ウマ娘 ナイスネイチャの生涯   作:戦人

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お待たせいたしました。一週間も開いてしまいすみませんでした。バイトしながら、展開を考えつつちびちび書いていたのですが、間に入る話もあった方が良いかな?と思い、今回の話を書きました。

ネイチャ視点から見たクラシック期のある日です。


幕間 《ネイチャと同期達》

 

 

 トレセン学園では期末テストで赤点を取ると補習を受ける決まりがある。 ん?ヒトの学校とそう変わらないって?いやいや、ウマ娘の場合、特にデビューしたウマ娘にとっては意味合いが変わるのだ。

 トレセン学園では夏休みに秋シーズンのレースに向けての夏合宿が行われる。今後の飛躍を誓うウマ娘にとっては絶対に外す訳にいかない。しかし、期末テストで躓いて補習を受けていてはそれに参加する機会を逃すだけでなく、トレーニングの時間やレースの出場権利さえ失いかねない。だからこそ、勉学を怠ることはできない。

 『文武両道』、勉学もスポーツも両立出来るのを目指すのはヒトに限らず、ウマ娘も変わらない。トレセン学園ではレースに於ける優秀な成績だけ修めても、卒業に必要な単位を免除してくれる・・・なんて甘い校則はない。例え、三冠ウマ娘でもそれは変わらず、単位が足りなければ留年することになりかねないのだ。

 

 

 

 

 さて、何故こんな話をしているのかだが。

 

「もうやだやだ〜っ!!遊びたい〜〜!!!」

 

「ああもうっ!期末テスト赤点取ったら夏休みも合宿も行けないんだから、せめて問題集終わってからにしなさいよ、ターボ!」

 

 絶賛、勉強会の最中なのである。正確には我が同期の、ターボこと“ツインターボ”の赤点対策なのだが。

 

「まぁ、ネイチャさん、まるで青嵐(せいらん)のよう。ですが、柔らかな春風のような優しさを感じますね。そう、優しくも厳しい・・・母親のような」

 

「誰が母親じゃい?!」

 

「あはは・・・。まぁまぁ、そう怒らないであげてネイチャ。ゼファーは思ったままに言ってるだけなんだよ」

 

「えぇ、ミラクルさんの言う通り、私は決してネイチャさんを乏しめようとは考えておりません。ただ、ターボさんとのやり取りが、駄々っ子をあやそうとする母親のようだと」

 

「本気で言ってるなら、余計タチ悪いんだけど・・・」

 

 アタシを母親等と揶揄したゼファーこと“ヤマニンゼファー”、そんなゼファーをフォローしたミラクルこと“ケイエスミラクル”。この2人もまた、アタシの同期で、今回のターボへの勉強会に共に参加してくれている。

 何故2人が参加したかと言うと、アタシがターボの勉強を見るべく待ち合わせしたカフェテリアに向かっていた際に2人と鉢合わせ、アタシから事情を聞くや否や手伝いを申し出て来たのだ。心から手伝いたいという顔したミラクルと違って、ゼファーは何か面白そうだからと言った表情だった。

 

 『三人寄れば文殊の知恵』と思い、喜んで知恵を借りることにしたのだが。

 

「全ッ然、わかんない〜〜!!」

 

 この有り様だ。

 

 せめて、赤点だけは回避して欲しいと此方(こちら)も丁寧に教えているのだが、どうも長続きしない。

 

「もう、どうしよっかなぁ」

 

「これでは、私達だけの勉強会になってしまいますね。何か恵風(けいふう)足り得るものが、吹けば良いのですが」

 

 ゼファーの言葉を察するに、この状況を変える一手があれば、と言いたいのだろう。試しに、問題集を片付けたら一緒にゲームで遊ぼう、あるいは並走しようと、終わった後のご褒美を吊るしてみるが、だったら今すぐやろう!と言って(はばか)らない。

 

 

「ねぇ、ターボ?ターボはトレセンを受けた時はどうやって勉強してたの?」

 

ターボの様子に見かねたのか、ミラクルが尋ねた。言われてみれば、ターボとて入学試験は受けているはず。ならば、その時の集中の方法を思い出せれば、進展があるのではないか。

 

「えっとね・・・その時はとにかくターボは、ターボのこと追い込んでたの」

 

 ミラクルの問いに口を開いた。

 

