カイザーコーポレーション。キヴォトスに深く関わる企業。色彩の一件で倒産しかけたが回避。不知火カヤと手を組んだものの失敗。現在は特に動きを見せていない。
民間軍事会社であるカイザーPMCもその一つ。転廻リンネがふらりとやってきたことが始まりだった。
「おじゃましま~す」
誰も居ないエントランスにリンネの声だけが響く。大きな扉が開くと、黒いオートマタが隊列を組んで出てきた。先頭に立っていたのは黒いスーツを着たロボット。誰だか知らないので役員と呼ぼう。
「ここに何の用だ。子供が気軽に入る場所じゃないぞ」
「強力な武器が欲しいから来ました。本部の人に無断で強力な兵器を作ってるって、風の噂で耳にして」
リンネの言葉に首を傾げる。なぜ自分以外知りえないことを知っているのか。だが、そんなことはどうでもいい。
「大人の取引の邪魔はしないでもらおうか」
オートマタが役員を守るように前に出て、撃つ。
リンネは銃弾を躱さずに受け続ける。さっきは上手くいかなかったけど、壊していいよね。
ヘアゴムを外しサイドテールを解くと、隠れた角が姿を見せる。右手首にゴムを巻いたリンネは右足に力を入れて一歩踏み出す。
音もなく眼前に迫ったリンネはオートマタの反応を超えた速度で拳を振りぬく。勢いを付け過ぎた拳は役員とその前後のオートマタの顔面をぶち抜いた。
「!??!???!!!」
素早く腕を引き抜き、左右のオートマタの腹部を蹴り上げる。オートマタは反応しない。いや、できない。人間の動きを超えた速度に、処理が追いつかない。
頭をボールのように扱い銃を破壊。壊れた体の一部で攻撃。普通ではしないことを平気で行える。それでいて理性がある。この様子を見れば、誰もがリンネを恐れるだろう。
残り一体も首を折って頭を潰したことで処理が完了した。役員を最初に壊したのは困ったけど、探せばいいだけの話。
「ん~~はぁ」
背伸びをして気持ちを切り替える。サイドテールに戻し、武器探しを始めた。
♢♢♢
「これが、強力な兵器……」
階段を使って地下に行くと、強力な武器が並んでいた。
アサルトライフルにスナイパーライフル、グレネードランチャーにロケットランチャー。ありとあらゆる銃がそこにあった。
地下室のドアを開けると、使われていない車もあった。荷台に全ての銃を載せてバイクも回収。久しぶりに部室へ行こう。
部室に銃を置く。部室が広くて助かった。バイクは部室の外にあるから、いつでも運転できる。
使えない銃は山のようにあるけど、いつか活用できるかな。
まずは銃の整備からしよう。
「終わるかなぁ、これ?」
一日で終わりそうにないかも。
♢♢♢
銃の整備を三分の一終えたので学園を出る。一応、襲われないように拳銃を持ち歩くことにした。
選んだ拳銃は
結局使うことなく家に到着。階段を上りドアを開けると
「こんばんは」
狐坂ワカモが居座っていた。
「なんでいるんですか?」
「簡単なことです。あなた様を傷つけた、その報いを受けてもらうため」
私は信号機に飛び乗った。仮面に隠れた表情は見えないけど……もしかしてこれ、怒ってる?
