オリシュモンッ!! 異世界転生者の魂が超進化した完全体デジモンだ! 必殺技は空想の剣製《テンプレイト・フィクション・ワークス》!!   作:GT(EW版)

9 / 9
狡猾なる蜘蛛の罠! ドクグモンに気をつけろ

 学校で一番と言うほどではないが、浅間慎一は自分のことをデキる小学五年生だと自負している。

 

 勉強も運動も学年上位に食い込んでおり、海藻類を髣髴させる髪型こそ一癖あるが顔立ちも整っている方だ。寧ろ彼の場合はその髪型をして「きれいなワカメ」という愛称でクラスメイトたちから親しまれている。まるで他にきたないワカメがいるかのようなネーミングセンスには首を傾げたことはあるものの、あだ名で呼び合える友達が居る程度には交友関係も広く、それなりに充実した日々を過ごしていた。

 そんな彼だがもちろん生まれや育ちは至って平凡であり、昨今の少年漫画の主人公にありがちな前世の記憶を持つ転生者でも、特別な血筋の持ち主でもなかった。

 

 しかし彼が今直面している状況は、誰が見ても「特別」以外の何物でもないだろう。

 

 

 ──夏休みに参加したサマーキャンプで、気づいたら見知らぬジャングルに居て、そこには流行りのゲーム「デジモンユニバース」でお馴染みのキャラクター「デジタルモンスター」が居た。

 

 

 ……まるで意味がわからない。

 慎一は現役の小学生男子だ。もしも現実の世界にゲームや漫画のキャラクターがいたらと妄想したことは何度もある。しかし、それが本当に実現した今の彼が抱えている感情は喜びなどではなく8:2ぐらいの割合で占める困惑と恐怖だった。

 それでも恐怖の割合が少なく済んでいるのは、この場で初めて出会ったデジモンが軒並み可愛らしい姿をした小さき者たちだったからであろう。

 そして何より、初めて言葉を交わした相手がゲームの中でパートナーデジモンとして親しんでいたテリアモン──によく似た姿のロップモンであったことが、僅かながらも彼の心に安心を与えてくれたのかもしれない。

 しかし彼のもとへ訪れた非日常は、尚も加速していく。

 

「……! これは……?」

 

 呆然とした顔でロップモンの姿を見つめていた慎一の目の前に、どこからともなく光点が現れたのである。

 その光点はまるでゴキゲンな蝶のようにヒラヒラと彼の胸元近くまで舞い降りてくると、思わず差し伸ばした手の中でその機械仕掛けの姿を晒していった。

 

「なんだ、これ……」

 

 手のひらに収まるストップウォッチ程度の大きさのそれは、中心部に液晶の画面が広がっている何かの端末のようであった。

 しかしスマホに代表される通信用の端末にしては分厚く、小さすぎると感じる。色は水晶のような水色で、八角形状の独特な形状をしていた。

 強いて言うなら……親父がコレクションしているレトロゲームの一種に似ているかもしれない。現代の子供である慎一からしてみれば、いっそ骨董品にすら感じる古臭い造形だった。

 

 しかしその機械を見た瞬間、蜘蛛の巣に囚われているロップモンが「あーっ!」と驚きの声を上げる。

 

「それ知ってる! それデジヴァイスでしょ! すっごーい! じゃあ君は本当に選ばれし子供だったんだ!」

「デジヴァイス? 選ばれし子供? ……お前、何か知ってるのか?」

「知ってるよー! アグモンたちから聞いたんだー」

「アグモン……アグモンもいるのか。なんなんだここは…………ははっ、デジモンの世界にでも迷い込んじまったってか?」

 

 ふふんと得意げな顔を浮かべるロップモンの言葉を受けて、慎一は怪訝な眼差しでその機械──「デジヴァイス」の液晶画面を見つめ直す。

 するとその画面が再び閃光を放ち、先程よりもさらに強い輝きが周囲を照らしていった。

 

「……っ、!? 霧が……」

 

 あまりの輝きに目が眩み、思わずまぶたを閉じた慎一だが、おそるおそる目を開くとその頃には彼を取り巻く周囲の状況は一変していた。

 まず、霧が掻き消えた。これまで視界を悪くしていた白い濃霧が、この場所からたちまち消え去ったのである。先程の閃光が物理的な力を以て、彼らの立っている場所の濃霧だけを吹き飛ばしたのだ。

