カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
ラグナロク・ペンション前。
人がぼちぼちと行き交っている。
玄咲とルディラもその中の一人だ。
ひそひそと、陰口が聞こえる。
「見ろよあの格好。カッケー」
「ルディラがついていてあれか。あの新入生思ったより大したことないな」
「ッ!?」
玄咲は反論しようとしたルディラを手で制止した。
その手の服は半ば程で破けた半袖化している。明らかな被弾痕。そして、ややみっともない。玄咲が陰口を叩かれるのも仕方ないと思うくらいには。他の部分が他生徒より長く作られている衣服な分尚更だった。
ルディラが小声で鋭く言う。
「なぜ止めるんですか」
「反論すれば本当のことを言うことになる。それはルディラ先輩の失態を告げることに、格を落とすことに繋がる。なら、俺がみっともないと思われるだけの方が何倍もいい」
「っ! そんなの、気にしなくても……」
ルディラが俯き震える。さらに玄咲たちに声がかけられる。
「あ、玄咲!」
シャルナだ。さらに続いて、
「天之くんたちも帰ってきたのですか。」
明麗の声。2人とも帰ってきていたらしい。シャルナが玄咲に駆け寄る。だが、その速度は段々と落ち、玄咲の前で止まり、玄咲の半袖ファッションを指差して、震える指で尋ねた。
「玄咲、何、その格好」
「あ、いや、その」
玄咲は咄嗟に半袖を抑える。肘の部分を。どことなくオタクっぽい恰好。とうとう耐え切れなくなったルディラが叫んだ。
「私のせいなんです!」
驚くシャルナ。ルディラはさらに、
「クロは私を庇ってそんな格好になったんです。私が悪いんです。私が……」
俯く声は震え、途切れた。明麗は嘆息し、和かな、そして暖かな笑みを浮かべて、提案した。
「取り合えず、ペンションに帰りましょうか。暖かな部屋で、暖かな食事でも取れば、きっと少しは気持ちも落ち着きますよ」
部屋に戻るとルディラは一人でいたがった。
なので玄咲はペンションの中を適当にうろついていた。食事時には戻る約束だ。人の多いロビーで時間でも潰すかと寄ってみる。そこにある一人の生徒がいた。
「あ」
アカネだ。
「……やぁ」
玄咲はその場を通り過ぎようとした。その背を呼び止める声が一つ。
「あ、待って」
アカネだ。
「ちょっと話さない?」
「この試験、すっごく過酷ね。考えた人間の神経を疑っちゃうわ」
「学園長の神経を疑っても今更だ」
「まぁそうなんだけど、それにしてもよ。ほら、最後変な魔物出たじゃない。会長が半分倒した魔物。あんなのが出たのに結局試験続行らしいわよ。中止だろうと思って戻ってきた生徒がほら、あちらこちらにちらほら。私もその口」
「俺はどうせ続くんだろうなと思ってた」
「ああ。あなたの絶望的観測からしたらそうなるでしょうね。でも正しかったわね」
「むしろ学園長の喜びそうな展開だと思ったよ」
「納得。確かにあの人の喜びそうな展開だわ。私もまだまだラグナロク学園流に染まり切れてなかったってことかー。ちょっとショック」
「あんなイレギュラー展開誰にも想像できないから仕方ない」
「そう? まぁ、そうよね」
「本当に何が起こっているのやら」
「本当にねー……」
「分からないことだらけだ。ま、立ち向かうしかないだろ」
「……そうよね。立ち向かうしかないわよね」
2人はロビーで話し込んだ。理由は分からない。非現実的な状況が非現実的な話し相手を求めたのかもしれない。他の生徒の動向など、玄咲には中々伺い知れない有意義な情報が結構あった。話の終わりに玄咲は礼を言った。
「ありがとう。有意義な時間だったよ」
「私も。あなたって変な所に詳しいわね。それにこんな時でも価値観がブレない。人によっては話してて安堵するんだろうなって思う。なるほどだからかって感じ」
「なにがなるほどなんだ」
「なんでもない。とにかくありがと。いい気分転換になったわ」
