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つい堪忍袋の尾が切れ、二科生にちょっかいを出す一科のクズ共を出来る限り穏便に鎮圧して、やってきた先輩方に突き出したあと。自分達も事情聴取に連れて行かれるのが嫌だったからなのか、達也が面白いことを言い出した。
「ほう?君は魔法式を読み取れるようだな」
「分析は得意ですので」
なんでも達也は今回の件を後学の為に魔法を見せてもらおうとして少しヒートアップしてしまった。ということにして最後までもって行こうとしているらしい。それだと乱入した俺が勘違いして横に入ったってことになるんだが。まあそこはどうでもいい。
それよりも今分かったが。こいつ、まさかとは思ったが魔眼なんて持ってるなんてな。魔法に関して特化した解析系の魔眼といったところか。ランクは…もしかしたら黄金に届くか?これは少しまずいかもな。クズどもに近づくとき、ちょっとばかし隠密の魔術を使って違和感を抱かせることなく乱入したが、これは逆に違和感がないことに違和感を持たれてしまったかもな。
「済まなかったな礼司。折角助けてくれたのに、こんな形で終わらせてしまって」
先輩方が立ち去り、クズ共が謎理論を吐いてその場から退散したあと、達也がそう言ってきた。
「いやいや気にしてないよ。元々アイツらのことは癇に障っててな。遅かれ早かれ何処かでこうなってた。丁度良かったよ。良いストレス発散になった」
「ちょっとー?そのせいで私出番取られちゃったんですけどー?」
「うわお前、その言い方はないだろ?」
「何よ?私だってアイツらの鼻っぱしらへし折ってやりたかったのに」
「悪いな。横取りしちまった」
どうあれ、一応話は丸く収まったんだ。この件は終わりで…ん?
何故かさっきのクズ共の中の二人の女子生徒が何やら近づいてきた。いや、待てよ…この二人は確か…。
「おい達也、何やらこのお二人さんから何か話があるみたいだぞ?」
「話があるとしたら俺にじゃなくて礼司にじゃないか?彼らを大人しくさせたのはお前だろ?」
「最終的に話を上手く丸く収めたのは達也だろ?」
「は、はい!その、遠坂君もそうなんですけど、お兄さんにもお礼を言いたくて、その、光井ほのかです!さっきは申し訳ございませんでした!」
「ほらな?」
「……あ、ああ。いやでも、半分は礼司にじゃ…まあいいか。わざわざありがとう。でも、お兄さんはやめてくれ。これでも同じ一年生だ」
「じゃ、じゃあ!何とお呼びすれば良いでしょう?」
なんだ?この女子。えらくグイグイくるな…さては達也に惚れたか?へえ、やるねえ達也。
「おい礼司。その顔は何だ?」
「ん?その顔?その顔ってどんな顔だ?よく分からないなあ?」
「はあ…まあ良いさ…達也と呼んでくれ」
「分かりました!……あの、駅までご一緒しませんか?」
……ほんとうにグイグイくるな……。
ーー
帰り道。入学式の日に会ったメンバーと初めて顔を合わせる西城レオンハルト(略称レオ)と、謝りに来た女子二人、北山雫さんと三井ほのかさんを加えて俺を含めたメンバーで下校路を歩いていた。
深雪さんのデバイスを整備しているのは達也で、千葉さんの警棒もまたCADで(レオの知識によると刻印型という大概燃費の悪い代物であるそうなのだが、エリカ曰わく剣術によって瞬間的に『硬化』させることで欠点を解消しているらしかった)あることがわかったところで、話がこちらに向いた。
「それで?あれはどうやったの?」
「ん?あれってなんのことだ?」
「決まってるじゃない。礼司君、何の気配も感じさせることなく一科の連中に近づいてたでしょ?あれってどういう魔法なの?」
「ああ、あれ?」
そうだな、あれの説明は……よし、これで行こう。隠密の魔術はゴリ押しで行っちまうか。
「あれはただ空気の壁を纏って透明になってただけのシンプルなものだよ」
「空気の壁?」
やはり俺の発言に達也は食いついてくるか。まあ仕方ない。このまま押し切るか。
「ああ、空気の層を幾重にも重ねて、その層の屈折率を変化させることで透明化してたのさ」
そういって、俺は実際に右腕に魔法を行使する。すると俺の右腕はすっかり透明になっていた。
