カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
対戦最後、ユキちゃんへのアイスバーンで叩きつける攻撃の描写がもう少しねちっこいです。その後のバトルセンター内での出来事も、それを引きずったものになっています。主人公視点のバトルは共通なので飛ばしています。水野ユキ視点のバトルも分岐ちょっと前まで飛ばしてます。玄咲くんの心象が悪くなりすぎると思ったので本編ではもう少しマイルドにしました。
「アイス・バーン」
(は?)
ランク1筆頭ゴミカードのアイス・バーンの名が天之玄咲の口から飛び出した瞬間、ユキの頭の後ろの床が凍った。冷たさは約1メートル四方に渡る。混乱。ユキは混乱していた。まさかこの試験でアイス・バーンを選ぶ大間抜けがいるとは想像だにしなかった。だがその大間抜けに今まさにユキは拘束されアイス・バーンによりなぜか体を冷たくさせられている。全く意味が分からない。ユキにはもうなにがなんだか分からなかった。
唐突に手が、伸びてくる。目を覆われ頭を掴まれる。天之玄咲にはデリカシーも遠慮も欠片もない。まるでマシーンのように淡々と扱われる。ただ相手を効率よく痛めつけることしか考慮しないマシーンのように、淡々と。
アイス・バーンでできた氷に後頭部が打ち付けられる。そうだろうと思ったら案の定だった。疑似的な痛みが後頭部に発声する。痛い。本来味わう痛みの何十分の一といういたみだろう。それでも確かに痛かった。
「――やった」
熱い暗闇の向こうに喜悦混じりの声が生じた。再び痛みが来る。何が楽しいのか、もう一度、もう二度、もう三度、幾度も幾度も後頭部がアイス・バーンに生み出された氷に叩きつけられる。精神がおかしくなりそうだった。段々痛みが耐えがたくなってくる。僅かでも、間断なくヒステリックに繰り返される生半可な痛みは、巨大な一撃よりもかえって残酷だった。間違いなく、どうすればより相手に苦しみを味わわせられるかを吟味した上でアイス・バーンを天之玄咲は選んだのだとユキは確信する。そうでなければわざわざアイス・バーンを選ぶはずがない。こんな残酷な使い道を思い浮かぶはずがはない。ユキは戦慄した。
(悪魔だ)
ユキは確信する。
(天之玄咲は悪魔だ)
丁度その時、ユキの眼を覆う指に隙間が出来た。指の隙間から光が漏れる。殆ど本能的にユキは視線を指の隙間の向こうの景色へと向ける。三日月状に口を歪め心底楽しそうに笑っている天之玄咲の姿があった。
恐怖で身が凍った。
水野ユキのHPが0になる。玄咲は水野ユキの後頭部を氷に叩きつける作業をそれでようやくやめた。
【WIN】
SDに大きく表示される勝利の3文字。ポイントを確認すると1000ポイント入っていた。その確認を以ってようやく玄咲はカードバトルに勝利したと実感した。
(――なんとか、なった)
息を吐く。緊張がほぐれてゆく。シャルナに良い報告ができる。勝ってまず何よりも一番そのことにほっとした。シャルナの笑顔が見れる。それを思えば天使が頭の中で羽ばたいた。
(しかし――ゲームのカードバトルとはもはや別物だな。どうも、ゲーム知識を根本から洗いなおす必要がありそうだ――楽しみ、だな)
玄咲はCMAの新たな可能性に昂っていた。所詮数字で管理された足し算引き算掛け算割り算の計算結果に過ぎないゲームのカードバトルと違いこの世界のカードバトルは有機的なリアリティの結晶体だ。何がどう作用するのか全く分からない。ゲームでは攻撃性能が全くないサポートカードだったアイス・バーンでさえ攻撃が可能なくらいだ。その逆で攻撃カードをサポートに転用したり、もっと想像もしないような使い方がいくらでもあるに違いない。玄咲はまるでCMAの続編か何かをプレイしているような気分になった。
(いや――続編というよりはバーチャルVR技術でリメイクされたCMAってところか。もっとこの先色んな未知の、ワクワクするものが見れるに違いない。クク、クック……)
笑いが、漏れる。昂る気持ちが、どこまでもどこまでも天使とともに羽ばたいていくようだった。
(世界よ、もっと俺に未知を見せてくれ! もっと、もっと――!)
