カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
サンダーハウスの異名を持つ、プレイアズ王国の中でも王宮に次いで巨大な建物。その中の家長室にてサンダージョーは家長の雷丈正人と対面していた。雷丈正人の隣には執事のゴルド・ジョンソン。細身長躯でピシッと手を後ろで揃えている。
「お爺様。報告がございます」
「なんだね」
穏やかで柔和な笑みを浮かべて雷丈正人――叔父が聞いてくる。気性の大らかさを称揚するようなふっくらな体躯。プレイアズ王国の重鎮ながらエルロード聖国の聖人の一人に数えられる偉大なる祖父。この世で最も尊敬する人物に背中に手を回し胸を張ってサンダージョーは答える。
「10年前に取り逃した堕天使族の娘を発見いたしました。たまたま学校で同じクラスになりまして」
「なんだと!」
祖父が珍しく笑みを崩して驚く。それほどのことなのだろうかとサンダージョーはいぶかしんだ。
「珍しいですね。笑みを崩されるなんて」
「ん? い、いや。そういうこともある。私だって人間だからな」
「そうですね。聖人もまた人間ですもんね。だからこそ人の気持ちが分かる――ですよね?」
「その通りだとも。お前はいい子に育ったな」
サンダージョーは相好を崩して頭を掻いた。尊敬する祖父に褒められるとどうしても嬉しくなってしまうのだ。
「ところでその堕天使の娘の容姿はどんなものかな」
「容姿、ですか」
なぜそんなことを気にするのだろう。そう思ったが、尊敬する祖父のことだからきっと深い意図があるのだろうと思いサンダージョーは素直に答えた。
「……認めがたいことですが、一般的には、かなりの美人に入るかと思われます。もちろん僕は欠片も魅力など感じませんでしたが。ええ」
「そうか! それはよかった」
「やけに嬉しそうですね」
「む? あ、ああ。ジョー坊も知っての通りアマルティアンは容姿端麗な若い雌ほど罪深いからな。浄滅してやれるのが嬉しくて仕方ないのだよ」
「! そうでしたか! 流石お爺様! 素晴らしいお考えです!」
「その子は必ず我が家で確保するのだ。エルロード本国に連れて行って浄滅する必要がある。罪穢れを浄化し殺される――それが結果的に来世でその子のためになる。分かるね? ジョー坊」
「はい!」
「ジョー坊にしかできない役目だ。ラグナロク学園は警備が固い。部外者の侵入は不可能。だが、学生のジョー坊なら素通りだ。その子を必ず拉致してきなさい。その子のためだ。これは正義だ。分かるね?」
「はい、分かります。必ず僕が拉致してきますよ。ところで、お爺様。堕天使の確保に当たり、懲罰十字聖隊(エクスキューショナー)の隊員を使っても?」
懲罰十字聖隊――魔獣狩りが主な仕事だが、アマルティアン狩りもこなす、雷丈家の最高戦力たる私兵部隊。サンダージョーは若干15歳にしてその隊長だった。理由は単純。サンダージョーが一番強いからだ。サンダージョーが率いる懲罰十字聖隊は過去最強と呼ばれる。その隊員から今回の仕事に適性のあるものをアマルティアン確保に使う腹積もりだった。
「構わないよ。だが、部外者は――」
「懲罰十字聖隊にはラグナロク学園の上級生もいます。暴力のスペシャリストです。今回の任務にはうってつけですよ。ちょっと糞ムカつく邪魔な男がいるものでそいつをぎったぎたにしてもらいましょう。そいつは人間ですが背教者です。生意気なクズですよ、死んでも文句は言えませんね」
「そ、そうかい。まぁ好きにしたらいい」
「あとは、教師をどう突破するか。特に担任のクロウとかいう教師を出し抜くには……」
「ん? ああ、教師の心配はおそらくしなくていい。教師は全部マギサの子飼いだ。マギサの決定に従う。そしてマギサはその生徒を庇いはしないだろう」
「なぜ、言い切れるのですか?」
「あの婆は結構冷淡なんだ。100年に一度、そういうレベルで優秀な生徒でもない限り、アマルティアンを庇うリスクを考えて、切り捨てるだろう。昔同級生だったし、今でも顔を合わせるからね。あの婆には詳しいんだ」
ニコニコと正人は続ける。
