カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「13神が全員やられタ? 馬鹿な。王魔種屈指の魔物だゾ」
「事実です。主よ」
暗闇の中、会話が生まれる。2つの声には驚愕の響きが伴っていた。
「ドナテロは死んだカ。13神を描き産み出す造物主の王魔種。13神クラスの魔物の魂を一度に13も失えばそうなるだろウ」
「明らかに異常です。一人で王魔種全員を相手取っていた魔符士もいました。主よ。もしここをかぎつけられたら計画が破綻するかもしれません」
「うむ。あと一歩なのダ。こんな時に、何故そのような異常な魔符士集団がこの場所ニ――」
主と呼ばれる黒ローブを纏った魔物――ヘクターは深淵に浮かぶ巨大な魂を見て頷く。魂は、白い巨大な繭のような形状をしていた。
「とにかく、今この場所を嗅ぎ付けられるわけにはいかン。クラウン。お前はこの洞窟に近づくものを全て殺セ」
「御意に。アイギス様復活の為ならこのクラウン、何でも致しましょう」
闇に声が溶ける。姿も。ヘクターも行動を開始した。
「王魔種の魂のストックはまだまだあル。そしてその復元範囲は私の魔力が届く限り無限ダ。魔符士どもめ。覚悟するがいイ」
時を遡る事、1日目の試験終了間近。
13神の襲撃。それから逃げる内、遠く遠く、ラグナロク学園生とはぐれる地点まで来てしまった。
幸い、騒がしい戦闘音が道標になり、羅針盤の針の方角には迷わない。
しかし、孤立してモンスターと戦わなければいけない状況に変わりはない。
だが、偏野在人たち3人は、本人たちも驚く程、凶力な魔物相手に上手く立ち回っていた。安定して倒していた。
「そもそもさ」
2年生の山上達郎が後輩2人に頼もしい笑みを浮かべる。
「ラグナロク学園に入学した時点でお前ら普通じゃないんだよ。しかも魂成期。約30レベルの上乗せがある。しかもカードやADは古代よりずっと強化されてる。まともにやった結果が素直に出ている。それが今の状況だと思うぜ。俺らやりゃあ出来んだよ」
偏野在人が頷き、先輩の笑みに応える。
「そう、ですね。1年の自分がここまで健闘できるなんて思いませんでした!」
「はい。俺たち下から数えた方が早くて、だから2人一組でパートナー組むことになって絶望してたんですけど、想像以上にやれてます」
「俺もだ。ハハッ。ラグナロク学園で過ごした1年は無駄じゃなかったってことだ。成績は下から上だが、Aランクの魔物程度、なんてことないぜ。そりゃヒヤッとする場面はあるけど、これだけ戦えるなんて思わなかった」
「はい。先輩、頼りになります!」
編野在人が拳を握って声を弾ませる。無邪気な表情だ。
山上達郎も鼻の頭を掻いて答えた。
「まぁな。でも、お前たちの協力も大きいぜ。これから他のラグナロク学園生と合流するまで、頑張って堪えて――ん?」
山上達郎の怪訝な声。
視線の先には岩壁に設けられた洞窟の入り口。
山上達郎は思った。
「あの中に魔物がいなけりゃ少し休めるかもな。ちょっと覗いてみよう」
「はい」
「分かりました」
悪い判断ではない。どこまで楽観を抱き、どこまで悲観を抱くか、そのバランスは人によりけり、結果はまた天によりけりだ、山上達郎の判断を攻めることは誰にも出来ないだろう。ただし、結果論から言うとするならば。
「えっ」
「あっ……」
「ピエロ……?」
山上達郎は判断を間違えた。
暗闇から這い出たピエロの顔と面があった瞬間、山上達郎の視界は捩じ切れた。
ポキン。
同じ音はさらに2つ続いて生まれた。
生体反応消失
SDの通知を見て、素早く行動を開始する。時は一刻を争う。
「……さて、仕事の時間だ」
