第二の後継   作:TARAKON X

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第3話 相違点

 入学式が終わり、殆どの新入生は自分が振り分けられたクラスを確認する為に講堂の外に出ていた。

 

「あ!私A組だ!やった!司波さんと同じクラスだ!」

「ねえクラス何だった?私Bクラスだったー」

「俺?俺はCクラスだった」

 

 自分のクラスを知り、これから一年を同じ教室で過ごすであろう同級生を確認したり、既に仲良くなり自分のことを紹介しあう生徒が殆どだった。

 客観的に見れば奇妙な光景に見えただろう。そんな和気藹々とした空間の中に一人、どんよりとした空気を纏っている人物がいることを。

 

「………はぁ……」

 

 そう、俺だ。ただいま絶賛意気消沈中だ。何故かって?今日だけでも同じ学年に厄介事を抱えたやつを二人もいることを確認したからだ。一人目は入学式前にちょっと話した司波達也君だ。パッと見だが、それだけでも彼には感情の起伏を抑える魔法が掛けられていることが確認出来た。大方、感情のキャパシティの上限を低くした代わりに彼自身の感情以外のどこかのキャパシティの上限を高くしたんだろう。

 人間という生物は、個体差もあるが出来ることのキャパシティの上限が生まれた時から決まっている。当人の努力や才能で力はある程度発揮出来るが、それを超えることは不可能だ。外法でも使わない限りな。

 その点で言えば、彼はある意味人間的な課題をクリアしかけているのかもしれないな。まあ、しかけているやつはこちら側にも結構いたが、結局そいつらはクリアすることなく人生からログアウトしちまった。彼はそうならないことを祈ろう。

 二人目は一人目の司波達也君の妹の司波深雪さんだ。彼女に関しては司波達也の妹って時点で既にあれだが。問題はそこじゃない。問題は彼女の肉体についてだ。彼女の方が兄の方より多くの情報を取得できて分かったことがあるが、その中でも一際目立つところがある。それは彼女が純粋な人間ではなく、どちらかと言えばホムンクルスに近い肉体を所持している点だ。

 ホムンクルス。それは錬金術によって鋳造された人工生命。完成された生命であり、肉体的な成長、老化をしない魔術の一種の副産物だ。

 でもまさかその技術の一部が魔法師の手に渡っていたなんて。いくらなんでも教えすぎだろ。

 アインツベルンからではないのは確実だ。あそこは全てのホムンクルスが当主を含めて機能を停止しているからな。恐らくムジーク家の方の技術を使っているのだろう。ホムンクルスと魔法師の混ざり物なんて、妙なことを考えるやつもいたもんだ。まあ、魔術師にするにしては何もかもが歪で不安定だが、魔法師としてはこれ以上ないくらい安定してるようだから別に良いが。

 以上が彼らの詳細だが、正直これだけなら俺の頭痛の種にはなりえない。その兄妹の個性ということで最終的に片づけられるからな。

 問題は彼らの所属だ。達也にかけられた魔法が精神干渉系魔法という時点で大体察せてしまった。

 この二人は十師族、四葉家の人間だ。

 十師族、まあ分かりやすく言えば時計塔の十二君主の日本の魔法師版だ。

 一から十の数字を持つ研究所から生まれた魔法師の名門二十八家の中から特に優秀な十の家のことを十師族と呼ぶ。彼らは日本を守る代わりに政府からある程度の自由を与えられている集団で、その強さは並みの魔法師を遥かに上回るとされている。四葉家はその中でも一番の戦力を保有している家だ。何故か。理由は簡単だ。彼らは今からおよそ三十年ほど前に国を一個滅ぼしているのだから。

 これを知ったときは流石に驚いたよ。自分の家の子供を誘拐され弄ばれた報復として、彼らは虐殺を行ったのだ。その時に四葉側も大幅に戦力を削られた筈なのだが、今でも尚十師族という地位に留まり続けている。それが四葉が十師族の中で一番の戦力を保有している家だと俺が思っている所以だ。そして四葉の一族が扱う魔法は、精神干渉系魔法。おそらく支配魔術を魔法に転用したものだろう。

 そして達也に掛けられているのは精神干渉系の感情を抑制する魔法。これでもう話は見えただろう。それが俺が司波兄妹が四葉の人間だと結論付けた理由だ。厄介ごとの匂いしかしないだろ?

