10月、出走目標の天皇賞・秋に向けたステップレースの毎日王冠。アタシは、久々のレースに高揚しながらも冷静にレースを進めていた。
この日はダイタクヘリオスさんが先頭を逃げ(というかそれしかしない)、いつも通りと言えるスタート。その後ろをイクノディクタスさんが追い、更に後方から集団で追いかける形だ。アタシは4番手あたりをキープしながら、最後の直線で差し切る作戦でいた。しかし、ここで予想だにしなかった事態が起きる。
「ウェイウェイウェーイ!まだまだこっから!!バイブスぶち上げてくぜ~~~!!」
「・・・まずい!!」
「マジで!?」
どんな
「ウッシャーーッッッ!!!見てたかパマちん*1!今日のウチ最高&最強ッ!!やっぱ爆逃げしか勝たんよね!!!」
──猛追したイクノさんとアタシを完封しての逃げ切り勝ち。それもレコード*2での勝利なんだから恐ろしい。
「あーもう3着かぁ・・・」
復帰直後のレースとしては悪くないかもしれないが、やはり悔しさが残る。ヘリオスさんやイクノさんとは去年も何度か走り合っているから対策も作戦も入念に立てたつもりだった。しかし、ヘリオスさんの底力を見誤ってしまった。トレーナーさんとも“マイルで走らせたら世代最強格”と結論づけていたのに。
だが、悔やんでいても始まらない。結果は3着だったが、目指す天皇賞・秋には道を繋げただろう。それに安堵するべきだ。
◇
「ヘリオスさん、おめでとうございます」
「んあ?あっ!ネイチャじゃん!!ウェーイ☆わざわざ言いにきてくれたん?あざまる水産!!」
「あはは。嬉しそうで何よりです・・・でも」
「ん?」
「次はアタシが勝ちます」
「おお〜☆また走ろうぜ宣言!?ウッシャアアア!!受けて立つし☆次のレースも負けねえべ!!!」
一般的なウマ娘から見ればごく普通な会話。だが。
「(“負けない”って言いながら、勝ち負けにこだわってない。それがヘリオスさんの強みなのかな)」
そう、彼女は勝ち負けにこだわらない。何故なら、
“それが面白そうだから”、“自分や皆にとって楽しいかどうか”、それだけでレースを選んで参加する。だから負けても呵々大笑出来る。その鋼のメンタルと、やろうと思ったらその場のノリで即行動する“
「でもちょっと真似できそうにないかな」
「およ?どしたのネイチャ、なんか悩み事?相談乗るよ?」
「あっいえ、ヘリオスさんは凄いって思って」
「んん?どゆこと??」
ちょっと負けた悔しさをぶつけたくなった自分も、その太陽のような笑みと気遣いにあっさり返り討ちにされる。
「ああそれより!ウイニングライブの準備しなきゃですよ、トレーナーさんもパーマーさんも待ってるでしょうし」
「あ!そうだし行かねえとヤバいじゃん!!トレぴ~~~!パマちん~~~!今行くぜぇぇぇぇぇ!!!」
レース後とは思えない程、元気に走り去っていく姿を見送りながら、アタシも控室に戻ろうと足を進めようとして──
「ネイチャさん」
「イクノさん?」
──後ろから掛けられた声に振り向いた。
「お疲れ様です。復帰して3着とは素晴らしい結果ですね」
「いやいや、中1週*3どころか連闘*4って言っていいローテで走って2着のイクノさんの方がパないですって」
「失礼しました。嫌味になってしまったでしょうか?」
「えっ?ああいやいや、褒めてます!褒めてるんです!アタシってばケガ多いから、ケガなく走り続けてるイクノさん凄いなぁって!!」
これは本心だ。今年既に12戦しているにも関わらずケガの1つもしていない。それはひとえに彼女自身の限界を正確に見極めているからこそ、デビューから今まで走り続けているその姿には尊敬しかない。
「ふふ。ありがとうございます。私のこの管理能力は誰にも負けないと自負しておりますので」
誇らしげに言うその顔には、積み上げて来たのだろう自信が伺えた。
「それではウイニングライブで」
そう言ってクルリと背を向けた彼女はスタスタと去っていく。その背を見送りながら、アタシも自分の控室に歩みを進める。控室に先に戻っているだろうトレーナーさんにまず何て言おう?負けてごめんなさい?流石に自虐的すぎるから駄目。ここは、久しぶりのネイチャさんはどうでしたか?とでも言おうか。明るく和ませられそうだ、それでいこう。いつの間にか着いていた控室の前でそう決めてドアを開けた。
「あ、トレーナーさん・・・あのさ」
「おかえり、ネイチャ」
「あ──」
直前まで言おうとしてたことも忘れて、ただその言葉に幸せを感じ取る。その一言には、幾千幾万の言葉に勝る思いがあった。惚れた弱みというならその通りだ。だから、アタシもその思いに返せるだけの気持ちを込めて答える。
「ただいま、トレーナーさん」
◆
「ところでネイチャさん。貴方の次走は天皇賞・秋と推測していますが」
「あっはい」
ウイニングライブも終わり、皆が帰り支度をしている最中にイクノさんが声を掛けてきた。
「天皇賞・秋には私も出走する予定ですのでよろしくお願いします」
「へ?」
アタシは暫し言葉を整理していたが、その隣から更なる衝撃を叩きつけられる。
「イクノッチョもネイチャも
「はいい!!?」
今日戦った
「(──上等!!)」
その心の内では熱い炎が燃え上がっていた。
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