 

 そして閃光が周囲に与えた影響はもう一つ──ロップモンや大量の幼年期デジモンたちを拘束していた巨大な蜘蛛の巣が、光を浴びた途端ドロドロと溶け落ちていったのである。

 

 解放された幼年期デジモンたちは意識が無い為重力に従いボトボトと地面に落ちていくが、唯一意識のあるロップモンだけは「とうっ!」と勇ましくも可愛らしい掛け声を上げるなり華麗なジャンプを決め、その大きな長耳を羽のように広げながら慎一の頭に向かって覆い被さってきた。

 

「ありがとーシンイチ! おかげで助かったよー!」

「うわもっふ……じゃなくて、馴れ馴れしい奴だな! ……いや、待て。なんで僕の名前を知っているんだ?」

「? あれー? なんでだろ? でもシンイチはシンイチだよね?」

「……まあ、それは後でいい。それよりこんな気味悪い森からさっさと出ないと……」

「出口なら知ってる! あっちの方に行けば村に出れるよー! そうだ、このことをジジモンに伝えないと……」

「なら案内してくれ」

「らじゃー!」

 

 何が楽しいのやら慎一の頭に乗っかったロップモンはそこを特等席のように陣取りながらえへへと微笑む。

 マフラーのように首元にもたれかかってくる長耳の感触は柔らかく、暑苦しくはあるが悪くないものだった。それこそ平時なら人をダメにするクッションのような癖になるもふもふ加減であったが……そのもふもふは、動揺しっ放しだった慎一の心が落ち着いた思考を取り戻すほどのリラックス効果があった。

 その思考から慎一はこの森から脱出することが先決と判断し、頭の上から送られる指示に従って駆け出していく。

 

「……っ、なんなんだよ……」

 

 その際視界に入ってきた意識不明の幼年期デジモンたちの姿には後ろ髪を引かれる思いがあったが……彼は自分一人では彼ら全員を救助することができないと理解しているからこそ、今は自分自身の身の安全を優先するしかなかった。

 そんな彼の複雑な心情を読み取ったように、ロップモンが呟く。

 

「村に戻ったら、あの子たちの助けを呼ばないとねー」

「……気が向いたらな」

 

 浅間慎一は正義の味方ではない。

 突然陥った訳のわからないこの状況下で一番困っているのは他ならぬ自分自身だと認識しているが故に、リスクを犯してまで人助け……この場合は人外が相手だが、自分以外の誰かを優先する気は無かった。

 誰もが自分が一番可愛いのである。その本心を一切オブラートに包まない浅間慎一という少年は、ある意味では自分の心に正直な誠実な子供であり──この状況下では、長生きできるタイプの人間だった。

 両手では抱えきれない数の幼年期デジモンたちを助ける前に、まずは自分の身の安全を確保する。小さき者たちを後回しにすると言えば聞こえは悪いかもしれないが、有事の際には冷静な判断と言えた。

 

 この場においてその判断は的確であったが──それでもこの時、判断の良し悪しに拘らない致命的な運の悪さが、彼に牙を剥いてきた。

 

 

「待ちなさいボウヤ。私の可愛いデザートを連れて、どこへ行くつもりかしら?」

「──っ! なっ……」

 

 

 ロップモンに指示された方向に向かって走り出していた慎一の前に、木々の間を縫うようにして駆け抜けてきた一体の死神が降りてくる。

 

 全長3mを超える熊よりも大きなそれは──威圧的な女性の声を発する、巨大な蜘蛛の姿をした怪物だった。

 

 

 

 

 

 

 

『ドクグモンッ!! 全身にコンピュータウィルスを寄生された、呪われし蜘蛛型デジモンだ! 元々は大人しいデジモンだったのだが、ある日ネットワークを飛び交っていたコンピュータウィルスに感染して以来、触れる者全てを腐食させる毒の塊となった過去を持つッ! 八本の足を使ったその移動力の前では、決して逃れることはできない! 必殺技は凶悪な牙から発せられる恐るべき毒の攻撃「スティンガー・ポレーション」ッ!!」

 

 

 霧深き迷いの森と化した「迷わずの森」の中、後ろのマスター・アチャ子が外套に結着したデジヴァイスから今日もイイ声が響く。辺りにどんよりとした空気が漂っていようとお構い無しにデジモンをアナライズしてくれるその声は、中々に興味深い内容だった。

