オリシュモンッ!! 異世界転生者の魂が超進化した完全体デジモンだ! 必殺技は空想の剣製《テンプレイト・フィクション・ワークス》!! 作:GT(EW版)
謎の敵、デジモンルーラー!
──デジタルワールドでは、肉は畑から採れる。
比喩表現ではない。我が店の仕入れ先であるレッドベジーモン殿の畑では、それはもうツヤツヤした見事な豚肉が採れるものだ。
そんな冗談みたいな常識が代表するように、この世界における食材の入手法は人間世界とは色々と勝手が違う。
前世の感覚では不気味にも思えようが……それらの食べ物は人間でも問題無く口にできるようで、マスター・アチャ子は「悪くないわね」と私の海鮮チャーハンに舌鼓を打っていた。
デジモンに生まれ変わって長くなる私にとって、正真正銘の人間である彼女の感想は貴重なものである。この味覚が人間だった頃と変わっていないことを確認する答え合わせとなり、私もまた安心を感じていた。
故に思う。私がこれまでに積み重ねてきたチャーハンの研究は無駄ではなかったのだと。立ち止まらない限り続いていくこの道をこれからも進んでいく決意を固めていた私に、彼女は言った。
「昨日はずっとバタバタしていたから、改めて説明するわね」
あんたもそこに立ってないでこっちに座りなさいと、そう促されるままに私は、皿洗いを中断して向かいの席に腰を下ろす。
今この店にいるのは私とアチャ子の二人だけだ。レオモンは人間である彼女の存在に驚いていたが、私の表情から訳アリと判断するなり多くを追及せず、チャーハンを完食すると空気読んでこの場を立ち去ってくれた。
村長のジジモンに報告しに行ったのかもしれないが、彼のダンディーな対応には頭が下がるばかりである。
そんなナイスガイの配慮のもと、店に残った我々は改まって膝を突き合わせる。
「まず、私の目的はこの世界に連れ去られた姉さんを助けること。それと、連れ去った犯人のことはもう突き止めてるってことは話したわよね?」
「ああ」
彼女が姉を助ける為、リアルワールドから遥々この世界まで敵を追ってきたということは、昨夜も聞いた話だ。
忘れる筈も無かろう。アサシンの襲撃で有耶無耶になったところはあるが、その望みに感じ入るものがあったからこそ、私は彼女のパートナーデジモンになったのだ。
「察するに、あのソーサリモンがその主犯か?」
犯人と聞いて思い浮かんだのは、見るからに胡散臭いあのデジモンの姿である。
昨夜剣を交えたシスタモンシエルの太刀筋は、暗殺者にしては綺麗すぎた。故に私は、彼女よりも彼女の後に現れた
我がマスターを引き渡すように命じてきた、如何にも怪しげなデジモン。この店の常連客の一人であるウィザーモンにも似た姿のキャスターは、彼女に対して明確に害する意図を持っていた。
私の問い掛けに、アチャ子は一部を訂正して答える。
「部分的にはそうね。正確には、あのデジモンが所属している「組織」の仕業よ」
「なるほど……君が起きる前にレオモンとも話していたが、やはり組織的な犯行だったのか」
シスタモンシエルだけならばともかく、地中から奇襲の機会を窺っていた複数のニセドリモゲモンたちの存在が、彼女の言葉を裏付けていた。
しかしそれならそれで、また一つ二つと疑問が浮かび上がってくる。
「シスタモンシエルほどのアサシンを雇う組織となると、名前も売れていそうなものだが……心当たりが無いな」
「……随分高く評価しているのね? あのシスタモンシエルってデジモンのこと」
「まあな。いつだったか、私の師が言っていたのだよ。「シスタモン」と名のつくデジモンは決して怒らせるなと」
「ふーん……」
今は亡き我が師ジエスモンは若かりし頃、二人のシスタモンと共に戦場を駆け巡っていたというのはロイヤルナイツの伝説でも有名な話である。
もちろん彼に所縁あるシスタモンと私が戦ったシスタモンシエルは別の個体であろうが、同じ名前のデジモンと相まみえたことに対して何の感慨も沸かないかと言うと嘘になった。
