カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
マギサは昨日クロウが発見した洞窟にやってきていた。
クラウンとかいう名前のピエロから読み取った記憶から、この洞窟に全ての元凶が潜んでいることは裏が取れていた。
奈落のような穴の前に立ち、時限輪廻クロノス・ロッドを手に詠唱する。
「エア・フロート」
ランク7・無属性・63万ポイント。
宙に浮く。本来ならそれだけの魔法。しかし、桁外れの魔力を持つマギサが使えばその効果さえ変わってしまう。
マギサの体が奈落の底へとゆっくり沈んで行く。浮遊魔法として進化したその魔法は完全な空中浮遊を可能としていた。意図すれば上に浮遊することも出来る。しかし、今はその必要はないため、その効果は使わない。マギサはさらに詠唱する。
「オメガ・オーラ。タイム・スキップ」
ランク8の防御癖を纏い無敵と化したマギサが傍目には凄まじい速度で地の底へ沈んで行く。地へ沈む時間を早送りしているのだ。その本質は安心安全な速度のまま、マギサは一気に地の底まで辿り着いた。
底は真っ暗な場所だった。マギサはさらに詠唱する。
「マジック・ライト」
「よく来たな。強き、いや、最強の魂ヨ」
黒ローブに身を包んだ魔物――死廻士ヘクターがその降臨を出迎えた。
死廻士ヘクター。
異界の一つ【大魔導界】の死廻士。
外れ魔術たる死廻術を極め世界を滅ぼし己の王国を築くまでに至った。
死廻術に狂気的な情熱を持つ。生命の冒涜を平気で行う。死廻術を安心して研究できる場所と設備と材料を求めて死廻帝国を築いた。そこは意外にも死を克服した町として住人の評判は良かった。もはや世界には死者しかいなかったからだ。だからこそ、ヘクターは行き詰った。これ以上生者を弄れない。生命が増えない。どうすれば。どうすれば……。
そんな時、異界への扉が開けた。玄咲たちの住む世界で起きた超巨大魔力震【世界転壊】によって。そしてヘクターは異世界にやってきた。死廻術の完成を目指して。そしてより蘇らせ甲斐のある魂を求めて。そしてカーンにより滅ぼされ、魂の欠片として長い時を彷徨った後、ある時起こった
【奈落】。
そこは膨大な魔力の塊。しかも悪性の。生者が生きるには虚無だが魂が生息するに最適な空間。ヘクターにはなぜ生まれたのかは分からない。しかしヘクターにとってこれ以上ない最高の空間。完全復活を果たしたヘクターは魂をかき集めた。そこはくしくもかつて魔王アイギスが没した場所。幾つもの魂がそこに残っていた。王魔種は罪の塊。だからこそ成仏できずに現世を彷徨い続け、無意識に魂が過ごしやすい場所を選んで集まっていた。そこでたくさんの魂を蘇らせ、研究に没頭していた。そしてついには王魔王アイギスをも復活させようとしていた――。
「大体そんな経過だろう。あんたがここにいる理由は」
「なるほド。魂の気配が消えたクラウンが全て喋ったカ」
「違うね。読み取ったんだ」
「……そうカ。規格外の魂の持ち主は使う魔法も規格外らしイ。細かい詮索はしないでおク」
「話が早くて助かるよ」
マギサはヘクターと闇の中で会話をしていた。殺そうと思えばいつでも殺せる。しかし、それをしない理由がマギサにはあった。マギサがヘクターに好奇の光を宿した目で尋ねる。
「死廻術。あんた本当に魂を蘇らせることができるのかい」
「ああ、その通りダ。輪廻の輪を少し弄るだケ。ただ魂を逆転させるだケ。それだけで魂は蘇ル。もっとも、環境によるがナ。ここは」
闇の中、手を皿にして広げたヘクター――黒ローブの内の外骨格だけで形成された顔が笑い謳う。
「なんと芳醇なマナに満ちた世界カ。ここならできル。完全な魂の復活ガ。ようやく見つけタ。こここそ我が理想の地ダ。ようやく見つけたゾ」
「なるほど。王魔種をまだまだ蘇らせることはできるかい」
「もちろんダ。まだまだストックはあル」
「いいね」
マギサは心底嬉しそうに笑った。ヘクターがそのマギサに告げる。
