カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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没理由 
まぁ読み飛ばされるだろうなと。


没第14話 冒頭から長台詞

「わぁ。すごい、ね」

 

 隣でシャルナがそう言う。玄咲も全く同じ感想を抱きながら目の前の景色を見ていた。

 

(これが、現実のカードショップ。なんて、カードの量だ……)

 

 校舎横のカードショップ。アルファベットのブロックがC・A・R・D・S・H・O・Pと一文字ずつ並んで突き出した看板を掲げた白い外装の建物。たくさんの生徒が行き交う、ラグナロクマートにもあったカードバッテリー搭載自動開閉式ガラス戸という名称の出入口を抜け、玄咲とシャルナの眼にまず広がったのは、入学式に使われた大講堂並みに広い店に所狭しと並べられたショーケースと、その中に陳列されたカードの大群であった。

 

(ゲームじゃ、スクロールもしない1マップにショーケースが数列とレジに2人の店員が並んでいるだけだった。それが、どうだ。ショーケースは数えることすら馬鹿らしいほど並び、それに)

 

 カウンターを見る。20台ほどのレジ――に見えるだけのストア・リード・デバイス――と20人程の人が並び、購入するバトルカードとデバイスカードを決めた生徒達の相手をしている。生徒が欲しいカード名を言いながら店員に生徒カードを渡す。店員が、生徒から受け取った生徒カードをレジに差し込み、カウンター裏の棚に分類分けされて纏められたカードの束からカードを探して生徒に渡した。生徒は生徒カードと購入したカードを受け取って自動開閉式のガラス戸を抜けて退店していった。

 

(なるほど。ああやってカードを買うのか。買うカードを選んでワンボタンじゃないんだな)

 

 おそらくこの世界の人間にとっては当たり前の、だが玄咲にとっては当たり前じゃないことを確認する。その横で、シャルナが玄咲に話しかける。

 

「見て。星8のカード、だよ。こんなの、初めて見た」

 

「どれ」

 

「これ」

 

 カードの所在を聞くためではなく感嘆詞的に発した言葉なのだが。そう思いながら、シャルナが指さすカードを玄咲は見る。

 

「ランク8。光属性。エターナル・アートか……」

 

「きっと、強いよ」

 

「いや、このカードはランク8帯の中じゃ下から数えた方が早いカードだ。特に同じ光属性のランク8カードの中にはほかに強いカードがいくらでもある。例えば、筆頭のシャイニング・ソード。防御に優れたイージス・シールド。攻撃と回復が同時に行えるウルティマ・ハート。この御三家に加えて、ランダムとはいえ高性能なバフを自分に複数個かけるギャンブリング・エンジェルスに光属性魔法の強化と他属性魔の弱化を行うフィールドを発生させるアークノア・サンクチュアリなど光のランク8は他属性に比べても強カード揃いだ。そんな中、エターナル・アートの性能は正直残念と言わざるを得ない。まず威力が低い。ランク7帯の中でさえこのカードより威力の高いカードは結構ある。じゃあそれに見合ったメリットがあるかというと、まぁあるにはある。このカードはコンボ前提のカードなんだ。3連続攻撃を行うカードで、その1回1回ごとにバフなどの補正の影響を受ける。それだけ聞くとバフを盛りまくれば高威力の攻撃が出来るんじゃないかと思うだろうがそうはならない。バフには上限があり、どれだけ強化しても一定値以上の強化は出来ないからだ。最高値までバフを持った場合の合計威力は、同等のバフを持った光属性のランク8の攻撃系カードで最強とされるシャイニング・ソードのそれをわずかに上回る。だが、それは本当にわずかで、しかも相手の抗魔力を無視した場合の話だ。大抵の場合、3連続攻撃の1回毎に相手の抗魔力で威力を減算されるエターナルアートよりも、単発高威力で抗魔力による減算処理が1回しか行われずしかもその高い攻撃力で相手の抗魔力の殆どを貫通できるシャイニングソードに威力の軍配が上がる。しかも、そんな残念性能に関わらずエターナルアートにはデメリットまである。3連続攻撃の3連目だけ威力が低く設定されているんだが、なんとその3連目で与えたダメージに応じて使い手にダメージが入るんだ。もちろんそのダメージで死ぬこともある。というか最高までバフをかけたらほとんど確定で死ぬ。意味が分からない。あくまで推測だが、おそらく製作者の設計としては他のカードと組み合わせることによってシャイニング・ソードすら遥かに上回る攻撃を放てるロマン強カードにしたかったんだろう。謎の自傷ダメージもおそらく帳尻合わせのデメリットのつもりだったんだ。しかし、練りが浅かったのか時間がなかったのかあるいはその両方か、わずかなメリットと引き換えに膨大なデメリットを抱えたただの残念カードになってしまった。まぁ、使う意味がほとんどないだけで使えないことはないだけこのカードはまだマシな方だ。自傷ダメージも活かせないことはない。対戦で自爆して相手を笑わせるという使い道も世の中にはあるらしいしな」

 

 玄咲は立て板に水、というか濁流を流す勢いでエターナルアートの説明を並べ立てた。シャルナが目を見開いて玄咲を見る。口を開く。

 