(広い場所行くか)
なるべく家から遠くにワカモを誘導していく。丁度いい場所に工場の跡地があったので降りる。
ワカモはクレーン車の上に着地して私を見下ろす。
「手刀で気絶させた程度で本気になってるんですか?」
「私の愛を受け取ってくれたのですから、当然」
それ以前に――と、銃を向けられる。
「まだお返しをしていません」
リンネはドラム缶を盾にする。だが、ワカモの放つ銃弾は易々とドラム缶を貫通する。防戦一方は不可能。素早い判断を下し、その場から離れる。
あんなものを被りながらよく狙えるな。
心の中で愚痴を言いながらも、次の戦術を考える。ワカモの襲撃はリンネにとってイレギュラーな案件。想定外だった。
積まれていたブロックをワカモに投げながら距離を詰める。ワカモはここまでブロックを飛ばせることに驚きながらも、慌てることなく撃ち抜く。
「――ッ」
ワカモは気づく。リンネが視界から消えている。どこに――
その答えは、真下から響く轟音にかき消された。
「いったあ~~。右手超痛い~」
右手をブラブラさせ、息を吹きかけるリンネ。
クレーン車のクレーンを殴り、車自体を横転させる。その名も、ワカモを地上に引きずりおろす作戦。
地響きが起こり、土煙が舞い上がる。土煙で視界を遮ったせいか、ワカモの姿が見えない。
「失敗!」
「…………そうですわね」
短剣が喉元に突き立てられる。リンネはワカモが背後にいることに気づけなかった。
「動いたら刺します」
「銃で牽制すればいいのに」
「無駄口を叩くのはそこまで。私」
ズドン、という音とワカモが腹部に激痛を感じた瞬間、壁に吹き飛ばされていた。プレスプロミネンスでワカモの腹部を撃ったからだ。土煙は一瞬にして晴れ、威力の高さが伺える。
「し、痺れる。これ強すぎない?」
流石は最強。こんなものを作っていたなんて、カイザーもやるね。これで無改造ってすごいなー。
独り言を言いながらワカモに近づくリンネ。トレードマークである狐の面はひび割れ、透き通った顔を覗かせていた。
「可愛いじゃん」
「黙れっ!!」
ワカモは強い力でリンネを引き寄せ、柱に叩きつける。コンクリートの破片が舞うのも厭わず、銃を乱射する。
逃げ出そうにも逃げられないリンネは崩れる建物の中に飲み込まれた。
楽しい時間ほどあっという間に過ぎる。辛い時間ほど長く感じる。生きてきた中で私が感じたことの一つ。
それは世界の心理でもなければ絶対でもない。楽しい時間と辛い時間。普通は波があるはずだけど、私にはそれがなかった。
心配されることもない。助けてくれることもない。少女達が青春を謳歌する裏側で、大人にも子供にも利用され、青春を送ることさえできない異物。
そんな私は、この先、生きていけるのか。不安を口にすると止まらない。考え出すと眠れない。私は無意識のうちにストッパーをかけていたと思う。
ありえないと、大丈夫だと。でも、現実は甘くない。思う通りにはならないし、生きることも難しい。
自由と混沌。この言葉に惹かれてゲヘナ学園を選んだのは、間違いだったのか。
このまま目を閉じれば、眠れるかな。そう考え、目を閉じる。
自由に生きていいのなら。何をしても許されるのなら。
――ありがとう、狐坂ワカモ。私に、チャンスをくれて。
「…………」
崩れた建物からリンネが出てくる気配はない。先生を守るなら手を汚してもいいと思ったが、踏みとどまる。先生に触れる手は綺麗でなければならない。自分を受け入れてくれた人だから。
微かに漂う血の匂いが、戦闘の激しさを物語る。崩れた建物を背に、ぽつりと零す。
「あなた様。今――」
体が引きつる感覚。振り向けば、血まみれのリンネの姿があった。
「いやー、本気になれる機会が全然なくて。小鳥遊ホシノは上手くいかないね」
ヘアゴムを右手首に巻き付ける。サイドテールが解かれたことで残った一本の角が現れ、ワカモは確信する。
先生を侮辱した生徒。偶然か、必然か。そんなことはどうでもいい。今はただ。
「申し訳ありません、あなた様。このワカモ、今だけは」
「黙れよ女狐」
リンネの口調が変わる。
「うるさいんだよ」
リンネはワカモの懐に入り込んでいた。銃底で頭を殴り、頭部に一発。よろけたワカモの脇腹に鋭い蹴りを叩き込み、くの字に折れ曲がった体を引き寄せ顔面を殴る。
ワカモは抵抗を試みようとするが、それすら敵わない。攻撃の速度、重さが違う。急所を的確に狙うことで自分のペースに持ち込む。
ワカモが地面に倒れるが、胸倉を掴んで無理矢理起こす。腹部に一発、両足に一発ずつ、顔面に一発撃ちこむ。クレーン車の背後まで引きずり、ワカモの頭を掴んで何度も叩きつける。
