遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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10.燃えよヒトカゲ! りゅうのいかり‼(前編)

 

「ヒト、ヒトヒトヒトッ!」

「なんだ?」

 

 ヒウンシティに着いた翌朝。ポケモンセンターの宿泊スペースで。

 椅子の上で船を漕いでいた海馬は、耳元を掠める甲高い鳴き声に起こされた。

 まぶたを開くと足下に小さな気配を感じる。見れば、ヒトカゲがちょこんと座り込み、こちらの様子をじっと窺っていた。

 

「……ボールの中のお前が、なぜそこにいる。勝手に出たのか?」

「カゲカゲ!」

 

 モンスターボールはポケモンを収納する道具だが強制力はなく、彼らの意志でも出入りが可能になっている。

 だが、今まで大人しかったヒトカゲが急に出てくるとは。もしや何か異変でもあったのだろうか?

 

(――賊か⁉)

 

 寝起きの頭で妙な想像を働かせてしまった。しかし素早く周囲を警戒しても、特に怪しい点は見当たらず。

 ならば原因は何なのだ、と思案を巡らせる海馬に、ヒトカゲは膝をツンツンと突きながら鳴いた。

 

「ヒト!」

 

 主人の奇行に首を傾げながら正面のテレビを指差す。

 昨夜から点けっぱなしだったそれには、フレッシュな朝の情報番組が映し出されていた。

 

『イッシュビューアワーSP! ガイドのテンマです。今日は特別編ということで、おじゃまするのは……なんと! ガラル地方のチャンピオン、ダンデさんです‼』

『どうもイッシュの皆さん! チャンピオンのダンデです! わざわざ来てくれてサンキューな!』

 

 マイクを握る司会の横でカメラに笑いかける好青年。

 キャップ帽を王冠のように被り、数多の企業ロゴが刻まれたマントを羽織るその男は、どうやら相当な有名人らしい。

 司会のアイドルも彼のファンなのか、いささか興奮したような口調でインタビューを行っていた。

 

 しかし、他所から来た海馬はダンデなるチャンピオンの存在、ましてや圧倒的な知名度など知る由もなく。

 つまらなそうに腕を組むと、番組に釘付けとなっているヒトカゲへ尋ねた。

 

「これを見せて、何が言いたい?」

「ヒト、ヒトヒト!」

 

 ヒトカゲは相変わらず画面を指差し、その場でピョコピョコ飛び跳ねている。

 その意図が掴めず頭を捻る海馬であったが、ふと切り替わった映像を見てようやく理解した。VTRにはダンデのバトルシーンと、彼の主力ポケモンがワザを繰り出す様が紹介されている。

 

 まるでヒトカゲが成長したような姿で炎を吐く有翼のドラゴン――

 

 

ー ー ー ー ー

リザードン

かえんポケモン

 

ヒトカゲの最終進化形。

地上1400メートルまで羽を使って飛ぶことができる。

高熱の炎を吐く。

ー ー ー ー ー

 

 

 と、その時。テレビの映像も感知できたのか、机の上に放置された図鑑機能搭載型デュエルディスクがひとりでに反応した。昨晩寝落ちする前に調整して、こちらも電源を切り忘れていたようだ。

 ともあれ、これでヒトカゲが何を伝えたかったのかはハッキリした。

 海馬は、画面に映るダンデのリザードンを見据えて笑う。

 

「フ……なるほど。貴様にも向上心はあるようだ」

「カゲ!」

 

 頷くヒトカゲ。もう既に、この小さな竜に戦う意志は芽生えているらしい。

 己の決意を示した主人をボールの中からずっと見続けて、その意志に憧れを抱いたのか。その理由は果たして海馬の知るところではないが。

 

「ふん、ならば答えてみせるがいい。オレの『しもべ』に相応しい姿でな」

 

 そう呟いて、海馬は腰を上げた。椅子から立ち上がり、ディスクを装着して身支度を済ませる。

 手早く準備を整えた彼は、窓から差し込む朝の日差しをバックに告げた。

 

「行くぞヒトカゲ。オレは手札を強化し、『青眼』の確保を目指す!」

「カゲ!」

 

 威勢よく返事したヒトカゲをボールに戻し、海馬は颯爽と歩き出す。

 自身に続いて決意を示した小さな『しもべ』を伴って、彼の表情も少しばかり明るい。

 

 

 旅はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

 ポケモンセンターを後にした海馬は周囲に目を光らせながら、ヒウンシティの大通りを散策している。

 タチワキの街とはまるで違う、発展しきった都会の様相。空まで届く摩天楼は見渡す限りに立ち並び、行き交う人々を圧倒しながら、今日もヒウンの景観を彩る。

 