「ところで強き者ヨ」
「なんだい」
「永遠の生命を約束すル。だから死なないカ?」
マギサは失笑した。魔物らしい。そう思った。
「なるほど。あんたはそういう奴かい」
「? 貴殿にとってもメリットしかなイ。生命の本質は魂。肉がなくとも魂があれば何の問題もないだろウ。それが目的で私を活かしているのではないのカ?」
「違うね。最終的にあんたは滅ぼす。それは既に決定している。思想なんてどうでもいい。敵なら殺す。シンプルでいいだろう?」
ヘクター目に見えて狼狽えた。そういう所は人と通ずる感性の持ち主らしい。
「もう少し待っていてくレ。もうすぐ王魔王アイギスの魂が復活できるんダ。それさえ成し遂げれれば私は滅ばされても構わなイ。冷静に判断しロ。それが知性あるものの行いダ。あと1日あれば……」
「なるほど。見過ごしてやってもいいだろう」
マギサはヘクターの目的を知ってやってきた。だから話が早い。ヘクターは
「本当カ? 感謝すル。賢きものヨ」
「だが、ただ見過ごすだけじゃ面白くない」
「なに?」
マギサはニヤリと口角を歪めてここに来た目的を口にした。
「今日の夕暮れ、私の教え子たちはあんたを殺しにいく。殺されるまでにあんたはアイギスを蘇らせる。そういうルールで遊ぼうじゃないか」
「……ルール?」
「ああ。ルールだ」
マギサは頷き、至極真面目な顔で言う。
「それがなければこの世は面白くない。力づくってのはすぐ飽きるからね」
「なるほド」
ヘクターもその思想に理解を示す。
「力あるが故の悩みカ。分からなくはなイ」
「だろう」
「ふむ。余程配下を戦わせることに拘りがあるようだナ。分からなくもなイ。私にもその趣味はあル。魂の優劣をつけるために生体で殺し合わせるのダ。同好の士という訳カ。面白イ」
「ちょっと違うね。育てるために戦わせるんだ」
「なるほド。魂の強化カ。それも重要ダ」
「いや、なんというか……まぁそれも間違いではないか」
「そうだろウ。ではそういうルールでいこウ。私の全精力を以て迎え撃ってやろウ」
「ああ。楽しみにしてるよ。いい訓練になる。滅ぼしてやるから待っているといい。王魔種のストックを全放出しな。地上にだよ。それがルールだ」
「むぅ……よかろウ。向かい合っている時点で生殺与奪の権は貴殿にあル。仕方あるまイ」
「こんな所で戦えるのは明麗くらいだからねぇ……よし」
マギサが話をまとめにかかる。
「話はそれくらいかな。開始は今日の夕方。いいね?」
「いいだろウ。約束ダ。私にも準備の時間がいるからナ。丁度いイ」
「よし。じゃ、もう会うこともないだろう」
マギサが去ろうとする。それをヘクターが引き留める。
「ところで人ならざるものヨ」
「? 何言ってんだい。私は人だよ」
「貴様のような人がいるはずなかろうガ」
「いるんだから仕方ないだろ」
「ふむ……まぁ、生命にイレギュラーはつきものカ。それよりも一つ提案があるのだガ」
「なんだい」
「もう一度だけ言う。死者にならないカ?」
マギサは鼻で笑って否定した。
「やっぱりあんたは狂ってるね。魔物らしい思考回路さ」
「? 狂っているのはお前ダ。私はお前に永遠の生命を与えてやろうというのだゾ? 何故拒ム? 永遠の生命が欲しくないのカ?」
「いらんね」
「なぜ。永遠だゾ。永遠が欲しくないのカ。永遠に研究できるんだゾ」
「……」
マギサは少しの間を置いて首を振る。
「興味ないね。永遠なんてありはしないし興味もない。時は永劫流転の代物。だからいいのさ」
「そうか。お前は狂人ダ」
「お褒めに預かり光栄だ」
「分かり合えなかったカ……ならば」
ヘクターは背を翻し、己の死廻術の準備へと足を進めた。
「これ以上話すことはなイ」
「ああ。さらばだ。ヘクター。あんたは面白い奴
そしてマギサもまた背を翻し、来た時と同様、エア・フロートにタイム・スキップをかけて、地上へと戻っていった。
そして、玄咲とルディラが寝てる間に時は過ぎ、場所はラグナロク・ペンションに移る。