オリシュモンッ!! 異世界転生者の魂が超進化した完全体デジモンだ! 必殺技は空想の剣製《テンプレイト・フィクション・ワークス》!! 作:GT(EW版)
──噂をすれば、何とやら。
その機会は早くも巡ってきた。
夕日が沈み、外は既に闇に落ち──我が店が本日の営業を終えた頃のことだ。
皿洗いも程々にシャッターを閉めようと厨房を離れた時、その者の気配は私の前に現れた。
「……姿を見せるといい。そこにいるのは理解っている」
おもむろにシリアスな表情を作った私が、そう言って殺気を放つ。これも手に垢のついた状況であるが、隠れている敵の存在に勘付き、毅然とした態度で呼びかけるシチュエーションは幾つになっても気分が良いものなのである。
……言っておいてなんだが、誰もいなかったら大分恥ずかしい奴だが。
しかしこれでも私はこのデジタルワールドで幾度と無く修羅場を潜り抜けてきた身だ。何者かは知らないが自分のテリトリーに忍び込んできた稚拙なステルスを見破るぐらいには、この勘は鈍っていなかった。
特に夜はバケモンを筆頭にゴースト型デジモンが跋扈する時間帯だからな。この村に住んでいる以上、大多数のデジモンたちは掟を破ることはしないが、それでも一部の者がハメを外して他の住民を脅かしたりするのはこの村の日常風景だった。
「……っ」
私の呼びかけに対して、ハッと息を呑む音が聴こえる。やはり、いたか。
あわよくばシラを切り通そうとしたのだろうが、それでも私が気配に対して揺るがぬ視線を浴びせ続けていると程なくして観念し、侵入者はその姿を天井の灯りの下に曝した。
「……ほう」
そこに現れた姿を一目見て、今度は私の方が思わず息を呑む。
主導権を渡さないように外面は不敵な態度で出迎えていたが、この時の私は内心少なからず動揺していた。
だがそれも仕方あるまい。
何故なら私の前に現れた気配の主は、私が当初想像していた悪戯好きなゴースト型デジモンではなく──どう見てもデジモンではない、年端も行かない「人間」の少女そのものだったのだから。
その華奢な姿を現した一人の少女は、ヒラヒラと両手を上げながら降参のポーズを取った。
「参ったわ……ここに来るまで誰にもバレなかったのに。私の姿、ちゃんと消えてたわよね?」
「ああ、消えていた。しかし私は臆病なデジモンでね。戦闘中ならばいざ知らず、得体の知れない存在が己のテリトリーにあっては気づかぬ筈も無いさ」
「臆病なデジモン、ねぇ……本当にデジモンなんだ」
歳の頃は十代半ば……中学生ぐらいだろうか。150センチ弱の身長と言い、確かに「子供」ではあるがガジモンたちの噂に聞いていたより少し大きい。
それに、噂では頭にゴーグルを掛けていると聞いたが……腰まで届く長さの赤みがかった黒髪をおさげに結んだ姿が印象的な彼女の頭に、ゴーグルはなかった。
……或いはガジモンたちが噂していた子供とは、別人なのかもしれない。
だがそれは、私にとっては関係ない話だ。今の私にとって重要なのは、目の前の人間が姿を隠してまで我が店に不法侵入してきたという事実である。
さて、どうしたものかと対応を考え込む私の顔を、おさげ髪の少女はまじまじと見つめながら改めて口を開いた。
「あんたがオリシュモン? この村で一番強いデジモンって噂の」
先ほどからこちらの一挙一動に目を凝らしていた彼女の視線は、どうやら戦力的な値踏みを意味していたようだ。
しかしこの村で一番強い、か……どこで聞いたのかは知らないが、結構な評価である。面と向かってそう言われるのは照れ臭いが、存外悪い気はしなかった。
前世の私にも、「常に思い浮かべるのは最強の自分」という座右の銘がある。自分の実力以上に思い上がるのは論外だが、卑屈になりすぎるのもまた大きな間違いであると私は考えていた。
しかしそんな哲学よりも先に、今考えるべきことは他にあった。