(……やはり高層ビルはいいものだ。童美野町での日々を思い出す)

 

 今頃、モクバたちはどうしているだろうか。

 オフィス街を行き交う人々に紛れて、元いた日常を回顧する海馬。

 しかし、今の彼の視界には、この世界ならではのポケモンたちが数多く映っている。

 せわしなく歩く人間をよそに、歩道の端では呑気に草を食むマメパトたちや、低空を漂うモンメンの姿が。またあるところでは、元気の有り余ったガーディがボールから飛び出し周囲を駆け回っている。

 都会であってもポケモンたちは存外自由に生きているようだ。海馬の方も彼らへ関心を向けることはなく、淡々と足を進めていく。

 

「すごいよあのビル、とっても高い!」

「そりゃあ一流企業のバトルカンパニー本社だからな。ヒウンでも一番立派なビルなのさ」

 

(フ……我が海馬コーポレーションの本社ビルの方が、あれより遥かに高いだろうよ)

 

 途中、道端から聞こえた親子の会話を、内心小馬鹿にしながら通り過ぎる。

 そうして、しばらく大通りを歩き回っていたのだが。

 

「……ほう?」

 

 ふと面白いものが目に入って、海馬は足を止めた。

 見れば、人気の少ないビルの入り口に、何やら既視感のある恰好をしたやつがいる。

 全身真っ黒な衣装に身を包み、帽子を目深に被って胸にイナズマのマークを刻んだそいつは――

 

(間違いない、プラズマ団か‼)

 

 あからさまに視線をぶつけると、向こうの下っ端もこちらに気が付いたようだ。海馬と目が合うや否やあたふたとビルの中へ走り去ってしまう。面白いまでの慌てぶりだが、それにしても大袈裟すぎる逃げ方ではないだろうか。

 捜索がトントン拍子なことも相まって、咄嗟に追いかけようとした海馬も、疑念を抱いて速度を緩めた。

 

(……しかし妙だ。潜伏しているはずの連中が、なぜ街中をうろついている?)

 

 眼前に餌をぶら下げられて走る馬のような、単純な思考はしていない。

 実際、自分の前に現れたこと自体が奴らの策謀という可能性も考えられる。

 真っ先に逃げ出した下っ端の表情は、間違いなく海馬のことを認知している顔だったのだから。

 

(ふん、このオレを誘っているのか……)

 

 あの行動は確実に罠。のこのこついて行けば、きっと奴らの思う壺だろう。

 

 だが海馬は敢えて、自らプラズマ団の罠にかかってやることに決めた。

 どちらにせよ連中を逃すつもりは毛頭ない。見え見えの罠でも渡りに船、用があるのはこちらの方だから、かえって好都合というやつだ。

 

(ククク……オレを罠に嵌めようとするとは、面白い! )

 

 加えて持ち前のプライドの高さも作用し、一刻の迷いすら生じなかったらしい。

 即決した海馬はすぐさま下っ端の後を追って、果敢にビルの中へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 ――当然というべきか、それはプラズマ団の仕掛けた罠であったのだが。

 

 

 

 

 

 自動ドアをくぐりロビーへ突入した海馬を待ち構えていたのは、プラズマ団の下っ端たちが六名ほど。いずれも統一感のあるコスチュームで、モンスターボールを構えている。

 その中でもリーダー格と思しき中央の男が、海馬の姿を認めるなり声を上げた。

 

「へっ、へへへ……! かかったな馬鹿めが! 待ち伏せされているとも知らずによ!」

「フ……そのようだな」

 

 もっとも望んで罠に飛び込んだのだから、待ち伏せ程度は想定内だ。

 両腕を組み自信のほどを示す海馬は、願ったり叶ったりと言わんばかりに不敵に笑って、目の前に集結した下っ端連中を眺めている。

 

「……だが驚かされる。大層なビルを選んだわりに、この人数か。出迎える気はあるのやら?」

「いい気になってんじゃあねぇぞ! お前はプラズマ団に喧嘩を売ったんだ、とっくにマークされてんだぜ!」

「ほう? それはいい事を聞いたな。こちらから会いに行くのも手間だと思い始めていた頃だ」

「口の減らない奴め……! 行けぇ!!」

 

 リーダーの号令と共に、両脇に控えた下っ端二人がモンスターボールを投げる。

 同時に海馬もボールを取り出し、手持ちのポケモンを繰り出していた。

 

 

「「「バトル‼」」」

 

 