「目の前の課題をやっつけるまで走らないぞ!ってくらいに。でね、その間、物凄くギューッて苦しくなるの」

 

「ふむふむ」

 

 成る程。自分に枷を付けて、それを外す為に一点集中するということか。意外にもストイックな面があることを知れたのは友人として嬉しさがある。

 

「そしたら、物凄く気持ち良くなってきてね・・・」

 

「ん?」

 

「苦しい、けど気持ち良いって感じたら、もっとこの時間を味わいたいって、ああ!もっと気持ち良くなりたい〜!!ってドッカーンしたの。そしたらパーッと課題が進んでた」

 

「んん?」

 

「あっという間に終わっちゃってね。だからそんなに覚えてない」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 3人揃って黙ってしまう。状況を動かす一助になればと口を開いたミラクルさえ、目を泳がせている。こんなところで同期の秘めたる(へき)を知ることになってしまったのだ、無理もない。

 

「ええと、じゃあターボは自分を追い込んでたら、勉強が出来てた・・・ってことでOK?」

 

「うん?えっと、そうなる・・・かな?」

 

 再起動が早かったアタシはターボの説明を簡単にまとめて確認する。ターボはターボで余り理解してないらしい。

 

「だったらさ」

 

 ターボの視線に正面から合わせて、1つ思いついた提案をしてみる。

 

 

「あのさ、ターボ。その問題集を終えないと、みんなで夏休み遊べないのよ。つまり今、あんたは崖っぷちにいるって訳」

 

「むむ」

 

「いや寧ろ、崖下かも。みんなで遊ぶには高い崖を登らなきゃいけないの。想像絶する苦難よ」

 

「おお?」

 

「でもね、それを乗り越えた先には、自由に走れる広い世界が待っているの」

 

「自由・・・」

 

「それを得る為に越えなきゃいけない試練が今、あんたの前にある」

 

そこまで言って、ターボの手元に視線をやると、彼女もつられて見る。

 ここからだ。アタシとターボの会話をゼファーとミラクルも口を挟まずに見ている。

 

「ターボの・・・試練・・・」

 

「そう。あんたを阻む高い崖。それを越えなきゃいけない。どれくらい()()()でしょうね?」

 

「・・・」

 

「それを耐えるのは、ああ・・・どれくらい()()()()()かしらね?」

 

「ッ!!」

 

「最後に越えた時の達成感・・・」

 

 大げさなくらいに言いながら、ちらりとターボを見ると。

 

「うひひひひひ」

 

うわあ・・・

 

 思わず声が漏れる程にちょっとヤバい顔をしていた。恐らく、アタシの言ったことを考えているのだろう。どれくらい苦しいのか、どれくらい気持ち良いのか、と。

 畳み掛けるには今しかない。

 

「さあ、ターボどうする?苦しさと気持ち良さをくれる試練から逃げるか、真っ向からぶつかるか。決めるのはあんたよ」

 

「ターボは・・・」

 

「それともターボは逆境上等って、立ち向かえない()()()なのかしら?」

 

「・・・ッ!!」

 

 さあ、どうだ?

 

「うおおおおお!ターボは臆病者なんかじゃないもん!!これくらいやってみせる!!」

 

 どうやら上手くいったようだ。あ~あ、慣れないことをするもんじゃないなぁ。

 

 

 

 

「お見事ですね、ネイチャさん。ターボさんをその気にさせる為に逆風を吹かせ、更にそれを追い風に変えるとは」

 

「うん。おれも肝心な時に役立てなくてごめんね」

 

「いやいや。こっちこそ、ごめんね。手伝って貰ってるのに、こんなことになるとは・・・」

 

 友人の意外すぎる一面を知れるのは良いが、何もこんな時でなくて良かろうに。

 尚、(くだん)のターボはアタシの発破が効いたのか、さっきまでの騒がしさはどこへやら、しんと静まりながら問題集と向き合っている。スイッチのオンオフが両極端すぎないだろうか。

 

「いいえ、寧ろ感謝致したいくらいです。ターボさんの新たな姿を見ることができました。それに、ネイチャさんの“母親”のような、凱風(がいふう)が吹く様も拝見できましたし」

 

「だから、母親はやめなさいってのに」

 

 

 

 