「私のような輩が礼節について語るのもなんだが……人に訊ねるのならまず先に、君の方から名乗りたまえ」
閉店した人様の店に、夜な夜な姿を隠しながら忍び込んできたのだ。これがいつものゴースト型デジモンの悪戯であれば、然るべき場所へ突き出していたところだ。
彼女の方も無礼を自覚していたのだろう。「あー……」と、その赤い瞳をバツが悪そうに彷徨わせると、覚悟を決めたように「うしっ」と頷き、再び目を合わせて言った。
「失礼したわ、オリシュモン殿。私は
「殿は不要だ。……ふむ」
彼女の名はアチヤ・ユミコ──縮めてアチャコか。ユーモラスな呼び名には弓とアーチャーもかかっており、なるほど確かにこの世界の民からしてみればそちらの方が呼びやすいだろう。
デジモンには馴染みの無い発音に対する気遣いが自然に出来るあたり、根は善良な子なのだろうと認識を改めた。
「私の名はオリシュモン。この店の店主をやっている」
彼女が先に名乗った以上、私も改めて自らの名を名乗り返す。
その時である。
『オリシュモンッ!! その姿はまるで人間だが、ネットの海に蓄積した空想のデータから生まれた完全体デジモンだ! 必殺技はあらゆる武器を投影する虚構の具現化、テンプレイト・フィクション・ワークス!!』
どこからともなく、ハリのある男の声が響いた。
早口でありながら、それでいて一言一句頭に残る不思議な説得力が込められたその言葉は、驚くことにこの私オリシュモンについて解説したものだった。
「なんだ今の」
「デジモンアナライザーよ。相変わらず、イイ声だぁ……」
呆気に取られる私に対して、おさげ髪の少女阿知谷弓子は懐からおもむろに一台の端末を取り出し、その画面を見せつけてきた。
薄い板のようなその端末に映っていたのは、赤い外套を纏った白髪の青年──私の画像とその説明文である。
【名 前:オリシュモン
レベル:完全体
タイプ:空想型
属 性:データ種
必殺技:
まるで動物図鑑である。先ほど聴こえたやたらと熱の入った音声も相まって、そこに書き綴られたテキストはデジモンにとって重要なプロフィールを簡潔に表している。
何よりそこに記載された情報には、私自身初めて知ったこともあった。
ワクチン種ともウィルス種とも今一波長が合わないのでデータ種ではないかとは薄々思っていたが、こんなところで確証を得ることになるとは思わなかった。
そして何より、最も驚いたのは「レベル」の欄だ。
「私、完全体だったのか……」
例外もあるが、デジモンの
デジタマ、幼年期、成長期、成熟期、完全体、究極体の六つだ。
それぞれリアルワールドの生物とは違った意味の「進化」を経て、比例して強大な存在になっていくのがデジモンをデジモンたらしめる生態と言えよう。
そして完全体と言えば上から二つ目のレベルであり、このデジタルワールドでもその母数は一気に絞られてくる生態系の上位層である。
この村にも最年長である究極体のジジモンを除いて完全体以上の存在はいなかった筈であり、ここに書かれている情報が事実なら私が唯一の完全体デジモンだったというわけだ。
私としてはこの身に宿る筋力的に成熟期が良いところではないかと思っていたが、道理で幾ら戦っても進化する気配が無かった筈である。
成熟期から完全体に進化する以上に、完全体から究極体に至るのは非常に険しい道のりであるということがこの世界の一般常識であった。
「えっ、あんた自分のレベル知らなかったの?」
「生憎、私は自分以外のオリシュモンを見たことが無くてね。参考になる同族が他にいない以上仕方あるまい」
「へー、じゃああんた物凄くレアなデジモンってことじゃん。やるわね!」
そうか……私はレアか。思えば誰かにそう言われたのは、これが初めてかもしれないな。