頭が潰れるような鈍い音が響くが構わず続ける。ワカモがぐったりとし始めると殴り、蹴飛ばし、意識を失わせない。
叩きつけていた部分がひしゃげ、ワカモのヘイローが消失する。舌打ちをしてワカモを放す。気絶したワカモに馬乗りをして銃身で殴りつける。
何度も何度も殴りつけたから、殴れる部分が無くなった。本当は殺したくてたまらないけど、仕方ない。
「二度と来るなよ女狐」
そう言って私は家に帰った。
♢♢♢
一日ぶりのお風呂は最高だった。家に帰るまでに傷が塞がって、もうどこも痛くない。鼻歌を歌いながら頭と体を洗う。久しぶりに本気で戦ったことが嬉しい反面、強すぎて殺せないのが惜しい。まあ、食後のデザートってことで強い奴は後回し。
お風呂から上がりメモ帳を開く。強い奴の欄に狐坂ワカモを追加。パジャマに着替えてモモトークを開き、先生にメッセージを送る。
『先生、手荒な真似をしてごめんなさい。』
『ゲヘナ学園の近くにある工場跡地で人が倒れています。』
『近づいたら七囚人の一人だったので怖くて先生に連絡しました。』
『おやすみなさい。』
♢♢♢
「……………………ぃ」
「せ…………だい……!」
ゆっくり目を開けると、アビドスの皆が私を取り囲んでいた。
"どうして…………。"
「どうしてじゃないわよ! ホシノ先輩もリンネさんもいなくて探してたら、二人とも倒れてて!」
セリカが手短に状況を説明する。先に起きていたホシノは窓から外の様子を眺めていた。
「ホシノ先輩にリンネさんのことを聞いたんですけど、答えてくれなくて」
ノノミが困った様子で私を見る。ふらつきながらもなんとか起き上がり、ソファに座る。
あの事を話すわけにはいかない。皆に知れ渡れば大変なことになる。大人が責任をもって対処するべき問題だ。でも――
ホシノは言うだろうか。彼女を野放しにするのはキヴォトスの危機になると理解して。
「みんな」
ホシノが振り向く。対策委員会の面々はホシノの真剣な表情を見て顔を強張らせる。
「リンネちゃんのことに、私達は関わらないってことでいいかな?」
「どういう意味?」
シロコが問いかける。どうして? と、困惑の表情が見られる中、ホシノが話を進める。
「リンネちゃんはすごい力を持ってる。先生の指揮があっても勝てるか怪しい。でもそれより、皆のことを巻き込みたくないって気持ちの方が大きい」
「おじさんのわがままだけどね」
ホシノの言葉に誰も言い返せない。でも、ノノミだけは違った。
「またですか」
「そうやって、巻き込みたくないから遠ざけて、一人で抱え込んで。最後には私達にも先生にも黙って止めに行くつもりですよね?」
「ノノミちゃん」
「いくらホシノ先輩でも許せません。やるなら皆でやりましょう。シロコちゃん達とホシノ先輩を助けたように、ホシノ先輩達とシロコちゃんを助けたように」
そうだった。ホシノはノノミの表情を見て思い出す。
誰かを助けるときは、必ず誰かが欠けていた。五人じゃなくて、四人。
「……そうだね。私、もう一人じゃないんだ」
顔を上げる。何をしている、立ち止まるな。生徒が前を向いたなら、私も前を向くべきだろう。私が大人でいる限りは、生徒を守るのが使命であり、義務だ。
"皆にお願いがある。"
立ち上がり、対策委員会の面々に告げる。
"リンネのことは、シャーレで処理したい。だから――"
「その時は連邦捜査部シャーレ所属の生徒として動いて欲しい、でしょ?」
ホシノは先生のお願いを看破していた。となると、四人も異議なしか。
「ん、リンネを追い詰める」
「シロコ先輩、それはちょっと違う気が……」
「でも、やることは変わらないでしょアヤネちゃん」
リンネのことばかりに気を取られてアビドス自治区の問題を疎かにはできない。もしもの時はシャーレ所属の生徒として行動してもらう。
そうすることで、自由な行動が可能になる。リンネを止めることもできる。
「先生はこれからどうするの?」
"私は一旦シャーレに戻る。連絡がつかないって大騒ぎだからね。"
ユウカに連絡を入れてヘリで迎えに来てもらうことにした。体は限界。休まなかったせいで動けそうもない。
数分後、ヘリの音が聞こえてきた。
「先生! 心配したんですよ! 早く乗ってください!」
外に出た私を待っていたのは、ミレニアムサイエンススクールの制服に黒いブレザー、ツーサイドアップの髪が特徴のセミナー所属の生徒、早瀬ユウカだった。
「燃料がなくなりますよ。急いで!」
ヘリに乗り、アビドスの皆にしばしの別れを告げる。行き先はシャーレ。
(リンネ……)
先生は決意を胸に、地獄へと足を踏み入れていく。
ここからは、先生のターンです! 頑張れ、頑張れ。