カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
没理由としては。
思想色が強くなりすぎる。
キャラクターの癖が強くなりすぎる。超自然的なキャラ付けは人受けしなさそう。
辺りです。あと、最後、少しだけ展開が違います。
「ふーん……妙な、方向に、だけ、知識が、豊富、だと、思ったら、そういう、こと、だったんだ」
「ああ。さっきのカードもゲームで使っていたものがそのまんま現実化してついてきたんだ。だから性能がでたらめなんだよ。そういえば昨日クレーター騒ぎがあっただろう」
「……もしかして、玄咲?」
「ああ。あの騒ぎを起こしたのは俺だ。バエルの試し打ちをしたら想像以上の威力でな。大騒ぎになってしまった」
「……なる、ほど」
「? どうしたんだ、シャル。憮然として」
「なんでも、ない」
「そうか」
感情的かつ未整理だった過去の話を、転生とCMAの話題にフィーチャリングして玄咲は改めてシャルナに語って聞かせた。シャルナは殆ど驚かなかった。なぜかと問うとそれら以外の過去の方が強烈で印象が薄らいだかららしい。とにもかくにも、玄咲の過去はシャルナに受け容れてもらえた。玄咲の最大の心配は杞憂に終わった。
「俺さ、人間が嫌いなんだ」
「どしたの、急に」
「いや、話しておきたくて」
「……大事な、存在を、殺された、から?」
「それもあるけど、もともと嫌いだった。俺の世界では人間というのは世界の頂点であると同時に世界で最も醜い生物だったんだ。悪意で他生物を征服して鏖殺か奴隷にする。その歴史の積み重ねが人間の歴史だったんだ。信じられないだろうが俺の世界ではほとんどの動物はただの人間の奴隷で、毎日望まぬ配合をさせられて、万を超える大群が一所に押し閉じ込められて体に穴を開けられてタグを通され管理され、産んだ子供を食物として片端から取り上げられ、病気になれば健康な個体も含めて纏めて殺され、そうでなくても時がくれば殺されて人間の食糧にされるんだ。それも味を良くするためという理由でより苦しむ方法で殺されたりな」
「地獄、みたいな、世界だね」
「ああ、動物にとっては地獄だろうさ。そしてその行為が資本主義という生命の優先順位を特定層の人間に都合のいいようにすり替える制度のせいで当たり前のこととされている。そんな過程を経て提供される食肉を子供から老人まで美味しく頂いている、俺はそんな世界が嫌で嫌で仕方なかった。動物だけじゃない。自然だって虐殺されていた。命ある草木水花をただの資源として対価も払わず強奪していた。環境破壊さ。山は更地に海は汚水に氷山は溶け消え気候は狂った。そのせいで何億もの動物は住む場所を追われ壊された。だからと言って人里に迷い込めば害獣と殺される。狩られる。ときには毛を毟られ、ときには生皮を剥がれ、人間の楽しみのために地獄を味わって死んでいく。その結果何種もの動物が絶滅した。狂った世界だ」
「……なんか、共感、しちゃうな。アマルティアン、みたい」
「……確かに、そうだな。CMAの発売年月は90年代。そして90年代の創作にはやたらと環境問題をテーマにして創作やキャラクターが多かった。CMAは90年代の気風をもろに受けた作品でもあるし、アマルティアンの発想の源流は案外シャルナの指摘したところにあるのかもしれないな」
「うーん……言ってること、半分も、分かんない」
「……そりゃ、そうだよな。すまない。CMAについての雑談はまた今度、詳しく解説しながらするよ。シャルも興味あるだろう」
「えっ……うん……」
「……うん。それに人間は動物や自然だけでなく、同族でも殺し合うんだ。いや、殺し合うだけじゃない。飼おうとするんだ。下等種として同じ人間を差別するんだ。黒い・醜いというだけで何千万人の人間を奴隷にして貿易したり、武力で占領した国の民を実質的な奴隷として死ぬまで搾取したり、金にあかせて自分より立場の弱い女子供を買い漁ったり、無法の地で確保した人的資源を集団で使い輪したり、数限りなく敷いた悪法で雁字搦めにした上で乏しい財産を死なないギリギリまで奪ったり、弱みを見せた人間にハイエナのように群がり誹謗中傷して集団で殺したりな」
「……玄咲ってさ、本当、人間、嫌い、なんだね」
