カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第53話 ラブコメ9 ――ほんとの気持ち――

「ふーん……妙な、方向に、だけ、知識が、豊富、だと、思ったら、そういう、こと、だったんだ」

 

「ああ。さっきのカードもゲームで使っていたものがそのまんま現実化してついてきたんだ。だから性能がでたらめなんだよ。そういえば昨日クレーター騒ぎがあっただろう」

 

「……もしかして、玄咲?」

 

「ああ。あの騒ぎを起こしたのは俺だ。バエルの試し打ちをしたら想像以上の威力でな。大騒ぎになってしまった」

 

「……なる、ほど」

 

「? どうしたんだ、シャル。憮然として」

 

「なんでも、ない」

 

「そうか」

 

 感情的かつ未整理だった過去の話を、転生とCMAの話題にフィーチャリングして玄咲は改めてシャルナに語って聞かせた。シャルナは殆ど驚かなかった。なぜかと問うとそれら以外の過去の方が強烈で印象が薄らいだかららしい。とにもかくにも、玄咲の過去はシャルナに受け容れてもらえた。玄咲の最大の心配は杞憂に終わった。

 

「……そういえばさ。シャルはどことなくクロマルに似ているよ。仕草とかさ、シャルを見てるとクロマルを思い出す。シャルはクロマルみたいで可愛いよ」

 

「……それって、褒めてるの?」

 

「ああ、最大級の賛辞だ」

 

「わん」

 

「え?」

 

「……なんでもない」

 

「……うん」

 

 さらにそんな会話を挟んだ後、シャルナが聞いてくる。

 

「ね、玄咲の、世界の、こと、もっと、知りたい、な」

 

「……ロマンのない世界だからあまり面白い話はできないと思うぞ」

 

「それでも」

 

「……じゃあ」

 

 玄咲はなるべく元の世界の面白いところ、つまり子供時代に見聞きしたことを中心に話した。思ったよりシャルナは楽しんでくれた。

 

 30分くらい話したころ、シャルナがふいに言った。

 

「……んー」

 

「どうした?」

 

「なんか、その世界の、こと、初めて、聞く、感じが、しないなって。なんでだろ」

 

「……俺の世界とこの世界は結構共通点があるからな。そのせいだろう。家電とか、ラグマとかな」

 

「うん、そうだね。知ってるはず、ないもんね」

 

「そうさ」

 

「ねぇ、玄咲の眼って、何で、赤くなるの」

 

「……いきなりだな」

 

「ずっと、聞きたかった、から」

 

「……その、人を、大量に、殺してから、こうなるようになった」

 

 歯切れ悪く、玄咲は言う。

 

「……原理は分かっていない。医者は精神的なものが原因だと言っていた。そしてそれ以上の理解は俺にはいらないんだ。俺が、人よりも、悪魔に近づいたから、眼が赤くなるようになった。俺がそう思っているのが全てなんだよ……醜い、だろ。俺はこの眼が大嫌いだよ。コンプレックスなんだ。最大の」

 

「私はね、玄咲の、眼、好きだよ」

 

 ――赤い世界の中でシャルナに言われた言葉が脳裏に蘇る。

 

 

『好き』

 

 

「……俺の、眼がか」

 

「うん」

 

「そうか……」

 

 やっぱり、そういう意味だったのかと、玄咲は少しだけがっかりした。本当のところは少しだけ、期待していたのだ。そういう意味じゃないことを。

 

「――あの、ね」

 

 シャルナがポツポツと語り出す。

 

「玄咲の、眼は、絶望に、塗れてる」

 

「……シャルナの眼にも、そう見えるんだな」

 

「うん。そこは、誤魔化さない。でも、ね」

 

「でも?」

 

「その中に、必死に、希望を、映そうと、してるの」

 

「――そう、かな」

 

 そう思えるのはシャルナの心がそうだからだ。シャルナの心の輝きが玄咲の瞳に反射してそう映ってるだけなのだ。本当にどこまでも、純粋で美しい心だと思った。そんなシャルナが言う。