通常、デジモンはそれまで未知の姿に進化したとしても、自身の心臓たる「デジコア」に刻まれた本能から自分が何モンであるのか当たり前に理解するようになっている。しかし私の場合は異世界からの転生という普通の誕生経緯ではない為、そのあたり色々と不備があったのだろう。
つまり私は、デジモンとしても出来損ないの転生者だったというわけだ。
「私としてはあんたが本当にデジモンで安心したって言うか……筋肉モリモリマッチョマンのイケメンだけど、どう見ても人間にしか見えないもん。ハリウッドスターとかそういう系の」
「それは褒めているのか?」
「褒めてる褒めてる」
まあ私自身も自分がデジモンであることに気づいたのは転生からしばらくしてからだったので、彼女の疑心も痛いほどわかる。
しかしデジモンアナライザーとやらから完全体デジモンというお墨付きを貰えたことに、今の私は何だかんだで気持ちが楽になった部分があった。
今更思春期のように悩んでいるつもりはなかったが、この硝子の心にしこりとして残っていた己のアイデンティティーに対して力強く補足してくれたその端末に対して、私は感謝の意を抱いた。
「これが噂に聞いた、「デジヴァイス」という端末か」
端末の名を、私は知っている。
それは転生前から引き継いだ前世の記憶──からではなく、十年ぐらい前に似たような機械を見たことがあったからだ。
彼女は得意気な顔で胸を張り、鼻を鳴らして上機嫌に語った。
「ふふん、ただのデジヴァイスじゃないわよ? さっきまで私の姿を消していた「ステルスハイド」や各種ハッキングツール、他にもカードスラッシュやソシャゲもついているまだ販売されていない最新機種なんだから! 言うならばド級のデジヴァイス、ドジヴァイス……は無いわね冷静に考えて」
「言い伝えよりも高性能だということはわかった。イイ声も出るしな」
「わかってるじゃーん! 本当にイイ声なのよねー」
自分の宝物を褒められたように、私の賞賛に対して食い気味に反応するアチャ子さんこと阿知谷弓子。
妙に早口だったのもあり私には半分ぐらいしか意味がわからなかったが、「デジヴァイス」のことならばそれなりに知識がある。
古くは伝説の選ばれし子供たちから始まり、この世界に来訪した数々の人間たちがそれを所有していた。故にこの世界では伝説の武具のような認識で広まっているが、彼女らの世界ではどのような扱いをされているのだろうか?
……何となく訊ねるのが怖いのであえて踏み込まなかったが、彼女の口ぶりから察するに案外今のリアルワールドでは携帯電話のように身近に扱われているのかもしれない。
話の流れがイイ声に対して脱線しかけたところで、ハッとした顔で少女が話題を引き戻す。
「ま、まあ……そんなことよりあんたには話があるの。聞いてくれるかしら?」
「何かね? レディ」
「その……」
得意分野の話題に思わず興奮してしまったことに彼女は端麗な顔をほんのりと赤くしているが、チャーハンの話をする時の私も似たようなものなのでそれを指摘するような野暮な真似はしない。別段恥じることでもないとは思うが。
そんな彼女は本題を切り出す際、今になって緊張してきたかのように目を逸らし、言葉を詰まらせたが……私が何も言わずに続きを待つと少女は両手を合わせ、拝むように頭を下げて言い放った。
「私と契約して、パートナーデジモンになってくださいっ!」
──それは、私の人生……もといデジモン生において最も重要なターニングポイントだった。
そんな彼女の頼みを聞いたこの夜を境に、私の物語はフルスピードで回り始めた。
デジモンをサーヴァントの基本クラスに当てはめてみたら意外にランサーとアサシンの枠が充実している気がしました。セイバーとバーサーカーは言わずもがな
反対に意外と弓持ってるデジモン少ない……パッと思い浮かぶのはみんな大好きエンジェウーモンですが、弓より銃持ってる奴の方が多いんですよね