「それって、幾つかの魔法を組み合わせて並列に行使してるんですか?」
「そんなことしてたらそれこそあっという間に想子を消耗し尽くしてガス欠になっちまうんじゃないのか?よく保つな」
「俺はあの領域干渉を見たあとじゃそこまで驚かないな。あれだけ広範囲で強固なものを展開出来るんだ。そんな芸当が出来ても不思議じゃない」
「お褒め頂き光栄だね」
納得してない顔してるが。これに関しての説明は本当だ。ただ、魔術を行使するのと同じ感覚で魔法を行使したから達也は違和感を感じてるんだろう。
「でも、それじゃあ気配を隠せた理由にはならなくない?姿は視認できなくても気配は中々隠せないものよ」
「あれは単純に技術だよ。護身術の応用」
「へえ。一目見た時から重心がしっかりしてるから何かやってるなとは思ってたけど、それを魔法と組み合わせるなんてね」
「お前も似たようなことやってるじゃねえか」
「複雑な魔法にってことよ。私のとは全然違うわ。凄技よ凄技」
千葉さんの方だって、十分凄技だと思うんだけどな。
ーー
礼司からの答えを聞いた達也だが、彼自身はその説明に納得出来てはいなかった。
(あれが体術による身のこなしだなんてありえない。だったらそれこそこの眼で気づけたはずだ)
(この眼をもってしてもとらえきることが出来なかった魔法。使われたらこっちが危険だ)
達也はそう思い、別れ際にもう一度精霊の眼を礼司に向けて行使することに決めた。褒められた行為ではないことは達也自身も承知している。承知したうえで、達也は精霊の眼を使うことにした。そうしなければ、もしかしたら達也自身の大事な妹に危険が及ぶかもしれない。
「俺はそこいらで少し買い物をするからこの辺で、また明日な、お二人さん」
「ええ、また明日お会いしましょう」
「今日はありがとう」
そして、他のメンバーがそれぞれその場から去り、最後に礼司が達也達に背を向けた後、達也は礼司に向かって精霊の眼を行使した。
そして次の瞬間。
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』
「……………………………………………………………は?」
達也の脳に、無限にも等しい大量の情報が叩き込まれた。
(ッ⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉)
「が⁉あ、ああああぁ!?!????」
「……お兄様?…お兄様!?!?どうなされたのですかお兄様⁉!?!?!?!?」
それは、達也にとって経験したことのない情報量とそれによる激痛だった。達也自身、痛みに対して耐性が無いわけではない。むしろ、自身が持つ魔法の性質ゆえに常人以上に耐性はある方だ。超人並みとも言っていい。
だが…
(こ、これは…精霊の眼が……オーバーロードした!?!?)
それでも、今彼自身が晒されている情報の濁流、いや。情報の津波に対しては何の意味も持ち合わせてはいなかった。
思わず目を手で抑えると、赤い液体がベッタリと手に付いている。鼻からも少ないとは言えないほどに血が出ていた。
(この、まま、は……マズイ!早く……再成を…)
達也はこの状況を改善する為、自身の異能の一つを働かせる。
『脳に…異、異異異異異異異異異異状を……KKK検知、自己、修、復術式..』
だが、それも上手く働かなかった。
『Error 』
(…なん……だと⁉︎)
異能、は達也を救いはしなかった。
『再度実行…Error、Error、Error 、Error 、Error』
達也の人生、全てを決定づけた異能は、ここぞという時に、達也を救いはしなかった。
「お兄様‼︎しっかり‼︎私…一体どうすれば⁇」
妹の声が聴こえる。命に代えても守らねばならない妹の、弱く、脆く、か弱い声が聴こえる。
(深雪……クソ……俺は、こんなところで‼︎‼︎)
終わる訳にはいかない。そう強く思う。ただ悲しいかな。思いだけでどうにかなるほど、これはそう単純なことじゃない。
顔から血を吹き出す達也の後ろには既に、鎌を携えた死神が首を刈り取る為に鎌を振り上げていた。
(……もう……意識……が……)
