オリシュモンッ!! 異世界転生者の魂が超進化した完全体デジモンだ! 必殺技は空想の剣製《テンプレイト・フィクション・ワークス》!! 作:GT(EW版)
パートナーデジモン──それは伝説の選ばれし子供たちをはじめ、この世界に来訪した人間たちの横に常に名を連ねている文字通りの
歴史上、人間とパートナー関係になり絆を結んだデジモンは、生まれた時からそうなるよう運命的な何かに導かれた者が多い。伝説に謳われる選ばれし子供たちのパートナーデジモンたちは、まさにこのパターンである。
しかしそれ以外のパターンではリアルワールドから事故のように来訪してきた人間と成り行きで友誼を結び、パートナー関係となったデジモンも存在し……寧ろ選ばれし子供以外の人間は、こちらの方が多数派だった。
いずれにせよパートナー関係とは人間とデジモン、双方にとって魅力的な話であるというのが現代の認識である。
中でもデジモンたちにとって魅力的なのは、人間のパートナーとなったデジモンは、その内の大多数が大成しているという点だろう。デジモンの到達点である「究極体」への進化がその一つである。
通常、デジモンは上の世代に上がるほど進化するのが難しくなり、それこそ成長期から最高位の究極体に進化するには何十年、何百年と濃密な人生経験を経てようやく至るものなのだ。
しかし人間とパートナー関係になったデジモンは、早ければ一年と経たずに究極体への進化を遂げていた。
この村の村長であるジジモンもまた、かつてはこの島に迷い込んできた人間と友達……パートナーになった過去があり、こちらも僅か三年程度で究極体の姿になったらしい。
まさに進化して強くなることこそを目標としている大多数のデジモンたちにとっては夢のような話であり、だからこそ伝説を聞いた成長期デジモンたちの多くは誰もが選ばれし子供のパートナーになることを夢見ているのである。
──すなわち、彼女「阿知谷弓子」が言い放った言葉は、デジモンにとってどこまでも都合の良い申し出だったということだ。
しかしこの時の私がそれ以上に気になったのは、この時の彼女から感じる切羽詰まった様子である。彼女は今、酷く焦っているように見えた。
いかにデジモンアナライザーとやらで私がこの村唯一の完全体デジモンと知ったところで、彼女の視点からは中華料理店(チャーハンのみ)で後片付けをしていた姿しか見ていない筈だ。
実際の戦力を見る前に頭を下げて頼み込んできたその判断の早さが、私にはどうにも気掛かりだった。
「……詳しく聞こうか」
「ええ、話すわ」
故に──面接の時間である。
シャッターを下ろし、部外者の介入を許さぬよう戸締まりを確実に行った後で、私と阿知谷弓子は来客用のテーブルにて顔を突き合わせて面談することとなった。
──そこで、彼女は語り出す。
何故、リアルワールドの住民である人間の彼女がこのデジタルワールドに来たのか。
何故、パートナーデジモンを欲するのか。
何故、懸命にポーカーフェイスを保っているように見えて今も焦燥に駆られているのか──その経緯と事情を、彼女は私にもわかるように掻い摘んで簡潔に語ってくれた。
いわく……
「なるほど、つまり君はリアルワールドからこの世界に誘拐された姉を連れ戻す為に、そのデジヴァイスを使ってこの島に乗り込んできたのだな?」
「ええ、そうよ」
彼女の目的である。
どのようにしてリアルワールドからデジタルワールドへ乗り込んできたのか、色々と気になる点は多いが、少なくとも彼女の行動と焦燥の理由についてはわかりやすいものだった。
実の姉が連れ去られたのならば、追い掛けたいと思うのは当然である。デジヴァイスという行く先の世界に渡る手段があるのなら尚更だ。
「そのデジヴァイスは?」
「……父さん……ウチの親父が作った試作品よ。私の家、デジタルワールドの研究をしてるの」
「なるほど。この世界に来たばかりにしては、デジモンを見ても狼狽えていないのはそれが理由か」
大胆にも私の店に乗り込んできたことと言い、別の世界から来訪してきたにしては冷静な様子が不思議に思ってはいたが……やはり彼女はこのデジタルワールドに対して全く未知というわけではないようだ。
