生徒のためなら、私はなんだってする。異なる世界から来た生徒も拒まない。生徒であれば、誰でも受け入れる。
そんな理想論を掲げていられるのも今の内だ。七囚人のような生徒も、大人に利用された生徒も、全員が先生の味方。反吐が出る。
先生はいつまで先生でいられるのか。キヴォトスが滅ぶ時まで? リンネに生徒が殺される時まで?
腕の一本、足の一本失った所で、生徒の為だと歯を食いしばって止まらない。ならいっそ、首だけにしてしまおう。生徒の首と先生の首。繋げればいつでも一緒。
先生は、どこまで抗ってくれるのかな?
C&Cの面々はアイコンタクトもせずに先生の護衛を選択した。理由などない。ただ純粋な恐怖と死が襲い来るであろうと直感で感じた。
あまりのプレッシャーに声が出ない。
(さっきまでと全然違う。圧が半端ねぇ……!)
ネルがリンネを見据えるより早くリンネが動く。アスナの顔面を蹴り、カリンの腹部を殴り、アカネをドロップキックで吹き飛ばす。あまりの速さに先生とネルは困惑する。
リンネに隙を見せたのが仇になった。ネルはいつの間にか首を鎖で絞められていた。
「がっ、あ――」
「先生、大人しくしないとネルさんが死んじゃうよ?」
アスナもカリンもアカネも動ける状態じゃない。エージェントである彼女達が一撃でやられるはずがない……!
「先生!」
上空から聞こえる声。顔を上げると、パワードスーツを身に纏う少女が降り立つ。C&Cの五人目、飛鳥馬トキがアビ・エシェフを装着した状態で現れた。
「一体、何が起こって」
"あの子を止めてくれ!"
叫ぶ先生。トキの視界に映るのはネルの首を締め上げる少女。状況を理解した彼女は戦闘行為に移る。
両腕のトライ・ポッドを連射して視界を遮る。ネルを抱えて近くの廃ビルに身を隠す。
「大丈夫ですか、ネル先輩」
「げほっ、ああ。悪いなトキ」
ネルはリンネの気配がないことを確認して壁にもたれる。
「あいつ、あたし以外一撃で倒しやがった」
「一撃で……?」
トキはまだC&Cとしては浅い。彼女達のことはまだわからないが、一撃で倒せるような相手じゃないのは確かだ。
「見つけた」
壁から声が聞こえた。二人はそれを認識するまでもなく吹き飛んだ。リンネが構えるのはツイン・ジャックポット。走りながらネルに向けて撃つ。
ただ闇雲に撃っていない。全弾命中するように考えて撃っている。約束された勝利という象徴をボロ雑巾のように潰す。
ボロボロになったネルが落ちていく。リンネは銃を置いて飛び上がる。右足を大きく振りかぶり、ネルにかかと落としを決めた。
ネルは轟音と共に地面に叩きつけられた。地面には大きなひび割れができており、中心は陥没していた。血を吐くネル。体が動かせない。真正面から策も無しに負けるなんて、認めたくなかった。
「ク、ソ……ッ」
ネルは意識を手放した。
トキはアビ・エシェフの装甲が無事なことを確認してネルに加勢しようと考えていた。彼女のことをトキは知らないと言っていい。だが、放っておくとどうなるかは明らか。
風が吹いた。そう思い左を見ると、トライ・ポッドがなくなっていた。
ガツンと重い一撃。ポッドで殴られた。体勢を崩したトキを掴み、右のポッドもちぎる。両手に鈍器を持ったリンネは容赦なくトキを痛めつける。
主砲を発射する暇もない。視界が歪み、腕や足に力が入らない。体の中まで傷付けられる感覚。ポッドが血に染まってもなお続く。暴力の範疇を超えた行為に、トキは屈するほかなかった。
「あなた、は。一体――」
ぐしゃりと嫌な音を立て、トキは沈黙した。
♢♢♢
C&Cを蹴散らしたリンネは先生が待つ場所に歩いていた。あの場所から動いていないだろうという確信。理解が追い付かないほどの恐怖。それをまじまじと見せられた先生のことを思うと…………ゾクゾクする!
