オリシュモンッ!! 異世界転生者の魂が超進化した完全体デジモンだ! 必殺技は空想の剣製《テンプレイト・フィクション・ワークス》!!   作:GT(EW版)

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無敵のパートナー結成! オリシュモンとアチャ子

「成長期の頃……僕はロイヤルナイツに憧れてた」

 

 静かな昼下がりのことである。

 山のように大きな一本の御神木の下で、その木陰に身を委ねながら師匠は語った。

 遠い、遠い……遥か昔の思い出を振り返るように語った彼は、私の知る限り誰よりも強く、誰よりも高潔な「騎士」であった。

 故にその時の私は彼の言い放った「憧れてた」という言葉に対して、彼自身への賞賛とほんの少しばかりの嫉妬を覚えたものである。

 他人の順風満帆な成功体験を聞いて素直に楽しむことができるほど、私は無邪気な心を持たなかったから。

 

「今の貴方はロイヤルナイツそのものだろう。ならばその願いは、叶うべくして叶ったのだな」

 

 デジタルワールド最高位のネットワークセキュリティー、「ロイヤルナイツ」。

 十二人の騎士に空白の席の主を加えた総勢十三体の究極体デジモンたちは、いずれもこの世界で数々の偉業を打ち立ててきた最強の守護者である。

 デジタルワールドの神「イグドラシル」に仕える聖騎士団──その円卓の一員に、彼は名を連ねていた。

 デジタルワールド各地に起こる異変や混沌の兆しを感知する能力を備え、颯爽と駆け付けて全てを救っていく。聖騎士型デジモン「ジエスモン」の名を知らぬ者は、その大陸にはまず存在しないと言えた。

 そんな彼の姿はまさしく彼自身が子供の頃に目指した姿そのものなのではないかと、私が不貞腐れたように言うと彼は苦笑を返した。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいね。だけど僕は肩書的にはそうでも、正当なロイヤルナイツではないんだ」

「……どういう意味だ?」

「ロイヤルナイツは本来、この世界で数々の功績を打ち立てた末に、我らが神イグドラシルによって任命される。だけど僕は違う。任命してくれたのはイグドラシルではなく……かの神とは会ったことすらないんだ」

 

 ロイヤルナイツの使命は、神たるイグドラシルに仕え、この世界の秩序を守ることにある。それには一騎当千の実力者であることが前提の上で、精神性も認められなければならない。

 しかし彼が究極体に進化して今の姿にたどり着いた頃には、そんな彼を認める筈の存在が故あって表舞台に出ることができない状態にあったのだと言う。

 

「僕がこの姿に進化した頃には既に、神は深い眠りについていた。だから僕は、他の騎士と違って主君から直々に認定された聖騎士じゃないんだ」

 

 寂しげに呟く彼の竜の顔は、しかしどこか郷愁に浸っているようにも見えた。

 その自嘲の表情の裏には後悔が滲んでいたわけではなく、悲しい現実と理解しながらも今では前向きに受け止めているように私は感じたのだ。

 そしてそれはきっと、間違いではなかったのだろう。

 

「僕が円卓に加わったのも、既に半分以上のメンバーが死んでしまった大戦の末期だったからね……僕を育ててくれたロイヤルナイツの師匠が穴埋めに僕を推薦してくれて、そこからなし崩し的に最後のロイヤルナイツと呼ばれるようになったんだよ」

「……だから、正当なロイヤルナイツではないと? 馬鹿も休み休み言え」

 

 騎士とは仕える主君が居てこそ成り立つものだというのはわかる。そう言う意味では彼が自らを正当な聖騎士ではないと自嘲する気持ちもわからなくはなかった。

 だが、だから彼がロイヤルナイツに相応しくないとは思わなかった。

 私だけではない。騎士としてこの世界の為に剣を振るう彼の姿を見た者ならば、誰一人として疑いなど持たないだろう。

 彼──ジエスモンという騎士は、そういうデジモンだった。

 私が語気を強めて伝えると、彼はふっと微笑んで穏やかな声で返した。

 

「もちろん僕も、今更そのことについて女々しい感傷を抱えているわけじゃないさ。その段階は、生前の師匠に殴り殺され掛けたところで通り過ぎたから」

「過激な師匠だったんだな……」

「ああ、僕もよく耐えたなって今でも思ってる」

 

 自嘲の言葉をそうも穏やかな顔で語るぐらい、今の彼にとっては過去のこととして消化されているということか。

 彼を成長期の頃からスパルタ式で鍛え上げたと言うその師匠の話は何度か聞いたことがあるが、その過酷すぎる修行のエピソードは聞く度に戦慄を覚えたものである。

 同時に、私はこう思うのだ。

 

 

「……私の師が、貴方で良かったよ」

 

 

 まだ転生して間もない頃に出会った彼は、このデジタルワールドで生きていく術を教えてくれた──まさしく私にとっての師匠であり、父親のような存在だった。

 

