カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

58 / 278
第56話 召喚――悪魔神バエル

 マギサは決闘場の傍に金属性の一本足で仁王立つ大型の時計を見た。決闘場を囲むドーム型の観客席――一部の教員・上級生や、合格を確信した新入生たちが点々と座っている――からでもよく見えるように大型に作られたその時計が差す時刻は4時59分。決闘開始時刻1分前だ。

 

 だというのにもう片方の決闘者がこない。こんなにも決闘に遅れる魔符士などクロウ・ニート以外で見たことがない。パチンコで勝ってる最中で時間を忘れてたからというくだらない理由で遅れたので決闘で勝ったあと半殺しにしてやったのをよく覚えている。実際、サンダージョーはすでに決闘場に上がってずらずら引き連れた仲間とにたにた笑い合っているというのに。あの魔符士としてのプライドなど大して持ち合わせていなさそうなサンダージョーでさえ決闘に遅れないのは当たり前程度の意識はあるというのに。

 

 マギサは頭をぽりぽりと掻いた。

 

「こりゃ見込み違いだったかねぇ。まさか駆け落ちなんてしてないだろうねぇ。あの子たち互いにあのずぶずぶな入れ込みようだったしありえなくはないか。こりゃ私の勘も鈍ったかねぇ――お」

 

 サンダージョーが通った青のトンネル型の入口と反対側の赤のトンネル型の入口に人影が見える。影はすぐに個人識別が可能なサイズまで膨らんだ。天之玄咲とついでにシャルナ・エルフィン――今日の決闘の主役のようやくの決闘場への登壇にマギサは胸を撫で下ろした。楽しみにしていたイベントが中止にならずに済んで心の底から安心したのだ。なんだかんだでマギサが天之玄咲の戦いを楽しみにしていた。一昨日通しで見たゲテモノの極みのような戦いぶりが普通のカードバトルに慣れたマギサの心を掴んで離さなかったし、なにより確実に持っているはずの切り札を見たくて仕方なかったのだ。

 

(しかし、まぁ、互いに手まで握って、昨日にもまして仲のいいことだよ。なにがあったのかねぇ)

 

 

 

「すいません!!! 遅れました!!!」

 

 

 決闘場がゲートの向こう側に見えた段階で玄咲はそう叫んだ。そして、決闘場についてようやく、ずっと繋いでいたシャルナの手を離した。ぜーぜーと息をつく。時計を見る、4時59分を指していた時計が、丁度今5時を指した。何とか、間に合った。ようやく玄咲は決闘場を見渡すだけの余裕を取り戻した。

 

 決闘場には多くの観客がいた。その中には玄咲の知っている生徒もいる。ヒロインもいる。CMAで決闘は見世物の側面がある。だからだろう。多くの生徒が集まった観客席は賑わいでいた。

 

 膝に手をついて観客席を見渡す玄咲に決闘立会人であるマギサが近づいてきて、声をかけた。

 

「遅かったね。何してたんだい」

 

 息を切らしながら、玄咲はそれでもはっきり聞こえるようにと、少し裏返った、明朗かつ大きな声で宣言した。

 

「すいません!!! シャルと一緒に寝ていたら遅くなりました!!!」

 

 ――観客席が一瞬で静まり返った。きっと呆れかえっているのだろう。自分でも呆れているのだから無理もない。そう納得する玄咲に、案の定呆れを含有した瞳でマギサが尋ねてくる。

 

「……一緒に寝てたのかい? こんな時間まで」

 

「はぁ、はぁ……はい。昨日、シャルを安全確保のため自室に泊めまして。その、恥ずかしながら……」

 

「……まぁとやかく言う気はないけどね。流石に決闘に遅れかけてまでとは呆れるねぇ」

 

「おっしゃる通りです。思ったより心地よくて、つい」

 

「ああ、もういい。聞きたくない。さっさと位置に着きな。サンダージョーと反対側のバトルフィールドに上りな」

 

「はい。……? どうしたシャル。顔が真っ赤だぞ。ああ、走り疲れてるのか」

 

「……ばかぁ……」

 

「……まぁ、確かにもっと早く起きれれば良かったな。そのせいで無駄な心労をかけた。馬鹿と言われるのも甘んじて受け入れよう。シャル、すまなかった」

 