「ああ、嫌いだよ。醜くて穢らわしいからな。家族みたいな例外もいるし、全ての人間がそうというわけではないのは分かっているんだが……個の例外はあれど種族としては大嫌いだな」
「私と、大体、同じ、だね」
「そうか」
「……玄咲ってさ、動物、好きなんだね」
「ああ、大好きだよ。人間の100倍は好きだ。純粋で、敵意はあっても悪意はないからな。気が合うんだ」
「玄咲と、同じだね」
「俺と?」
「玄咲って、動物、みたい、なんだよ。うん、今、気づいた。私もさ、動物、好き。山で、いつも、動物と、遊んでたもん、だから、気が合うんだ」
「そうかも、しれない。動物的な感性だとよく言われてきたから。反射神経とかそういう意味じゃなくて、まんまの意味だったのか」
「うん、多分そう」
「……その、シャルも、動物みたい、というかクロマルにちょっと似てるよ。仕草とかさ。シャルを見てるとクロマルを思い出すんだ。シャルはクロマルみたいで可愛いよ」
「……それって、褒めてるの?」
「ああ。最大級の賛辞だ」
「わん」
「え?」
「……何でもない」
「……うん」
手を招き猫みたいにして犬のように鳴いたあと、思ったような反応が得られなかったからだろう。シャルナは恥ずかしそうに俯いた。リアクションが追い付かなかっただけで十分に可愛い仕草だったが、それを指摘するのも気恥ずかしく、結局玄咲は何も言わなかった。
ふと、シャルナが言う。
「私、玄咲の世界の、もっと、明るい、話も、聞きたいな」
「明るい話?」
「うん。聞きたい」
「……ロマンのない世界だからあまり面白い話はできないと思うぞ。」
「それでも」
「……じゃあ」
玄咲はなるべく元の世界の面白いところ、つまり子供時代に見聞きしたことを中心に話した。思ったよりシャルナは楽しんでくれた。
30分くらい話したころ、シャルナがふいに言った。
「……んー」
「どうした?」
「なんか、その世界の、こと、初めて、聞く、感じが、しないなって。なんでだろ」
「……俺の世界とこの世界は結構共通点があるからな。そのせいだろう。家電とか、ラグマとかな」
「うん、そうだね。知ってるはず、ないもんね」
「そうさ」
「ねぇ、玄咲の眼って、何で、赤くなるの」
「……いきなりだな」
「ずっと、聞きたかった、から」
「……その、人を、大量に、殺してから、こうなるようになった」
歯切れ悪く、玄咲は言う。
「……原理は分かっていない。医者は精神的なものが原因だと言っていた。そしてそれ以上の理解は俺にはいらないんだ。俺が、人よりも、悪魔に近づいたから、眼が赤くなるようになった。俺がそう思っているのが全てなんだよ……醜い、だろ。俺はこの眼が大嫌いだよ。コンプレックスなんだ。最大の」
「私はね、玄咲の、眼、好きだよ」
――赤い世界の中でシャルナに言われた言葉が脳裏に蘇る。
『好き』
「……俺の、眼がか」
「うん」
「そうか……」
やっぱり、そういう意味だったのかと、玄咲は少しだけがっかりした。本当のところは少しだけ、期待していたのだ。そういう意味じゃないことを。
「――あの、ね」
シャルナがポツポツと語り出す。
「玄咲の、眼は、絶望に、塗れてる」
「……シャルナの眼にも、そう見えるんだな」
「うん。そこは、誤魔化さない。でも、ね」
「でも?」
「その中に、必死に、希望を、映そうと、してるの」
「――そう、かな」
そう思えるのはシャルナの心がそうだからだ。シャルナの心の輝きが玄咲の瞳に反射してそう映ってるだけなのだ。本当にどこまでも、純粋で美しい心だと思った。そんなシャルナが言う。
「そうだよ。だからね」
――頬をそっと両手で挟み込んで。
「キレイなの」
――瞳を真っすぐ覗き込んで。
「だからね」
これまでで一番天使な笑顔で。
「大好き」
告白した。
「シャ、ル……それ、は」
「――もちろん」
頬から手を放し、サッと距離を取って、いつものように悪戯っ気たっぷりにはにかみながら、シャルナは言う。
「眼の、話だよ?」
――シャルナの真意は分からない。
けれど。
これは。
これは、流石に――。
「――本当に?」
玄咲と言えど、そう問い返さずにはいられなかった。
シャルナは眼をパチクリとする。その頬がほんのりと朱らんでいく。それからどこか切なげに目を細めて、そっぽを向きながら、歯切れ悪く言う。
「ほん、と――だよ」
――本当に。
眼の話なのか?