その状況を達也自身の力では打開することは出来なかった。そう、
「落ち着け。達也」
誰かが、達也の額に手を置き、そして唱えた。
『
「………ぁ…………」
その言葉を最後に、達也は意識を手放した。
ーー
妙な視線を感じて振り返ってみれば、目と鼻から血を流し地面に膝をつく達也が見えた。
それで察しがついた。こいつ、俺を魔眼で直視しやがった。それで俺から漏れ出してる情報で脳が耐えられず、頭がパーになりそうになったってとこか。
なんで俺を魔眼で見て脳が破裂しそうになるかだが。恐らく、いや十中八九俺が今刻印で解析を進めてる【魔法】のせいだろう。こうなって当然だ。何せ今まで、有望な魔法使いとしての弟子達をことごとく廃人にしてきたクソジジイの【魔法】だ。今まで魔術にすら触れてこなかった人間が耐えられる訳がない。俺だって刻印と父さんから譲り受けた結界がなかったら、直ぐにとは行かなくても廃人コースまっしぐらだ。
「まったく、世話がやける」
ごく少量の、それも漏れ出た情報でもこの【魔法】の情報は只人にとっては劇薬だ。どうにかするには、まだ一割にも満たないが【魔法】の解析を進めている俺が達也の脳にある【魔法】の情報を抽出し、正常な状態にもっていくしかない。
「と、遠坂さん!?」
「ごめん、深雪さん。ちょっと今集中してるんだ。少し静かにな」
達也には悪いが今回の情報の抽出によって余計な情報に俺自身が触れてしまうかもしれない。プライベートな情報を知っちまうかもしれないが、ちょっと今回は許してくれよ。
「解析、検索、剪定開始………これは…」
成程、分解、そして再生の魔法か。こんな物を常に常駐させてたら、二科生となっても仕方がない。本当に運が無かったな。魔法科の評価基準が少しでも違えば一科生にもなれただろうに。
「剪定完了。よし、まあこんなもんか」
「……遠坂さん…今のは、一体……?」
「悪いな、詳しくは話せん。そんなことよりも、達也が落ち着ける場所に連れて行くのが一番大事だろ。こっから家までどれくらいだ?」
「こ、ここから駅を経由して十分くらいです…」
「分かったじゃあ行くぞ」
「え?行くって…家に来るんですか⁉︎」
「じゃあ誰が達也を運ぶんだよ?まあ、達也がこうなったことの一端の責任は俺にも少しあるからな。さあ、周りの目もあるし、さっさと行くぞ」
俺は達也を背負って深雪さんと一緒にキャビネットに乗り込んだ。周りから色々と視線を食らったが、そんなものは全部無視だ。それに、今回のことを見たであろう人間の記憶はキャビネットに乗り込む前に消させて貰った。明日になっても学校でさっきのことは話に上がるどころか噂話にすらならないだろう。
「お兄様の身に、一体何が?」
「単純に見てはいけないものを見たのさ」
「見てはいけないもの?」
「ああ。詳細は省くぞ。兎に角、何でもかんでもその眼を通して視認するな。またいつか痛いしっぺ返しを食らうぞ、と言っておいてくれ」
「ッ!?貴方、どうしてそのことを!?」
「あー、まあそうだな。俺の眼も達也と似たようなもんだと思ってくれればそれで良いさ」
その後。キャビネットから降りて達也達の家に向かい、お邪魔させてもらい、達也が少しでも楽になれるようこいつ自身の部屋のベッドに寝かせた。
「お兄様……………」
「安心しろ。明日の朝にはすっかり元気になるはずだからもうそこまで心配する必要は無いんだけど……」
駄目だ、深雪さん全然俺の話聞いてない。さっきからずっと達也のことを凝視するばかりだ。この調子じゃ、夕飯を抜いてでも傍から離れなさそうだ。正直勘弁して欲しい。妹さんまで倒れてしまったら本当に目覚めが悪いんだが。
「深雪さん?おーい?深雪さーん?」
「……………お兄様……………」
…まったく、兄妹揃って本当に世話が焼ける。
「…明日の朝飯くらいは作ってやるか」
こんなことになるくらいなら、あの時乱入しなければよかった。
礼司は士郎からあの結界を受け継いでいますが、ただ受け継いでいるわけではなく礼司なりに加工しています。
なお、達也が膨大な情報量に脳をやられるシーンですが、某ロボットアニメに出てくる金属生命体に挨拶されて情報が頭にぶち込まれるのをイメージすると分かりやすいと思います。