▽プラズマ団の下っ端たち は ベトベター と ラッタ を繰り出した‼

▽海馬 は ヒトカゲ と ドガース を繰り出した‼

 

 

「ベトベターに、ラッタねぇ……。 いかにも貴様らが好みそうな、薄汚いモンスターどもよ」

 

 立ち上がったデュエルディスクの図鑑データを横目に「ふん」と鼻で笑う海馬は、早速ヒトカゲに指示を下す。

 

「さっさと下水道へ追い返してくれるわ! ヒトカゲで攻撃!」

「カゲカゲッ!」

 

▽ヒトカゲ の ひのこ‼

 

 指示を受けたヒトカゲの行動は早い。朝の意気込みもあって、やる気を体に漲らせて動く。

 勢いよく放たれた火球は一直線に飛び、ベトベターに命中。激しい爆発にヘドロが飛び散り、黒煙を上げた。

 

「フフ……!」

 

(毒タイプのベトベターには、炎の属性への耐性はない。 跡形もなく消え去ったな……!)

 

 初撃の手応えに笑う海馬。

 しかし煙が晴れた後、無敵めいた表情に影が差した。

 

「ベタ、ベタァ~」

「……なに?」

 

 間抜けな顔で佇むベトベターは深手を負ったように見えず、ドロドロの体をくねらせているではないか。

 驚く海馬に、下っ端の女が得意げに笑った。

 

「ウフフ……アタシのベトベターは特防が高いのよ! その程度の『ひのこ』、痛くも痒くもないんだから!」

「そのとーり! 俺達を甘く見過ぎたな‼」

 

 続けざまに相方の男が言い放つ。

 

「テメェのポケモン、レベルは高いみたいだけどよ。ポケモンバトルは己のワザが全てなんだぜ! やれ、ラッタ‼」

「ラタタッ‼」

 

 男の呼びかけを受けてラッタが駆け出す。

 身構えるヒトカゲに飛び掛かると、その小さな体を瞬く間に押し倒し、自慢の出っ歯でがぶりと噛みつく。

 

▽ラッタ の いかりのまえば‼

 

「へへへ、『いかりのまえば』はなぁ、相手ポケモンのHPをピッタリ半減させちまうのよ!」

「なんだと……!」

 

 説明されてヒトカゲを見やれば、ワザを受けた直後の表情は苦悶に満ちていた。その身を抉るような攻撃で体力を一気に持っていかれたためだろう。

 しかし、それでもヒトカゲは果敢に立ち上がり、輝かしい目で後方の海馬を振り返った。まだまだ余裕とでも言いたげだ。

 

 そんな『しもべ』の闘志を垣間見て、ひとまず海馬は安心するが――すぐにまた気を引き締め直した。

 まだベトベターの行動が残っている。出方を伺っていると、下っ端の女は意地の悪い表情で命じる。

 

「いい調子だわ! こちらは更にステータスを強化するわよ……『ちいさくなる』‼」

「ベタ~……」

 

 女の指示を受けたベトベターが蕩けた体を縮こませる。みるみるうちに小さくなると、見る間に元の大きさの半分になってしまった。

 

(なに、ヤツの体が収縮した……⁉)

 

 戸惑う海馬。下っ端の女は更に嘲るように、甲高く笑う。

 

「ウフフ! ベトベターは小さくなって、回避率を上げる! これでもうアンタの攻撃は届かないわ‼」

 

▽ベトベター は ちいさくなる を使った‼

 

▽ベトベター の 回避率 がぐーんと上がった‼

 

「ハハハハー! 見たか、これが我々の完璧なるタッグ戦術だ‼ ラッタで体力を削り、ベトベターのステータスを上げてじわじわといたぶる‼」

「観念なさい、もうアンタは追い詰められた獲物同然! この牙城を崩す手段なんてないんだからね‼」

 

 戦況が傾いたと見るが早いか、勝ち誇ったように叫ぶ下っ端たち。

 完璧を称する鉄壁の布陣を築き上げた彼らは、弱った獲物をなぶる蛇のような目で罵倒を浴びせかける。

 

 

 だが、しかし。

 向かい合う標的の顔を見やって、息巻く下っ端たちの表情が僅かに曇る。

 

 

「フフフ……‼」

 

 

 ロビーに響く低い笑声。

 自分たちに追い詰められているはずの海馬は、心底馬鹿馬鹿しそうに肩を震わせ、その顔を不気味に歪めていた。

 

 




ポケモンバトルでもデュエル感を出したいもの。
……デュエル感って何なんでしょうね。

ちなみにテンポ維持のため描写を省いていますが、作中のポケモンバトルは全てダメージ計算を行っています。
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