カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第7話 青い空

「せっかくだから、外で食べよ。いい天気、だしさ」

 

 昼休み。

 

 弁当を取りに1年G組の教室に戻った玄咲はシャルナにそう誘われて、一緒に外で弁当を食べることになった。

 

「ここが、いいかな。人通り、少ないし、雰囲気も、いい」

 

 シャルナは木漏れ日の差し込む木陰の下のベンチが気に入ったようだった。風が梢を揺らす音が耳に心地いい。揺り篭のように揺れる木の葉の網目状の陰影が幻想的だ。玄咲も一目で気に入った。

 

「じゃあ、食べよっか」

 

 シャルナが白いバッグから布に包まれた弁当箱を取り出し膝に置く。玄咲も全く同じ見た目の弁当箱をバッグから取り出して膝に置いた。布の弁当箱の中にはちゃんとケースに入った箸が同封されている。

 

「さ、さ! 開けて、開けて!」

 

 自分の弁当箱の蓋に両手を置いてシャルナが急かしてくる。どうしても先に弁当箱を開いて欲しいらしい。2つの意味でドキドキしながら玄咲は布をほどき、弁当箱の蓋に手をかけた。

 

 パカリ。

 

 お弁当の中身は焼きラーメンだった。

 

「ど、どう、かな」

 

「……」

 

 ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。他の具材は一切見当たらない。想定外の事態に玄咲は言葉を失う。

 

「やっぱ、下手、だったかな……」

 

「!」

 

 玄咲は全力で首を横に振る。シャルナの表情が明るくなる。

 

「よかった。お弁当、初めて、作ったから、不安だったの。いつも、カップラーメンで、済ませてたから、さ。……私、カップラーメン、大好き。だから、初めての、お弁当には、大好きを、一杯、詰め込んだの。きっと、美味しいよ?」

 

「!?」

 

 大好きを詰め込んだ。その表現にドギマギしながら玄咲は弁当箱を見直す。漢気の塊にしか見えなった弁当が急に乙女心の集合体に見えてくる。シャルナが促す。

 

「ね、食べて」

 

 ……コクン。

 

 玄咲は頷き、箸を握って、麺の束に突っ込む。そして、掬って、口に運んだ。

 

 楽園の味がした。

 

 

 

 

「ね、玄咲。これから私、強くなるために、何したら、いいかな」

 

 弁当を食べ終わったあと、自前の水筒でこぽこぽと水道水を注ぎながらシャルナが玄咲に尋ねる。ベンチの上で隣り合ったまま、10秒ほど思案して、玄咲は考えを纏める。

 

「カードを集める。ADを鍛える。戦闘技能の向上。レベルを上げる。大まかに分けるとやることはこの4つだ」

 

「どうすればいい」

 

「1つずつ説明していこう」

 

 バエルに尋ねてゲームとこの世界との差異は昨日のうちにある程度解消済み。玄咲は自信を持ってシャルナに語る。

 

「1つめ、カードを集める。これは色々な方法があるが、ポイントを稼いで学内のカードショップでカードを買う。これが俺たちにとって最も基本となる入手経路だろう。学園は特別価格でカードを販売してくれているから外で買うよりずっと安いんだ」

 

「そうなん、だ」

 

「他にも入手経路はあるが、当分は必要ない。まだ使えないか非効率な手段が多いからだ。必要になったら折に触れて教えるよ」

 

「うん。分かった」

 

 真剣に頷くシャルナ。信頼が伺える所作に玄咲の胸も軽くなる。

 

「2つ目、ADを鍛える。自分の特性に合わせて強化したオンリーワンのADを作り上げるんだ」

 

「子供が夢見る奴だね」

 

「……」

 

 間違ってはいないが気が抜ける表現だった。

 

「……ただ、これは前工程としてADを手に入れる必要がある。このあと一緒にAD制作を依頼しに行く予定だから、詳しい説明はその時にまたするよ」

 

「えっ? そうなの?」

 

「そういえばまだ言ってなかったな。俺に最高の当てがある。期待していい」

 

「……ちょっと、ワクワクする」

 

「俺もだ。3つ目、戦闘技能の向上。これは俺がシャルに教え込もうと思っている。ただ、カード魔法については俺も半分初心者だから、一緒に鍛えていく形になるのかな。でも、基本的な戦闘のノウハウは教えられる自信がある。俺は戦闘の天才なんだ」

 

「戦闘に関しては、自信凄いよね」

 

「ああ。俺から戦闘の才能を抜いたら無能なクズしか残らないからな」

 