「せんせーい! どこですかー」
"リンネ…………。"
リンネは先生に駆け寄って抱き着いた。突然のことに戸惑う先生。リンネは先生に頬擦りをして離れる。
「大人のぬくもりってこんな感じなんだー。へー……」
"リンネ。私がここに呼び出した理由はわかるよね?"
「? 矯正局に連れていくつもりだった。後は、反省させようと考えていた。この二択ですか?」
考えが読まれているわけではないのに、震えが止まらない。こんなに身構えるなんて初めてだ。
"私は信じているから。"
その言葉を聞いたリンネの表情が変わる。先生を見る目が冷たくなる。
「あははっ、ははっ、あっははははははっ!!!! 本当に面白い……」
急にどうしたのかと思った瞬間、リンネは先生の胸倉を掴んでいた。
「お前のせいだ。全部、お前のせいでこうなったんだよおっ!!」
リンネの気迫に押される先生。そんな先生をよそに、リンネは話を進める。
「奪われて、弄ばれて、死にかけて。本当に助けて欲しい時は誰も助けに来ない。エデン条約の時に実感した。私は人間以下のゴミなんだって! 大人が助けてくれる? 先生がいるから大丈夫? そんな言葉に縋った末路が私なんだよ!」
本心を吐露する。今まで言ってやりたかった沢山の言葉をここで言う。
「狐坂ワカモとか相手にしてるから上手くいくって考えてたの? あんたが思う以上にこの世界は腐ってんだ。自分なら世界を、キヴォトスを変えられる。悪い大人の魔の手から逃れられる。子供に明るい未来を与えられる。……軽蔑するよ、先生」
「先生のことは好きだから。初恋だよ、初恋。恋って言っても、そんじょそこらの恋とは違う」
胸倉を放すリンネ。先生の顔に右ストレートが飛んできた。ただ、殴るのではない。優しいタッチ。
「これは宣戦布告。先生を敵に回すのはキヴォトスを敵に回すのと同じでしょ」
先生の言葉を待たず踵を返すリンネ。その背中に先生は問いかける。
"君は、何者なんだ?"
「私ですか? 改めて自己紹介しますね。転廻リンネ、ゲヘナ学園の二年生。所属は輪廻転生部です」
体をくるりと回して先生に向き直る。
「どうかよろしくお願いします」
先生に一礼したリンネはバイクに乗って帰った。
「先生……」
アロナのつぶやきを隠すように、先生は空を見上げる。
雲一つない空に、黒い雲が影を作っていた。
第一章、完結!
この章ではリンネという少女の狂気を存分に出すぞということを念頭にしました。というより、まだ誰も曇ってねぇぞ、作者ぁ! と思われている方もいるかと思います。
安心してください、ギアはまだまだ上がります。それと共に作者のハードルも上がります。二層構造ですね!
転廻リンネのことをどう思っているかは皆さんそれぞれだと思います。裏切られ続けた結果、彼女は変わってしまったのです。先生はそんなリンネを救いたいと躍起になっています。だってワカモとかミカを相手にできたから。自負があるわけではない。いつも通りの対応をしているだけ。
そんな常識が通用しないのがリンネという少女なんですね! 先生には突っかかり、生徒には愛想を振りまく。たまにどっちもやってのける。いい子いい子、偉いね。
リンネは先生を憎むというよりキヴォトスを憎んでいます。キヴォトスを破壊してどういった世界にしたいのか。それは彼女自身にもわかりません。というより、このまま進めば学校間での戦争が起きます。
政治的な問題が後を絶たず、ゲヘナ学園VS全学園なんて構図にもなりかねません。さあ大変。先生、何とかして。
とにかく、まずは遅れた分の更新ができるように頑張ります!