父親がデジタルワールドの研究者ならば、ハイテクな機能が複数搭載されたデジヴァイスを持っているのも道理だろう。
今のリアルワールドにおいてこの世界がどう扱われているのか、すこぶる気になるところではあるが。
「画面越しだけど、デジタルワールドに生きるモンスターたちのことは知っていたし、私も研究の手伝いで見てたのよ。寧ろあんたこそ、人間を見ても随分冷静ね」
「見ての通り、私自身の姿が人間と似ているからな。毎朝鏡を見ていれば、人間に対する免疫など嫌でもできるさ」
「確かにあんたの姿はリアルワールドにいてもおかしくないものね。あの女と言い、デジモンには色んなのが居るのねぇ……」
話をまとめると彼女──阿知谷弓子の家はデジタルワールドを研究しており、ある日彼女の姉が何者かによってデジタルワールドに連れ去られた。
場所が場所なだけに警察を当てにすることもできなかった彼女は、研究用に持っていた試作品のデジヴァイスを使って単身デジタルワールドへと乗り込んだというわけである。
何と言うか……まるで物語の主人公のようなアグレッシブな行動だ。それが勇敢なのか蛮勇なのかはわからないが、彼女が並大抵の子供でないことは明らかだった。
そんな彼女はここまでの経緯を一頻り語ったところで、困ったように眉を落とす。
「それでここからが問題なんだけど……実はもう、姉さんを連れ去った犯人のことは突き止めているの」
「一人でか? それは大したものだな」
驚くことに、物語の起承転結で言えば既に「転」のところまで進行しているということか。
見たところまだ中学生ぐらいだと言うのに、事前知識ありとは言え初めて訪れた世界で犯人の捜索まで終わらせているとは驚嘆すべき話である。
私が含むところ無く賞賛すると、彼女は「当然よ」と返しながら誇らしげな微笑みを浮かべるが……その表情は、再び落胆の色に戻った。
犯人を突き止めただけではまだ足りないのだと、彼女は語る。
「……ただ、ソイツは恐ろしく強そうなデジモンに守られていて、私一人ではどうやっても太刀打ちできそうにないの。いくら私が文武両道でハッキングまでこなせる天才弓系美少女でも、アイツは人間にどうこうできる相手じゃなかった……」
なるほど。
その天才弓系美少女というのが何なのかは知らないが、自らの才能に対してここまで自画自賛する彼女がそうも及び腰になるということは、よほどの手練れだったのだろう。
ここまで話して貰えば、彼女が何を求めてここに来たのかは皆まで言われずとも理解することができた。
「あいわかった。つまり君は、姉を連れ去った誘拐犯と戦う為に、対抗できる戦力を欲しているということだな」
予想以上に込み入った事情であったが、それは確かに必要性、緊急性からしても筋の通った話である。
彼女はその炎のような赤い瞳を大きく開くと、テーブルから身を乗り出すような姿勢で私の目を見つめて続けた。
「ええ、そいつを守っているデジモンは、ここらのデジモンとは明らかに雰囲気が違うの。見るからに強そうで、完全体以上は間違いないと思う。そんな奴と戦うなら、こっちも完全体デジモン以上のデジモンを味方につけなきゃいけない」
「賢明な判断だな。デジモンのパワーバランスとしては、確かに世代間の差は覆し難い大きなアドバンテージになる」
もちろん、私のような自分でも完全体と気づかない程度の筋力しか持っていない完全体デジモンもいるが。
それでもこの比較的平和で治安の良いファイル島では他の地方よりも進化の必要が薄いことから、完全体以上のデジモンの数はあまり多くない。人間と意思疎通が取れそうなデジモンになると、その数はさらに絞られることになるだろう。
……それで私に白羽の矢が立ったわけか。
完全体な上に、平和な村で飲食店を営める程度には理性的なデジモン──箇条書きマジックではないが、そう言われるとこのオリシュモンがパートナー向きなデジモンに見えてくるから苦笑ものである。
「貴方としても悪い話じゃないでしょう? もちろん危険な戦いにはなるけど……自力で完全体にまで進化した貴方なら、テイマーが付けばすぐに究極体になれる……いいえ、私が進化させてみせるわ!」
デジヴァイスをぎゅっと握り締めながら、阿知谷弓子は私に対して自身のパートナーデジモンになることのメリットを説く。さながら入社面接の自己PRのようだ。
