ゲヘナ学園の特別牢。温泉開発部や美食研究部が連行されている場所だ。水道とベッドしかない簡素な牢獄。その一番奥でカスミが床に堂々と座っていた。
私はカスミに声をかけた。
「鬼怒川カスミさん、ですよね。お話いいですか?」
ヒナに頼み、カスミと会わせてもらえることになった。時間は指定しないけど、あまり長く話さないようにと警告を受けた上で、だけど。
「ん? 君は確か、輪廻転生部の転廻リンネ、だったか?」
「単刀直入に言います。私を温泉開発部に入れて下さい!」
そう言って頭を下げる。
「顔を上げてくれ。温泉に対する愛が深いのなら構わない、むしろウェルカムだ!」
そう言って立ち上がるカスミ。白衣の袖から手を出すと、私と硬い握手を交わした。
「これからよろしく頼むぞ、同士よ!」
「はい、よろしくお願いしますカスミさん!」
♢♢♢
温泉開発部に入った私は、ヒナやその他の風紀委員に見つからないように隠れて活動していた。
正直な所、目的のために活動することが案外悪いことではないというのに気づいた。メグにその話をすると、彼女はこう答えた。
「私も先生の為に温泉を作ったことがあるからわかるよ。すっごく楽しいよね!」
活動を始めて一週間が経った頃、温泉を掘り当てた私達は順番に入り親睦を深めた。
♢♢♢
私はメグの火炎放射器を預かっていた。調子が悪くなったらしく、信頼を置く私に整備を依頼したのだ。
銃の整備や改造は今までやったことはあるが、火炎放射器は初めてだった。苦戦しながらも何とか整備を終わらせる。部室から待ち合わせ場所の駐車場へ行くと、二人が待っていた。
「メグさーん。直りましたー」
メグにお礼を言われ上機嫌になる私にカスミが言った。
「リンネ。君は本日付けで温泉開発部を脱退してもらおう」
急な発言に戸惑う。
「なんで」
「皆まで言う必要はない。私は君のことを見ていたが、ここにいては少し不便だろう。新天地へ羽根を広げることで見えなかったものが見えるというわけさ」
私を成長させるために、わざと……? 懐の深さに感激しながら言葉を待つ。
「さっすが部長!」
「ハーッハッハッハッ!! 私達はこれで失礼する。後は頼んだ!」
私を置いて逃げる二人。何が起きたのかわからず呆然する私に、背後から声がかけられる。
「ここで何をしていたの、リンネ?」
「あ……ヒナ委員長」
ヒナだ。もしかして温泉開発部を追って来たのか。だとすれば私は、囮……?
「温泉開発部に入ったそうね。あの様子からすると、私から逃げるための囮に使われたと」
「そう、みたいです」
裏切り。またやられた。
「温泉開発部にいてどうだった?」
「いえ、特に感じたことはないですけど……何かこう、目的のために動くのはいいなって。楽しいなって思いました」
「そう」
ヒナはそう言って歩き出す。私を罰するつもりはないのか?
「あの! 私を捕まえるんじゃ」
その問いに答えることなく駆け出すヒナ。私はヒナの姿が見えなくなるまで、その場を動かなかった。
部室に戻る。床に大の字で寝転び、天井を仰ぐ。
ヒナの行動に疑問は残るが、私の目的は達成された。火炎放射器の複製。これをどうしても手に入れたかったから温泉開発部と接触した。仲良くなったつもりはない。
でも、物足りない。手榴弾もあるし…………そうだ! 起き上がり、火炎放射器とガラクタを手に取る。
改造。生きるために銃の整備と同じように磨いてきた技術。その真髄の一部をお見せしよう。
まずはタンク作りから。メグは大きい円筒形タンクを背負っていたけど、そんな非効率なことはしない。小型のタンクを二つ繋げ、それを上向きにしたホースに連結させる。銃部に手榴弾が三個ずつ入るケースを両サイドに取り付ける。
意外と簡単にできた。名前はどうするか。
火炎放射器はザ・ファイヤー、手榴弾はザ・ボム。これでいいや。
「完成」
一時間弱で完成した私の火炎放射器。これを使ってどう遊ぼうか。ただ燃やすだけじゃ面白くないし、爆発するだけなのもつまらない。
せっかくだし、温泉開発になぞらえて使いたい。
「さってとー次はー」
メモ帳を開く。ミレニアム→矯正局と書かれていた。