「……もういい。玄咲なら、いいよ」

 

「ありがとう。許してくれて……それじゃ、行こうか」

 

「うん」

 

 玄咲はシャルナとバトルフィールドに上がった。マギサが尋ねてくる。

 

「え? その子も戦うのかい?」

 

「はい。まぁ、戦いになるかは分かりませんが」

 

「じゃあやめときな。死ぬだけだよ」

 

「ああ。逆の意味です」

 

「逆?」

 

 

 

「一方的に終わらせます。そうでなくてはシャルをこの舞台に立たせられませんから」

 

 

 

「――ぷっ、あっはははははははは!」

 

 マギサが腹を抱えて笑う。この感情表現の裏表のなさは素直に好感が持てた。マギサが目端の涙を拭いながら言う。

 

「あれを見てよくそんなことが言えるねぇ! ああ、愉快愉快」

 

「ああ、あれですか」

 

 あれ――サンダージョー陣営を見る。サンダージョーとその部下の懲罰十字聖隊。ゲームの学園編のラストと同じ状況。その時は主人公が学園生活で築いた仲間が助けに来てサンダージョーと一騎打ちの状況に持ち込んでくれた。

 

 今、玄咲にそんな仲間はいない。

 

 精々、2人。

 

 シャルと、バエル。

 

 最愛と、最強。

 

 十分過ぎた。

 

 戦力的にはバエルに頼りきりなのが恥ずかしい限りだが。

 

「想定の範囲内ですから。まぁ」

 

 サンダージョーがまだ若いからだろう。懲罰十字聖隊のメンバーはゲームより遥かに少なかった。

 

 だから玄咲は何の気なしに言った。自分への諧謔のつもりで。

 

「想定を大分下回っているので、想定の範囲内というのはちょっと苦しいかもしれませんが」

 

 サンダージョーたちを横目で見ながら、苦笑した。

 

 反応は激烈だった。

 

「ぶっ殺すぞ天之玄咲」

 

 バトルフィールドの対面で怒気を孕んだオーラが吹き上がる。雷色のオーラの発生源は当然サンダージョー。本当に切れやすい奴だなと思いながら玄咲は即座に言い返した。

 

「それはこっちの台詞だ」

 

 殺意の籠った視線の応酬。言葉よりも雄弁に意思を交わし合う。殺意を。互いに相手を殺さずして終われないのだと合意し合う。

 

 ならばもう言葉は不要だった。

 

「初めてください」

 

「ああ、早くこいつを殺させろ」

 

「分かった。両者ADを展開しな」

 

武装解放(アムドライブ)――神愛伸鞭(ディアバイト)マリアージュ・デュー」

 

 サンダージョーが即座に己のADを展開する。名称神愛伸鞭マリアージュ・デュー。ランク9、補正値293。ゲーム終盤クラスの強力なAD。強力なADの多くは強力な魔物の素材を原料として作られる。魔物は魔力の塊。つまりそれを素材に使ったADもある意味では魔力の塊のような存在だ。そのせいか、強力なADはうっすらと、しかし確実に存在する無形のオーラを放つ。

 

 サンダージョーのマリアージュ・デューは遠目からでも揺らいで見えるほどのオーラを放っていた。サンダージョーがマリアージュ・デューをびたんびたんとバトルフィールドに叩きつける。おもちゃを自慢する子供を数十倍邪悪にしたみたいな表情で。サンダージョーに続いてエクスキューショナーの面々もカードケースからデバイスカードを取り出して口々にADを武装解放する。

 

「武装解放――」

 

 そして、玄咲もまたカードケースから2枚のカードを取り出し、ADを展開する呪文を唱えた。

 

 

 

 

「ディアボロス・ブレイカー」

 

 

 

 

 サンダージョーの表情が一変した。マギサの表情までもが。玄咲がディアボロス・ブレイカーを武装解放したその瞬間に。

 

 

 場内が、震撼した。

 

 

「――なんだよ、それは。おい」

 

 震える指でサンダージョーがディアボロス・ブレイカーを指さす。さっきまで元気に振っていたマリアージュ・デューは今は力なく地面に垂れ下がっている。

 

