オリシュモンッ!! 異世界転生者の魂が超進化した完全体デジモンだ! 必殺技は空想の剣製《テンプレイト・フィクション・ワークス》!!   作:GT(EW版)

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心優しき勇者! レオモン登場

 ──弓を引いた経験は、過去に何度かある。もちろん、慣用句ではない言葉通りの意味でだ。

 

 それは転生してからまだ日が浅く、ジエスモンに鍛えてもらっていた頃……この能力の活かし方について試行錯誤を重ねていた私を見て、師匠が「お前の能力なら、弓を使うのがいいんじゃないか?」と提案されたのが最初のきっかけだった。

 私の姿の原型となった「正義の味方」が優れた双剣士であると同時に、凄腕の弓兵だったという事実をぼんやりと思い出したのはそれから少し経ってのことだ。

 

 私の必殺技「空想の剣製(テンプレイト・フィクション・ワークス)」はデジモンの扱うあらゆる武器を精巧な硝子細工の贋作として投影することができるが、投影対象のレベルが高いほど具現化できる時間は短くなってしまう。

 故に剣としてまともに振り回すことができるのは成熟期クラスの武器が限界であり、私が成熟期デジモンの妖刀「獅子王丸」を愛用しているのも、それが最大の理由である。

 しかし投影した剣を「矢」として射出するならば、完成度に拘る必要も長時間具現化する必要も無い。

 私としては目からウロコな発想であったが、そこに加えて天下のロイヤルナイツが弓の練習を手伝ってくれたのは忘れることのできない体験である。

 

 そう言った師匠との修行経験を基盤として、私ことオリシュモンは阿知谷弓子──アチャ子の手によって新しい自分にでも生まれ変わった気分だった。

 

 昨日までとは違う、知らないパワーがこの身に宿る。

 師匠が亡くなって以来長年燻り続けていた私のハートに火が点いたような……甘美な全能感に酔いしれていた。

 

 

 そうしてテイマーの力を受け、晴れてデジモンアーチャーとなった私の新たな必殺技「偽・轍剣成敗(ジエスソードⅡ)」によって──現在、暖かな昼の日差しが照らす店の外には半径十メートルをゆうに超す巨大なクレーターが広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 ──そう、現在時刻は真っ昼間である。

 

 あれからとっくに夜は明けており、今頃ライバル店である「メラモン炎の料理店」は盛況なランチタイムを迎えていることだろう。全く以て羨ましいことだ。

 

 対して、私の店「Nonstop great works」は書き入れ時に客一人しか迎えていない体たらくである。

 それもその筈、昨夜の出来事によって今朝は店内が荒れ放題になっていたため、とても営業できる状態ではないと断腸の思いで臨時休業としていたからだ。それでなくてもマスターのこともあり、致し方ないところではある。

 

 しかし外のクレーターもそうだが、今朝の荒れた店内の光景がこれでもかと言うほど鮮烈に、昨夜の出来事が夢ではない現実であることを思い知らせてくれた。

 

 そんな昨夜の出来事は店主としては悪夢以外の何物でもなかったが……一人のデジモンとしてはその不幸を補って余りあるほどに、幸せな夢だったと言えるだろう。

 自らが作った巨大なクレーターに対して誇らしくすら思っていた私の視線に同調するように、カウンター席に座りながら同じ場所に目を向けていた獣人型デジモン──このファイル島一番の勇者である「レオモン」が息を呑むように呟いた。

 

 

「凄いものだな……やはりお前は、成熟期デジモンに収まる器ではなかったか」

 

 

 場所は我が店、「Nonstop great works」。

 昨夜シスタモンシエルに荒らされたことで床に散らばっていた硝子の破片や壁の木片を粗方片付け終えたところで、親切にもその片付けを手伝ってくれたレオモンが腕を組みながら頷く。彼の丸太のような二の腕は、昨夜「見た目ほど筋力が無い」とダメ出しされた私の筋肉とは違い、まさしく外見通りの頑強さを誇っていた。

