自分の視界の中に入ってるのは膝の上に突いてる肘から伸びて手のひらをおでこへとくっつけたままにしてる腕と、その間のほんの少しの隙間から見えてる薄暗い階段が下がっていくのだけ。特にその前者は手甲を嵌めてはいるけど、その内側はかなり覆ってる範囲が狭い上に、袖はだいぶ緩めに固定されてるせいで、その部分は中の血管の青色までしっかりと見えてる。
それに対して私は自分の上唇で限界まで下のを押しつぶす感じでいるのに対して、辺りで見えてる光景はほとんど変わらない。それは目を限界まで絞る感じでしわを作ってる今でも変わらない。でも、それなのに、私の背中の方から聞こえてくる大きな声の数々は全然止まることなんかない。それどころか、大きな金属同士が激突し合うような音が聞こえると一緒にその勢いを増してるみたいだった。
ただ、それに対して私はおでこを前に出すような体勢のまま一切動かないでいることしか出来ない。息を吸って口の隙間からそれを感じ取ってるけど、私自身の動き以外で感じ取れるのは、硬い石で作ってあるコロシアムの床と服だけを介して触れ合ってるお尻が冷たいのくらい。そんな中で私以外にこの場所にいる人なんか誰もいなくて。ただ等間隔で穴が開いてる壁の向こうからステージを応援する激しい絶叫が聞こえてくるくらいだった。
ただ、それもいきなり止まったと思ったのは、声の間から聞こえてた激しい鉄の音が止まった後で、しばらく無音の状態が続いた後に、小さく数少ない人同士が話し合ってるのが聞こえる。背中を丸めた状態でいたのの角度をより深い物にしてく。それと一緒に私の指が髪の毛の上を滑ることでそれを奥へと押し込む音すらも聞こえてくるほどだった。
「来る! 絶対来るから、待ってて!」
その後に聞こえてきた声が私の方にまで聞こえてきた瞬間、顔を一気に持ち上げながら目が丸くなっちゃってて。でも、そのまま体を動かさずにいるだけになってて。息も忘れそうになってた。でも、反響してるわけでもないのにトゥルーディアが出してる声は私の中で何度も繰り返し聞こえるみたいだった。
ほんのわずかな糸みたいな大きさで聞こえてくるそれがする後も周囲で聞こえてくる音は全く変わってないみたいで。体を縮める態勢のまま腕を折り曲げて自分の方に限界まで近づけてるその体勢も変わらないまま。
でも、しばらくの間何も聞こえない状態でいると思った矢先に、私は口をゆっくりと開けてそこから空気が少しずつ入ってくるのを感じて。それからさっと体を起こして体を回し、自身の体の前の方で手を前後に回すみたいな動きをしながら進む。
階段を数段だけ上がってる間はもちろんだけど、そこからステージの方につながる方へと左右に揺れながら進んで行ってる間も、私の足音は確かに聞こえてて。ふとした瞬間に一瞬だけそっちの方に振り返る。
私が足を進めてる間はだんだん明るくなってたはずなのに、背中側の方には全然光が届いてないみたいで、ほとんどくらいの中に混ざりきってるみたいだった。でも、じっとそうしてる間にも私の背中の方からトゥルーディアがまた大きな声で何かを言ってるみたいなのが聞こえて。首だけを振り返らせている体を固めるみたいになってた。
口を開けてるのか閉じてるのかわからない動きを繰り返しながら、それ以外の場所は今もずっと同じようになってて、私はずっと同じ階段の方を見てることしか出来ない。さっきの声はそっちの方から聞こえてくることはなくて、私の後ろの方の、今もほんのわずかな話声だけが何を言ってるのかわからないけど確かに音は捉えられるのだけがわかって。
それだけで目を強く絞りながらいたら、いつの間にか両手を振りながら走り出して、最初は両目の目尻は下げたけど顔は前に出してたのに、気づけばそこも下に向けてて。ただ階段を下がって行ってた。一度階段を降り切って踊り場まで来たところで、体が壁にぶつかっちゃいそうになって、そこで両手を付く。何度か息を繰り返した後に、髪の毛の前の方だけだけど、それらが確かに顔の左右から滑り落ちてるのを感じながら、それが全部終わる直前くらいにまた走り出す。
今度は最後の二段を踏み外したせいで大きく体が前に出て転びそうになるけど、でも、それでも勢いよく足を前に出すことで持ちこたえて。その音も含めて、上下左右どれも狭いその中で何度も周囲に音を反響させながらずっと走り続けた。
一度コロシアムの中から出ると、周囲の道路を歩いてる人たちがまだたくさんいるのが視界に入って来て。その上に出店をやっている人だったり座って雑談してる人たちまでもいる。その中でも、特に私のいる位置に近い辺りを歩いてる人たちは一瞬だけど確かに私の方を見て来てる人までいて。それに気づいた途端に、顎を引っ込める動作をしてる。瞬きも出来ずにただその場にいるだけにしてる私に対して、そっちにいる人たちはもうとっくの昔に歩き去ろうとしてる。それでも数秒間ずっと私はそこから動けなくて。