 みっともなく震えながら。

 

「…………なんだよ…………なんなんだよそれはぁっ!? 答えろォ! 天之玄咲ゥッ!」

 

「ディアボロス・ブレイカーだ」

 

「そういうことを聞いてんじゃねぇえええええええええええええええ!」

 

 サンダージョーがバトルフィールドを乱れ打ちながら叫ぶ。処置なしと玄咲はマギサに決闘の進行を促す

 

「学園長。決闘の進行を」

 

「え? あ、ああ、そうだね。各自ADは展開したね。ん? そこの堕天使の子はいいのかい?」

 

「はい。大丈夫、です」

 

 シャルナが玄咲と手を重ねる。ディアボロス・ブレイカーを一緒に持つ。

 

「――なるほどね。そういう腹積もりだったかい」

 

 シャルナの応答にマギサが得心の様子を見せる。

 

「――ま、そのAD一本あれば十分か。いいだろう。決闘を始めよう。――魔力結界(オラクルフィールド)起動(ジェネレート)!」

 

 バトルフィールド中央脇の台座にマギサがカードキーを差し込んで呪文を詠唱すると、一拍置いて、バトルフィールドの縁から半透明の膜が立ち昇り、天井で円を結んだ。ドーム型の魔力結界の完成だ。本来ならバッテリーカードで起動するところをマギサ一人の魔力で起動した通常の数十倍強力な魔力結界。それをコンコンと叩き玄咲はその頑丈さに一先ず安心した。

 

 そして、覚悟を決める。

 

「――とうとう、か」

 

 玄咲とシャルナは魔力結界内に閉じ込められた。

 

 もう相手を殺さずして外には出られない。

 

 玄咲も

 

 シャルナも。

 

 その覚悟を決めてこの場所に立った。

 

 殺させる覚悟と。

 

 殺す覚悟を。

 

 

 

 

 

「シャルも、決闘に出ないか?」

 

 ベッドの上、隣り合うシャルナに、玄咲はとうとう打ち明ける覚悟を決めた。シャルナの過去を聞いた時に最善だと思った提案を。しかし嫌われる恐怖からあの時は打ち明けられなかった提案を。

 

 サンダージョーをシャルナに殺させる提案を。

 

 受け入れるにしろ、断るにしろ、どんな答えが返ってくるにしろ、きっとシャルナは玄咲を嫌いにはならないだろうという確信が今はあった。だから、シャルナに打ち明けることにした。玄咲が直感で一番シャルナのためになると思った提案を。

 

 打ち明けようとする。

 

「サ」

 

「ちょっと、待って」

 

「うん」

 

「決闘って、一人で、戦う、ものじゃ、ないの?」

 

 シャルナが尋ねてくる。

 

「ルールでそう決めていればな。決めなければ特に制限はない。欠陥ルールだが昔からそういう形式でやってきたからな、今更一斉にじゃあ変えましょうとはいかないんだ。なにせ決闘は誇りが絡む問題だ。伝統を重んじる人間から猛反発されるのは目に見えている。だから放置されている」

 

「そう、なんだ」

 

「1対1の尋常な勝負がデフォルトという認識が当たり前になり過ぎて今時の不勉強な若者の間では知らない人間も増えている抜け穴のような欠陥だがな」

 

「う……」

 

「どうした」

 

「なんでも、ない。続けて」

 

「ああ。とにかくこの抜け穴の存在は覚えておいた方がいい。知らないと悪用されるし、知ってたら利用できる。今回みたいにな。……サンダージョーが何でもありを強調して決闘を受けさせたのはそれが理由だ。配下の懲罰十字聖隊を稼働するつもりだろう」

 

「……玄咲は、なんで、知ってて、何でもありで、受けたの」

 

「経験値稼ぎとポイント稼ぎ。そして雷丈家を潰すためだ」

 

「最初のは、分かるけど、あとのは?」

 

「懲罰十字聖隊には上級生が何人か混じっている。あのワカメ頭もその一人だ。そいつらのポイントを全てかっさらう。そのために学園長に迂遠な退学条件を呑ませた。勝った方は負けた方のポイントを総取りというな」

 

