目が覚めると、ソファに横になっていた。起き上がろうとするも、体が重くて起きられない。目だけを動かして状況を把握する。
「先生、大丈夫ですか?」
先生に声をかけたのはセリナ。先生に起きた不調を察知して来たようだ。だが、声を出すことも辛く、返事もできない。未だに震えが止まらない先生の手をそっと取る。
「辛かったんですね。大丈夫ですよ。私がいますから」
先生はその言葉を聞いて安心したのか再び目を閉じた。
♢♢♢
セリナが安心して先生の側を離れると、銃を向けられた。
「あなたは?」
「転廻リンネ」
転廻リンネ。その名前には聞き覚えがある。情報収集をしていた時に目にしたからだ。なぜこんなことをするのか。セリナは警戒を怠らず尋ねる。
「なぜって? 理由なんてないけど……先生の近くにいればあなたが出てくるでしょ」
「狙いは私ですか」
誰も狙ってないよと言い、リンネは銃を下ろす。自由になったセリナはゆっくりリンネの方を向く。
「先生には手を出さないでください」
「わかってる、そんなことはしない。ただ」
先生のイスに座ってリンネは一言。
「いつかは手が出るから、その時はよろしく」
セリナが意味を聞こうとした時にはリンネの姿は消えていた。今まで見たのは何だったのか。幻覚?
いや、そんなはずはない。確かに彼女はここにいたし、銃を向けられていたこともわかる。言い表せない状況にゾッとしつつ、先生の看病を続けた。
♢♢♢
先生が再び目を開けると、セリナがすやすやと眠っていた。時刻は深夜三時。長い時間寝てしまった。皆に迷惑をかけていないだろうか。そう思い、モモトークを開く。
幸い、そこまで酷い状況にはなっていない。セリナを起こさないようにソファを離れ、コーヒーを買いに行く。
"セリナのお陰でだいぶ調子が良くなった。"
後でお礼をしなきゃと考えていると自販機には先客がいた。
「あれ~。先生」
"ホシノ!? どうして……。"
「いやー先生に何かあったらどうしようって思って飛んで来たんだ。腰が痛いよ~」
先生にコーヒーを投げ渡すホシノ。「ナイスキャッチ~」という緩い声が聞こえた。一口飲むと、いつも以上に苦い味がした。
"苦いね。"
思わず口に出る。
「…………先生。その様子だと、何かあったみたいだね」
毎度ホシノには驚かされる。図星だと言うように頭を掻きながら目を見る。
"こんなことを頼むのは変だと思うけど、私の相談に乗ってくれるかい?"
「いいよ。先生の頼みだし」
先生はホシノと近くのイスに座る。少し間を置いて話始めた先生は、段々と深刻な表情をするようになった。リンネの話題になるとそうなることをホシノはわかっていた。
「リンネちゃんがそんなことしてたんだね。ショックだよ」
ホシノは顔を背け言葉を詰まらせる。それもそうだ。明確な殺人を犯した今、キヴォトス全土を敵に回すのも時間の問題。解決策もない今、どうしようもない。
「でもさ、先生。日常も大切にしなきゃ」
ホシノがイスを寄せて先生の腕に頭を当てる。普段なら注意する先生も、この時ばかりは注意しなかった。ホシノの温もりが、とにかくありがたかった。
"ありがとう。"
先生の呟きは、空気に消えた。