「私は、玄咲から、戦闘の才能が、なくなっても、絶対に、離れないよ」

 

「ッ!?」

 

 不意打ちにくらった玄咲は息を呑み、その拍子に先程食べた焼きラーメンが詰まってむせ込んだ。

 

「げほっ、げほっ!」

 

「これ、水」

 

「あ、ありがとう」

 

 シャルナから水筒の蓋を受け取り水で焼ラーメンを流し込む。水稲の蓋を返して会話を再開する。

 

「そして最後に、レベルだ。シャルナ、この世界でのレベルの上げ方を知っているか?」

 

「うん。強い敵を倒すと、魂が成長して、レベルが上がるんだよね」

 

「その通りだ。けど、もう一つ方法があるんだ」

 

「え?」

 

「魂の成長は何も戦闘によってのみ引き起こされるわけではない。というか戦ってばかりいても魂は成長し切らない。レベルは100に達しない。そもそも、魂の成長が戦闘によってしか引き起こされないと言うのもおかしな話だろう」

 

「あ、言われてみればそうだね」

 

「つまり、俺たちがレベルを上げるためにやるべきことは」

 

 玄咲は手を広げて、学園全体を指して言った。

 

「学園生活を楽しむことだ」

 

 CMAのレベルシステムは非常に独創的だった。MAX100のレベルが戦闘レベルと人間レベルに50ずつ振り分けられているのだ。前者は戦闘でのみ上昇し、後者はアドベンチャーパートでのみ上昇する。ラグナロク学園というスパルタ学園で生徒たちが和気藹々と青春し、時には戦闘そっちのけでヒロインとイチャイチャする矛盾に対する理由付けとなる設定だ。

 

「冗談、じゃ、なさそうだね」

 

「学園長の性格を考えてみろ。ひたすら戦闘経験を積ませるのが最善回ならばラグナロク学園はもっと軍隊じみたスパルタ学園になっていたはずだ。だが、創立当初はともかく、今はそうではない。なぜか? レベルを効率よく上げるためだ。実はあの婆、レベルが85なんだ。サンダージョ―以下なんだよ。人格に夥しい欠陥があるからレベルが上がり切らなかったんだ」

 

「サンダージョーは、学園長より、まともってこと?」

 

「……」

 

 それは答えづらい質問だった。だが、一応の理由付けはできる。

 

「魂の成長の最適解は個人差というブレがある。そのブレに対応するためのスパルタと自由を兼ね備えた校風なんだ」

 

「そうなんだ。なるほど。知らなかった」

 

「あの婆さんはレベルもコンプレックスで、故にレベルの上げ方には拘る。そのために、ラグナロク学園の校風を変え続けた結果、今の形態に辿り着いたんだ。滅茶苦茶なようで、バランスが取れているんだよ」

 

「ふーん……じゃ、こういう時間も、無駄じゃないんだね」

 

「ああ、もしかしたらレベルが上がってるかもしれないな」

 

 玄咲は冗談めかして言って、SDを操作して変わっていないはずのステータスの画面を開いた。

 

 天之玄咲

 

 魂格 51

 

「本当に1上がってた……」

 

「え? うわ、高いね。私も、上がってるかな」

 

 シャルナもSDで自分の魂格を見る。真顔で言う。

 

「42。変わってなかった」

 

「そうそう上がるものじゃないさ。でも、俺は1上がってた……」

 

 理由を考える、までもなかった。レベルが上がった原因など1つしかない。シャルナとのコミュニケーションだ。ゲームでも大空ライトくんはヒロインとのイベントをこなすことでレベルが上がるようになっていた。玄咲にも同じことが起こったのだろう。

 

 天之玄咲にとってのヒロインがシャルナ・エルフィンだという、それだけの話なのだろう。

 

「……シャルが俺を成長させてくれたからだ」

 

「え?」

 

「シャルが俺をまともにしてくれるんだ。シャルといると俺は前向きになれるんだ。シャルが俺の全てなんだ。シャルが俺をレベルアップさせてくれるんだ。なんだってできる気がする。どこまでだって行ける気がする。シャルが傍にいてくれるだけで、笑ってくれるだけで、俺は幸せなんだ。だから、ありがとう。シャル。例え友達としてだとしても、俺の隣にいてくれて、本当にありがとう」

 

 自然と、笑みが零れる。シャルナは、口を引き結び息を呑んで、水筒をギュッと握った。

 

「ど、どういたし、まして」

 

「うん、ありがとう」

 

 おずおずとシャルナが尋ねてくる。

 