「あ、なるほど。初めて、玄咲の、知恵に、感心した、かも」

 

「え?」

 

「あ……ご、ごめん」

 

「いや、気にしてないから大丈夫だ。シャルになら何を言われても嬉しい」

 

「玄咲って、意外と、女好き、だよね」

 

「……シャル」

 

「なに?」

 

「そういう心にくるのはやめてくれ」

 

「うん、ごめん」

 

「……で、でだ。今後の学園生活の礎にさせてもらう。サンダージョーを倒してはい終わりって訳にはいかないからな。稼げるときに稼がせてもらう」

 

「ちゃんと、あとのこと、考えて、るんだね」

 

「ああ。シャルのためだ。考えるさ」

 

「っ! う、うん。ありがとう……」

 

「……で、最後の雷丈家を潰す目的だが、正直、そのために何でもありで受ける必要があったのかどうかは分からない。要するにサンダージョーさえ決闘で倒せばいいんだが、けれど何でもありでないとサンダージョーが決闘に乗ってこない可能性もあったし、なにより状況を再現しないことでイレギュラーが発生するのが怖かったってのが大きい」

 

「はぁ……」

 

「……こういうメタ的な感覚は分かりづらいよな。すまない。とにかくメリットの方が大きいと判断して何でもありで決闘を受けたんだ」

 

「で、どうして、一緒に、決闘?」

 

「シャルに――」

 

 躊躇いを捨てて玄咲は一気に言い切った。

 

「サンダージョーを殺させたいからだ」

 

「……そういう、こと」

 

「復讐、させたいんだ。無理にとは言わない。ただの提案だ。嫌なら蹴ってくれ。俺が一人で戦うからさ」

 

「一緒に、出る」

 

「……判断が、早いな」

 

「……私ね、まだ、サンダージョーのことが、怖いの。心の底に、恐怖が、へばりついてる。そして……引かない、でね」

 

「ああ、引かない」

 

「お母さん、殺された、恨みも、ずっと、引きずってる」

 

「そう、だよな」

 

「……一生ね、引きずると、思うの。このままだと、恨みも、恐怖も。でも、ね。私、前に、進みたい。」

 

「……」

 

「そのために、一緒に、出る」

 

「分かった」

 

「あと、ね。玄咲に、だけ、戦わ、せるの、心、苦し、かった、ってのも、ある」

 

「……そんなこと、気にしなくていいのに」

 

「私が、気にするの。私も、罪の、片棒、ぐらい、担ぎたい」

 

「……ありがとう。その言葉だけで救われるよ」

 

「ところで、玄咲」

 

「なんだ」

 

「どうやって、私に、サンダージョー、殺させるの?」

 

「ああ、今、説明しよう。えっと――武装解放、ディアボロス・ブレイカー」

 

 玄咲はポケットから取り出した銃型のAD――ディアボロス・ブレイカーを武装解放してシャルナに見せた。説明する。

 

「えっと、まずこのディアボロス・ブレイカーに……シャル?」 

 

 玄咲はシャルナがディアボロス・ブレイカーを見てなぜか冷汗を流していることに気づき、疑問の声を上げた。シャルが震える指でディアボロス・ブレイカーを指さす。

 

「それ、なに」

 

「ディアボロス・ブレイカーだよ」

 

「そういうこと、聞いてるんじゃ、なくて、えっと、玄咲、なんで、普通に、してられるの?」

 

「え? だって、ディアボロス・ブレイカーはただの銃みたいなものだし」

 

「……多分ね、玄咲、魔力的な、感受性が、鈍いん、だと思う。さっきの、精霊も、そういう、こと、だったんだね」

 

「……もしかしたらそうなのかもしれない。俺は魔力のない世界からきたからそのせいかな。魂の馴染みが薄いんだろうな」

 

「なる、ほど……納得。で、その、ADで、どうするの」

 

「簡単さ。これにバエルのカードを入れて」

 

 実際には入れずカードを入れるジェスチャーだけ玄咲は行う。

 

「一緒にADを持って」

 

「うん」

 

「一緒に引き金に指をかけて」

 

「うん」

 

「一緒に召喚、悪魔神バエルと詠唱しながら、シャルだけ引き金を弾く。それだけさ」

 

