壁から飛び出したリンネはツイン・ジャックポットを乱射する。四人が散り散りとなり様子を伺う。
「この弾幕、当たれば無事で済むかどうか」
「関係ねぇ。あたしの間合いにすればいいだけだ」
「あははっ、部長の言う通り。ご主人様、お願い!」
"アカネは左、アスナは右、ネルは……"
「正面突破、だろ?」
"ああ!"
アカネ、アスナ、ネルの三人が動く。カリンにも指示を飛ばし、後方で待機させる。
弾幕をかいくぐって出てきたネルがツイン・ジャックポットを蹴り上げ、アカネとアスナがリンネの両手を撃ち、手から放させる。
不利と見て後退するリンネ。カチッという音が足元から聞こえ、地雷が爆発した。その隙にカリンの待つポイントまで先生を連れていく。
「ご主人様大丈夫? 無理してない?」
アスナの問いに大丈夫と答える先生。だが、額には汗が浮かんでいることから相当無理をしている。
(あいつ、先生を狙った割に攻撃してこねぇ。あたし達のことを探ってんのか)
ネルはリンネに違和感を感じた。全力の抵抗をしているように思えないからだ。どこか余裕がありそうな、それでいて普通を装う戦い方。先生の言うことが間違いじゃないとすれば、自分の勘が正しいとすれば、恐らく。
「まだまだだろ。そっちも本気でかかって来いよ」
カリンがネルの言葉に首を傾げる。
「コールサインダブルオー。流石だね」
ネル以外が顔を上げると、五体満足のリンネが正面に立っていた。ネル以外は有り得ないという表情を、一方のネルはどこか楽しそうな笑みを浮かべる。
「アンタもそうなってからが本番か」
「強い人としか戦ったことないからわからないけど、まだ乗り気じゃない」
「ハッ、言ってくれるぜ……!」
ネルの言葉を聞いてめんどくさそうに髪を掻く。落ちていた拳銃を拾ったと思うと先生に向けて撃つ。銃弾は見えない何かに弾かれたように飛んで行った。
「ダメか。そのタブレットがあるから先生は先生でいられるのか……」
彼女達は驚愕を隠せなかった。流れ弾や不運な出来事でもなく、明確な意思を持って撃てる。その行為に恐怖を覚える。銃を投げ捨て、リンネがネルに話しかける。
「私は素手でやる。いいでしょ」
「ナメてんのか?」
「なめてない、よっ!」
最初のターゲットはアスナ。アスナの顔面を潰そうと殴りかかるリンネに対し、アスナは素早くしゃがむ。
カリンの銃口がリンネを捉え、撃つ。銃弾を紙一重で避けたリンネはカリンの右腕を掴んで投げ飛ばす。
壁をぶち抜いたせいか土煙が舞い上がり、カリンの姿が見えなくなる。
「逃げろ先生!」
ネルの叫びに先生の体が動く。リンネに背を向けてカリンの元に向かう。アカネが先生の護衛に回る中、しゃがんでいたアスナの発砲とネルの銃撃がリンネに襲い来る。だが、リンネは銃弾を背中で受けた。
「ん~ん。肩が楽になった」
そう呟いて振り向いたリンネはアスナを捉えており、鋭い回し蹴りが顔面に直撃しそうになる。アスナはすんでの所で回し蹴りを避けて距離を取る。その隙に距離を詰めるのは、やはりネル。
愛銃と繋がれた鎖をリンネの左足に巻き付け動きを封じる。その行為にリンネがいらついた表情を見せた。
残る右足でバランスを取ろうとするも上手くいかない。もつれるように倒れ込むと、ネルはリンネを押さえつけた。
「あたしの間合いで勝てる奴なんざ誰もいねぇ。こっちの勝ちだ。大人しく先生の話を聞いてくれれば助かるんだけどな」
「聞くと思う?」
リンネはネルを振り払って奥へ逃げる。銃を持ってくるのか、逃げるのか。ネルが追いかけようとしたその時――
轟音と共に大量の爆弾が作動。廃墟の一部が崩れ落ちる。そして、ネルの横を掠める一発の銃弾。アスナが放った弾は巨大な鉄骨を支えるロープの一つに当たる。別方向からもう一発の銃弾。カリンの銃弾がロープに当たったことで鉄骨が落ちた。
巻き込まれたリンネが出て来る気配はない。リンネはワカモの時とほぼ同じようにやられた。
"皆、リンネを止めてくれてありがとう。"
「礼には及ばない」
「はい。ご主人様をお守りできてよかったです」
先生の言葉にカリンとアヤネが答える。アスナは先生にケガをしていないか確認する中、ネルはどうもスッキリしない様子だった。
"ネルも。頑張ってくれてありがとう。"
「あー、いや。そう、だな」
「ご主人様に褒められて照れてる! 可愛いー!」
「ばっ、おいアスナ!」
アスナが「逃げろー」と言ってネルから逃げ回る様子を見守る二人。先生は自分を守ってくれたアロナにも礼を言う。
"アロナもありがとう。"
「いえいえ、先生を守るのは当然のことです。プラナちゃんの代わりに、アロナちゃんが働きましたよー!」
先生を守れたことが嬉しいのか、舞い上がるアロナ。先生は瓦礫の山に近づき声をかける。
"リンネ、聞こえる?"
返答はない。気絶しているのかな。先生が一歩近づこうとした瞬間、瓦礫の山が一瞬にしてはじけ飛んだ。
バリアにより守られたが勢いで後方に飛ばされる。
「二回も同じやられ方したの最悪。ちょっとマンネリかも」
立ち上がったリンネはヘアゴムを解こうとするが、ゴムが切れてしまう。
「はぁ……気に入ってたのに」
ゴムを捨てたリンネは先生とC&Cに向き直る。この状態でまだ動けるのか。驚愕に染まる表情を見てリンネは笑う。
「ふふっ、なーに。そんなに不思議がることないじゃん。先生がいるからやめとこうって思ったんだけど、もういいかな」
先生に嫌われる。先生の前でそれはダメだ。先生の前で。先生、の、まえ?
…………くだらない。もういいや、殺そう。
「ミレニアム最強の実力はこんなもんじゃないよね? 私だけ傷ついてそっちが傷ついてないのは不平等だよ」
手首にスナップを利かせる。首を左右に回す。ジャンプして体を整える。リンネは準備を終え、五人を改めて見据える。
「第三ラウンド。今度は本気でいくから」
そう言ったリンネは先生を見て言う。
「生徒の為になら、命張れるよな?」
次回、エピローグ。
第一章、『失った自分、先生が残した傷跡編』完結。