大樹海に恐竜種が現れた事例はありません。それに他にも存在しないはずの魔物が時折現れる。確かに、今年のドロミテ大樹海は何か異変が起こっているみたいですね……」
「こういう未知の敵は」
クゥも3人に近づき、言った。
「寄せ付けず殺すのが最善です。私も目を凝らしますが先輩も敵の予兆を察知したら言ってください。殺します」
「う、うん。頼りになる……」
顔を寄せるクゥに真央はやや身を引いて言った。価値観の違いに真央でもクゥにはたまに圧倒されることがある。特異な状況下で、今その価値観の違いは常にも増して際立っていた。
「本当、頼りになるなー……心亜、良かったね。こんな優秀な下級生とパートナーになれて」
「はい。正直凄く助かります。私、あまり戦闘力には自信がないので……」
「私は頼りにしてますけどね」
「――ありがとう、ございます」
クゥのさりげない素朴な、それ故素直に受け取れる言葉に心亜の目が瞬き、濡れる。真央の耳が立つ。敵を察知した合図。言う。
「心亜。あっち、飛行型。群体」
「! はいっ!」
心亜が勢いよく手に持つAD――
そして、勢いよく向かってくるハニー・Bの群れを十分に引き付けて空詠唱した。
「ゼオン・グラビトン」
ランク7・無属性・重力魔法・60万ポイント
広範囲に重力を発生させる高ランク魔法。
ハニー・Bの群れが一斉に地にめり込んだ。
不可視の、しかしひりつくような圧力が、杖と剣の両方の機能を兼ねた杖剣の切っ先から放射状の一帯に放射されている。ハニー・Bは次々に甲殻をへしゃげさせて体を壊され、圧死し、そして全滅した。心亜が笑顔を見せる。
「どうだ!」
「すごい、すごい」
真央はパチパチしながら心亜に近づいた。心亜は得意げな表情。真央は笑顔で言った。
「でも、前から思ってたけど相性のいい飛行型のハニーBの群れ相手にランク7の魔法が必要って重力魔法威力低すぎるよね。便利だけどやっぱ決定力ないなーって」
「……」
心亜はうな垂れた。コスモとクゥは真央のこういう所が過去嫌われたんだろうなと思った。コスモが突っ込む。
「しかし、重力魔法と言えば強い能力のイメージがありますけどね。何故この世界では微妙なのでしょうか?」
「重力魔法は凄く構築の難しい魔法なんですよ。それ自体はADが自動で行ってくれますがね、魔法の構築そのものに魔力や情報リソースを割かれてしまうんです。例えるならファイア・ボールが1の労力で発動できて9の威力になるとしたら、グラビティ・ボールは3の労力で発動して7の威力になるのです。それに加えて重力魔法の範囲魔法は全体に満遍なく威力が分散するせいで抗魔力の影響を強く受ける。それ故最終的な威力は相当下がる。そういうメカニズムです。便利なんですがね……欠点も多い、まぁいわゆる外れ魔法です。。強力な符号魔法に適合することも魔符士の才能の内なんですよ。炎条家や光ヶ崎家の強さの秘訣の一つですね。銃魔法なんかも王道かつ強力です。まぁ、あとは、単純に私の魔力不足。要は、私がよわよわだって話です……」
「私は弱いとは思わない」
クゥは心亜を真っすぐ見て言った。心亜の目が瞬き、礼を言う。その後方で、コスモが森のある方角を額に手を当て覗き、
「……それにしても」
ズガーン!
ギュガガーン!
「あっちの方角は随分とにぎやかですね。ずっと音が鳴ってます」
コスモは先ほどよりずっと音が鳴り響いている森の一角を見て言った。真央が応じる。
「あー、凍介さんのいる方か。楽器型ADの使い手が集まってるからね。そりゃ賑やかになるよ」
「確かアルカディスターズの新メンバーも参加してますよね。えっと、えっと」
「MCムーンライト・セレナ―デ」
「え?」
気づけば、傍に少女。1年G組。MCムーンライト・セレナーデファンクラブ会員第一号の月夜澄子。もう一度、言う。
「MCムーンライト・セレナーデ。新たなステージでも輝き続ける私の理想の星、そして王子様です……」
「あ、はい。覚えました」
「あなたもいずれM&Sの虜になる。くすん……私も、あっち行きたい……」
「ちょっと澄子ちゃん。すぐいなくなるのはやめなさい。布教したい気持ちは分かるけど」
「あ、ごめんなさいお姉さま。それじゃ、失礼」
澄子はいなくなった。全員何も見なかったことにして話を再開した。
「あっちの方角は随分とにぎやかですね。ずっと音が鳴ってます」
「えっ、リピート?」
「たまには機人らしさを出さないと」
「うーん。コスモちゃんはいつも機人らしいですけどねー……」
「確か」
クゥはとてもマイペースに、騒々しい森の一角に視線をやり呟く。
「あっちはアルルちゃんのいる方角だっけ」