 今の私が得意としている二刀流の剣術も、全ては彼によって仕込まれたものだ。

 尤も彼自身は両手だけではなく尻尾にも剣を装備しており、本気を出した時にはそれぞれ二刀を携えた三体の精霊も召喚することで合計九本の剣を同時に使いこなすのだが……偉大な聖騎士に数年間師事させてもらえたことは、とてつもない幸運に恵まれていたと今でも思う。

 

 師匠は前世を含めた私よりもずっと歳上で、力無きデジモンたちのことを長い年月の間様々な危機から守ってきた──まさに理想に描いたような偉大な騎士であり、「正義の味方」だった。

 

 そう言うと彼は、私の言葉に嬉しそうに返した。

 

 

「ありがとう。僕もこの生で最後に鍛えることができたのが、君で良かったと思いたい。……思わせてほしいんだ。僕がはじまりの街に還った後も」

「……そう言われては仕方ない。私のような存在が貴方の弟子を名乗るに相応しいデジモンになれるのか、甚だ疑問に思うがやるだけはやってみよう」

 

 

 硝子の心故に、この時の私には彼が今際の際に託した願いに対してさえ、素直に約束することができなかったのを覚えている。

 立派な図体から子供のような言い回しで返した私に彼は困ったように笑い、反芻した。

 

 

「仕方ない、か……ああ、本当に仕方ない」

 

 

 尊敬する師匠からの最後の頼みであるならば、どんなに無理だと思っていてもそれはもう理屈ではないのだ。彼自身もまた、かつて偉大な師匠から願いを託された経験があるからこそ、この時の私の心中に対して理解を示してくれた。

 そしてだからこそ、彼は最後の最後で厳しいことを言ったのだと思う。

 

「仕方がないついでに一つ、君にこの言葉を贈ろう。その意味を理解するまで胸に刻み付けておくことを、最後の課題とする」

「……わかった」

 

 剣術の指導をする時と同じ覇気を放つ彼の前で、私は呼吸も止めて続く言葉を待つ。

 そんな私に、彼は言い放った。

 

 

「命は、そこにあるだけで美しい──我が盟友たちが、代々受け継いできた言葉だ」

 

 

 人間の寿命よりも遙かに長い年月を誇り高く生き抜いてきた彼が、生涯大事にしてきたという言葉だ。彼自身が積み重ねてきた経験に伴って、それは何よりも実感の篭った言葉だった。

 

 ロイヤルナイツに認められてロイヤルナイツとなった彼は、しかし主君であるイグドラシルが永き眠りについているが故に終ぞ謁見することも叶わなかったと言う。

 しかしそんな彼に対してロイヤルナイツに非ずと否定する者は誰一人として居ない。

 それは他ならぬ彼自身がこれまでに騎士として歩んできた道のりが、デジタルワールドの守護者として誰よりも正しくロイヤルナイツの理想を体現していたからだ。

 どこかで道を踏み間違えれば神に認められなかった偽りの騎士として歴史の闇に葬られていたかもしれなかったデジモンが、最後まで正道を歩み続けたことで聖騎士として世界に名を刻むことができた。

 ともすれば彼は、私が硝子の壁に隠した心の奥底を見透かしていたのだろう。その上で彼は、私にその命をどう使うのかと問い掛けていたような……そんな気がした。

 

「私のような命でも、ここにあるだけで美しいのだろうか……」

「きっとそうだ。僕も今になって、その言葉の意味がわかった気がする。だからいつか、君もわかる」

 

 励ますように、彼は私の内面に踏み込んでいく。

 これが最後だからと、心優しくも厳しい彼は戸惑う私に一切容赦しなかった。

 

「例え自分がデジモンなのか、ニンゲンなのかわからなくても……胸を張って生きていけ。例えそれが、硝子細工の虚勢でも」

「……それで、進むべき道を間違えたらどうする? 私の心は硝子だ。それでも特異な力だけは持っている私が、この先道を間違えたらどうすればいい?」

 

 新しく生まれ変わったこのデジタルワールドという世界で、前世の自分というもう一人の私の心と記憶を中途半端に受け継いだのがこのオリシュモンだ。

 そんな私がこの世界で何を見て、何を為すのか──その行く先に、未来に対して果てしない恐怖を抱いていたのがこの時の私だった。

 何も為せずに死ぬことも、何かを為すことで災いを招くことも恐れていたのだ。

 自分自身が投影した硝子を見る度に思っていた。そこに反射して映り込む自分の顔を見て──自分ではない「正義の味方」の顔を見る度に、私の心は何度も砕けそうになった。

 

 

「お前は誰だ?」と。

 

 

 

 

 ……それはきっと、私にしか理解することができない恐怖心だったのだろう。転生してからまだ数年と経っておらず、精神的にも不安定だった当時の私は自らの作った硝子の剣を闇雲に振り回すことでそれを振り払おうとすらしていた。