 まあ俺から関わりを持とうとしなければ多分大丈夫だろう。達也とは既に顔見知りになってしまったが……。と、思っていたその時。

 

「やあ礼司。クラスの確認は終わったのか?」

 

 ……早速前言撤回することになってしまった。

 後ろからの声に振り向いてみれば、そこには司波兄妹と初めて見る女子生徒が二人いた。

 

「よう達也。うん、ちゃんと確認したよ。俺はBクラスだった。そっちは?」

「俺はEクラスだったよ。まあ、分かっていたことだけどな」

 

 まあ、世間話くらいなら全然良いか。むしろ、変に関わりを断とうとしたらそれはそれで違和感があるからな。線引きは慎重に行おう。

 

「お兄様、お知り合いですか?」

「ああ、入学式前に少し話した程度だがな。紹介しよう礼司、妹の深雪だ」

「…初めまして。妹の司波深雪です。よろしくお願いします」

「ああ、ご丁寧にどうも、遠坂礼司だ。よろしく司波さん。そっちの二人もよろしく」

 

 普通に受け答えると、司波さんと二人の女子はこっちを珍しい物を見るかのような目で見てきた。

 

「……あー、どうかした?司波さん。そっちの人達もだけど、何か顔に付いてる?」

「え?ああ、ごめんなさい!いえ、ただ少し珍しいと思いまして」

「珍しい?」

「いやほら、周りがこんな感じだから余計にね。あ、私千葉エリカ。よろしくー」

「エリカちゃん……あ、私は柴田美月です。よろしくお願いします」

「周り?……ああ、そういうことか」

 

 言われて周りを見回してみると、大体のことが把握出来た。彼ら、二科生に向けられる軽蔑的で差別的な視線が全てを物語っている。そんな中で俺という異物は大いに珍しく思ったのだろう。全く、下らねえよ。他者を見下す時間を作るくらいなら、自分をもっと上の段階へ持って行く時間に使うべきなのに。考え方は人それぞれだが、こうも考え方が一辺倒に片寄っているのを見ると、本当にイライラしてくる。そういえばさっきの入学式だってそうだ。一科と二科で席を前後に分けていたが、いくら何でもお高くとまりすぎだ。そういうのは卒業して結果を出してからやりやがれ。

 

「礼司?どうした顔が怖いぞ?」

「おっと失礼。ちょっと考え事しててな。別に気にしないでくれ」

「そうか?なら良いんだが」

「それで何か用?話し掛けてくれたってことは何か用があるんだろう?」

「ああ、俺達はもう帰るんだが、礼司も一緒にどうかと思ってな」

 

 成程。今日か…誘ってくれるのは素直に嬉しいが今日はちょっとな……家を仮の家から霊脈に近い場所に移して引っ越しの作業がまだ完全に終わっていないのもあるし、あと今日は定期報告の日だからまあ元々無理だな。

 

「悪い。今日はちょっと急いで帰りたいんだ」

「そうか、済まなかったな」

「いやいや、誘ってくれて嬉しかったよ。もしまた機会があれば誘ってくれ」

「ああ、そうさせてもらうよ。また明日」

「おう、そんじゃあな」

 

 そう言って俺は学校から出て下校路に進まず、()()のある方向に足を進めた。

 

 ーー

 

 第一高校近くにある教会は八王子市の隅の方に建てられている。今から十年程前に建てられたらしく、管理も行き届いているからまだ新築同然だ。あそこにいるクソシスターはクソ真面目だからな。どっかのサイボーグ神父とその取り巻きシスターどももその点は是非見習って欲しいものだ。他の点は全然見習わらなくても良いけど。

 教会の門の近くまで行くと、金髪の長髪を後ろでまとめたシスターが門の清掃を行っていた。

 

「おや?誰かと思えばあなたでしたか」

「どうも、シスタークレア。神父はいるかい?」

「ウィック神父は今不在です。お引き取りください。…と言いたいところですが、残念ながらいますよ。中で貴方をお待ちしております」

 

 相変わらずこの人は俺に対してあたりが強いな…まあ立場上仕方がないか。

 

「そう、じゃあお邪魔させてもらうよ」

「邪魔するなら帰ってもらいたいところですが、まあ良いでしょう。それにしてもあなたのその格好、第一高校の制服ですね。コスプレですか?中々の完成度ですね」

「いやこれコスプレじゃなくて本場の制服だから!ちゃんと試験受けて合格して入学したんだよ」

「……魔術師であるあなたが魔法師の学校に?ああなんとまあ、今年の新入生の子供達は不憫でなりません。貴方と同級生だなんて」

「随分と酷い言われようだな」

「申し訳ございませんね。貴方がたを見るとついつい口が勝手に動いてしまいまして」

「……別に俺は良いけど、沸点の低い魔術師に言っちゃ駄目だよ。殺されても知らないからな?」

「ご安心ください。黒鍵の錆にして差し上げます」

「あっそう。まあ頑張りな」

 

 俺はクソシスターとの話しを切り上げると、さっさと教会の中に入った。

 教会の中にはとても豪奢なステンドグラスがあり、外からの光を利用して中を様々な色で輝かせていた。

 そんな教会の中には俺の足音がよく響いた。普通の人間ならこうなるとこの建物の中にいるのは自分だけだと錯覚するが、生憎俺はそうはならず。静かに正面から俺を見据える黒髪長髪の神父。ウィック神父に語りかけた。

 