大好きは、どっちを指してるのか。玄咲か? 眼か? あるいはその両方か? そのどれだとしても、実は大して意味合いが変わらないのではないか? もしそうだとしたら、シャルナは、どっちにしても、玄咲のことが――。
「い、今はっ」
シャルナの台詞に思考を遮られる。
「そういう、ことに、しといて。……決闘が、終わって、落ち着いたら、ちゃんと、言うから」
「……分かった」
シャルナも色々と冷静じゃないのだろう。だから決闘が終わった後に、心の整理をつけられるくらい状況が落ち着いた後に、改めて言うつもりなのだろう。
本当の、気持ちを。
「……」
「……」
「あの、さ」
「うん」
「非日常感、凄いよね」
「うん」
「私、普段なら、絶対言えないこと、ばっか、言ってるし、やってる。……思い返して、凄いこと、なりそう」
「俺もだよ。自分が絶対言う機会がないって思ってた言葉をどれだけ吐いたことか」
「うん、絶対、言わない、だろうなって、台詞、ばっか、言われて、驚いたよ。行動も」
「だよな……俺も驚いてる。俺、あんなこと言えるし、できる人間だったんだな……」
「うん……そういえば、さ」
「なんだ、シャル」
「決闘って、いえば、さ」
「ああ」
「結局、全部、玄咲に、任せきりに、なっちゃって、ごめんね」
「……シャル」
「なに?」
「そのことなんだが――」
玄咲はシャルナに提案をする。
「……なんかさ、結局、私、最後まで、玄咲に、おんぶに、抱っこだね」
玄咲の提案について2人で納得のいくまで話し合った後、シャルナはベッドに手をついて天井を見上げながらしみじみと言った。
「やるのはシャルだよ。俺は力を貸すだけだ」
「その力が、大きいん、だけどね。なんか、もう、借りばかり、だよ」
「いいよ。借りになんて思わなくて。俺はシャルに貸しなんて作ったつもりはない。全部忘れてもらって結構だ」
「私が、返したいん、だよ。……あのさ、玄咲、私に、して欲しい、こと、ない?」
「して欲しい、こと?」
「うん」
手を握って、顔を近づけて、言ってくる。
「なんでも、してあげるよ?」
「――なんでも?」
「うん――なんでも」
「――じゃあ」
玄咲には一つどうしても捨てられない憧れのシチュエーションがあった。子供のころ、幼少期からアニメの天使のヒロイン相手に何度も夢想したことのあるシチュエーションだ。普段なら絶対頼まない。けど状況の魔力が玄咲にまぁ頼んでみるかという気にさせていた。シャルナに、玄咲は憧れを語る。
「後ろから両腕で俺を抱きしめてくれないか」
「……いいけど、それ、だけ?」
「ああ、シャルに俺の翼になって欲しいんだ」
天使の両腕と両翼で包まれる幻想。シャルナでも繰り広げたことのある幻想。その疑似体験。けれど、本物のシャルナがやるのだから、両腕だけでも間違いなく幻想を超えてくるだろう。どれほどの感動と安心感に包まれるのか玄咲には想像もつかない。
「っ! わ、分かった。やってみる!」
背中を開ける。シャルナが後ろに回る。ドキドキとその時を待ちわびる玄咲の視界にシャルナの腕が両端から現れ――。
抱きしめられた。
その瞬間――。
(――あ)
嵌まった。
埋まった。
嚙み合った。
ずっと欠けていたものがようやく満たされた。
シャルナだ。
天使ではなく、堕天使を。
シャルナ・エルフィンをこそずっと求めていたのだと、抱きしめられた瞬間に、本能的に、玄咲は理解した。
もう天使など必要なかった。
ようやく、天に還せる。
玄咲の頭の中から天使が一斉にバサバサと天へと飛び立っていった。
そして。
ただ、一羽だけ、残った。
黒い翼の白き堕天使――シャルナ・エルフィンが。
優しい、けれど魂を蒸発させるほどの暖かさで。
この身を包んでいた。
――ようやく、たどり着いた。
そう、思った。
「――やっと、辿り着いた」
「――そう、だな」
「今、そんな気分」
「俺もだ」
「私たち、繋がってるね」
「ああ」
「一人じゃ、ないね」
「ああ」
「二人ぼっち、だね」
「ああ」
「でも、あったかい、ね」
「――ああ」
シャルナの手に、玄咲は己の手を重ね合わせた。