カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「デスサウンド・ラウド!」
天歌刻韻ライブ・マイクが光り破壊の衝撃波を産み出した。森の木々の枝葉を揺らし群れなして向かってきていた獰猛な顔つきに翼刃と牙を備えたデビル・バットの群れが、その口から発した怪音波ごと一掃された。当然のように傍にいるサリエルがアルルに話しかける。ちなみにサリエルのパートナーは女性の剣士型ADの使い手の3年生。アルルのパートナーはサリエルの姉の盾型ADの使い手のウリエル・ミッドガードだ。
「お見事。ラップ魔法でなく普通の音魔法でも十分な威力が出せるんですね」
「僕音魔法全般と相性がいいんだ。ラップ魔法も広義の意味では音魔法だし。符号魔法は最も魂と相性のいい魔法ってだけで、類似の魔法にも魂は適性を示すからね。ヒプノシス・マジックは流石に隙が大きいし、そこら辺は臨機応変」
「成程。しっかり魔物対策を考えてきていますね。流石アルル様です」
「ま、それくらいはね。しかし、壮観だねー……」
サリエルも頷き、答えた。
「森がボロボロですね。まぁ仕方のないことですが」
あちこち木々がへし折れ、葉々が吹き飛び、まさに森はボロボロになっていた。アルル達の元には楽器型ADの使い手が集まっている。楽器型ADは攻撃範囲が広い。戦う度に戦闘域がボロボロになる。その結果が、木々が倒れ葉々が開かれ、随分見通しがよくなった森の姿だ。それでもやはり樹影は濃いが、あまり近づくと戦いにくいため、少し距離を取って遠くで戦う生徒の姿くらいなら普通に見える。
アルルの視界の中で、ラグナロク学園の上級生が下級生の前に出て、地を転がってきた巨大なダンゴムシのような魔物を一撃でギターで弾き殺す。アルルは頬を掻いた。
「しかし、ラグナロク学園の上級生は流石に強いなー。そしてギター、人気だね」
「ギターは花形ですから。自然符号魔法となりやすいですからね。アルル様のラップと同じです」
「うんうん。そうだね。っと」
遠くから羽音。視認までそこまで時間もかからない。アルルが前に出た。
「僕がやる。攻撃きたら防御お願い」
「はい。お任せを」
「サリエル。私がやるから」
「あっ」
サリエルを押しのけてウリエルが盾を、その前でアルルがマイクを構える。そのマイクは既に金色に光っている。
ランク5 光属性 音魔法 33万ポイント
レゾナント・ヒプノシス・マジックは既に起動している。
アルルが詠唱を開始する。
「言葉の暴力A to Z!
並べて上げるよ1.2.3!」
2小節。
アルルのラップでは最低限の威力。
ギュン!
蠅のような赤い羽を羽ばたかせて飛来してきた、鋭利な尻尾を持つ、黒い鬼のような見た目の魔物――悪魔種に属するAランクモンスターの中悪魔が一撃で爆ぜる。アルルは嘆息した。アルルは嘆息する。
「ふぅー……苦戦はないけど、気味は悪いね」
「そうですね」
やや憮然とした表情のサリエルが応答する。
「悪魔。ドロミテ大樹海に出現しない訳ではないが、希少派の珍しい魔物。にしては数が多い。私たちが遭遇した固体以外の死体もたまに見ます。どうやら、異変が起こっているというのは本当のようですね」
「そうだねー……しかし、こんな状況でもあんま不安にならないのは」
アルルは周りを見る。あちこちにラグナロク学園の生徒たちがいる。どの生徒もドロミテ大樹海の魔物を圧倒している。距離を開けて、しかし時には共闘しながら、個でありながら群として戦う生徒たち。その中にアルルもいる。囲まれている。アルルは頬を掻いて、呆れるような笑みを浮かべた。
「ラグナロク学園のみんながいるからだろうねー。本当、頼りになるや。なるほど。みんなすごい」
「そうですね。実力もですが、精神的に全然違います。これが集団で探索させる意味、ですか……」
「集団でいることが魔物との戦闘では重要になります。逆に言えばこのような状況下で単独で探索できるということは――っと」
その時、一際大きな音が遠くで上がった。その場にいた全員が見上げる。
森の一角に咲いた。巨大な氷の華。その上端の花弁が奥の木々の上に姿を出している。サリエルのパートナーの女生徒が腰に手を当て呆れたような笑みを浮かべた。
「あれは凍介ね。本当、華があるわねー。特待生なだけあるわ」
「あはは、本当、ラグナロク学園って凄いや。……そういえば」
アルルはふと、試験準備期間にセッションやを幾度も行い仲良くなった男子生徒の名前を口に出した。
「狂夜もあっちにいるんだっけ」
サリエルとウリエルの眼が一瞬殺気立った。
「音楽魔法の一番の特徴が何か知っているか」
ヴァイオレットビートを纏った
「ユニゾンマジックだろう」
「フー……その通りだ。演奏が噛み合った時、音楽魔法は融合し、進化する。もしかしたら」
凍介が喋りながら楽器をかき鳴らす。
ギュイン。
近づいてきたデビル・バットが氷の華となって散った。会話を続行する。狂夜も慣れた反応を示す。
「この試験中に使うこともあるかもな」
「隙は大きいが、確かに威力は絶大だからな」
「その通りだ。俺の演奏に合わせられる奴なんてそうそういないがな。1年の中じゃMCムーンライトセレナーデ。お前くらいさ……狂夜」
「ああ」
「くるぞ」
「分かっている。デスメタル・ビート」
狂夜が魔法を切り替える。凍介とのセッション用の魔法。
それだけの敵がくる。
地を震わす轟音。疾駆。跳躍。着地。そして2人の前に姿を現した。
「GYOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
それは全身黒尽くめの山羊頭の巨人。シンプルな、それ故に間違えようのない。狂夜がその悪魔の名前を呟く。
「死悪魔……なぜここに」
呟く狂夜の声には少なからぬ動揺が含まれている。その動揺を。
「狂夜」
「はい」
「合わせろ。殺すぞ」
凍介の揺るがぬ声が吹き飛ばす。狂夜は頷いた。
「はい! 凍介さん!」
勢いのいい声に凍介の頬が僅かに綻んだ。
「ふっ。それで済めばいい方だ。それじゃ早速――凍てついて見ようか」
凍介がギターをかき鳴らす。死悪魔が凍り付く。凍りを振り払いすぐに襲いくる。その頃にはもう凍介は詠唱を終えていた。
「フュージョン・マジック――
絶対零度の世界が銀氷と共に幕を開ける。
「……しかし」
巨大な氷の華の中に埋もれた死悪魔を、やや息の荒い狂夜と共に見上げながら、凍介は呟いた。
「本当、何がどうなっているのやら。王魔戦線時代によく見られた魔物。現代での目撃例は相当レアだ。ダンジョン・ハンターズのケビンにでも聞きたい所だな……」
「ダンジョン・ハンターズ、というと」
その時、遠く天に束となって飛来する星粒が見えた。その正体を察しながら狂夜は呟いた。
「リュートや司が所属している部か。ふん。相変わらず目立つ奴だ……」