「アマルティアンだという物的証拠を突き付けてしまえば簡単さ。妨害されないうちに堕天使の証を衆目に晒してしまいなさい。それで、終わる。それと、ジョー坊の担任のクロウはいつも遅刻かギリギリかの無気力教師として有名だ。一応、早めに行って鉢合わせないうちにことを済ませた方がいいだろう。妨害されないとも限らないしね。念には念を、だ」
「なるほど……大体の方針はもう決まってしまいましたね。さすが、お爺様。お知恵添えありがとうございます」
「うむ。期待してるよ。ジョー坊」
「はい。任せてください! いつもよりも強めに折檻してから拉致してきますよ! それではこれから岩下隊員に連絡を取らなければいけないので、お爺様、本日はこれにて――クソアマが、待ってろよ」
サンダージョーは家長室の扉を閉めた。
「いい子に育ちましたね」
「ああ、本当にね」
正人の傍に控える執事のゴルド・ジョンソンがそう言う。正人は笑顔で答える。
「本当に、都合のいい子に育ってくれたよ」
正人は机の引き出しから一冊の本を取り出してページをぱらぱらと捲る。黒地に金字で刻まれたその豪奢な装丁のタイトルは新約創界聖書。エルロード聖国が開発した
「ジ・エルロードは本当に凄いね。馬鹿馬鹿しい教えに説得力を持たせる神を利用した論調もだけど、何より魔導書としての完成度がだ。効果は微弱も微弱。だからこそ、誰も気づかない。けれど積み重なれば、ジョー坊みたいな敬虔な信徒が完成する。ただ、あれは洗脳が上手く行きすぎた」
正人は渋面を作り、苦々し気に吐いた。
「ジョー坊は信仰の化け物だ。神の子と呼んで育てたのも失敗だったかもしれない。信仰と、自己愛が肥大化しすぎた。今エルロード聖国で作ってもらっている新約創界聖書~真理編~による再洗脳が上手く行かなかったら、この先どうなることか」
「ままなりませんな」
「全くだ。だが、それを差し引いて尚飼っておく価値がある。強いからな。世界でも指折りの魔符士だ。可愛いものさ。ふふ、トンビが鷹を生んでしまったな」
魔工技士としては比類ない才能を持ち、100年先の技術と言われるデバイスを幾つも開発した結果発明王の異名を持つに至るも、本当に憧れていた魔符士としての才能に恵まれなかった正人は本当に愉快気に腹を揺らして笑う。
「しかし、ふふ。ラグナロク学園出身の箔をつけるためのジョー坊の入学に付随して思わぬ副産物がついてきた」
正人はほくそ笑む。ゴルドもいやらしく笑う。サンダージョーに見せていた笑みとは全く異なる生の笑み。生臭い笑みだ。
「先方のリクエストにドンピシャの年齢の見目麗しい、今や絶滅危惧種の堕天使が、まさかこのタイミングで学園に入学して、しかもジョー坊と同じクラスとはな。これがもう天のお告げと考えてもいいだろう。天が我が雷丈家にもっと羽ばたけと言っている。マギサもおそらくその生徒は庇いはしまい。あの婆は結構冷淡だ。アマルティアンを庇うリスクを考えたら切り捨てるだろう」
「我が雷丈家の後援はより盤石になりますな。大金が手に入るのはもちろんのこと、アムネス地区を治めるブートン大公は覇国エルロード聖国の重鎮中の重鎮。国際的な立ち位置もよりよくなるでしょう。王家よりも国際的な影響力を持つのも時間の問題ですな」
「いずれプレイアズ王国は滅びる。エルロード聖国の属国化する。少しずつその手引きもしているし、エルロード聖国とのパイプも繋げてる。もしそうなったら、ふふ、現精霊人の女王を私がもらって好きにしていいことになっている。学生時代からあの美しい肢体を蹂躙してやるのが夢だったんだ……! いつまでも若々しい精霊人の王女。それがもうすぐ私のものになる……! そう、次の天下壱符闘会でこの国を負けさせればね! お前には王女を当てがってやろう」
「おお! それは光栄! 何としてもプレイアズ王国を潰さねばなりませんな!」
正人とゴルドは色欲を肴に笑い合う。醜悪な絵面が展開された。
「おっと、そうだ。ブートン大公に伝えとかんとな。ジョー坊のことだ。なんだかんだで仕事は成功させるだろう。そうでないと飼ってる意味がないからな」
雷丈正人は机の上のテレフォン・リード・デバイス――電話と名付けた、正人自身が独自開発したリード・デバイスで遠く離れたエルロード聖国のアムネス地区を治めるブートン大公へと揉み手で電話を繋げた。
「あ、もしもし。ブートン大公ですか? いえ、3日後の定時取引にてかねてよりお望みでした商品がようやくご用意できそうでして――」