 「ドクグモン」は森林地帯に生息する成熟期デジモンの中ではポピュラーな存在であり、私も何度か対峙したことや駆除したことがある。手当たり次第攻撃を仕掛けてくる非常に凶暴な存在で、意思の疎通すら満足にできない。戦闘に特化した進化をしたが故に言葉を発することができないデジモンは数多くいるが、中でもアレは折り紙つき──いや、そもそも理性を持ち合わせているのかさえも怪しいデジモンだった。

 故にドクグモンという種族はデジモン社会においてすら害虫扱いされているデジモンであったが……コンピュータウィルスに侵されたのが凶暴化の原因とは、今初めて聞いた話である。

 まさに呪われし一族という奴か。知ってしまうと同じデジモンとして、些か以上に同情を禁じ得ない悲しき過去だった。

 

 

 さて。

 何故デジモンアナライザーが急にドクグモンについて語り出したかと言うと、この森の各所にアレの痕跡である巨大な蜘蛛の巣を見かけたからである。本人がいなくても痕跡からその主の情報を教えてくれるとは、流石のハイスペックぶりである。

 しかしその蜘蛛の巣が中々厄介なもので、この迷いの森と化した迷わずの森の探索をよりやりにくくしていた。

 異常に増えたこの木々の大半が幻術によって生み出された幻影であることを看破したまでは良いのだが、その幻影に紛れ込ませるようにして大小様々な形をした蜘蛛の巣が、幾重にも渡って張り巡らされていたのである。

 おそらくはドクグモンが獲物を捕える為に設置した罠……なのだろうが、これが非常に狡猾だった。

 

「ううっ……あれ? ぼくどうして……」

「もう大丈夫よ。あそこを真っ直ぐ行けば森を出られるわ」

「! きみがたすけてくれたんだ! ありがとー!」

 

 これで八人目になるか。ドクグモンの蜘蛛の巣に絡め取られていた幼年期デジモンを解放し、マスターが脱出を促していく。

 捕らえられていたデジモンたちは後でまとめてロード……捕食するつもりだったのだろう。彼らは皆、弱めの毒で昏睡させられていた。それに対してアチャ子は一人ずつデジヴァイスをかざしていくと、液晶画面から放たれる淡い光で癒していったものだ。

 どうやら彼女のデジヴァイスには、デジモンの状態異常を治療する機能までも備わっているらしい。アンティラモンのカードによる傷の治療と言い、デジモンのサポートにおいてあまりにも汎用性が高い能力だった。

 彼女にできないことと言えば、いよいよ強力なデジモンに対する直接的な戦闘や、特殊な技への対処ぐらいなものだろう。

 ドクグモンが張り巡らせたこの蜘蛛の巣の、シルクよりも頑丈な糸がまさにそれだ。

 この糸がまた厄介であり、一度引っ付いたら簡単には剥がれない強力な粘着性を持っている。成熟期クラスでもレオモンぐらい力自慢のデジモンでなければ捕らえられたが最後、自力での脱出はまず困難だろう。流石のデジヴァイスもデジモンたちからドクグモンの引き剥がすことはできなかったようで、その役目は私が硝子の剣で地道に行う運びとなっていた。

 

 ……しかしこのドクグモンの罠、先ほどは我がマスター・アチャ子がまんまと嵌まってしまったところである。

 

 この森を歩いている中で、彼女は草木の幻影を隠れ蓑に足元に張られていた蜘蛛の巣に気づかず、スカート正面の裾をその糸に引っかけてしまったのだ。

 即座に足を止めたことで地肌まで引っ付かなかったのは不幸中の幸いだったが、おかげで私が糸を切断するまでの間、彼女はスカートに付着した蜘蛛の糸を引き剥がすべく壮絶な格闘を繰り広げていたものである。

 その激戦の影響で今のマスターのスカートは前部分が少々破れており、元々短かった裾がさらに短くなっていた。

 その格好は流石に恥ずかしかったのであろう。羞恥心に赤らんだ顔で破れた裾を押さえていた彼女に対して、私が「糸が付着した時点でさっさと助けを求めれば良かったものを」と苦言を呈すると、彼女はバツが悪そうに「そんなことであんたを使うの、カッコ悪いじゃない……」と言い訳したものだ。

