目が覚めると、部屋は暗くなっていた。時刻は午後十時。疲れていたのか、相当な時間眠ってしまった。
シッテムの箱を起動。モモトークを開いて、生徒からのメールを確認する。心配してくれた生徒全員には送ったけど……。ふと、指が止まる。リンネからメッセージが来ていた。
内容を読んだ先生はシャーレを飛び出す。
七囚人。思い当たるのは二人、ワカモかアキラ。どちらにせよ急がなければ。工場の跡地に辿り着いた先生はリンネを探す。
"リンネー!"
呼びかけるも返事はない。少し奥へ進むと、人影が見えた。
"ワカモ!"
ワカモが倒れていた。介抱しようとすると、生温かい感触があることに気づく。血だまりはゆっくりと広がって、先生を染めていく。
今から連絡しても間に合うか怪しい。
「……………………ぁ、あなた、さま?」
ワカモが目を薄く開ける。
「もう、しわけ……ございません」
"私は大丈夫だから。"
その言葉を聞いたワカモは再び眠りに落ちる。顔色は青白くなっており、止血しなければ命が危ない。
ワカモをお姫様だっこする。
"アロナ、ゲヘナ学園まで最短ルートで行きたい!"
「了解しました!」
アロナに指示を入れ、声に従う。頼む、間に合ってくれ……!
♢♢♢
氷室セナ。青い制服にエプロンとナースキャップが特徴の救急医学部の部長。救護室の整理をしていた彼女は乱暴に叩かれるガラス戸を開ける。
そこには、血まみれになった災厄の狐と先生の姿があった。
"セナ。彼女を、助けて欲しい。"
先生の言葉にセナは肯定も否定もせず応急処置を始める。状況も事情も知らなくていい。今はただ、大切な生徒を失うことが怖い。
一時間後、セナはふぅ……と、息を吐く。
「応急処置が完了しました。詳しくは診てもらわないとわかりませんね。特に頭部の損傷が酷い」
救護騎士団の方にも連絡を入れておきます。そう言ってセナは救護室を離れた。
安堵した先生は壁にもたれかかる。
「ご機嫌いかがですか、先生?」
顔を上げると、リンネが立っていた。ずっと見ていたのだろうか。先生はリンネに問いかける。
"リンネ。ワカモが誰かに傷つけられたんだ。あの時はぐらかしたのは、図星だったからかい?"
「そうですねー。私の友人がついカッとなって殺しちゃったのを、私が庇っているっていうのが正解です」
"友達は今どうしてるの?"
「行方不明です」
先生は少し考える。行方不明になった友達を庇うのは不自然な事じゃない。今までのこととワカモのことに何の関係があるのか聞こうとした時、リンネの姿が消えてセナの声が聞こえた。
「先生? どうされました?」
"いや、なんでもない。"
先生は立ち上がり、ワカモの看病を申し出たが、きっぱりと断られた。
先生はシャーレに戻り、リンネを呼ぶ。
「お呼びですか、先生」
先生は真剣な表情をして、リンネに今までのこととワカモのことは関係があるのか尋ねた。
「関係ないです。ワカモさんって言うんですね、あの人。ものすごく強い人に襲われたんじゃないですか?」
リンネははぐらかさず答える。日を置いたから素直になったのだろうか。それとも――
いや、勘ぐるのは良くない。大人同士の会話ではなく、生徒と大人の会話。あまり関係をこじらせたくない。
"ねえ、リンネ……?"
姿が見えない。さっきまで確かに目の前にいたはず。仕事の疲れか、徹夜のせいか。そう結論づけた先生は久しぶりに自宅で寝ることを選んだ。
♢♢♢
リンネが学園に行くと、駐車場に大きな穴が開いていた。周りには三角コーンが並べられており、立ち入りができない状態になっていた。
白衣を着た小柄な人が捕まり、その様子を仲間が黙って見つめていた。
犯人は温泉開発部の部長、鬼怒川カスミ。温泉開発の名目で爆破したのだろう。
その様子を見ていると、まだ欲しい武器があったことを思い出した。火炎放射器とレールガンの二つだ。
これはチャンス。どうせ私しかいないから、掛け持ちしても文句は言われない。
色々会いたい人もいるし……行動は計画的に。リンネは怪しく笑った。