カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
朝。
少し時間は進んで、HR。
今日は規則正しい時間に来校したクロウが早速告げた。
「突然だが我が校はエルロード聖国と交流会を行うことになった」
ざわ、ざわ。
突然の言葉にざわつく教室内。水無月雫が挙手してクロウに確認する。
「エルロード聖国って、あのエルロード聖国ですか」
「ああ。あのエルロード聖国だ。実地に行ってその異常性を深く知ることで成長の大きな糧になるだろうといういつもの学園長の直観による判断だ。既にスケジュールも決まっていて裏付けは取れている。間違いなく遂行されることだろうな」
「てことは、私たちエルロード聖国に行くんですか?」
「いや」
クロウは首を振って雫の問いを否定した。
「エルロード聖国に行くのは学園が選んだ各学年トップクラスの生徒3人だけだ。エルロード聖国まで全員で行くのは流石に無理があるからな。特に亜人の生徒は、な」
「あ……」
その言葉で雫、そして教室の生徒全員が気付いた。エルロード聖国は人間至上主義国家。特定の亜人の生徒をエルロード聖国に連れて言ったら問題が起こることは必至。そういう理由もあって留学する生徒を絞るのだと。クロウが続けて黒板に留学する生徒の名前を書いていく。
「留学する生徒は各学年このようになった」
3年
天之明麗
氷室凍助
赤羽軽子
2年
ルディラ・メルキュール
モブ・メダタナイ
木村健介
1年
天之玄咲
光ヶ崎リュート
射弦義カミナ
ざわ、ざわ。
最後の生徒の名前が書かれた途端、教室にざわめきが起こった。一人の生徒が挙手する。
「先生」
「なんだ。シャルナ」
「玄咲の名前があるのに、私の名前がありません」
「堕天使のお前がエルロード聖国に行ける訳ないだろ。諦めろ。成績は十分だったんだが、こればかりはどうもな」
クワっとシャルナが目を見開き、それから「むむ」、と唸った後、着席した。教室の前方にいる眼鏡の生徒――しるけんがクイっと眼鏡を弄りながら席を立つ。
「先生、一年A組の炎条司くんも十分にこの場に名前を刻まれる権利を有していると思いますが」
「ああ。うん。それは職員室でも議題になった。その上で婆が射弦義カミナを連れていくと言い張ってこういう結果になった。俺も全然実力ではあいつが言ってもいいと思うんだがな……ま、この学園では糞婆の意向が基本最優先される。婆がこうと決めたことに反論しても無意味だわな」
「なるほど……返答ありがとうございました」
しるけんが着席する。その時、遠くの方から声が聞こえた。
――なんで俺さまの名前がねぇんだよ。俺は炎条司だぞ。教員、説明しろや……!
炎条司の声だった。クラスを隔てて尚聞こえてくる大声。それだけ気に食わなかったらしい。クロウは「えー」と口にしたあと、今聞こえてきた声を完膚なきまでに無視して、こういった。
「エルロード聖国への留学は4日後から行われる。それまでにきちんと準備しとけよ。天之玄咲。エルロード聖国は半端じゃないぞ。……もしかしたら留学生に選ばれない方が幸福かもしれないくらいだからな……」
「……はい」
玄咲もまた、神妙な気持ちでその言葉を受け取った。留学生に選ばれない方が幸福。それはきっと、間違いのない事実だと、玄咲は既に知っていたから。
その日の昼休み。
今日もシャルナの作ってきたお弁当(今日のレシピはドロミテ仕込みのラーメンサラダ)に舌鼓を打とうとしていた玄咲は隣のクラスから聞こえる大音声に箸を止めた。
「オラァ! 射弦義カミナ俺とカードバトルだァ! どっちが“上”か決めようじゃねぇか……!?」
「炎条司くんの声だ」
「行ってみよ」
シャルナと二人で隣のクラス――F組へと向かう。そこでは目にしたのは
「か、カミナさま。どうしますか?」
カミナに自作のお弁当を持ってきたらしい神名木イツキの戸惑う姿と、
「いいですよ。僕は逃げも隠れもしない。僕のカルマは……全て僕が払う」
静かに咳を立つ射弦義カミナの姿と、
「いーい度胸だァ……俺のファイロードの錆にしてやるよォ……」
額の血管をピクつかせながら悪役さながらに笑う炎条司の姿だった。生徒たちが盛り上がる。
「カードバトルだ! 最近強すぎて対戦相手がいなくなったあの炎条司と美少女みたいになって帰ってきた射弦義カミナの決闘だ! こりゃ見物だぜぇ!」
「食事なんかしてる場合じゃねぇ!」
「見学よ! 見学に行くわよ!」
「どうする玄咲」
「見学に行こう。弁当を持ってな」
シャルナの弁当を捨て置くなどと言う選択肢は玄咲にはない。2人は弁当を持って射弦義カミナと炎条司が決闘を行うバトルセンターへと向かって言った。
「最初に言っとくがよぉ。レーヴァテイン・モードを得た俺はかーなーりー強い。降参するなら今の内だぜ」
「まさか。僕は誰が相手でも正々堂々戦いますよ。それが僕が自分に課したサガだから」
「いい度胸だ。へし折りたくなるね」
「玄咲、あの赤髪の人、なんか悪役っぽいね」
「まぁ、な。こうしているとチンピラっぽいのは確かだな……」
広域観戦型バトルルーム0号館。
騒ぎが騒ぎを呼び大勢の生徒が見物にくる一大イベントなった。そして教師が出動し、以前玄咲がさとし、キララ、狂夜と3連戦を行ったバトルルーム0号館が解放される運びとなった。観客席で弁当のラーメンサラダをすすりながら玄咲はシャルナと会話を交わす。
