遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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0.プロローグ

 

「準備オーケーだよ、兄サマ!」

「では始めるぞ。デュエルディスクセット!」

 

 

 

 その日。海馬コーポレーションでは、新事業開拓に向けた最終テストが行われていた。

 テストルームに響く弟・モクバの声を受け、海馬瀬人(かいばせと)はデュエルディスクを装着する。

 

 

 

「続いてシステムを起動させろ!」

 

 

 

『デュエル・リンク・システム起動……ロック解除……』

 

 

 

 海馬の号令が飛ぶ否や、ソリッド・ビジョン・システムが作動した。

 それまで殺風景だった空間は途端に群衆どよめく闘技場へと景観を変え、波うつ観客のビジョンが立ちどころに歓声を上げ始める。

 まるで現実と見まがう程の臨場感を前に、観測室の研究員たちも嬉しそうに話し合っている。

 

「システム正常! ソリッド・ビジョンの出力も好調!」

「これは過去に類を見ないほど……完璧な出来と言わざるを得ませんね!」

 

 だが、そんな称賛の声を聞いても、海馬の表情が変わる事はなかった。

 

「この程度でつまらん報告はするな。速やかにデュエルの準備をしろ!」

 

 今の海馬にとって、システムの起動など「できて当然」の過程でしかない。

 真に求めるは、『デュエル・リンクス』システムの実現のみだ。

 現在よりリアルなデュエル体験を全世界で可能とする、完全無欠な仮想現実世界。

 近々海馬ランドの新施設としてオープン予定の、画期的なアトラクションである。

 

(この次世代型デュエル・システムが完成した時……デュエルは更に飛躍する! 我が海馬コーポレーションの技術を結集すれば不可能はない! そして、その時は――)

 

決闘(デュエル)ロボにデッキをセット! タクティクス・レベル、MAX!」

「デュエルが始まるよ、兄サマ! 準備はいい!?」

 

 アラートが鳴ると同時にモクバの声が反響する。

 しばし黄昏にあった海馬だが、すぐさま意識を眼前のロボットに向けた。

 

「ピピ……決闘(デュエル)マシーン起動。コレヨリ『デュエル・リンクス』ノ試験デュエルヲ開始シマス」

「よし、脳波測定を開始! いくぞ‼」

 

 

 

「「デュエル!!!!」」

 

 

 

 そして始まる最終テスト。コンピュータとの激しい電脳空間デュエル。

 

 ここまでは良かったのだ。

 

 そう、ここまでは。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

「オレは魔法カード『融合』を発動! その効果で三体の『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』を融合させる‼」

 

 その時、まさにデュエルも佳境に差し掛かっていた頃だった。

 超高性能な決闘(デュエル)ロボとの激しい攻防の末に、海馬はとうとう『融合』を発動。

 最強の切り札を呼び出す――

 

 

 

「出でよ、我が最強のしもべ……『青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)』‼」

 

 

 

 彼が信じる最強のモンスター、『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』。

 その三体の力が結集した、究極にして華麗なる殺戮兵器、『青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)』。

 誇り高き切札を場に繰り出すや否や、とてもソリッド・ビジョンの影響とは思えないほどの巨体に威光、衝撃が、装置を通じて海馬のニューロンを直接刺激する。

 

「ふつくしい……!」

 

(『デュエル・リンクス』はプレイヤーの意識を電脳世界に送り込むことで、旧来のソリッド・ビジョンとはかけ離れたデュエル体験をもたらすのだ!)

 

 圧倒的な攻撃力をこれでもかとばかりに誇示する咆哮を全身で感じる。

 最強のモンスターが背後に君臨したことにより、放出されたアドレナリンが血液を沸騰させる。

 これまで仏頂面を続けてきた海馬も、この結果には思わず満足げな笑みをこぼした

 

 

 

――と、正にその時。

 

 

 

「ビガッ……」

 

 

 

 海馬が究極竜を融合召喚したのも束の間。

 突如として観測室の面々は、決闘(デュエル)マシーンの異常音声を検知した。

 瞬間、コンピュータがバチリと激しい音を立ててショートし、黒煙を上げ始める。

 次いで、連鎖するように響くクラッシュ音に、研究員たちの悲鳴が上がった。

 

「な……どうしたんだ急に! 装置の異常か⁉」

「わ、わかりませんモクバ様! 今、ただちに原因を調べさせております‼」

「早くしろ! ここにきてミスは許されないぞ‼」

 

 黒煙に巻き込まれながらも、海馬モクバは副社長として事態の解決に向けた指示を出し始めた。

 そこに研究員の一人が駆けつけて、矢継ぎ早に報告する。

 

「サーバーが……! サーバーが負荷に耐えきれずエラーが生じています‼」

「システムエラーだと⁉ 兄サマは余裕なのに、そんな馬鹿な‼」

 