 そんな彼が後方ライオン面で述べてくれた賞賛の言葉に応える為、私は片付けを手伝ってくれた礼も併せて成熟期盛りの海鮮チャーハンを贈呈してやったところだ。

「そのつもりで手伝ったわけではないが、ありがたく頂戴しよう」と紳士的に返す彼に向かって、私は肩を竦めて言った。

 

「君にこの力を賞賛してもらうのは嬉しいが、昨夜は実力以上の物を引き出してもらっただけさ。テイマーに下駄を履かせてもらって、ようやく必殺の一撃を撃てるようになったわけでもある」

「前にも言ったが、卑屈な謙遜はやめなさい。私の獣王拳でも、あれほどの威力は出せないのだから」

「そうか……それは、光栄だな」

 

 あの時、私が聖なる弓から祝砲として解き放った矢は、私の知るデジモンの中でも最強の剣である。

 しかしそれを踏まえた上でも、私のような半人前以下の弓兵擬きが放ったところで、あれほどの破壊力を発揮することになるとは思わなかったものだ。あそこに広がっている光景はおそらく、かの聖騎士デジモンの剣を大天使デジモンの聖なる弓で放ったからこそ生まれた相乗効果なのだろう。

 

 それでもなるほど、確かにあのクレーターを見れば、今の私は完全体デジモンの名に恥じぬ力を持っていると言える。

 

 ……ああ、認めよう。今の私はすこぶる調子に乗っている! 

 

 そんな浮つきを硝子の心に隠している私に対して、今朝になって初めて昨夜の出来事を知ったと言うレオモンが訊ねた。

 

 

「あれを見た限り、成熟期はもちろん完全体デジモンさえもまとめて消し去りかねない一撃に見えるが……倒したのか? その襲撃者の一団は」

 

 

 ──肝心の成果(リザルト)である。

 

 当時の現場に居合わせずとも、彼ほどの戦士ならばあそこに広がっている戦いの爪痕を見ただけでも大凡の事情は窺い知れたところであろう。

 

 まあ、その質問に対して結果を答えるのならば、私がこうして五体満足で呑気にチャーハンを炒めている時点で察することは容易だろうが……確かに襲撃犯との戦いに勝利したのは我々だった。

 私は契約したてのテイマーを守り抜き、襲撃犯たちを退けた。

 

 尤も、厳密には完全勝利とはいかない成果であったが。

 

 

「リーダーと思わしきソーサリモンと、アサシンのシスタモンシエルには逃げられた。あの一撃で私がデリートしたのは、地面に潜伏してマスターに奇襲を仕掛けようとしていた不埒なモグラ共だ。私も最初は二人を狙っていたのだが、ドリモゲモンみたいなデジモンが三体あそこに隠れていてな」

 

 

『ニセドリモゲモンッ!! 胡散臭いヒゲがニセの名を決定付けた成熟期デジモンだ! 必殺技は、巨大な鼻のドリルで敵に突っ込む「ニセドリルスピン」ッ!!』

 

 

 ──と、あの場所が巨大なクレーターと化す前まであそこにいたデジモンたちに対し、デジモンアナライザーが例によって饒舌に語っていたものだ。

 

「偽の名を持つデータ種のデジモン」と言うと贋作者である私としては親近感が湧かなくもなかったが、彼らの目的が戦いのドサクサに紛れて我がマスターを奇襲することにあったともなれば、容赦はできなかった。

 因みに何故私が潜伏に気づくことができたのかと言うと、もちろんデジモンアナライザーが看破してくれたおかげではない。おそらくは、聖なる大天使エンジェウーモンの武器であるホーリーアローを手にしたことによる影響か、或いはテイマーを得たことによる副産物か。あの時の私は地中に潜んでいた複数体のデジモンの気配さえ容易に読み取るまでに、この感覚が鋭利に研ぎ澄まされていたのだ。

 

 おかげで彼らの奇襲を未然に防ぐことができたわけだが……故に、不審に感じる点が多かった。

 

「つまりそれは……成熟期のデジモンが一人のニンゲンを目当てに、五体掛かりで襲い掛かってきたということか?」

「ああ、昨夜の一件の黒幕は、是が非でも我がマスターを連れ去りたかったらしい。……シスタモンシエルは不服そうだったが」

「何ということだ……!」

 