デジモンテイマーとして自らのことを積極的に売り込んでいくその姿勢は、確かに「契約」と称した先の表現が的確に当て嵌まる即物的な話である。
それは運命的な出会いからパートナーデジモンたちと絆を育み合い、やがては世界を救う冒険譚へと至った古の「選ばれし子供」の伝説とは掛け離れたドライな内容だろう。
かの伝説に憧れているこの島の成長期デジモンからしてみれば「なんかそれ、嫌だなぁ……」と微妙な反応をしてしまう関係かもしれないが、私としては寧ろそう言った関係の方がお互いに信用を置きやすい気がした。
そして、何より──
「そうだな。このデジタルワールドの歴史においても、テイマーの存在による進化の影響は実証されている。多くのデジモンにとって、君の申し出は願っても無いチャンスだろう。私とてデジモンとして生まれた身であるからには、進化に対する憧れが無いわけではない」
「な、なら……!」
彼女の勝ち気そうな赤い瞳から見えたのは、その奥で僅かに震えている不安の感情だった。
姉を探して一人でデジタルワールドに渡ってきた。その事実だけでも彼女の豪胆さには目を見張るが、仲間どころか人間すら居ないこの世界の中で、一体その胸にどれほどの不安を抱えていたのかは察するに余りある。
全く未知というわけではなくとも、ある程度の事前知識があるからこそ怖い思いもしていた筈だ。……私も、この世界に転生した当初はそうだったから。
そんな感傷に浸っていたからか、私は阿知谷弓子という少女に対して妙なシンパシーを感じていたのである。
だからこそ──
「一つ聞きたい」
彼女が語ってくれた情報以上に、多くを聞く気は無い。
しかし私は彼女に共感を覚えているからこそ、一つだけ確かめたいことがあった。
「姉さんとは、仲が良かったのか?」
姉の為に遠路遥々危険を冒してやって来たのだ。本来ならそれは、聞くまでも無いことだったのかもしれない。
しかし私にとってはそれこそが彼女と契約する上で、何より重要な一点だった。
「………………憧れの姉さんよ。だから、助けたいの」
「そうか」
彼女の返答に、私は目を閉じて息を小さく吐く。
私にはどうにも彼女が返答に要した数拍もの間こそが、彼女と誘拐された姉の関係を何よりも雄弁に語っていたように感じた。
──憧れているが、仲が良かったとは言わない。
複雑な姉妹仲が窺えるその反応は──不謹慎ながら私の望んでいた答えであった。
「…………」
「…………」
しばらく沈黙が場を包み込み、どこか店内が気まずい空気に重くなる。
これは何か謝意を示さねばなるまいと思った私は、時計を見るなり今が丁度いい時間であることを思い出し、彼女に提案した。
「腹が減ったな。そろそろ夕食にしよう。チャーハンなら奢るが、それでいいか?」
「……ええ、助かるわ。正直、私も今すっごくお腹減ってる……朝から何も食べてないのよ……」
「ああ、それは焦りを隠せないわけだ。待っていろ、すぐに作る」
少し遅めだが、今は夕飯時でここは村が誇る二大中華料理店の一角「Nonstop great works」なのだ。これ以上詰めた話は食事をしながらでも構わんだろうと提案してみたが、彼女から返ってきたのは予想以上に切実な言葉だった。
この世界に迷い込んできた身ではない以上、彼女も食糧の幾つかは持ち込んできたのかと思っていたが……どうやらデジヴァイス以外は着の身着のままだったようだ。
道理でノースリーブの黒シャツにやたら短いスカートと言い、過酷な異世界を冒険するには軽装すぎると思った。
「うるさいわね……仕方ないでしょ、予想外なタイミングでこの世界に入るチャンスが回ってきたんだから」
旅に対する自らの不準備さを自覚しているのか、おさげ髪の少女は自身の失敗に苦渋の表情を浮かべながら恥じらうように露出した両肩を押さえる。
そんな彼女の年相応な姿を微笑ましく思いながら、私は二人分のチャーハンを作る為、厨房へと向かった。
──その時である。
「──!」
「きゃっ!?」
咄嗟に身を翻した私は、阿知谷弓子の前に並んでいたテーブルの一台を乱暴に引っ掴むと、それを盾にするように前方へと広げる。急な行動故にその勢いで彼女が椅子から転げ落ちてしまったが、今は許してほしい。