 そんな滑稽な姿を、彼は老婆心ながら見ていられなかったのだろう。だから彼は、私を鍛えてくれたのだと思う。

 そして彼は、こうも言っていた。

 

 

「自分のことを信じられないなら、信頼の置ける誰かに仕えてみるのも良いだろう。僕もイグドラシルの為に為せたことはほとんどないけど……誰かの為に剣を振るうのは、良いものだったよ」

 

 

 聖騎士としての正道を最後まで歩み続けた彼は、しみじみとした実感を込めて語った。

 あれはいつだったか、私に対して「ロイヤルナイツには一番向かない人材」と評していたこともあったが──判断を信頼の置ける誰かに預けて剣にのみ集中するという考えは、一つの天啓だったように思う。

 故に、私は……

 

「そんな機会が私に回ってくるとは思えないが……機会があったら考えておくよ」

 

 この時も、斜に構えた素直でない言葉を返したものだ。

 しかしそれを受けた彼は──ジエスモンは目を閉じて、満足そうに言った。

 

 

「安心した」

 

 

 そう言って、彼の姿は淡い光の粒子となって天に昇っていった。

 火葬も土葬も必要無く、ただデータの粒子としてこの世界に還元されていくそれは──デジタルモンスターの「死」だった。

 

 死因は極めて穏当な寿命死である。

 ロイヤルナイツに名を連ね、現存するメンバーの数少ない一人だった彼は、穏やかな顔で天寿を全うしたのだった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そんな恩人の言葉が今この時、私の頭に浮かび上がったのは何故だろう? 

 それにはどこか、ガラではないが運命的な何かを感じずにはいられなかった。

 

 信頼の置ける誰かに仕えてみるのも良い──その「誰か」というのが、彼が亡くなってから十年以上過ぎた今になって、ようやく見つかったかもしれないと期待してしまっているのかもしれない。

 だとすれば妙な話である。私と彼女は出会ってまだ何時間と経っておらず、信頼も何もお互いのことをほとんどわかっていない関係の筈だ。

 それが、どういうことだろうか? 

 一枚のカードに輝きを纏わせた彼女が、「私についてきなさい!」と命じてくれる。たったそれだけのことで、何故だかこの心が鋼のように固く、強靭になっていくように錯覚していた。

 これが、パートナー関係というものなのだろうか。ああ……私は今この瞬間、私の中で初めて目覚めた野生に酔いしれていた。

 これならば負ける筈が無いと高揚する騎士らしからぬ感情を胸に、私は目の前に現れた一張りの「弓」を左手に握り、その場で構えた。

 

 ──天使の羽のような造形をした純白の弓の名は、「ホーリーアロー」。このデジタルワールドで女神的存在と名高い大天使型デジモン、「エンジェウーモン」の代名詞たる武器だ。

 

 私はかの大天使とは会ったことが無く、その弓の実物を初めて見たが……これは驚いた。

 私が作る硝子細工の贋作とは比べるのも烏滸がましい、握っただけで「本物」とわける神聖な力がこの弓には込められた。

 これが出現する直前、彼女が「カードスラッシュ」と唱えていたが、どうやら我がテイマーには私以上のクオリティーで私にはどうやっても作れない武器をこの手に呼び出す力があるようだ。

 やれやれ、これでは贋作者(フェイカー)の立つ瀬が無いなと自分の有用性が揺らいでくる。しかしそれは、何故か悪くない気分だった。

 

 

「やっちゃいなさい! オリシュモンッ!!」

「了解した! マスター!」

「……っ!」

「これはまずそうです……」

 

 

 ビッと敵を指差して命じる少女の言葉に、私は湧き上がる高揚のまま力強く応じる。

 唐突の事態に目を見開くソーサリモンとシスタモンシエルの前で、私は左手に構えた弓に対して右手に投影した一本の()を添えた。

 

 エンジェウーモンの必殺技ホーリーアローは、この弓で聖なる光の矢を放つ技だ。

 しかし私が今この弦で撃ち出すのは、大天使が繰り出す裁きの一撃ではない。

 投影した硝子の剣こそを矢として、全霊を込めて撃ち出す。それは私の能力において最も強力な使い方であった。

 今まではこの()に耐えられる弓が手に入らなかったからできなかったが──今は違う。

 マスターがくれたこの弓なら、強力すぎるが故に数秒間しか投影できないこの武器も有効に活用できる。

 

 

偽・轍剣成敗(ジエスソードⅡ)ッ!!」

 

 

 穿つのは私の知る究極体の中でも最強のデジモンである、聖騎士ジエスモンの剣。

 サイズを合わせて自己投影(トレース)した我が師の聖剣を一条の矢として、最大限引き絞った弓から一気に解放していく。

 

 ──それはこの私オリシュモンと阿知谷弓子(アチャ子)という、無敵のパートナーの誕生を祝う祝砲だった。

 




 次でこの短編は完結しますが、後の参考にお答えしていただければ幸いです。

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