カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「うわぁあああああああ! 空から一方的に風を操る魔法を放ってきやがる! どうすりゃいいんだよ!」
「あんなの戦えっこねぇ! 一方的にやられるだけだ! 戦いにならねぇ!」
その戦場では風と悲鳴が舞っていた。
災鳥ジズ。
その羽ばたきが生み出す風は容易には防げず、防御魔法の仕様を余儀なくされる。
そしてまた、攻撃魔法を放とうとも、高空にあり常に風を纏い続ける災鳥ジズ届くまでに多くの場合攻撃魔法は逸れる、減衰される、あるいは届かず、有効打に全くなり得ない。
多くの魔符士にとって災鳥ジズは戦う前からして詰んでいる相手であった。
必然、戦場は千々に逃げ惑うか防御魔法を展開するか、散発的に攻撃を放ち全く手ごたえがないかのいずれかとなり、もはや戦いでなく災害相手に如何に身を守るかという体を為していた。
その風向きが変わったのは、
「召喚――裂空将ガルダ」
凛とした声で紡がれたある一つの詠唱だった。
「クゥ。お願いします」
「うん、分かってる」
簡易召喚した裂空将ガルダの懇願にクゥは頷きを返す。
「彼の災鳥は我が王――裂空王イカロス様の仇なのです」
災鳥ジズ。自身の巣で休んでいる所を勇者カーンに夜襲されその得意の制空権を活かせず命を散らした逸話を持つ鳥形魔物の王魔種だ。しかして、その本領を活かし空で戦った場合の強さは、当時のADの出力で召喚されたとはいえ王クラスの精霊【
そして裂空将――裂空の名を冠に頂くガルダはその裂空王イカロスの子であった。それ故に、ガルダが災鳥ジズに抱く思いは激情と表現すべき強度の復讐心である。そのガルダの想いを、
「じゃ、行こっか。召喚――」
クゥは汲み、そして共に参る。
「裂空将ガルダ」
エメラルド色の瞳に移る夥しい風が支配する戦場に。怯むことなく。
「――流石、だね。渡り合ってる」
高空、ガルダとジズが互角にやり合っている。だが、少しガルダに分が悪い。かつて王クラスを退けたジズの実力は衰えていない。それでもランク8の将クラスながらくらいついているのはガルダの研鑽の賜物であった。
「ク、クゥちゃん。風は私が防ぎ続けますからね! 隙を見ていつでも撃ってください」
「はい。分かってます。だけど……」
クゥは難しい顔をした。風の道。確かにある。だが、絶え間なく揺らぎ続け、明確にここ、という隙の糸を見つけることが出来ない。おそらくチャンスは一発限り。警戒されれば二度と攻撃を当てるチャンスは訪れないだろう。一発で仕留めなければならない。だが、風の荒れ方は過去最大級で、風の道を通すのはクゥをして至難の技だった。
(でも)
それだけ強力な過去最大級の魔力風が吹いているということは、乗りこなした時の威力も過去最大級になるだろう。おそらくジズをして急所を捉えれば致命傷に近いダメージを与えられる可能性は高い。その可能性に欠けてクゥは身を潜めガルダとジズの戦いを見つめ続けるが、
「……きついね。攻撃を当てるのは」
弱音を零す。心亜がやや弱気な貌で首を傾げた。
「そ、そうなんですか?」
「はい。ジズも攻撃を放てばこちらの存在に気づくはず。回避行動を取るはず。確実に当てる。それはおそらく不可能な難事。……せめて、一瞬でも動きを止められれば――」
「ならばその役目、俺が果たしてやろう」
後方から、声。気配もなかった。クゥと心亜はバット振り向く。
そこに、顔面に黒い布を巻き顔を隠した生徒がいた。心亜は即座にその正体に気づく。
「七霊王家が一家【闇ヶ暮】の3年生、闇ヶ暮才蔵先輩! どうしてここに?」
「俺の力が一番生きる戦場がここだと思っただけだ。無駄口はいい。そこの1年」
才蔵は心亜の開けた重力のバリアの境目から中に入り、風を避けながらクゥに尋ねた。
「一瞬動きを止めればいいんだな」
「はい。発射の瞬間に」
「了解だ。俺がその役目を果たしてやる。その時がくれば躊躇なく撃て。作戦はこうだ」
才蔵の語った案に、クゥは一瞬悩み、自分にデメリットはないことに気づき、頷いた。
成功しても失敗しても、自分のやることは変わらない。ならば、
「分かりました。お願いします。先輩」
頼るだけ頼ってみるのも悪くないだろう。冷静にそう判断し、再び頭上へと意識を集中させる。
才蔵は一度頷き、その場から姿を消した。
戦いは佳境に差し掛かった。
ガルダは全身に傷を負っている。対するジズも傷は負っているものも、ガルダ程ではない。どちらが優勢か、誰の眼にも明らかだった。
だが、ガルダはずっとその眼を凝らし続けていた。風の道が開けるその時。待ち続け、整え続け、そしてとうとう、その時が訪れた。
ジズの急所たる頭部まで繋がる風の道が開けた。
ガルダとクゥの意思が無言で通じ合う。ガルダは全力でジズの動きを止めにかかる。ジズはその抵抗を無駄な足掻きと嘲弄するような笑みを浮かべて迎え撃つ。だが、その時、
視界の端にエメラルド色の輝きを捉え、そしてそれが尋常じゃない速度で迫り来て――。
「フュージョン・マジック――
「FARUA!」
ジズの表情に初めて焦りが浮かんだ。
才蔵が動いたのはまさにその時だった。
ジズの影。その下に絶え間なくあり続けた才蔵は銃の発射音が聞こえると同時、手に持つクナイ型のADを詠唱と共にジズの影へと投げ放った。
「フュージョン・マジック――
影を縫い留められたジズの動きが、一瞬止まった。
ジズは焦った。何故か一瞬自分の体が動かなかった。そのせいで致命的な隙を晒した。今すぐ躱さなければ。あの己の産み出した魔力風をも取り込み迫りくる恐ろしい弾丸が着弾し自分は――。
「FARURURURURURURU!」
怪鳥音を産み出しながらジズは攻撃を避けようとする。いや、避けようとした。
「我が王の仇ィイイイイイイイイ!」
その首筋にガルダが最後の意地を発揮し嘴で噛み付いた。ジズは身もだえるがどうしてもガルダを剥がせない。どこにそんな力を温存していたのか、信じられない力で纏わりついていく。永遠にも似た僅かな硬直。
それが、勝負を決した。
ジズの視界にエメラルド色の光弾が迫りくる。それはさらに速度を増し、とうとうジズの視界を埋め尽くして――。
「FARUッ」
ジズの頭部をその射手の目論見通り一撃で粉砕し絶命へと至らしめた。
「フゥ」
「……凄い」
心亜はただ無言でパチパチする。王魔種。その、実質的な単騎討伐に近い程の勲功を上げた下級生を称えて。
「先輩」
クゥは対峙する間己を風から守り続けてくれた頼もしい先輩に向けて、手を翳した。
「ハイタッチ」
「……はい!」
パン!
勝利を祝う音が、ドロミテ大樹海に高らかに鳴り響いた。