「……ホーリーアローをアイツに撃たなかったの、それが理由じゃないでしょうね?」
「まさか。優先順位を弁えただけだ」
確かにホーリーアローで放つ「偽・轍剣成敗」ならばあの場で彼女を倒すことができたかもしれないが、その刃を彼女ではなくニセドリモゲモンたちに向けたのはあくまでもあの状況においてそれがベストと判断したからに過ぎない。
故に手心を加えたわけではないのだと弁明すると、マスターアチャ子はまたも「ふーん……」と胡乱げな眼差しを向けてきた。
まあ、前世人間だった私が、可愛らしい少女の姿をしたデジモンに対して鉄の心で殺しに掛かれるのかと問われると否定しきれないのは正直な話である。しかし私の心は鉄ではなく硝子なのだから仕方あるまい。
彼女から向けられるジトっとした眼差しが少しだけ居心地悪くなった私は、それ以上の追及を逃れるように話を前に引き戻した。
「それで、その組織の名は何と言う?」
彼女の姉を攫い、昨夜シスタモンシエルを雇って襲撃を仕掛けてきた者たちのことだ。
それまでの口ぶりから察するに、彼女ならそちらも既に掴んでいるのだろうと掛けたこちらの期待に対して、我がマスターは残念そうに答える。
「組織の名前まではわからないわ。だけど……」
そこで一旦言葉を区切った彼女は、スプーンを置くとナフキンで口元を拭い、その大きな瞳で私の目を見据えて告げた。
「デジモンルーラー。周りのデジモンたちは、リーダーのことをそう呼んでいたわ」
リーダーの呼び名である。
その名前の響きはどこか、かの「選ばれし子供」が遺していったある伝説の一節に似ているような──そんな気がした。
しかし……ルーラーか。
「ルーラー……定規? いや、かの伝説を意識しているのであれば、「
「? 伝説って?」
「ああ。昔、このデジタルワールドには「デジモンカイザー」という支配者がいたという伝説があってな。どこか名前の響きが似ている気がしたのだ」
「それはまた素敵な呼び名ね」
「だろう?」
このデジタルワールドの歴史には多種多様な伝説が遺されているが、中でも選ばれし子供の伝説の一つである「デジモンカイザー」の逸話は有名である。
尤も、かの伝説は秩序・善側のロイヤルナイツの伝説とは正反対の「混沌・悪」とも言うべき負の歴史であったが。
その内容は「選ばれし子供」としてデジタルワールドに招かれた筈の人間が、その力を悪事に用いて世界征服を企んだという話である。
本来聖なる光の存在である筈の「選ばれし子供」が闇に墜ち、世界を混沌に陥れたという伝説は色々と背景を考えさせられるエピソードであったが、それを聞いたアチャ子は「迷惑な奴もいたもんね」と身も蓋もない感想を返した。全くもってその通りである。
しかしデジモンルーラー……それが我々の敵の名か。
目標はあくまでも彼女の姉の奪還だが、戦う相手を早々に示してくれたのは我がマスターとして100点の解答だった。
その上まことにありがたいことに、彼女はその居場所まで特定済みだと言う。
「ただ、その居場所が問題なのよね。奴らは今、「ムゲンマウンテン」に隠れてる」
「何だと?」
ムゲンマウンテン──その地名の名が出た瞬間、思わず眉を顰めた。
ムゲンマウンテンと言えばこのファイル島一番のシンボルと言っても良い、島の中央に荘厳と聳え立つ高山の名だ。
岩肌に覆われた雄大な姿はこの村からも見えるが……彼女が今しがたもたらした情報には、嫌な説得力があった。
「……あの山には未開拓エリアも多い。確かに闇の組織が拠点を置くには都合が良さそうだが……」
「そ。ラストダンジョンみたいに危険なところに奴らはいるのよ」
この島の象徴とも言えるムゲンマウンテンは外から見る分には美しさすら感じる名所だが、山の中は常に気候が不安定で一般的なデジモンが暮らすには向かない過酷な環境である。
故にあの山に住んでいるデジモンは一般的ではなく……修行目的で訪れる者や、過酷な環境を過酷と思わない強力なデジモンが多かった。