 幼年期と成長期の割合が全体の多くを占めているこのファイル島において、普段から群れで暮らしているわけでもない成熟期のデジモンが一堂に会することは稀である。例外はこの村ぐらいなものだ。

 

 しかしその奇行がこの世界に現れた「人間」を目当てにしたものならば、それほどの戦力を集中させるには十分な理由である。

 

 当事者になったことで、改めてわかった。このデジタルワールドにおける「人間」の存在の重さを。

 前世の価値観で言えばそれは、何百億という宝くじを当てた一般人の名前と顔が住所まで併せて公表されたようなものなのだろう。

 身近な者たちの多くは祝福するだろうが、厄介な連中も寄ってくるということか。

 

「すまなかったな……私が村を離れていなければ、加勢できたのだが」

「私と違って君は多忙な身なのだから仕方あるまい。それに、君が留守にしていたおかげで、私は彼女とパートナー関係になることができた」

 

 人間がこの村に現れ、何者かに狙われた──それほどの騒動がありながら彼が駆けつけてこなかったのは、ひとえに彼がこの村にいなかったからである。

 話を聞くに彼は日中から村を賑やかしていた「選ばれし子供」の噂について調査に出払っていたらしく、昨夜の間は不運にも村の警備が薄くなっていたのだ。

 思えばシスタモンシエルやソーサリモン、ニセドリモゲモンたちの侵入を許してしまったのもそれが理由だろう。仮にその噂がファイル島の勇者レオモンを遠ざけるために何者かが仕組んだものだとすれば、油断ならない相手だと思った。

 

 

 ……尤も、だからこそ彼女(・・)と私が出会えたのだから、それも幸運の一つと受け止めよう。

 

 

『心優しき勇気の獅子ッ!! それがレオモンだ! 必殺技「獣王拳」の輝きは、魔王の心さえ打ち震わせるぞッ!!』

 

 

 おっと──噂をすれば、イイ声と共に彼女はやって来た。

 しかし今回のデジモンアナライザーは少し趣向を変えてきたな。心無しか熱の入り様がまた濃い。流石はレオモン、我々とは格が違うな。

 

「あの子がそうか?」

「ああ、彼女が私のマスターだ」

 

 どうやら我が姫は少し遅めのお目覚めだったようだ。それも昨日の今日ともなれば仕方あるまい。

 この店のバックルームは私の私室となっているのだが、パートナー関係を結んだ昨夜からはマスターの寝床として使ってもらっていた。

 

 ……もちろん、私は同じ部屋で眠っていない。

 ソーサリモンたちを退けた後も、彼女を狙った襲撃があれきりとも限らなかったのでな。昨夜の私はこの店の屋根上で月を見張りながら、一人孤独な夜を明かしたものである。

 故にあまり睡眠を取れてはいなかったが……そこは曲がりなりにも完全体デジモンというところだろう。睡眠不足を物ともしない程度には、今の私の身体は十分に休まっていた。

 

 

 そんな私の前で、開け放たれた扉から勢い良く飛び出してきた彼女──アチャ子はその身を纏う「赤い外套」を見せびらかすようにくるりとターンして胸を張った。

 

 

「オリシュモン、お待たせっ!」

 

 

 一目見て昨日と違うとわかったのが、その服装である。

 ターンした瞬間ヒラリと舞い上がった、何とも心許なそうな短いスカートは昨夜と同じだが……上半身に目を向けてみると、腿に届く長さの赤い外套が地肌の露出を抑えていることに気づいた。

 

「ふふん、どうよこのコート!」

 

 その外套……あまりにも見知った造形である。

 

「私の外套に似ているな。どこでそんなものを?」

 

 彼女に昨夜貸した外套だが、既に返却され私がこの身に纏っている。故に、今彼女が着ているそれは私のではない。

 

 しかし今の彼女は、まるでペアルックのように私の外套と全く同じデザインの上着を羽織っていたのだ。サイズも彼女の華奢な体型にピッタリである。

 

