カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「ハァ、ハァ、クロ、私たち、王魔種らしき魔物を何匹倒しましたか?」
「3,4体程。十分よくやってます。ルディラ先輩は」
「と、当然です! 私はクロの先輩ですよ!」
「……はい。本当に、よくやってくれています」
玄咲たちは今の所苦戦らしい苦戦を強いられる機会は一度もなかった。それはルディラの圧倒的な遠距離火力がなせる技だった。そして玄咲の的確な状況判断能力がその真髄を引き出していた。玄咲一人ではどこかで魔力的に息切れしていただろうし、ルディラ一人ではどこかで判断を間違えて手傷を負っていただろう。それは致命傷になっていたかもしれない。互いに互いの欠点を補い合う2人の組み合わせは最高の相性だった。王魔種すらものともしていない。
初日の13神による襲撃で重傷を負ったのは、やはりそれだけ13神が規格外であったのだろう。
「これからどうしますか」
「そうですね。苦戦してそうな場所に行きましょうか。戦闘音のする方角です。魔物を探すにはそれが一番早――いや」
そこまで喋って玄咲は気が付いた。前方に、己がよく知る光景が近づいていることを。ゲームでのキースポットであった場所であることを。
(あそこは――ゲームでダンジョンの入り口だった場所か)
巨大な2つの岩に挟まれた地面。その下にダンジョンが広がることを玄咲は知っている。ただ、それはゲームの話。現実のこの世界ではダンジョンが別の場所に発生し、だから玄咲はてっきりダンジョンの発生場所が違うのだと無意識に思い込んでいた。だが、別の仮説を玄咲は今疑っていた。
――もし、ダンジョンが2つあったら?
ゲームでヘクターが潜伏していたこの地下に、ゲーム通りのダンジョンが広がっていたら?
無視するには重大過ぎる引っかかり。玄咲は少し悩んで、ルディラにこう切り出した。
「……ルディラ先輩」
「なんですか。クロ」
「地面に一発魔法を撃ちこんでもらえますか? なんか、嫌な予感がするんです」
「魔法、ですか。分かりました。クロがそう言うなら」
ルディラは玄咲の言葉を疑わず、素直に己のADを地面に向けた。そして、詠唱した。
その刹那。
地面からルディラに伸びる赤い線を玄咲は見た。玄咲は即座にルディラの体を抱き寄せ、横っ飛びで赤い線の外に逃れた。一瞬の判断、というよりは反射。ルディラが顔を赤くして玄咲を振り向く。
そして、玄咲の背後に地面から伸びる魔力光線を見て、絶句した。砕けた地面の中から黒い影が地表に現れる。
「……まさかこの場所スラ、看破されるとはナ。一夜の隙に場所を移動シ、時間を稼ごうと思っていたガ、警戒していてよかっタ。アイギスが復活すれば全てが終わル。それまでの間」
……ローブを被った髑髏。知っている。その顔。死廻士ヘクター。ゲームで大空ライトくんが対峙し、退治する、謎多き魔導士。そのヘクターが今、目の前にいた。
ゲームでは不完全な復活だった。ヘクター自ら語っていた設定だ。だから大空ライトくんにも倒せた。だが、今目の前に立っているヘクターの存在感は、とてもゲーム時点での大空ライトくんに倒せる魔物とは思えない。それ程の濃密な魔力を纏っている。玄咲は思わず呟く。
「完全復活、か……」
「ム? その通りダ。私は完全復活を果たしていル。どうやら情報はあの婆から共有されているようだナ。であれば、やることは一ツ」
ヘクターがその手に持つ禍々しい木を編み合わせて構成したような黒い杖を玄咲たちに向ける。
「殺し合いダ」
「ッ! ルディラ先輩ッ!」
「はい! アクア・ハイプレッシャー!」
「ム? ハイエスト・ディフェンド・オーラ! グゥウウウウウウ……!」
ルディラの放った水銀の魔力の爆発がヘクターが前方に展開した魔法壁に激突し、そして突き破り吹き飛ばした。ヘクターの姿が水飛沫の中に隠れる。玄咲は己もまたADを構えながらさらに命じる。
「ルディラ先輩、追撃を!」
「はい! アクア・メガボール!」
爆ぜ飛沫く水煙の中にさらに魔法の水断が叩き込まれる。命中。爆発。玄咲は一旦様子を見た。ルディラも。
そして、水煙を突っ切って現れた黄金の鎧を纏いし騎士を見た。ルディラがさらに詠唱しようとする。玄咲は止めようとして、それよりも優先してするべきことがあると思い直し、代わりに詠唱した。
「アクア・ハイプレッシャー」
「召喚――天凱装デイライダー!」
ルディラの放った魔法が黄金の騎士に直撃する。しかし、黄金騎士の猛進は止まらない。ルディラが狼狽える。玄咲は解説しながら腰のゼアニアム・ブレードを抜く。
「あいつはヘクターが召喚した王魔種ゴルディオン・ナイト! あいつの呪われた鎧には一切の魔法が効かない。つまり」
黄金騎士の剣をゼアニアム・ブレードで受け止めながら、玄咲は断言した。
「接近戦で倒すしかない!」
「そん、な――」
「幸いあいつも近距離攻撃しかできない。俺がこいつを引き付けて、すぐに倒します。その間ルディラ先輩はヘクターにひたすら攻撃を加え続けていて欲しい。使う魔法の選択はケースバイケース。今まで教えたことを参考にして――グっ!」
黄金騎士の剣閃が玄咲を襲う。慣れない剣での戦いにやや戸惑いつつも玄咲は的確に防御する。そして、ルディラに最後の助言を行う。
「俺が教えたことを参考にして一人で戦って、あいつを引き付けていてください! ルディラ先輩ならできる!」
「で、でも……いや」
ルディラは頬をパンと張り、玄咲の背後でADをギュッと握り込めた。
「やります! 私があいつを倒します!」
「ありがとうございます。お陰で勝機が出てきた。すぐにこいつを倒して」
ガギィイン! 剣と剣が鍔迫り合う。黄金騎士と剣越しに睨み合いながら、玄咲は断言した。
「加勢に向かう。問題ない。俺とディライダーならやれる」
(ああ。その通りだ。俺とお前の熱い合体攻撃、あいつに叩き込んじまいな!)
「……」
脳内に響き渡ったディライダーの声にはあえて答えず、玄咲は無言で黄金騎士と戦い続ける。