カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
第1話 誰かのクラクション
「どうして」
暗闇の中声が響く。
「どうして、こんなことに」
それはとても哀しそうな声だった。どこまでも沈鬱で、そして。
「もう、戻れない。こんなことになるなら」
どこまでも美しい声だった。
「何も生まなきゃ。良かった」
「2泊3日のバカンス?」
通学路。いつものようにラグナロク学園へとシャルナと登校していた玄咲はシャルナの言葉に相槌を打った。
「ああ。魔獣退治試験の後は毎年恒例行事として行うことになってるんだ。過酷な行事への労いの意味を籠めているらしい」
「へー……確かに、過酷な行事、だったもんね。うん」
「こういう箸休め的な期間も精神の成長のためには必要だろうという判断だ。ちゃんと意味のある休養なんだ。訓練をサボる訳じゃないぞ」
玄咲がシャルナに今回のイベントの意義を説明していると背後から声がかかった。
「まるで誰かに言い訳してるみたいな言い方だね」
「クゥ」
「おはよ、ゲンサック」
「ああ。おはよう」
「おはよう、クゥちゃん」
クゥ・クロルウィンだった。学内で最も友人という言葉がふさわしいかもしれない相手。さらにその後ろから、
「おはようございます。天之玄咲。シャルナ・エルフィン」
「おはよう。コスモちゃん」
「おはよ」
コスモ・ミストレインも姿を見せる。クゥとコスモは仲がいい。学内でもよく一緒にいる姿を見る。コスモがやや興奮した様子で言う。
「2泊3日で学園貸し切りのビーチでバカンスです! 水着イベントですよ! 昨今欠かせない重要イベントの一つです。天之玄咲も今の段階から心待ちにしているはず」
「……してない」
「本当に?」
シャルナの鋭い突っ込み。玄咲は嘘を突き通せなかった。
「……本当は少ししてる」
「ゲンサック、秒でバレる嘘はやめよう」
「うん……」
玄咲は情けなく頷いた。最近ではこういう役回りが板についてきている。それだけ距離感が近い、つまり気を許されているということではあるので、悪いことばかりではないが。
それはそれとしてやや男としては情けなさを感じる状況なのも事実だった。シャルナが話題の転換も兼ねて手をパンと叩き、言った。
「にしても、こういう所は、本当、普通の学校以上に、充実してるね」
「まぁ、ラグナロク学園だからな。みんなが憧れるのにはそれなりに理由があるんだ」
「納得」
「うん。楽しみだね。ビーチでバカンス。ふふ、山育ちだから実は海って初めて。一面水が広がってるんだってね。どんな光景なんだろ」
「私も、初めて」
「シャルナもか。そうだな……慣れ過ぎて俺としては何の情緒も湧かないな。まぁ、最初は圧倒されるんじゃないかと思う。あ、あと水は飲んだら駄目だぞ。塩水っていってしょっぱいからな。それくらいかな」
「コスモも海に行った記憶がないです。楽しみです」
「……」
何故誰も海に行ったことがないのか。玄咲はまるで自分が異常者であるような錯覚を覚えたが、気のせいだと断じて、コスモに言った。
「大きなプールみたいなものだよ。あまり遠瀬に行かなければ危険もない、と思う」
「なるほど。大きなプールですか。それは面白そうですね。ビーチでバカンス、楽しみです」
(……)
玄咲は天真爛漫な笑みを見せるコスモを見ながら思う。
(コスモちゃん。また以前みたいに明るくなったな。良かった)
試験後しばらくは笑顔が見えなかったコスモだが、部室でパーティを一緒にして以降はまた以前のような笑みを見せるようになっていた。そのことに安堵を覚えながら、
「天之玄咲と一緒に海に入ります!」
コスモの突然の発言にむせ込む。2通りのジト目に襲われながら、ゴホンと咳払いをして話を締めにかかった。
「まぁ、細かい説明は担任の教官から今日にでもあるだろう。せっかくの休暇だ。思う存分楽しもうじゃないか」
「という訳で魔獣退治試験後恒例の2泊3日のバカンスだ。喜べお前ら。バカンスだぞ。3日連続の休日だ」
1年G組の教室。
魔獣退治試験から1週間が経った日の朝。
HR。
クロウのその言葉に教室には喜びつつも戸惑いの雰囲気があった。
生徒の一人――水無月雫が挙手をしてクロウに尋ねる。
「本当にいいんですか? センセ。あの試験の後に2泊3日のバカンスなんて」
「あの試験の後だからこそだ。緩急をつけて一度精神を揺り戻す。それからまたフラットな状態から立ち上げられる強さを身に着けることが本当の強さに繋がるとかうんたらかんたら。まぁ、休みを入れた方が効率よくレベルが上がると過去の実績が証明しているらしい。だからあの試験のあとは慣例として休みを入れるんだと。大人しく喜んでおけ」
「じゃあ、わーい」
ハード過ぎる試験の後なので気を抜けきらないのだろう。
雫に限らず教室には喜び切らない空気があった。
だからこそ無理やりにでも気を抜かせる必要があるのだろう――玄咲は教室を見渡してそう思った。
要は激しい任務の後に部屋にこもり切ってCMAをやっていたのと一緒のことだろうと。
「そういう所だ。緊張は必要だが緊張し過ぎるのはよくない。という訳で明日から2泊3日でラグナロク・ホテルに泊まり学園貸し切りのプライベートビーチでバカンスを行う。思いっ切り気を抜いてこい。これもまた訓練だ。翌日から頑張れば問題なし。以上」
クロウはそう話を纏めてHRを打ち切った。
1時間目の授業前の休み時間、クロウは教壇の机から取り出したパチンコ雑誌に目を通し、しばしの小休止に興じる。
「突然凄いイベントぶっ込んで来たねー」
授業後の休み時間。
いつものように玄咲の机の前の座席に座ったキララが玄咲とシャルナに話しかける。シャルナもこくんと頷いて同意する。
「うん。でも、楽しみ」
「そうだな。俺もこのイベントをずっと待っていった」
「あー、天之くん女の子好きだもんねー。そりゃそうだよねー」
「違う全くそういう意味ではなく単に一般的な意味での言葉であり」
「玄咲、言い訳しない」
「言い訳じゃないんだが……」
最近ではこういう役回りが板についてきている玄咲。それだけ距離感が近い、つまり気を許されているということではあるので、悪いことばかりではないが。
それはそれとしてやや男としては情けなさを感じる状況なのも事実だった。シャルナが話題の転換も兼ねて手をパンと叩き、言った。
「にしても、こういう所は、本当、普通の学校以上に、充実してるね」
「まぁ、ラグナロク学園だからねー」
「ラグナロク学園だからな」
「そっかー。そだねー……」
穏やかな時間が流れる。バカンスは急遽明日から。