 モクバがモニターの一つを見やれば、そこには被験者たる海馬本人の精神状況がデータとして記録されてある。

 その数字やグラフは平常を保ち続けており、クラッシュして表記が文字化けしたサーバー側のデータとは対照的であった。

 

「それが……瀬人サマの精神力は我々の常軌を逸して、あまりにも強すぎます! おそらく、並外れた精神力と凄まじい究極竜(アルティメット・ドラゴン)のパワーが、逆にサーバーへ極度の負荷をかけているのかと……‼」

「まさか、嘘だろ⁉ お、おい! 兄サマは無事なんだよな⁉」

 

 兄の身に危機を感じた、モクバの顔が青ざめる。

 副社長とは言えまだ小学生。兄の窮地には人一倍弱く、動揺を隠しきれない。

 

「数値を見る限り脳への直接的な負荷はないと思われますが、問題なのは瀬人サマの意識です!」

「どういうことだ? 負荷がないなら、すぐにシャットダウンして兄サマを戻さなくちゃ!」

「それが、瀬人サマの意識は既に『デュエル・リンクス』──つまりはクラッシュしたサーバー側にあります! これでは強制的にシャットダウンをしたとしても……‼」

「まさか帰ってこれないのか⁉ そ、それじゃ兄サマは……」

「仮想空間に囚われたまま、意識が戻らない可能性が……‼」

「そんな、兄サマ‼」

 

 モクバはすぐさま観測室の窓へ駆けると、テストルームを見下ろした。

 もはや制御不能の決闘マシーンと対峙する兄は、観測室のてんやわんやなど露知らず。

 何食わぬ顔でデュエルを続行するその瞳は、仮想空間を捉えて離さない。

 

「くそ……! でも、このままにしたって危険すぎる! 今すぐシステムをシャットダウンしろ、急げ‼」

 

 すぐさま研究員たちに指示を出したモクバだったが、不運にもその叫びは、突如として鳴り始めた警告アラートにかき消されてしまう。

 その要因は言われずともわかった。海馬の精神データを見れば、そのニューロン覚醒度が許容範囲をゆうに超えている。

 そしてデュエル経過は、ちょうど海馬のターンのバトルフェイズとなっていた。

 

 

「マズい! この状態で攻撃すれば瀬人サマは……‼」

 

 

「フフフ……いくぞ! 究極竜(アルティメット・ドラゴン)決闘(デュエル)ロボを攻撃‼」

 

 

「兄――」

 

 

 

「『アルティメット・バースト』!!!!」

 

 

 

 モクバの静止も虚しく、海馬は高らかに攻撃宣言を下す。

 

 刹那、一際激しい爆音が施設内を襲った。

 

 

 

 

 

〇●〇●

 

 

 

 

 

「く……頭痛か。忌々しい」

 

 

 

 意識を取り戻した時、酷く頭痛に苛まれていた。

 どれほど倒れていたのだろうか? 脳裏には未だ鮮明なデュエルの記憶が刻まれている。

 そして、その最中に意識を失った事も――

 

 (仮想空間とはいえ、刺激が強すぎたか? 流石に改良せねばならんな)

 

 先ほどの結果を考察しながら息をつく。

 するとベッドの傍らからは、ゆったり間延びした声が聞こえてきた。

 

「おお~、目が覚めたか?」

「モクバか? テスト結果なら直ちに結果を……なに!?」

 

 重い頭を上げ報告を急がせる海馬だったが、ふと相手の顔を見た途端、驚愕のあまり言葉が詰まってしまう。

 眼前にいるのは副社長の弟などではなく、白衣を着た白髪の老人ではないか。

 

「貴様、何者だ⁉ オレの寝込みを襲うとは、ジジイといえど許さんぞ‼」

 

 咄嗟に飛び起き、臨戦態勢を取りながら声を荒げる海馬。

 ディスクを構えて、いざとなれば素手の応戦も辞さないだろう。

 自ら敵を作り出し、一切容赦しない海馬にブレーキは効かない。

 

 しかし、年のいった老人は威圧されても怯まず、むしろ怪訝な表情で首をかしげている。

 椅子に腰かけコーヒーを啜り、あくまでくつろぐ姿勢を崩そうはしない。

 

「なんじゃ、せっかく助けてやったのに……。礼儀を知らん少年じゃのう」

 

 

 

 そうこぼした老人は、改めて海馬の顔を見ると、優しく微笑みながら言った。

 

 

 

「ワシはオーキド・ユキナリ。みんなからはポケモン博士と呼ばれておるよ」

 

 




補足ですが、海馬瀬人の性格はアニメ版の彼をベースにしています。
闘いの儀を見届けた後のお話という設定です。

原作版の海馬だと、本編後はDSODで描かれたような感じになって、アテム以外に全く興味を示してくれないと思うので仕方ありませんね。
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