「すごい、饒舌」

 

「ふふ。カードの話ならいくらでもできる。すごいだろう」

 

「褒めてるわけじゃ、ない」

 

「……」

 

 じゃあ、どういうわけなのか。深く考えると見たくない結論が見えてきそうなので玄咲は思考の浅瀬で引き返しそれ以上考えるのをやめた。話題を変えることにする。

 

「シャ、シャルはどのカードを買うのかもう決めてあるのか」

 

 幸い、シャルナはそれ以上深くは突っ込まず玄咲の話に乗ってきた。

 

「ダーク・スラッシュを、買おうかと」

 

「ダーク・スラッシュか……」

 

 玄咲はゲームでのダーク・スラッシュの性能を思い出す。

 

(武器に闇の魔力を纏わせて近接攻撃する闇属性の近接カード。ゲームでの攻撃力は50。消費MPは3。単発攻撃。近接カードだから前衛にしか攻撃できない。が、その分威力が少し高い。まぁ、無難なチョイスか。剣と相性もいいし)

 

「いいと思うぞ。無難だが堅実だ」

 

「うん」

 

 少し嬉しそうにシャルナが言う。

 

「玄咲は、どのカードを?」

 

「……そうだな。俺は――」

 

 至極当然のこととして玄咲はゲームでの選択肢を思い出す。ゲーム知識こそが自分の武器。ならば生かさない選択肢はなかった。

 

(このイベントで主人公がグッドフィーリングを感じて提示してくる選択肢は8つ。ファイア・ボール。アクア・ヒール。アース・ウォール。ウィンド・ステップ。サンダー・ショック。ダーク・スラッシュ。ライト・ソード。そして――アイス・バーン。主要7属性の特徴を捉えた7つのランク1カードの中に混ざる明らかな異物。アイスと名のつくが水属性に分類される、単体では役に立たないサポートカードという明らかな地雷選択肢。だがその実は――うん。迷うことはないか。ADの時と同じだ。変な冒険はせず安牌の選択肢を取ろう)

 

「――俺は、アイス・バーンだ」

 

「えっ」

 

 ぎょっとした表情を浮かべて、自殺を思いとどめるかのような必死さであわあわと玄咲を説得するシャルナ。

 

「その、やめた方が良い。低ランクの、フィールド干渉系カードは、地雷。ゴミカード。常識。やめた方が良い。絶対、ダメ。自殺行為」

 

「分かってないな。シャル、最善の選択肢がこれなんだ」

 

「……」

 

 ムっとした表情を浮かべて、玄咲を見るシャルナ。少し気圧されながらも玄咲は自分の意見を曲げなかった。

 

「そ、その、シャル。この世界(CMA)にゴミカードなんて存在しない。役に立たないカードなんて1枚もない。どんなカードにも生まれてきた意味があるんだ。だから信じて欲しい。アイス・バーンの可能性《隠された効果》を」

 

「……!」

 

 はっとした表情を浮かべて、それからシャルナは玄咲に謝った。

 

「ごめん、なさい。魔符闘士として、あなたの言葉の方が、正しい。私が、間違ってた」

 

「え? あ、うん……」

 

 半分は本気、だが半分は勢いで言った言葉に予想外に真面目なリアクションが返ってきたことに玄咲は戸惑う。玄咲の元いたこの世界の人間の価値観の違いを玄咲はまざまざと見せつけられる思いだった。

 

「じゃあ、買いに行こ」

 

「あ、ああ」

 

 シャルナに先導されて玄咲は購入カウンターに向かう。カウンターは広く横に伸びており、20人以上の店員と20個以上のレジ型リード・デバイスが並んでいた。全てのレジに生徒が列をなしている。一番短い列に2人は1分程並んでレジまで辿り着いた。店員が話しかけてくる。

 

「いらっしゃいませ。ご希望のカードをお申し付けください」

 

 ゲームと一言一句変わらぬ挨拶。なんとなく安心感を抱きながら玄咲は注文する。

 

「アイス・バーンを」

 

「私は、ダーク・スラッシュを」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 店員が手早くカウンター裏をごそごそと探り2枚のカードをカウンターの上に置いた。

 

「こちらのカードでお間違いありませんか?」

 

 カードにはそれぞれカード名の項目にアイス・バーン、ダーク・スラッシュと書かれていた。

 

「はい、間違いないです」

 

「うん」

 

「それではこちらのレジに交互に生徒カードの挿入をお願いします」

 

 玄咲が元の世界で知っているレジとほぼ同一の外見のレジの客側に着いたカード挿入口に玄咲とシャルナは交互にカードを挿入した。

 

「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 

 店員が頭を下げてカウンターを去る玄咲とシャルナを見送る。心中で玄咲はひとりごちる。

 

(店員に話しかけてボタン操作で購入じゃないんだな。ま、当たり前か。だが、これはこれで、悪くはない)

 

 デジタルでないマニュアルな感触に心地よさを覚えながらアイスバーンのカードを手ごと制服のポケットに突っ込み、玄咲はシャルナとカードショップを退店した。

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