カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
ポタ、ポタタタ。
「……しくったな」
凍介の焼き焦げ切れた左足の断面から血が流れる。あまりの高温だったため止血が同時に済んでいる。しかし、身を焼き焦がす痛みは相当なものだろう。凍介は顔をしかめて、己のパートナーの狂夜――泣きそうな顔をしている。そんな所も愛しいと思う――に、告げた。
「狂夜」
「はい。凍介さん……!」
「変身しろ。今からお前が主役だ。MCムーンライト・セレナーデ」
「ッ! 分かりました――言っときますが」
狂夜達の前には蒼い炎を身に纏った巨大な悪魔――数ある魔物種の中でもトップ3に入る程に忌み嫌われ恐れられた悪魔種の王魔種【悪魔王アスモデウス】がいる。そのアスモデウスから目を離し、狂夜はさらにその上を見た。
「短時間しか戦えないし絶対動けなくなる。だから、あいつを打倒した後のことはお願いします」
「フッ、今の俺にそれを頼むか。いいだろう。まだ手は動く。お守りくらいは十全にこなせるだろう」
「助かります――さぁ」
そして狂夜は月を見た。
少しの欠けもない満月を。
「フルムーン――100%だ。MCムーンライトの全力を見せてやる」
ドクン。
狂夜の体が脈打つ。そして、
「ル、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
悪魔王アスモデウスの身を震わす程の大音声を、その楽器を奏でると共に己の喉から迸らせた。
1学年最強――唯一サンダージョーのみがゲーム中打倒し得た、規格外の力が、解き放たれる。
悪魔王アスモデウス。
数ある王魔種の中でも、間違いなくトップ5に入ると言われるほど強力な力を持つ王魔種だ。
そもそも、悪魔種自体が数ある魔物種の中でもトップクラスに強いのだ。最弱クラスの魔物【キャンキャンドッグ】を擁する犬種などとは比べ物にならぬほどに。その頂点に立つ王魔種――その力は規格外。
あの勇者カーンをして苦戦したと言わせる程に、悪魔王アスモデウスは強力な魔物だった。
その最大の権能は縦横無尽に操る蒼炎。地を這わせるも、宙を舞わせるも自由自在。そしてその威力は無類。凍介がずっと演奏し続け必死に喰いとどめていたが、一撃足に掠っただけで膝から下を持ってかれる程の威力。それ程の威力の蒼炎をアスモディウスは全身に纏い、そして操る。
普通に考えたら人間に勝てるはずがない。それ程の強力な魔物と互角に抗していただけ氷室凍介も規格外の魔符士だった。しかし、
「ル、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
この場にもう一人、限定条件付きで規格外となる魔符士がいた。その全力を見たものは、ラグナロク学園にはまだいない。
だから、どれ程戦えるのか凍介にも、狂夜自信にも正確なことは分からない。だが、狂夜には不思議と自信があった。勝てるという自信が。
なにせ、満月状態で変身した狂夜は今まで負けたことがない。
アスモデウスが僅かに警戒の色をその瞳に映す。まずは牽制とでもいうように、その身に纏う蒼炎を飛ばして狂夜の反応を伺う。
狂夜は己のAD地獄遊戯ラヴィー・ロック――ヴァイオレット・ビートの上位魔法デスメタル・ビートは既に発動し8ビートに達している――を構え、ギュガァアアン! とかき鳴らしながら詠唱した。
「デス・サウンド・バズーカ」
それと同時、凍介が後方でギターをかき鳴らした。2つの魔法が共鳴し、ユニゾン・マジックと化し、放たれる。
蒼炎の全てが豪炎のような音楽に吹き飛ばされ、同時に凍り、その氷柱のような炎はさらに伸びゆき、
「ゴ、ゴオオオオオオオオオオオ!?」
アスモデウスへと直撃し、大ダメージを与えた。
信じがたい光景だった。己が全力を出して尚不覚を取った相手を、まだ1年の、ADもカードも己より劣る狂夜が、あのアスモデウスを圧倒している。己のユニゾン・マジックによるサポートもありとはいえ、信じがたい光景だった。
1年だとか、3年だとか、そんなレベルじゃない。満月を見て変身した狂夜の力はもう学年を超える規格外の領域に達している。一度、変身状態の狂夜と戦ったことがある。あの時も末恐ろしいと思ったが、凍介が勝利した。三日月だからだ。確か30%だと言っていた。
ならば、今の狂夜はあの時の、
「150%だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「……本当にそれくらいありそうだから困るぜ。まぁ、いい。狂夜、さっさと決めちまえ。ギター、もうあったまってんだろ」
16ビートになっているんだろ――その当然の問いに、狂夜はギターをギュラン! とかき鳴らして答えた。
「当然だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! フュージョン・マジック―――」
「ゴ、ゴゴ……」
狂夜の演奏の業熱と己が重ねる零度の氷に侵され、既にアスモデウスは幾重にもダメージが重なっている。だが、まだ死に体ではない。フュージョン・マジック――こちらが切り札を切ると察し、アスモデウスもまた切り札を切る決意をしたようだ。
「ナメルナヨ、コノニンゲンガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
アスモデウスが胸元で手を圧搾するような動きを見せる。すると、その中心から一際濃厚な蒼炎が発生し、そしてあっという間に巨大に膨らんだ。それを、こちらへとぶつけてくる。
それとほぼ同時、狂夜もまた己のADを振りかざし、そして詠唱しながら振り下ろした。ADが纏う業炎が極大化しながら解き放たれる。凍介も、それと合わせて、己のフュージョン・マジック零界戦線を同一のメロディーで放ち、ユニゾン・マジックを成立させる。
「――
――蒼炎の巨大球を掻き消し、果てしなく燃え広がっていく紫炎が容易くアスモデウスを飲み込み、そして同時に凍てつかせて滅ぼした。その紫炎はさらに燃え広がっていき――。
「アルル様! なんかこっちに来ます! やばいです!」
「分かってる! う、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
アルルは全力疾走でその魔法の射程範囲内から逃れた。逃げ遅れたサウンド・ノイジーズの王に突如として、いや、明らかに彼が放ったものと分かる紫炎が襲いかかる。そして当たり前のようにサウンド・ノイジーズの王を一撃で討滅しながら、さらに燃え広がっていく。アルルは引きつり笑いを漏らした。
「……いや、これ、彼だよね? うん。狂夜くん。うん、うん……え?」
遠く、遠吠えが聞こえる。それは放射状の攻撃痕の震源地。真っ黄色の瞳で両腕を広げ遠吠えを上げ続ける狂夜の姿を見て、アルルはやはり抑え切れぬ引きつり笑いを漏らした。
「……反則じゃない? え? 私の16小節って……」
さらに一匹の王魔種を飲み込んで、炎の軌跡はようやく止まった。
それと同時、遠吠えが止み、狂夜がばたりと倒れ伏す。アルカディスターズの2人、そしてアルルもまた、倒れ伏した狂夜の元に駆け寄り、凍介の惨状に驚き、そして狂夜の本気の実力に改めて戦慄の念を抱いた。