 今の姿の方がよっぽどカッコ悪いような気もするが、これはこれで破れてギザギザになった裾がそういうパンクなデザインとして受け止められなくもなかった。

 人間で言うところのダメージジーンズのようなファッションをしているデジモンは、この世界では案外多いからな。そういう意味では今の彼女の格好はレディーオリシュモンとして偽装する面での違和感は減ったのかもしれない。

 

「……淡々と変なフォローをするのはやめて。より恥ずかしくなる」

「そうか」

「あとあんまりこっち見ないで! 歩く度に見えそうになってるから」

「……数は多くないが、デジモンの中にはそういった情報に興奮する輩もいる。人外が相手だからとあまり扇情的な格好はしないことだ」

「えっ、そうなの? ……まさか、あんたはそうだったりしないわよね?」

「心配は無用だ。私は見た目こそ人間に似ているが、今の君に対して感じているのは性的な感情ではなくただただこの先大丈夫なのかという不安だけだ」

「……こんな美少女のあられもない姿を見て、顔色一つ変わらないのね貴方。それはそれでなんかムカつくけど、それを聞いて安心したわ」

 

 帰ったら新しいのに替えないと……せっかく穿き替えたのにと嘆く彼女の姿に対して、小粋なフォローの言葉が見つからなかった自分自身の未熟さを改めて痛感する。

 私が外見通りの紳士であったのなら、この外套を彼女に貸し与えて太ももを隠す腰巻きとして扱うように促すなりしたのかもしれないが……生憎私の一張羅は貴重な防具なのである。

 昨夜は仕方が無かったが、今は彼女も同じ外套のコピーを持っている。完全体としては紙耐久なデジモンである私としては、戦地のど真ん中で自らの防具を脱ぎ捨てることは極力避けたかったという申し開きだ。

 

「いいわ。こんなアホなことで貴方を弱体化させるわけにはいかないし、自分の身は自分で守るから。貴方はいつでも全力で戦える状態を保っていなさい」

「心得た」

 

 そう言ってくれるとパートナーデジモンとして非常にありがたい。マスターは多感な女子中学生ということもあり、デジモン故の私のデリカシーの無さにはこの先色々と不満を感じるのではないかと、これでも私は気にしていたのである。

 実際のところ私は、可愛いものを可愛いと感じたり美しいものを美しいと感じる美的感覚自体は人間だった前世と変わっていないのだが、その感性は庇護欲には結びついても男女のアレコレには一切結びつかないと感じていた。彼女のこともその年齢にしては掛け値なしに魅力的な美少女だと感じているが、前世の私が持ち合わせていたような性的な感情は微塵も湧いてこないのである。

 そもそもの話、我々デジモンは生殖行為を必要としない電子生命体だからな。人間の三大欲求と言えば睡眠欲、食欲、性欲だが、デジモンに関しては性欲のところが戦闘欲とそっくり入れ替わっているのではないかと認識していた。

 

 まあそれはそれとして彼女の恥じらう姿にはそこはかとない愉悦を感じているのだが、そんな本心は今後のコミュニケーションを円滑にする上であえて黙っておいた。我ながら不誠実なパートナーデジモンである。

 

 

 

「しかし、ロップモンは見つからないな」

「心配ね……あの子たちみたいに逃げおおせたならいいんだけど」

 

 森に足を踏み入れてからしばらく経つが、一向に当初の救助対象は見つからない。ドクグモンの巣に囚われたデジモンはいずれもコロコロモチモチとした幼年期デジモンたちであり、ガジモンたちから助けを依頼された成長期デジモンの姿は見当たらなかった。

 あまり考えたくはなかったが……幼年期より保有するデータ量が多いが故に、先んじて捕食されてしまった可能性がある。我々にも見つからないように上手く隠れ潜んでいると信じたいが……さてどうするか。

 このまま虱潰しに探し回っていては日が暮れてしまう。この先の戦いで全力を出せるようにと言われていたマスターの指示を早速破ることになるが、私は足を止めて彼女の方へ振り向──くと、彼女の破れたスカートの奥から歳の割に色気付いたデザインの白い布切れがチラリと見えてしまったので、やむなく視線を正面に向けた姿勢のまま提案することにした。

 

「確実に見つかるかはわからんが……私にまたホーリーアローを使わせてくれないか?」

「えっ、なんで?」

「昨夜の戦いであの弓を持った時、第六感が働いたと言うところか。私の感知能力が上がったように感じたのだよ」

「あー、そう言えばあの時はそれでドリモゲモンが隠れていたことに気づいたんだったわね」

 