故にムゲンマウンテンは、この島で唯一例外的な危険地帯として扱われていた。
「あそこには強力なデジモンも多い。戦う術を持たぬ者が一人で赴くのは自殺行為だろう」
「でも、今はあんたがいる」
「……ああ、そうだな」
そんな禁足地に踏み入れると言うのだから、なるほど彼女が自らのパートナーとして私を選んだわけだ。これでも私は完全体デジモンらしいからな。
「君のデジモンは、最強なんだ──とは言い切れんが、その期待にはできる限り応えてみせよう、マスター」
「ふふ、頼りにしているわよ、オリシュモン」
かのムゲンマウンテンに潜伏する謎の組織が相手となると、私も覚悟を決めねばと気合いを入れ直す。常にイメージするのはどんな敵ともまあまあ戦える自分の姿だ。
敵は「デジモンルーラー」というこれまた得体の知れない存在だが、まずは偵察がてら山の麓へ情報収集に赴くのも良いかもしれない。そう今後の方針についてマスターと調整を行っていると……不意に、勢い良く店の扉が開かれた。
今の扉はシスタモンシエルに壊されてから応急処置を施したばかりの為、鍵は閉まっていない。それ故に、部外者の来訪を許してしまったようだ。
「悪いが本日は休業だ。日を改め……」
立て札は掛けていたが、流石に昨日の今日で営業する気にはなれない。
レオモンにチャーハンを振る舞ったのも客としてのもてなしではなく、片付けを手伝ってくれたことへの報酬である。
わざわざ来店してくれて悪いが今日のところはお引き取り願おうと言い掛けて──私は店内に入ってきた二人のデジモンの姿に目を見開いた。
「お前たちは……」
それは昨日の昼、この店で賑やかなランチタイムを過ごしてくれた二人の成長期デジモンだった。
ガジモンと、アグモンである。
しかしその身体には二人とも、酷い傷を負っていた。
『ガジモンッ! 鋭く大きな爪を持つ哺乳類型デジモンだ! 小柄だが気性が荒く、いつも落とし穴を掘っては他のデジモンが穴に落ちるのを楽しむイジワルな性格をしているぞ! 必殺技はガス状の毒息を吐き出す「パラライズブレス」ッ!』
『アグモンッ!! 小型の恐竜のような姿をした爬虫類型デジモンだ! 力は弱いが、偉大なデジモンに進化する可能性を秘めた、最優の成長期デジモンと言われている! 必殺技は口から火炎の息を吐き敵を攻撃する「ベビーフレイム」だッ!!』
二人の姿を確認した瞬間、アチャ子のデジヴァイスから立て続けにイイ声が聴こえてきたが、流石に今は頭に入ってこない。
息も絶え絶えと言った様子のガジモンが意識の無いアグモンに肩を貸しながら這うように入店してくると、最後の力を振り絞るように彼を横たわらせた。
「ぐっ……あ……」
「しっかりしろアグモン、立派なグレイモンになるんだろ……!」
ガジモンも酷い怪我だが、アグモンはそれ以上である。
よほどの脅威に襲われたのだろう。身体中が深い切り傷に覆われており、そして腕や足はモザイクのように歪み始めている。
それはデジモンが自らの姿を保てなくなり、データの残骸に成り果てようとする前兆である。すなわち、死だ。
……間に合わない、か。
ガジモンの方は今から治療すれば間に合うかもしれないが、アグモンの方は素人が見ても手遅れとわかるものだった。
彼らは必死の思いで藁にも縋る気持ちで私のところへ来たのだろうが……医者でも天使でもない私には、せめてこれ以上痛みを長引かせること無くデジタマに還すように介錯してやることぐらいしかできそうになかった。
──しかし、今この店に居るのは私だけではない。私にはできなくても、彼女なら……
私が目配せするよりも早く、彼女は颯爽と前に出る。
そしてその左手に掲げたデジヴァイスに向かって、おもむろに一枚のカードを振り下ろしていった。
「カード・スラッシュ!」
昨夜、私の手にエンジェウーモンの弓、ホーリーアローを召喚したマスター・アチャ子の力。
詳細はまだ詳しく聞いていないが、「カード・スラッシュ」と呼ばれるデジヴァイスの機能の一つらしい。