彼女が私に抗議の目を向けるよりも早く、私の前方に広がる──広がっていた筈のシャッターが、横一文字に切り裂かれたのである。
我が店のシャッターは鉄で出来ている。そんな頑丈さがウリのセキュリティーが、外部から音も立てず真っ二つに切り裂かれたのだ。
そこから発生した衝撃波は硝子で出来ている周りの窓を砕き、その破片を次々と店内に飛び散らせていった。
「な、なに?」
私が前方に広げたテーブルで降り注ぐ破片を防いでいる裏で、安知谷弓子は尻餅をつきながらも直ちに状況を把握するべくデジヴァイスを握り、周囲を警戒する。
そんな彼女を背中に庇いながら、私は引っ掴んだテーブルを床に下ろして侵入者の姿を見据えた。
「今夜はまた、招かれざる客が来るものだな」
本日二人目の侵入者である。
しかしここまで店を荒らしてくれた無法者は、開業以来数えるほどしかいなかったものだ。
内心はらわたが煮えくり返る思いだったが、努めて平静を装いながら私はやれやれとした反応を返す。
すると侵入者──自身が切り裂いたシャッターから堂々と入店してきた白いデジモンが、外から差し込んでくる月明かりを背景に堂々たる佇まいで口を開いた。
「夜分遅くに失礼します、店主様。お店を壊してしまったことは追々謝罪しますが……どうか私の頼みをお聞きください」
女の声だった。阿知谷弓子より少し歳上ぐらいの、まだ少女とも言える澄んだ声。
そしてそれを放った姿もまた、声音から連想する通り神秘的にさえ思える少女の姿をしている。
しかし、今しがたシャッターを切り裂いたその力は、華奢な人間の少女ではあり得ない現象を引き起こしていた。
そんな少女の細腕には一振りの日本刀が携えられており、純白の修道服のようなドレスの左腰には対となる鞘が括り付けられている。
装いにおいてさらに特徴的なのは、その青い髪に被さっている水色のネズミの形をした大きなベールだった。
今私たちが居る場所がデジタルワールドでなければ、奇怪なシスターのコスプレをした少女と認識するところだろう。
そんな彼女は端正な顔をこちらに向けながら、鈴を転がすような声で呼びかけてくる。
「どうかそちらのニンゲンを、引き渡して頂きたいのです。それがクライアントの依頼ですので」
「……っ!」
自らの名も名乗らず阿知谷弓子を引き渡せと語るその言葉に、名指しされた後ろの少女から息を呑む声が漏れる。
あまりにも一方的な物言いに、私が一つ小粋な皮肉でも返してやろうと前に出ると……次の瞬間、それを遮るように後ろから声が聴こえた。
『シスタモンシエルッ!! 日中は白百合のように穏やかだが、夜になれば無情な暗殺者へと姿を変える成熟期デジモンだ! 必殺技は愛刀白詰一文字で音も立てずに敵を切り裂く「白詰一文字切り」ッ!!』
うむ、イイ声である。そして完璧な解説に感謝する。
「何ですか今の……」
やはり私たちの前に立っているこの侵入者の正体は、人間ではなくデジモンだったようだ。
そしてデジモンアナライザーが語ったその言葉には、私にとっては聞き流すことのできない危険なワードが含まれていた。
「暗殺者──アサシンか」
「え、ええ……如何にも私は暗殺者のシスタモンシエル。ですが必殺技まで解説されるのは、あまり良い気分ではありませんね」
「だろうな」
自分自身のことをよくわかっていないこのオリシュモンとしてはデジモンアナライザーの解説は実に良いものだったが、通常のデジモンの感性としてはやはり、自らの情報は明かされたいものではないらしい。
特に闇に生きる暗殺者なら尚更、初対面で情報を抜かれては商売上がったりと言うところであろう。
そんな彼女──シスタモンシエルは柳眉を顰めながら、私の後ろに立ち上がった少女、阿知谷弓子の姿を見据えた。
正確には、彼女が持っている一台の端末を。
「先ほどのイイ声は、デジヴァイスの声でしたか。一目でそこまで情報を抜かれてしまうとは、クライアントが危険視するわけです」
「はっ、あんたの依頼主が危険視してるのはデジヴァイスじゃなくて私の方でしょう? わざわざ暗殺者まで差し向けて!」
刀を携え、今しがた人外の力を見せつけたばかりのシスタモンシエルに対して、阿知谷弓子が気丈に吠える。