気づけばほんのわずかに鋭く出すみたいな声だけを出しながらその場から離れるように段差を勢いよく飛び降りるくらいの勢いで駆けだしてた。
モーテルの部屋に入るや否や、頭にかぶってたヘルメットだけを投げ捨てるとそれが無造作な形で部屋のどこかへと転がっていくのと、自分の蒸れてた頭の中に冷たい空気になって行ってくるのだけを感じながら、それと一緒に周囲の冷たさを感じ取る。しばらく顔をほんの少しだけ前に傾けた状態でただ両方の手の指をほんのわずかに曲げてる状態で立ってるだけにしてた。
しばらくしてからまた左右に揺れるみたいにして体を前に進めると、斜めの体勢で奥のベッドの角の所から体を倒してそこへと頭と両手を乗せる。足は正座するみたいな感じで膝を埃が残ってるベッドの下に入れ込むような形に。
そのまま両腕を重ねている所のさらに上に頭を乗せて頭を横に倒してる。両方の手が反対側の肘の所に触れ合うみたいな形した状態でただその場にいるだけにしてるのに対して、私の体にはでこぼこしたシーツの硬さだけがぶつかって来てて。それのせいもあって、ずっと同じ場所で背中を丸めてることしか出来ない。
1回息を鼻から吸って。続けて喉を強く締め付けながら声がそこからほんの少しだけ高く溢れて、小さく1つずつ出してくみたいに。ただ、それが何度も何度もこぼれてしまうけど、それ以外には何も出てこない。
「お母さん……」
消え入るような声で出た声はほんの一瞬で止まって。それが終わったら重ねてた両手をずらしてシーツを掴むみたいになっちゃって。そこに力を入れると同時に喉も同じ感じに。歯を強く食いしばるけど、それでも両方の目から溢れてくる涙を抑えきれなくて。それのせいで、脇も限界まで締め付ける。
そのままただただその場にいるだけにしてるのに、周囲から聞こえてくるわずかな話声だったり足音が消えることなんかない。でも、それでも私はモーテルの部屋全体に響くくらいの声にいつの間になってた感じで、何度も何度も、隙間を開けながらもお母さんのことを呼び続ける。その間同士の息を細かく吸い込む音も含めて、何度も何度もこの部屋の中でそれが反響し続けるのだけを感じ取ってた。
しばらく時間が立った時、何かの拍子と言う訳でもなくて何にもない時に、勝手にベッドから体が滑り落ちて、私のとお母さんののベッド同士の間で上に立てた膝を抱えるみたいな体勢をしてる。自分の頭をそれの上にくっつけたままいる。でも、その体勢をしてる間も体が小さく震えて、それは何度も何度も繰り返す鼻をすする動きをする時により大きくなってた。
ただ、私の視界に見えてるのは、外から入ってくる光が、目隠しのされてる窓から入ってくるほんの少しの物だけだったせいもあってだいぶ暗くなってる。そっち側がもう夕暮れ時のようだけど、こっちにはその赤色が入ってくることなんかなくて、ただ暗いだけの中で青色がほんの少しだけ混じってるみたいな夜の闇の中にいるみたいになってた。
ただ、その中で私は自分の顔の中に何も表情なんか全然作れずに、ただ自分の皮膚が涙の筋で固まってるのだけを感じ取ってて。ずっと両手を膝の上に乗せたままいるだけにしてる。もう目いっぱいまで肩が落っこちてるし、乗っかってるのは手の平だけで肘も前腕も落っこちたままの状態。お母さんのベッドの側面に私のお尻と丸くなった背中を、トゥルーディアのベッドに足の指の付け根をくっつけて、その隙間目いっぱいに私の体を挟み込んでるみたいに。
私の視界はそのほとんどが自分の体だけしか見えてないけど、でも、足同士のほんのわずかな隙間から元々そこにあったのかお母さんのベッドから滑り落ちたのかわからないままになってる埃の塊が散見してる。そして、私が細い目から見てる間、それが動くこともなければ床のカーペットの色を影で変えることもない。ただそこにあるだけ。
そのつもりだったのに、急にドアがほんの小さな音だけで聞こえてくるノックの音に気づいた瞬間、私は息を吸いながらそっちの方に顔を持ち上げることになって。背筋もまっすぐに伸ばしたままただそっちの方を見てるだけにしてる。こっちがそれしか出来ないせいもあって、向こうも向こうで何かが聞こえてくることもなくて、お互いにただ静かな時間だけが過ぎてる。
一方で、私はまっすぐにしてた背中をだんだんと落っことすみたいにしながらそこを丸めて、唇を強く押しつぶしながら視線を横へと逸らしていく。気づけばその結果として背中がお母さんのベッドの側面に寄り掛かるみたいな体勢になってた。
「プリメラ、いるの……?」
ほんのちょっとだけ聞こえるトゥルーディアの声。それは相当に籠った状態で私の方にまで聞こえてた。
読了ありがとうございました