しかしこの時彼女が「スラッシュ」したのは、昨夜私が見たエンジェウーモンのカードではなかった。
私の動体視力が捉えたのは八枚の翼を持つ大天使型デジモンのではなく、二足歩行ではあるが獣の姿をした異形のデジモンのイラストである。
昨日のランチタイムに初めて我が店を訪れた客、ロップモンの面影が垣間見える黒いウサギのようなそのデジモンは──天使ではないが、エンジェウーモンに匹敵する聖性を持つ完全体デジモンだった。
「アンティラモンッ!」
このデジタルワールドを守護する偉大なる「四聖獣」の忠実なる僕、
私は昔、本人に会ったことがあるが……その手の大層な肩書きを持つデジモンにしては珍しく謙虚でおっとりしていて、その力で小さき者を護る心優しいデジモンだった。
まあキレると一転して手が付けられない暴れん坊になるバーサーカーのような一面もあったが、思わぬところでその姿を再び目にしたものである。
そんな彼の得意技は、いかなるダメージも瞬時に回復する──
「メディテーションキュア!」
一枚のカードが放つ光が、私の前で再び奇跡を起こす。
アンティラモンの得意技「メディテーションキュア」。
力無き小さき者たちを護りたいという彼の信念が形になったような技は、デジモンの傷を癒すデジタルワールドでも希少な回復技である。
まさしく十二神将の名に相応しい神秘的な能力であり──マスター・アチャ子が振り翳したカードは、その技を完璧なまでに再現していた。
……カードに描かれたデジモンの技の再現──それがカード・スラッシュの本質か。つくづく私の硝子細工の上位互換のような力である。
もはや嫉妬する気さえ起きないその再現度の高さは淡い光となって二人の成長期デジモンの身体を包み込み、その神聖な力で瞬く間に彼らの傷を癒していった。
ガジモンはもちろん、死に体だった筈のアグモンの傷さえも。
──程なくして子竜は目を覚まし、ガジモンが涙を流してそれを喜んだ。
「……っ、? あ……あれ? 僕生きてる……?」
「アグモン! ああ、良かった……!」
死にゆくデジモンの命を一瞬にして救ってみせた──もはや「魔法」と言っても良い彼女の御業を前に、二人は揃ってアチャ子に平伏し「ありがとう……! ありがとう……!」と拝み倒す。
まるで地上に舞い降りた女神に対するような扱いに彼女は「え? え、ええ……」と困惑するが、純粋に感謝されるのは悪い気はしないようでその目は穏やかだった。
そう言った人格面においても、どうやら私は相当に当たりなマスターを得たようだ。
「デジモンの治療もできるのか……」
「そう何度も使えないけどね。成長期デジモンのデータ容量なら、今ぐらいの怪我も治せるみたい」
「昨夜のホーリーアローと言い、大した力だ」
「ふふん、凄いでしょ? ま、使えるカードはあと一種類しか無いんだけど」
「三種類もあるのか? それだけあれば十分だ」
攻撃のエンジェウーモンに、治癒のアンティラモン、それに加えてもう一枚となれば戦闘のサポートとして実に心強い。
それについては是非とも詳しく聞きたいところだが、今はそれよりも目の前にいる二人の成長期デジモンのことが気になった。
「……しかし穏やかじゃないな。このファイル島で君たちは、死にかけるまでどこで何をしていたのだ?」
村の外には危険な場所もあるが、あれほど深い手傷を負う場所となるとそれこそムゲンマウンテンぐらいなものである。
そして彼らが負っていた傷は転んで負ったようなものではなく、明らかに何者かの攻撃を受けてのものであった。
気性の荒い野生デジモンの縄張りに踏み入れたのだとすれば年長の立場として叱らねばなるまいと問い詰めてみると──二人はハッと大事なことを思い出したように声を上げた。
「──っ、そうだ!」
「ロップモンが! ロップモンが危ないんだ……! 助けてオリシュモン!」
それは彼らと共にいたもう一人の成長期デジモンの、SOSだった。
連載に伴いこの先宗教上の理由でTS要素が入る予定です(´・ω・`)