 着の身着のままこの世界にやって来たと聞く彼女が一体どうやって一夜の内にそのような服を入手したのかと怪訝に思っていると、我がマスターはビシッとファッションモデルのようなポーズをキメながら得意気に言い放った。

 

「良いでしょ! これも私のデジヴァイスの機能よっ! 「コピーアンドペースト」って言うんだけど、ネット上のデータに対して写し身を作ることができるの。ある程度ならサイズも調整できるわ」

 

 ……なるほど、よくわからんが、そう言う機能もあるのか。

 

 よく見れば外套以外のスカートや黒いシャツにニーソックスも、見た目こそ変わらないがどれも真新しい。その生地には昨日の騒動で付着していた筈の土汚れ一つ見当たらなかった。

 あの後私の振る舞ったチャーハンを大盛りで完食するなりすぐに就寝した彼女には、洗濯をする時間も無かった筈だが──同じく外套同様、その機能を使って作り出した複製に着替えたのだろう。

 実に感嘆と嫉妬を覚える、デジヴァイスのハイテクな機能だった。

 

「やれやれ、昨日のホーリーアローと言い、君は私のアイデンティティーを何だと思っているのだ?」

「まっ、こっちはカードスラッシュで呼び出した物やあんたの能力と違って、見た目しか再現できないんだけどね。……って、マジで落ち込んでる?」

「……君を守るパートナーになったつもりが、テイマーの方が私より優れた贋作師(フェイカー)だったと知れば気持ちも揺らぐさ」

「えっ、あんな力持ってるくせにメンタル弱くない? それはそれ、これはこれでしょーが!」

「私の心は硝子だぞ。そんな風に割り切れるものか」

「硝子なんだから割っときなさいよそこは!」

 

 なんだと? ……ふむ、そう言う考えもあるか、硝子だけに。

 なるほど硝子の心を持つ私だからこそ、硝子のように綺麗に割り切って次の心に切り替えることが大切だと言いたいのだな。流石はアチャ子、私のテイマーだ。

 

「……あんたって、結構変わってるわね」

「? まあ、同族を見たことがないぐらいにはオリシュモンは珍しいデジモンだが……」

「そういうことじゃなくて……まぁいいか。そんなことよりご飯にしましょ! オリシュモン、お願いしてもいいかしら? お金持ってないけど!」

「昼食を作るのは良いが……別にチャーハンを作ってしまっても構わんのだろう?」

「えっ、昨日のはすっごく美味しかったけどまたチャーハン? あんた、チャーハンしか作れないの?」

「昨夜は五目チャーハンだったが今日は海鮮チャーハンだ。何の問題もあるまい」

「そ、そう……ま、まあ作ってくれるのはありがたいんだけど……」

 

 ──しかし、なんだ。

 

 日常には彩りが必要と聞くが、まさに今私はそれを感じていた。

 基本的に可愛い子なら誰でも好きな私は、昨日のロップモンたちのような可愛らしい成長期デジモンたちが店を訪れると心が落ち着くものだ。村の外が過酷だからこそ、日常の中では何気ないところで癒しが大切だと理解している。

 

 しかし我がマスター、アチャ子の存在は彼らとはまた別の何かを私の心に与えてくれているような──そんな気がした。

 

 その不思議な心地良さに頬を緩めながら厨房に戻った私は、起床した彼女の為に用意していた遅めの朝食作りに取り掛かっていく。

 そんな私の姿をカウンター席から見て何を思ったのやら、それまで優雅な姿勢で海鮮チャーハンに舌鼓を打っていたレオモンが、何とも微笑ましげな眼差しを向けて呟いた。

 

 

「そうか……オリシュモン、お前にも……」

 

 

 仕えたい相手ができたのか──というその言葉にはもはや、答えるまでも無かった。




 これにて短編完結です!
 ここまで読んでいただき、ついでにアンケートにご協力いただきありがとうございます! おかげさまで実際にどれぐらいの方に読まれているのか実感が湧きました。この結果を前向きに構想を練っていきたいと思います!

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