 彼女の話によると、カード・スラッシュによる技の発動及び武器の召喚にはそれぞれ制限が課せられているらしい。一度カードを使用した場合、同じカードは最短でも三十分間は再使用することができないとのことだ。

 その三十分というインターバルは発動時間に比例して増加していき、例えばエンジェウーモンの「ホーリーアロー」であれば十分以上召喚していると半日以上再使用することができなくなるという重い制約が課せられている。アグモンたちを重傷から救ったアンティラモンの「メディテーション・キュア」の場合も、癒した傷の深さによってインターバル時間は延びていくようだ。

 故に現在はアンティラモンのカードを使用することはできない──怪我をすることができない状態にあり、そう言う意味では今の私たちは完全に盤石な態勢とは言い難かった。

 まあ、それは良いのだ。私が怪我しなければ使う必要は無い技だし、もちろん私がいる限りマスターが傷を負うことは無い。……衣服の損傷はともかく。

 

「最後のが無ければカッコいいセリフだったのに……」

 

 心は硝子だぞ。

 

 ともかく、この幻影に包まれた迷いの森の中からロップモンや「敵」の姿を見つける為には、ホーリーアローを手にした際に上昇する感知能力に頼るのが一番有効であると具申したわけである。

 しかし一度発動したらしばらくの間再使用することが無い奥の手を、接敵前に切るには勇気が要る決断だ。その判断はテイマーでありデジヴァイスの持ち主である君に委ねたいと私は考えていた。

 

「そ。じゃあ使うわ」

「即答か」

「当然でしょ? 可愛い幼年期デジモンやロップモンの命が懸かっているんだから」

 

 私としては使えば確実に見つかる自信があったわけではないが、我がマスター・アチャ子──阿知谷弓子の判断は早かった。

 インターバルの制約が重かろうと、我々の助けを求めている者たちのことを想えば躊躇う必要が無いということか。まるで正義の味方のような模範的な解答は、正直嫌いではない。私も早くロップモンを助けたいし、小さき者たちにこんなことをする輩は一刻も早く始末したいと思っていた。

 

「それじゃ行くわよ。カード・スラッ──」

 

 左手にはお馴染みのデジヴァイス。

 そして右手には大天使デジモンのイラストが描かれたカードを携え、アチャ子はホーリーアローを召喚する為のスラッシュ動作に移る。

 しかし今この場で、そのカードが振り抜かれることはなかった。

 何故ならば彼女がカードを振り下ろそうとしたその瞬間、この森に起こった大きな変化を視界の端に捉えたからだ。

 

「なに……?」

「あの光は……」

 

 それは我々の立っている場所よりもさらに奥──並び立つ木々の向こう側から天へと昇っていくように、一条の光の柱が解き放たれていったのである。

 闇を消し去るが如き聖なる光は、アチャ子の持つデジヴァイスがカードスラッシュの際に放つものと似ているが、何かが違うようにも感じる。

 

 そしてその光は辺りを包み込んでいくと、物理的な威力を以てそこら一帯の濃霧と幻影で象られた木々の全てを薙ぎ払っていった。

 

 私はその光から庇うようにアチャ子の前に立つが、それはこの森を包む幻影と濃霧にのみ作用しており、我々が浴びても眩しいだけで何ら影響を感じなかった。いや、寧ろ心が洗われるように心地良い……力強くも優しさを感じる、温かな光だった。

 そして光の奔流に巻き込まれながらボソリと呟いた彼女の声を、この時の私は静寂の中で聴き取っていた。

 

 

「……無事にパートナーと出会えたのね……選ばれし子供たち」

 

 

 阿知谷弓子の意味深な言葉に対して、この時の私が問い掛けることはできなかった。

 次の瞬間、それよりももっと大きな衝撃が、次の瞬間この鼓膜を襲ってきたからである。

 

 

《ギュインギュインギュイィィンッ!!》

 

 

 ──光源と思われる木々の向こう側から、突如として鮮烈なギターの音色が聴こえてきたのだ。

 

 

 なんだこの魂が震えるような、カッコいいイントロは……!

 




 阿知谷弓子さんとオリシュモンはデジモンアニメで言えば第二クール辺りから主人公チームと合流する追加戦士ポジションです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。