私の前に現れたのは黒舘ハルナ。美食研究会の長がなぜこんな場所にいるのか。私が聞くより先生が聞いた方がよさそう。
"ハルナ、どうしてここに?"
先生の問いにハルナは答える。
「美食のためです。最高級のキノコが採れると言われている場所がここですから」
ハルナは私と便利屋に視線を移す。冷静な私をよそに便利屋は緊迫した面持ち。
「意外な組み合わせですね」
「そ、そうね。意外な組み合わせよね!」
(どうしようどうしよう……確かあの人、美食研究会の人だったはず。ここは冷静に考えて逃げるべきなんだけど、体が動かない……!)
アルは見栄を張っているがとてもそうに見えない。
そもそも、ハルナは急場しのぎの言葉で何とかなるような相手ではない。下手をしたらこちらが痛い目を見る。
「キノコは見つからないと思うよ。温泉開発部がこの先に洞窟を掘ったから」
「そうですか。ところで、先程私に聞いたこと、あれはどういう意味で言ったのでしょうか?」
あくまでもシラを切るつもりのようだ。まあ、今この話はどうでもいいが。
昔のことを覚えていない時点で反省の色は見られないのは確か。給食部には責任はない。悪いのはコイツらだ。
「さっきの話はなしで。今からゲヘナに戻るけどどうする?」
「せっかくなのでご一緒したいですが、キノコを見つけなければならないので」
ハルナは車の脇を通る。先生が気を付けてと言うと、ハルナは少し嬉しそうに返事をした。
足音が遠ざかり、車が残された。アルは脱力して座り込む。
「た、助かった……。ありがとうリンネ。先生も。二人がいなきゃ今頃どうなっていたか」
"気にしないで。後で私も誘われるから。"
ハルナの急襲を何とか躱した私達は車を走らせた。
便利屋の騒がしいやり取りを聞きながら考える。なぜハルナがこんな所に現れたのか。美食のためと言えば聞こえはいい。目的があるとしたら先生の奪取。
先生と共に美食を楽しむのがあいつの目的であり、信念でもあるなら。考えられなくもない。
"リンネ、何か考えごと?"
「先生は美食の奴らとは仲がいいの?」
"そうだね。仲がいいというより、付き合ってるって感じかな。食べ歩くのは楽しいし。"
どっちも変わりないだろ。文句を言いたくなる口を押えて窓の外を見る。
もうすぐゲヘナに着く。ヒナが救出されていないとありがたい。神頼みなんてしたくないけど、今だけはそんな気分だった。
美食の他の連中もいないなら好都合だ。こんな茶番、終わりにしよう。