「どっちが、勝つと、思う?」
「難しいな。今の炎条司くんに安定して勝つのは俺でも難しいし、普通に考えたら射弦義カミナの方が不利だ。しかし」
「しかし?」
「あの学園長が炎条司くんを差し置いてカミナをエルロード聖国の留学生に選んだというのが気にかかる。それだけ贔屓する何かが今のあいつにはあるということだ。それが分からない以上、この試合の勝敗は分からないとしか言いようが……いや」
玄咲は。
己の勘に従って口にした。
「あるいは射弦義カミナが勝つのかもしれないな」
「本当」
「分からない。おっと、それよりカードバトルが始まるぞ」
「うん」
視線を決闘場に映す。炎条司が勢いよく詠唱する。
「武装解放――
炎条司の手に真紅の長剣が現れる。射弦義カミナが負けじと詠唱する。
「武装解放――
射弦義カミナの手に神々しき意匠の弓が現れる。炎条司がヒューと口笛を吹く。
「かっけぇADだな。中々だ。合格点をやる」
「どうも」
「だが、勝つのは俺様だ」
「それは……どうでしょう。僕にも僕の」
射弦義カミナが俯く。額を抑える。そして、
「雷神モード」
観客席にいる玄咲には分からぬ何事かを念じた。その瞬間、
「なっ!?」
射弦義カミナの全身から吹き上がる神々しき稲妻のような魔力。誰もが息を飲んだ。炎条司が震える指でカミナを指さす。
「てめぇ、そのあいつ――サンダージョーみたいな魔力は一体どうしたんだ。大体てめぇは風属性だったはず。その雷の魔力は一体……!?」
「説明するより実戦で語った方が早いでしょう。全力で行きますよ」
「! 面白れぇ。確かに言う通りだ。じゃあ早速やろうか。オラァ!」
炎条司が勢いよくSDのバトル開始のボタンを押す。射弦義カミナも応じる。カウントダウンが始まる。バトルの開始を告げるカウントダウンが。
3。
2。
1。
0。
ブザーが鳴る。炎条司が勢いよくカードをカードケースから引き抜く。
「オラァ、初っ端から全力で行くぜ! レーヴァテイン・モード!」
バトルルームの端から端まで届く程の真紅の広大な長剣が現れる。射弦義カミナも応じてカードをカードケースから引き抜き、ADにインサートし、
「ジョーさん、僕に力を――プロトン・」
詠唱した。
「サンダー」
極雷がバトルルームを駆け抜けた。
「うーん……はっ!?」
「大丈夫か司!」
「バーチャルの衝撃で司を気絶させるなんてなんて威力の魔法だ……!」
炎条司は頭を抑えながら身を起こした。そして自分の身に起こった事を即座に悟り、呆然と呟いた。
「負けたのか。俺が。それも、無様に気絶するなんて醜態を晒して……」
「……ああ、そうだ。お前は負けたんだ。それは事実だ」
A組の教師八谷剣八が厳粛に告げる。このバトルルーム0号館を開けた教師で、剣型のADの習熟に定評のある教師だ。炎条司はしばし呆然とした後、フッと笑って、言った。
「尋常な勝負で負けたならしゃーねぇなぁ。カミナ。てめぇにエルロード聖国行きの切符は譲ってやるよ」
「どうも」
「それにしてもお前の身に何が起こったんだオイ。まるでサンダージョーだぞお前」
「……まぁ、それはデリケートな話なので。僕にもジョーさんと色々あったんですよ……」
「お、おう。そうか……しかし、俺は負けたのか。そうか」
炎条司はもう一度、寂しそうに呟いた。
「そうか」
炎条司VS射弦義カミナ。勝者射弦義カミナ。
「凄い戦い、だったね。玄咲。……玄咲?」
「……カミナ。あいつの身に」
玄咲は神妙な顔でポツリと、
「一体何が起きたんだ? こんな展開知らないぞ……」
「ああ。君たちには教えておきましょうか」
後日。
休み時間。玄咲がカミナに尋ねるとカミナは素直に教えてくれた。
「信じてもらえるか分かりませんが夢の中でジョーさんから受け継いだんですよ。神の雷だ。自分は使い方を間違えたが僕なら正しい使い方ができるはず。エルロード聖国の野望をこの力で打倒してくれ、ってね」
「……本当か、それは」
「はい。神に、というか、そうですね。僕の信念に誓って」
神に、と反射で口にした言葉を自分で戒めるカミナ。それだけ神という言葉に複雑な思いを抱いているのだろう。玄咲はしばし渋面を作った後、一つ頷いた。
「……信じるよ。そんな嘘をつく理由もないからな」
「ありがとうございます」
「それで、あんな、強くなったんだ」
「はい。僕も驚きです」
ニコリ。
カミナが笑ってシャルナと玄咲の2人に言う。玄咲は一瞬ときめいた自分を恥じた。
「ともかく、これで僕にこの度の留学に選ばれるだけの力があるという事は照明出来た訳ですね。炎条司くんに感謝です」
「ああ。彼は体のいい道化役を演じたことになるがな」
「それは……申し訳なかったです。でも、手を抜くのは失礼ですから」
「そうだな」
玄咲も頷いた。誰が悪い訳でもない。ただ、本気でぶつかり合って、その結果があるだけだ。カミナが最後に忠言する。
「……留学生に選ばれる。光栄なことのように聞こえますが、エルロード聖国は留学に行く,なんて軽い気持ちで行ったら飲まれるような狂気の国ですよ。君も今から覚悟しておいた方が良いですよ」
「……ああ。それは俺も」
玄咲はその言葉に真っ向から頷いた。
「覚悟している」