 

「そうだよ。だからね」

 

 ――頬をそっと両手で挟み込んで。

 

「キレイなの」

 

 ――瞳を真っすぐ覗き込んで。

 

「だからね」

 

 これまでで一番天使な笑顔で。

 

 

 

「大好き」

 

 

 

 告白した。

 

 

 

 

「シャ、ル……それ、は」

 

「――もちろん」

 

 頬から手を放し、サッと距離を取って、いつものように悪戯っ気たっぷりにはにかみながら、シャルナは言う。

 

「眼の、話だよ?」

 

 ――シャルナの真意は分からない。

 

 けれど。

 

 これは。

 

 これは、流石に――。

 

 

 

「――本当に?」

 

 

 

 玄咲と言えど、そう問い返さずにはいられなかった。

 

 シャルナは眼をパチクリとする。その頬がほんのりと朱らんでいく。それからどこか切なげに目を細めて、そっぽを向きながら、歯切れ悪く言う。

 

 

「ほん、と――だよ」

 

 

 

 

 ――本当に。

 

 眼の話なのか?

 

 

 大好きは、どっちを指してるのか。玄咲か? 眼か? あるいはその両方か? そのどれだとしても、実は大して意味合いが変わらないのではないか? もしそうだとしたら、シャルナは、どっちにしても、玄咲のことが――。

 

 

「い、今はっ」

 

 

 

 シャルナの台詞に思考を遮られる。

 

「そういう、ことに、しといて。……決闘が、終わって、落ち着いたら、ちゃんと、言うから」

 

「……分かった」

 

 シャルナも色々と冷静じゃないのだろう。だから決闘が終わった後に、心の整理をつけられるくらい状況が落ち着いた後に、改めて言うつもりなのだろう。

 

 本当の、気持ちを。

 

「……」

 

「……」

 

「あの、さ」

 

「うん」

 

「非日常感、凄いよね」

 

「うん」

 

「私、普段なら、絶対言えないこと、ばっか、言ってるし、やってる。……思い返して、凄いこと、なりそう」

 

「俺もだよ。自分が絶対言う機会がないって思ってた言葉をどれだけ吐いたことか」

 

「うん、絶対、言わない、だろうなって、台詞、ばっか、言われて、驚いたよ。行動も」

 

「だよな……俺も驚いてる。俺、あんなこと言えるし、できる人間だったんだな……」

 

「うん……そう言えば、さ」

 

「なんだ、シャル」

 

「決闘、なんだけど、さ」

 

「ああ」

 

「結局、全部、玄咲に、任せきりに、なっちゃって、ごめんね」

 

「……シャル」

 

「なに?」

 

「そのこと、なんだが――」

 

 

 

 

 

「……なんかさ、結局、私、最後まで、玄咲に、おんぶに、抱っこだね」

 

 玄咲の提案について2人で納得のいくまで話し合った後、シャルナはベッドに手をついて天井を見上げながらしみじみと言った。

 

「やるのはシャルだよ。俺は力を貸すだけだ」

 

「その力が、大きいん、だけどね。なんか、もう、借りばかり、だよ」

 

「いいよ。借りになんて思わなくて。俺はシャルに貸しなんて作ったつもりはない。全部忘れてもらって結構だ」

 

「私が、返したいん、だよ。……あのさ、玄咲、私に、して欲しい、こと、ない?」

 

「して欲しい、こと?」

 

「うん」

 

 手を握って、顔を近づけて、言ってくる。

 

「なんでも、してあげるよ?」

 

「――なんでも?」

 

「うん――なんでも」

 

「――じゃあ。シャルを抱きたい」

 

「ッ!!! ……うん、いいよ」

 

「ちゃんとさ、自分の意志で、正面から、シャルを抱きしめたいんだ。正直、怖いよ。そう考えるだけで自己否定の感情が溢れて溢れて止まらない」

 

「…………そう」

 

「けど、それでも、俺はちゃんとシャルを抱きしめたいんだ。流れでもなく、言い訳もなく、自分の意志でシャルを抱きしめたいんだよ。世界一大好きな女の子を」

 