「……それだけ?」

 

「ああ、それだけだ」

 

 シャルナは不安げに眉を寄せる。

 

「うーん……それで殺した、実感、持てるの、かな。吹っ切れる、かな……」

 

「吹っ切れるさ」

 

 玄咲は当然のように断言する。

 

「銃の引き金は、死のスイッチは、シャルの想像以上に重い。必ず殺しの実感を伝える。何度引いてもな。だから絶対シャルも殺しの実感を持つ」

 

「……実感、籠ってるね」

 

「ああ。百や千では効かない経験があるからな。その俺が言うんだ。信じろ。――君の指には絶対殺しの実感が残る。いつまでもな」

 

「――うん。信じる。その上で、引くよ。私が。引き金を」

 

 シャルナは強い意志を瞳に宿して断言した。その強さに、今更ながら玄咲はうろたえる。

 

「俺も、引き金に指はかけるよ。引くのはシャルだけどな。……正直、これでいいのかって、思ってる。最善だと思うが、シャルに人殺しをさせるなんてって気持ちもある。自分の中で矛盾してるんだ。一人で殺せばいいのにシャルに無意味な人殺しをさせようとしてるだけなんじゃないかって」

 

「無意味、なんかじゃ、ないよ」

 

「だが」

 

「過去も、今も、清算して、玄咲と、一緒の、未来に、行くために、必要なの。絶対、必要なの。私が、そう、思うの」

 

「……そうか」

 

「玄咲に、言ってもらう、ばかりじゃ、悪いよね。特に、玄咲の、心臓に。だから、私からも、言うね」

 

 シャルナはディアボロス・ブレイカーを持つ玄咲の手に手を重ね合わせて言った。

 

「私に、サンダージョーを、ぶち殺させて。お願い」

 

「分かった。……シャル」

 

「なに?」

 

「ごめん。やっぱり俺はちょっと異常なんだと思うよ。君みたいな子にこんな提案をするなんて。でも、最善だと思ってる。それでも尚、最善だと思ってるんだ……」

 

「うん、私も、最善だと、思う。そんな、ちょっと異常な、玄咲、だからね、私は、救われたの」

 

「シャル……」

 

「殺しをね、躊躇い、ながらも、平然と、選択肢の、一つにする。そんな、玄咲にしか、ね。私は、救えないの。だって、私」

 

 シャルナは笑みを浮かべる。

 

「堕天使、だから」

 

 出会った時からずっと変わらない。

 

 悪戯っ気たっぷりの堕天使の笑みを。

 

 

 

「――シャル。安心しろ。絶対勝つ」

 

 勝たせるのはバエルだが、玄咲の力など関与する余地がないので正直少し決まりが悪いのだが、今はその気持ちに蓋をする。

 

 これから強くなればいいと。

 

「うん。信じてる」

 

 シャルナの瞳が玄咲の瞳を映す。白の中に黒が産まれる。引き金の上で指を重ね合わせる。

 

「じゃあ、カウントダウンを始めるよ。0になったら決闘開始だ。10、9……」

 

 0が数えられるその前に、シャルナと最後の会話を交わす。 

 

「シャルは引き金を引くことだけ考えていればいい。安心しろ――銃の引き金は引くだけなら死ぬ程軽い。赤子でも引けるほどにはな。その結果は、文字通り死ぬ程重いが」

 

「実感、籠ってる、ね」

 

「ああ。自慢じゃないがな」

 

「知ってる」

 

「そうか」

 

「8、7、6……」

 

「こんなこと、させてくれるの、玄咲、だけだよ」

 

「俺みたいなのは1人いれば十分だ」

 

「そだね。1人いれば、十分」

 

「5、4、3」

 

「……ごめん。指、震えてる」

 

「大丈夫。俺も一緒に引き金に指を添える。引くときは一緒だ。安心しろ」

 

「うん」

 

「2,1」

 

「共犯だ」

 

「0」

 

 玄咲が悪魔神バエルのカードをディアボロスブレイカーに挿符《インサート》する。シャルナが引き金を引く。 

 

 そして2人は声を合わせた。

 

「「召喚――悪魔神バエル」」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。