「……あのさ、本当は味、自信なくて、まだ聞いてなかったけど、お弁当、美味しかった?」

 

「今まで食べた中で一番美味しかった」

 

 玄咲は迷いなく即答した。シャルナ補正100%の味だと理解し切った上で心の底から断言した。

 

「……そう、それなら。良かった」

 

「一生シャルのお弁当だけ食べていたいとさえ思った。俺にとっては何にも勝る御馳走だ」

 

「…………う、ん」

 

 夢見ごちのまま、玄咲は快晴の青空を見上げてその眩しさに目を細める。

 

「それでさ、食べる隣にシャルがいてくれたら、そこがもう俺にとっての楽園――」

 

 唐突にシャルナに草むらに押し倒された。

 

 一瞬にしてベンチの上から木陰の下へ。太陽光を吸収した暖かで柔らかな草のベッドの上でシャルナを見上げる。シャルナは泣きそうな顔をしていた。動転する玄咲の頭の両隣の草地に手をつくシャルナの体位が下がる。手が移動する。シャルナは玄咲の背に手を回してギュッと体を密着させて抱きしめてきた。

 

 ささやかながら、しかしそれでも確かにある膨らみが、玄咲の胸板に押し付けられる。形を変えて柔らかさを主張する。玄咲はいよいよ目を回し始める。

 

「シャ、シャルッ!? いきなり何を」

 

「お友達、なら」

 

 シャルナの熱に潤んだ瞳が玄咲を見下ろす。熱い吐息が鼻先にかする。

 

「これくらい、普通だよ」

 

「……そうなの、かな」

 

「そう、だよ」

 

 玄咲は地球の欧米諸国にはフリーハグや男女同士で当たり前に抱き合う習慣があることを知っている。だから、きっとこの世界でもそうなのだろうと、自分を納得させられる理由を見つけて安堵しかけて、

 

「ごめん」

 

 その梯子をすんででシャルナに外された。

 

「本当は、あまり、普通じゃない」

 

「……だよな」

 

「我慢、できなく、なっちゃった」

 

 シャルナは不思議な感性をしている。嬉しくなると人の耳を舐めたりする。この抱擁もその亜種なのだろう。もしかしたらまた耳を舐めて()()()かもしれない。ドキドキする玄咲の背から手を外し、シャルナが草むらに手をついて上体を起こす。その瞬間。

 

 むにゅん。

 

 時が凍った。

 

「――――」

 

「――――」

 

 ――玄咲だって男だ。好きな女の子に体を押し付けられれば反応する。そして上体を起こしたという事はそれだけ下半身が下がったということ。視界の下端に腹に垂れたスカートが映っている。

 

 密着しても何もおかしいことはない。

 

「――――あ」

 

 玄咲は気絶した。

 

 

 

 

 

「――起きた?」

 

 シャルナの顔の上を葉々の陰影がさらざらと撫でる。ただでさえ美しいシャルナの顔に幻想の彩りを加えている。その美に魅入られる玄咲の脳裏に気絶する前の出来事がふいに浮かび上がる。反射的に口を開いていた。

 

「ごめん」

 

「謝らなくて、いいよ。私が、悪いから」

 

 否定しようとして、確かに10割シャルナの自爆だったなと思い返し、流石に謝るのは不自然なので、すんでで玄咲は発する言葉を変えた。

 

「なんで、添い寝してるんだ」

 

「天気がいいから」

 

 答えになってるようななっていないような返し。玄咲が言うべき言葉を探している間に、

 

「んしょ」

 

 シャルナはごろんと大の字になって草むらに寝ころぶ。

 

 そして

 

 ギュ。

 

 手を、繋いでくる。

 

「……」

 

 結局玄咲は何も言わず、無言でその手を握り返した。シャルナもまた小さな手で、挟み込むように握り返してくる。2人で草むらに横になって、空を見上げる。

 

「私さ、こうやって、草むらに、寝転がるの、大好き。昔を、思い出すな……」

 

「俺は思い出す昔なんてないけど……それでも、幸せを感じるよ」

 

「うん、それでいいんだよ。幸せになって、いいんだよ」

 

「……うん」

 

 繋いだ手から無限の幸せが溢れ出す。夢のような時間が飽和し切らない。

 

「あったかい、ね」

 

「ああ」

 

「ふかふか、だね」

 

「ああ」

 

「幸せ、だね」

 

「ああ」

 

「――いい天気、だね」

 

「――ああ」

 

 木々のざわめきの向こう側に、どこまでもどこまでも青い空が広がっていた。

 

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