 そうして、ターボの赤点対策勉強会は一端の区切りが付き、後は明後日の期末テストまでターボの集中が続くことを祈るだけとなった。ゼファーは“ご健闘を祈ります”と言って風のように去って行き、ターボも“ゲートに押し込まれているような苦しさ・・・悪くない”と何やら新たな扉に手を掛けつつありそうな不穏なことを言いながら帰って行った。

 

「じゃあ、おれもそろそろ寮に戻るね」

 

「うん、ありがとねミラクル。いやほんとにありがとう、ターボの勉強手伝ってくれて」

 

「いいって。おれは“みんなに笑顔でいてほしい”だけなんだ。頑張ってるみんなを可能な限り支えてあげたいから、ネイチャのことも手伝ったんだよ」

 

「・・・そっか」

 

 そう言うとは分かっていた。生まれつき病弱で病室のベッドの上で過ごして来た彼女にとって、今歩けること、走れることが“奇跡(ミラクル)”なのだ。だからこそ、自分の為に手を尽くしてくれたヒト達に、“こんなに走れるようになったよ”と伝えるべく、レースに挑んでいると聞いたときは感動すら覚えたものだが、彼女の在り方を学園で見続けてきた今では──

 

「だったらもっと“自分”を大事にしなって。それで倒れちゃったらみんな笑顔どころじゃなくなるよ?」

 

 ──“幸福な王子”。意思の宿った像が苦しむ人々の為に自らを彩る宝石を(なげう)ち、それを手伝った一羽のツバメと共に朽ち果てた悲壮の物語。

 彼女の着る勝負服と誰かの為に身を削る姿は、アタシにそう連想させた。

 

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。みんなから貰った“奇跡”はまだ使い切ってないから」

 

 違うのだ、そうじゃない。アタシが言っているのは“貴女”自身を大事にして欲しいのであって、貴女が以前話してくれた“自分の命を構成する、みんなへの感謝と謝罪の気持ち”を大事にしろと言ったのではない。

 

 ──そう言いたかったのだが。

 

「じゃあそろそろ、おれ行くね。また明日、ネイチャ」

 

 言い出せなかった。アタシが本当に言いたいことを察したかのように、わざとらしく綺麗な笑みで会話を切り上げたから。だけど、このまま帰す訳にはいかない。はっきり聞いておきたいことがある。

 

「待って!ミラクル、あんたには夢ってあるの?」

 

「夢?」

 

「そう、自分がレースを引退した後に叶えたいと思う夢。アタシは、その・・・格好いい旦那さん捕まえることなんだけど・・・ミラクル、あんたにはある?」

 

 どこか驚いた顔で此方を見るミラクル。生きている今に全てを賭けようとする彼女には、将来という概念が薄く見えるんじゃないのかと、危機感を抱いたのだ。お節介なのは重々承知の上だが、彼女は同期である以前に友達だ。こんなに身を削ってまで他人に尽くそうとする友達の幸せを願ってはいけない筈はない。“幸福な王子”にさせたくない。

 

「うん、あるよ。理学療法士になりたいんだ。おれを救ってくれたヒト達のように、おれと同じような誰かを助けたいんだ」

 

 言い切った彼女の顔に嘘は見えない。心から思っていると感じさせる、とても優しい笑みだった。

 

「だったら、長生きしなきゃね」

 

「えっ?」

 

「ただでさえ寿命が短いウマ娘だもの。せっかく夢を持ったなら、叶えるまで倒れるもんかーって、我儘(わがまま)にならなきゃ。目指せ無事是名(ぶじこれめい)()ってね」

 

 他人への奉仕、他人の幸福を願うことは悪いことではないけれど、自分自身の夢や望みがあるのなら、自分の幸福の為に我儘になっていいのだと、生きるのに前向きになってほしい。これがアタシから出来る最大限の応援だった。

 

「・・・・・分かった。おれも頑張ってみるよ」

 

 思いは伝わったのだろうか。返されたその言葉からは分からない。

 

「それじゃあこの辺で。・・・ありがとう、ネイチャ」

 

 そして、今度こそミラクルは背を向けて去って行った。最後に言った“ありがとう”は何に対するものだったのか。

 

「・・・ミラクル」

 

 優しい彼女がどうか幸福であれますように、思わずそう願わずにいられなかった。




いかがでしたか。ゼファーの風語やターボ、ミラクルの口調が合ってるか、ちょっと心配なので、何かおかしいと感じたら遠慮なく教えて下さい。

次回はシニア期に突入予定です。

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