その言葉を最後に2人は別れた。次に玄咲は食堂に向かった。
「ルディラちゃんは」
「しばらく一人になりたいと」
「それで別行動ですか」
「はい」
「私は今日も変なヨガやらされた……」
(ああ、当時流行ってた格ゲーからヨガ・SOSって言われてたあれか……)
食堂。玄咲はシャルナと明麗と飯を食っていた。ルディラのことは最初に少し触れたきりでそれきり話題から締め出す。シャルナも明麗もあえて聞いたりしなかった。
「美味しい食事でしたね。流石ラグナロク学園です。……天之くん。ルディラちゃんを」
最後に明麗が少しだけ言及した。
「ルディラちゃんをお願いしますね。彼女は……強くて弱いので」
「……」
玄咲は絶対の覚悟を籠めて重々しく頷いた。
「はい」
その後、玄咲はルディラの部屋に食事を運んだ。
ルディラから事前に聞いていた食事をテイクアウトしたのだ。
スープに浸して食べる固いパンと野菜スープ。それだけをトレイに載せて、606号室の扉をノックする。
コンコン。
「クロですか?」
「はい」
「入っていいですよ。空けてます」
「失礼します」
手が塞がっているであろう玄咲への気遣いなのだろう。ささやかな心の機微に感じ入りながら玄咲は入室した。
スープを啜りながらルディラが尋ねる。
「傷は痛くありませんか?」
「全く」
「それはよかったです」
ズズ……。
ルディラがスープを啜りながらパンを食う。食べ終わる。スプーンを置いて、呟いた。
「……今日はごめんなさいクロ。痛い思いをさせて」
「いえ、ルディラ先輩が無事で良かったです。それに所詮回復魔法で治る程度の傷ですから気にしないでください」
「……そうですか」
間一つ。
「……クロは、強いですね」
ルディラはスープに映る己に言葉を零した。玄咲は素面で答えた。
「ルディラ先輩の方が強いです」
「そういうのじゃなくて」
ルディラはスプーンを置く。そして言った。
「精神性の話です」
「……」
玄咲は返答に窮した。はいともいいえとも答え辛い質問だった。
「そうかもしれませんね」
「そうですよ」
「そうでしょうか」
「そうですよ」
「……おそらく、そうでしょう」
結局玄咲は肯定した。魔物相手というこの状況、おそらくでもなく、ルディラより玄咲の方が圧倒的に精神的に強いはずだった。
何せルディラには。
「実は私は」
CMAのプレイヤーなら誰もが知る。
「魔物が怖いのです」
トラウマがある。
「……そうですか」
「はい。そうなのです。トラウマ、がありまして」
「……」
知っていた。CMAプレイヤーならば誰もが知る設定。ルディラの子供の頃のトラウマは大きくなった今でも深く根を張っている。
「でも」
さらにルディラは言う。
「だからといって、クロに、下級生に、あんな痛い目見せて、それでいいとは思いません。本当に、今日はごめんなさい」
「俺は気にしていません」
「でも、私が」
「だったら」
玄咲は力強く言う。
「明日から頑張りましょう」
「明日、から?」
「はい」
自分なりの励ましの言葉を精一杯に。
「俺たちはパートナーです。パートナーは助け合うもの。だから、どうしても気になるなら。その分、明日助けてください」
「……」
コクリ。
「はい。必ず」
ルディラは頷いた。玄咲の顔に安堵が生まれた。そこで気づいた。
大分至近距離で見つめ合ってしまっている。
「……」
「……」
妙な空気になる。こういう時玄咲は約に立たない。ルディラがやや慌てていった。
「そ、それでは今日はもう寝ましょうか」
「そ、そうですね」
互いにベッドに潜り込む。互いに顔を背けての就寝。だが。
「クロ」
「はい」
「今日は本当にありがとうございます」
昨日よりも、距離が近く感じた。
人に迷惑をかけることをすごく気にする。
それはルディラ先輩が凄く優しいからだ。だから戦いに向いていない。
玄咲は布団の中でそう思った。