「えぅっ、ひぐっ、うわぁあああああぁん!」
玄咲はビクっとした。水野ユキが地面に倒れたまま目を手で覆って大声で泣き始めたのだ。心の熱が急速に鎮火されフラットな精神状態へ。少々戦いの余熱でテンションが狂っていたことを自覚し、玄咲は冷静に現実を認識し始める。
(……そういえば最後の方は抵抗もせずずっとすすり泣いてたな。いや、でもあれしか勝つ方法がなかったしな……)
「う、恨んでないって言ってた癖に、嘘つき、嘘つきぃいいいいいいいい!」
「え、嘘じゃ」
「う、うあぁあああああああああああああああああああん!」
「……」
玄咲は黙ってその場を立ち去ることにした。立ち上がりかけて、ふと水野ユキのADを見て思った。
(これ奪って魔法発動すれば良かったんじゃ――うん、次からそうしよう)
とにもかくにも、玄咲は勝利した。
「あ……どうだった」
シャルナは後ろ手を組み適当な壁にもたれかかって玄咲を待っていた。バトルルームから出てきた玄咲の接近に気付くとそう声をかけてくる。
「勝った」
SDのポイントの項目をシャルナに見せながら玄咲は勝利報告を行った。
「よく、勝てたね。アイス、バーンで」
「アイス・バーンを使う必要は全くなかったがな。殆ど体術だけで勝ったようなものだ」
「なる、ほど」
シャルナは納得する。それから、笑った。
「良かった」
白い、眩しい、天使のような、笑顔。玄咲は何もかも全てが報われたような気がした。儚げな容姿に反して意外と表情豊かな天使のような美貌の少女。しかしやはり、笑顔が一番映えた。
「とりあえず一戦してみた感じこの後も問題なく勝ちを重ねていけそうだ。何の不安もない。一切心配無用だ」
「そう? じゃあ、これからは、別行動、だね」
「え?」
思わず間抜けた声が出る。シャルナは極めて真面目な顔で言った。
「私に、いい考えが、ある」
「そ、そうか……」
「じゃあ、またあとで」
そう言ってシャルナはバトルセンターから出ていった。未練がましくその背を見えなくなるまで目で追う玄咲。完全に見えなくなってから、ため息をついた。
「……いや、いやいや。たかが一時の別れを何を残念がっているんだ俺。未練がましい気色悪い……。さて、次の対戦相手はどうしようかな。また強制マッチングしてもいいが、もう一回くらい口頭で誘ってみるか。あ、そこの――」
弱そうな顔をしたゲームには登場しないこの世界オリジナルのモブ生徒に歩み寄って声をかけようとする玄咲。ちょうどその時23番室の扉が開き中から水野ユキがとぼとぼと出てきた。
「あ」
「え? あ――」
モブ生徒が23番室の近くにいたため、たまたまその前を横切った玄咲と水野ユキの目が合う。ごく至近距離。まるで待ち伏せをしていかのようなタイミング。水野ユキが腰を抜かし尻餅をつく。玄咲は水野ユキに手を差し伸べた。
「おい、大丈――」
「ひ、ひぃああああああああああああ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! もう許してぇええええええ! もう頭ガンガンしないでぇえええええええええええ!」
「!!? や、やめろ! その言い方は誤解を招く! まるで俺が君に暴行でも働いたみたいじゃないか!」
「うわああああああああああああぁん!」
「あっ」
水野ユキは通り過ぎざま玄咲に肩をぶつけ、泣き叫びながらバトルセンターを出ていった。
「……2~30回も氷に頭を叩きつけるの自分でもちょっとどうかと思ってたが、やはりショッキング過ぎたか。しかし、あれしか手がなかったし――ん?」
気付くと、センター中の人間が玄咲を見ていた。どう好意的に捉えても非好意的と捉えざるを得ない、そんな瞳で。意図は明白。こいつ、女に暴行加えて泣かせやがった。誰も彼も顔にそう書いている。先程フレンドリーに対応してくれた受付嬢までもが。
「……」
またこのパターンか。なぜいつもいつもこうなるのか。運命の神をぶん殴りたい衝動に駆られながら、とりあえず当初の予定見通り玄咲は弱そうな顔のモブ生徒をカードバトルに誘ってみることにした。
「君、俺とカードバトルをしないか」
「え、い、嫌です! 絶対!」
すげなく断られる。モブ生徒は足早に玄咲から離れていった。
(……対戦は自由に断れる。ペアを組む意味も分からない。なんて欠陥ルールなんだ。考えた奴頭おかしいんじゃないのか……)
ため息をつきながら玄咲はSDを操作する。やはり自分にはこれしかない。そう思いながら。
「さて、強制マッチするか」
対戦はすぐ成立した。