「どうもウィック神父。早速だけど、あんたのところのシスターの口の悪さ何とかなりません?いつか痛い目見ますよ?」

「こんにちは遠坂君。そうですねえ。彼女の場合は魔術師にだけああなるのであって、一般の人にはあそこまで口が悪くなりませんよ。だからそこまで矯正することでもないと思います」

「ふーん、そういうもんか」

「ええ、それに今のところ、こうも頻繁に顔を合わせる魔術師はあなたくらいですよ。ですから多分大丈夫です」

「…多分て……はぁ、もういいや」

 

 つまりそのまま毒口に晒され続けろってことだな。

 

「シスタークレアの口の悪さについてはこの辺にして、本題に入りましょう」

 

 ウィック神父は俺に長椅子に座るよう促した。俺はそれに従うと、神父は俺とは反対側の長椅子に腰をおろした。

 

「ここ最近の奴等の動きはどうですか?」

「まだまだ活発とは程遠いけど、無視して良いレベルじゃないな。俺の推測だが、このままだと来年の冬頃には大元も活動を始めるぞ。さっさと探して取り除かないと、取り返しのつかないことになる。まったく…急に霊脈が活発になってなけりゃ、今頃俺たちは大元と対面出来てた筈なのに」

「これに関しては誠に遺憾ですが、仕方がないとしか言えません。去年から急激に霊脈の魔力の流れが活発になり、近辺への魔力探知の精度はガタ落ち。そしてそのタイミングを見計らったかのように我々聖堂教会の監視網を潜り抜け、よりにもよって魔法師が多く集うこの東京で活動を始めた死徒。全てがレアケース過ぎて、流石の私も困惑です」

 

 そう俺達が行う近況報告の議題。それはここら一帯で活動を始めた死徒についてのことだ。

 死徒。それは表側では吸血鬼と呼ばれる存在であり、聖堂教会から討伐対象として認識された、人類史を否定する者達。一番弱い段階の者でも常人離れした力を保持し、最上位の段階ともなれば、最悪の場合は大国をも滅ぼしてしまう危険で厄介極まりない連中だ。

 

 

「奴らが魔法師と接触した場合に起こる特異な事象は、我々聖堂教会も魔術協会もまだ確認出来ていません。お互い細心の注意を払い、二者が接触することだけは阻止しましょう」

「ああ、了解した。こっちは引き続き探知を行う。あんたらも何かあったら癪だろうけど俺に伝えてくれ」

「もちろんです。承知しました」

「ああ。じゃあ俺はこの辺で失礼するよ。

 

 さあ、さっさと家に戻って引っ越し作業の続きと工房の設置をするとしよう。

 

「遠坂礼司さん」

 

 そう思いながら教会から出ようとした俺を、ウィック神父が俺を呼び止めた。

 

「ん?何か用か?」

「ええ、そういえば、一つあなたに聞き忘れていたことがありまして。遠坂礼司さん。どうして貴方は魔術師なのに魔術協会ではなく、我々聖堂教会からの協力要請に応じてくれたのですか?」

「……何故そんなことを聞こうと?」

「いえなに、単純な興味ですよ」

 

 

 ……本当に何だ急に?……………まあ、別に答えてやってもいいか。

 

 

「そうだな。強いて言うならば、俺が遠坂の魔術師だからだよ」

 

 

 ーー

 

 まず俺がこの世界に来て魔法師のことを知った後にしたこと。それは、魔術協会と聖堂協会、そして遠坂家の有無の確認だ。そして調べた結果、俺のいた世界と違う点が二つ見つかった。

 魔術協会は俺が元居た世界と殆ど変わりは無かった。

 一つ目の相違点は聖堂教会の方針だ。聖堂教会は相も変わらず、魔術協会の扱う魔術を『異端』として排斥しようとしている。その点は変わらない。ただその『異端』の枠組みの中に、魔法師とその魔法師が扱う魔法を入れているのが、俺が元居た世界の聖堂教会とは違う点だ。

 聖堂教会の上の狂信者連中からしてみれば、魔術も魔法も同じ奇蹟として見れるんだろう。

 だがまあこれはそこまで気にする相違点ではない。問題は、俺の生家である遠坂家のことだ。

 結論から言うと、この世界に遠坂家は存在しないのだ。いや、正確には、存在していた。と言った方が正しいか。こちらの世界の遠坂家は、第三次世界大戦での戦闘に巻き込まれ断絶してしまっているのだ。どんな戦闘に巻き込まれて断絶したかは知らないが、その事実から魔術協会の認識では遠坂家はとっくの昔に終わった魔術師の家系なのだ。そう認識している魔術協会に俺が乗り込んでみろ。第二魔法で別の平行世界からやってきたことがすぐにバレて一発で封印指定を食らうに決まってる。その展開を俺は望んでいないからな。

 

「まあでも、いつかは顔を出そうとは思ってるよ。少なくとも今よりは万全な状態でね」

 

 それまでは、魔法科高校で暇を潰してみるのもありか。

 

 

 

 

 

 

 

 




礼司「死徒だけでも面倒なのに四葉とかなんだよふざけてんのか?」

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