クロウ・ニートは走る方向を変えた。死亡が死体のロストになるまえに、サポート職員と共にSDの信号の発生源へと疾駆する。
時折遭遇する魔物は補正値400のダーク・ロウの力で鎧袖一触で全て皆殺した。その域のADとなれば、使い手が使い手なら並大抵の魔物に苦戦することはない。
「あれは、洞窟?」
SDの信号を追ったクロウは一つの洞窟に行き当たった。この中で偏野在人たちは死んだらしい。
それはすなわち、洞窟の中に強力な魔物がいる可能性が高いということ。
クロウは警戒しながら一人で洞窟の入り口に向かった。
入ろうとした矢先、ピエロの面貌と眼が合った。そして、
パキン。
クロウの首がへし折れる。だが、ピエロの表情には疑念。
「む?」
「ダークネス・レーザー・エッジ」
ランク8・闇属性・短剣魔法
一瞬でピエロの元まで伸び届いた闇色の閃光の刃がピエロの首を切り飛ばした。
点々と転がるピエロの首。茂みから姿を現したクロウは、首をへし折られた己の幻像に視線をやる。
ランク7・闇属性・ファントム・ミラージュ
実態を持った己の影分身ともいうべき幻像を作る魔法だ。その幻像を先行させ、様子を伺い、一瞬の判断で魔法を抜き放った。その結果が特に労なく倒したように見えるピエロの死体だ。
まともにやりあえば5分5部の戦いになった可能性もある。魔物の気配からそう思いながら、クロウは再度ファントム・ミラージュを発動する。
幻像を先行させ、洞窟の中の様子を伺う。
入り口の脇に、首を捩じ切られた死体があった。
偏野在人たちの死体だ。
「……確保」
クロウは感情を押し込めた静かな声で言った。サポート職員たちが編野在人たちの死体をクラス対抗ストラテジーウォーでも活躍したワンダーテレポートの呪文でラグナロク・ペンションの死体棟――試験中の死者を送り込む小部屋――に送り込む。後にマギサが纏めて蘇生させる。
一連の作業の後、クロウは洞窟の中を軽く探索した。探索は1分もかからなかった。
「これは……巨大な穴?」
入り口からすぐの場所に、まるで奈落を穿ったような巨大な穴があり、その洞窟は行き止まっていた。
クロウはそこに至ってようやく気付いた。
「これは洞窟じゃない。ダンジョンだ。……ダーク・ライト・バレット」
穴に、光を発する魔力弾を発する。どこかに着弾することもなく、魔力弾はどこまでも落ちていき、ふいに消えた。
「……後で婆に報告だな。チッ、何が起こってやがる」
クロウは鋭い眼光で穴を見つめたのち、背を翻した。
「なるほど、ねぇ」
死体棟にてクロウの報告を聞いたマギサは興味深げに頷いた。
「明日、私が調査しよう」
「学園長直々ですか」
「ああ。これから私はこの子たちを復活させなきゃならない。そいつもね。そうなると眠気に抗えないだろうから、明日というわけだ」
「こいつ、ですか」
クロウはピエロの生首を見おろして言った。尋問に使える。そう思い持ち帰ったものだ。マギサ、そしてクロノスかいれば蘇ったところで万が一は起こらない。
「ああ。情報を抜き取ってから使うことにしよう。生徒は全員回収した。おまけもついてきた。それじゃ、今日の蘇生を行おうか。召喚――」
マギサは時限輪廻クロノスロッドを構え、詠唱した。
「時戒神クロノス」
遍野在人たちを筆頭に集められた生徒たちが復活する。さらに、ヘクターの側近であるクラウンも。動揺するその体は。
「タイム・ストップ」
クロノスに体の時を縫い止められ、
「タイム・リード」
マギサに無事過去の記憶を抜き取られ、殺された。
「ひ、ひひ。そういうことだったのかい。ひっひひひひひ! 明日の楽しみが増えたねぇ!」
「……」
クロウは何も説明しないマギサに心のなかで糞婆、といつものように悪罵を吐いた。
マギサ、教師、そして、生徒たちが、最低限の夜番護衛を残して、寝静まる。