そう言えば、彼女は人間にしか見えない私を見て、「あの女と言い……」と呟いていたな。なるほど、どうやらこの二人は初対面ではないようだ。
察するに、「姉の誘拐犯から送られてきた刺客」と言うところだろうか。
「申し訳ありませんが、そこを退いて頂けますか? 今壊してしまったお店は弁償しますし、用が済めばすぐに立ち去りますので」
「……っ」
このデジモンの目的は、シンプルに彼女の身柄ただ一つだそうだ。殺すと口にしないだけ優しさを感じなくも無い言い回しであったが、私はふんと短く鼻を鳴らした。
後ろからは私が自分のことを見捨てるのではないかと何とも不安そうな息遣いを感じるが……答えは決まっている。
「断る。職業柄、「後で謝罪する」、「後で支払う」と宣う輩の言葉など信じられたものではないからな」
この店を開業したばかりの頃の客層は、それはもう酷いものだったからな。私のことを舐めている荒くれデジモンたちが集団で食い逃げを企んだり、店を荒らされたことも一度や二度ではなかった。
そしてそんな連中には常に厳正に対応し続けてきたのが、我が店「Nonstop great works」である。
その在り様は今この時とて変わる筈も無い。いかに彼女の外見が前世の私が好みそうな可愛らしい少女だとしてもだ。
そして、何より──
「今私の後ろにいるのは、私のマスターとなる女性だ。パートナーデジモンとして、引くわけにはいかないな」
「──!」
そういうことになった。
これが答えだ、阿知谷弓子。私は君をテイマーとしてパートナー契約を結ぶことに決めた。
まあ、いつか自分が誰かのパートナーデジモンになるとすれば、その時の相手は可愛らしい少女がいいなと漠然と考えていた気持ちが今までデジタルワールドで生きていて一度も無かったかと言うと嘘になる。
それが前世の私の気持ちか、今の私の気持ちかは知らないが……少なくともこのオリシュモンは阿知谷弓子のことを見捨てたくないらしい。
少なくとも正義の味方らしい行動ではないからな。
「そうですか……どうやら一歩遅かったようです」
そんな私の返答に対して、シスタモンシエルが心底残念そうな声で呟く。
しかし両手に一本の刀を構え直したその姿は、まばたきする頃には既に無情な
私のことを明確に、殺意を向けるべき敵と判断したのだろう。
「では、死んでください」
剣呑な眼差しで刀の切先を差し向けるシスタモンシエルに対して、私もまた戦闘態勢に入る。
後ろからは我がテイマー、阿知谷弓子の心配そうな視線が突き刺さってくるが……それを杞憂にする為にも、私も今、この力を見せるとしよう。
「
私の固有能力によって投影された「硝子の剣」が、右手に一本、左手にもう一本と召喚されていく。
その材質は硝子故に透き通っているが、造形に関しては一流の贋作と読んで差し支え無く──このファイル島一の勇者が愛用する妖刀そのものだった。
「見覚えがありますね。確かその剣はレオモンの……」
「妖刀「獅子王丸」。その硝子細工だ」
「なるほど……貴方が噂の
「
レオモンの愛用する妖刀「獅子王丸」。硝子で作られたその贋作を見て、シスタモンシエルが呟く。何やら私の知らないところで私の噂が流れていたようだが、
しかし、何だろうか……スタイリッシュなその言い回しが物凄くしっくり来る。もしかしたらうろ覚えな私の魂が、そう呼ばれることに喜びを感じているのかもしれない。
デジモンフェイカー、いいじゃないか。
テンションが上がり、ニヤリと笑んだ私は後ろでキョトンとした顔を浮かべている我がテイマーに対し背中を向けながら、最後の忠告とばかりに言っておく。
「安知谷弓子──アチャ子」
「……っ、はい!」
彼女自身が呼び易ければ気軽にそう呼べと言ったあだ名で呼びかけると、何故か敬語で返事をした彼女に向かって、私はこの偽りの背中を見せつけながら問い掛けたのである。
「──ついて来れるか」
それは「テイマーとして自分と一緒に戦ってくれるか?」という問いであったが……そう言えば前世の私が憧れた正義の味方もそんなセリフを言っていたなと思い出したのは、この夜が明けた後のことだった。
オリシュモンは心が硝子なので平田広明さんに自分がデジモンであることが認められると凄く喜びます。