「……うん。玄咲らしい、いや、ちょっと玄咲()()()()()、けど、だからこそ、凄く良い理由だと思う。変わろうと、してるんだね。玄咲も」

 

「ああ」

 

 玄咲はシャルを見つめる。

 

「俺の過去をシャルが受け止めてくれたから、俺の中で何かが変わった。決して許せなかった自分を、少しだけ許せた。シャルのおかげなんだ。俺はそんなシャルの隣に相応しい人間になりたい。だから、変わらなきゃいけないんだ。そのため――だけでもないが、願望も多分に混じっているが、だからこそそんな醜い自分を肯定して、俺はシャルを抱きたい。いいか、シャル?」

 

「うん。いいよ。きて、玄咲」

 

 シャルナが玄咲へと両腕を広げる。緊張のあまり、翼、光輪まで幻視されるシャルナへと吸い込まれるように玄咲もまた両腕を伸ばしながら体を近づけ、そして――。

 

 正面から抱き合った。

 

 その瞬間――。

 

 

(――あ)

 

 

 嵌まった。

 

 埋まった。

 

 嚙み合った。

 

 ずっと欠けていたものがようやく満たされた。

 

 

(――そうか、シャル、だったんだ……)

 

 

 シャルナだ。

 

 天使ではなく、堕天使を。

 

 シャルナ・エルフィンをこそずっと求めていたのだと、自分の意志でシャルナを抱き締めた瞬間に、玄咲は本能的に理解した。

 

 もう天使など必要なかった。

 

 ようやく、天に還せる。

 

 玄咲の頭の中から天使が一斉にバサバサと天へと飛び立っていった。

 

 そして。

 

 ただ、一羽だけ、残った。

 

 黒い翼の白き堕天使――シャルナ・エルフィンが。

 

 優しい、けれど魂を蒸発させるほどの暖かさで。

 

 この腕の中に。

 

(――ああ……)

 

 

 

 

 ――やっと、この瞬間に、巡り合えた。

 

 ふいに、そう思った。

 

 

 

 

「――やっと、巡り合えた。今、そんな、気分でしょ?」

 

「――そう、だな。そんな、気分だ。シャルも、なのか?」

 

「うん。――私、ね。後ろから、抱きしめられた、ときも、同じこと、思った。不思議と、やっと叶った――! とも。きっと、ずっと、憧れてた、シチュエーション、だったから、だろうね」

 

「……それは、俺にとっても一番の憧れのシチュエーションなんだ。きっと俺も、同じことされたらシャルと同じように感じるんだろうな……頭の中でしてもらったとき、凄く落ち着いたし」

 

「え?」

 

「あ、いや、なんでも――」

 

「いいよ。して、あげようか?」

 

「……今は、こうしていたい」

 

「……そっか。じゃ、こうしてよっか」

 

「うん――――う、うぅ! ひぐっ、ぐすっ!」

 

「げ、玄咲?」

 

「ご、ごめん。こんなの、あまりにも幸せ過ぎて、涙が、涙が……。あぁ、あぁ、こ、怖い、怖いよシャル。だ、だめだよ、こんなの。お、俺はこんなに幸せになっちゃいけないのに。こ、こんなの、怖いよ。幸せ過ぎて、怖いよ、シャル……!」

 

「駄目じゃない。いいんだよ。玄咲はもっと、幸せになって、いいんだよ。私が、幸せに、なって欲しいの。私の願い、叶えると、思ってさ」

 

「うん……シャル、ありがとう。それなら幸せに、なれる気がする。なってもいい気がする」

 

「うん、どういたしまして。……ね、玄咲」

 

「なんだ、シャル」

 

「私たち、心、繋がってるね

 

「ああ」

 

「1つ、だね」

 

「ああ」

 

「1人じゃ、ないね」

 

「ああ」

 

「2人ぼっち、だね」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「――でも、あったかい、ね……」

 

 

 

 

 

 

 

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