遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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17.再起の決闘‼

 

 傾いた夕日が水平線の彼方へじわりと溶け込む頃。プラズマ団が退去した遊園地跡地は、ようやく平和を取り戻そうとしていた。真っ赤な空に負けない勢いでランプを光らせながら警察車両が駆け付ける。取り残された下っ端たちは警察の御用となり、作業員が破壊された観覧車の復旧作業に勤しむ。

 

 その現場からは少し離れた隅のベンチで、ヒュウはぐったりと項垂れていた。

 

「クソ……畜生……!」

 

 拳を固く握り締め、名伏し難い感情に身を震わせる。戦い続けて体力を消耗しただけではない。もっと先にある怒りと自責の念が鉄剣のような冷たさで彼を突き刺している。

 

「ヒュウ、大丈夫?」

 

 横に腰かけるメイが、キズぐすりを片手にそっと声をかけた。遅れて合流した彼女は力なく座り込んでいたヒュウを見てギョッとしたものの、すぐに手持ちのアイテムを総動員して倒れたポケモンの手当を始めてくれていた。

 

「ポケモンたちも毒浴びて、体力ギリギリで……ほんとに心配したよ。何とか無事でよかったけれど」

「すまねぇ……」

 

 力なく謝るヒュウ。いつもと違って妙にしおらしい振る舞いだ。

 また置いて行かれた時は文句の一つでも言ってやろうと意気込んでいたメイも、この落ち込み様を前にしては何も言えず。その心中を察して口を噤んでしまう。

 たちまち気まずい沈黙が二人の間に横たわり、果たしてどう励ますべきか。メイは言葉が思いつかず、手持無沙汰でキズぐすりをもてあそんでいると、

 

「……情けない姿を見せちまったな」

 

 今にも消えそうなヒュウの声がポツリと零れた。

 

「情けないなんて……そんなわけ」

「オレ、あいつに誓ったのにな。絶対に強くなるって。なのに、奴には全く歯が立たなかった」

「………」

 

 メイは黙ってヒュウの横顔を見つめる。その眼はどこか虚ろで、まるで遠い景色を見つめているかのようだ。

 

 先ほど繰り広げられたダークとの一戦は、プラズマ団を追うヒュウのプライドをへし折るには十分すぎる内容であった。

 それまで多数の下っ端相手に有利に立ち回っていたにも関わらず、ダークはそんな彼の根性を全てあざ笑うかのように一蹴。圧倒的な実力差をまざまざと見せつけた。

 文字通り手も足も出ずに打ちのめされた事実がヒュウを責め立て、己の無力さを痛感させる。

 

「クソッ、プラズマ団を倒すために旅に出たってのに……! このままじゃ、オレは何も守れない……ッ‼」

「ヒュウ……」

 

 悔しさからベンチを殴りつけるヒュウ。そんな彼の悲痛な叫びを聞いてもなお、メイは掛ける言葉が見つからない。薄っぺらい慰めでは決して心に響かない。重々承知の上だからこそ、ただ見つめることしかできなかった。

 

 再び流れる憂鬱な静寂。あまりの心苦しさに自分も視線を落としてしまうメイ。

 だが、それを打ち破る冷淡な声が一つ。

 

 

 

「ようやく身の程を理解したか」

 

 

 

 付近の手すりに腕を乗せ、一人思索に耽っていた海馬がおもむろに振り向き、ヒュウの丸い背中を睨み付ける。

 

「海馬くん……?」

 

 唐突な発言にメイはぽかんと口を開くが、海馬はお構いなしに吐き捨てた。

 

「ヤツとの決闘でガラス細工の自信も粉砕されたのだろう。今や後悔の念すら見える、哀れな負け犬の面ではないか」

「……なんだと‼」

 

 歯に衣着せぬ言いざまに、消沈していたヒュウもカッと目を見開き立ち上がった。憤怒に顔を染めながら、今にも殴り掛からんばかりの意気で海馬に相対する。

 

「ふん、オレは事実を述べたまで。実力差も弁えずに突撃するなど愚の骨頂。今の貴様には地面を這いつくばっている姿がお似合いだ」

「て……てめぇッ‼」

 

さらに挑発を重ねる海馬へ咄嗟に食って掛かろうとするヒュウ。メイは大慌てで二人の間に割り込んだ。

 

「お、落ち着いてよヒュウ! それに海馬くんも‼ 何でそんなこと……ヒュウだってバッジを四つも集めてるんだよ‼」

「星の数など狭い王国での指標に過ぎん。どんな称号を持とうと、決闘の場では何の意味もなさないからな」

「海馬くん……!」

 

 悪びれもせず言ってのける海馬に、メイは衝撃で顔を歪めた。

 いくら友人の枠にいても、ここまでの侮辱を看過できるわけがない。ヒュウを庇うように一歩進み出た彼女は海馬をキッと睨んで言い放つ。

 

「ヒュウは……ヒュウはずっと必死に戦ってきたんだよ‼ プラズマ団を追ってるのだって、妹さんのチョロネコを取り返すために――」

「やめろッ、メイ‼」

 

 その時、凄まじい怒声がメイを遮った。彼女がびくりと口をつぐむほどの声量で、ヒュウは奥歯を噛みしめて、

 

「それ以上は言うな! オレの前で、コイツには言わないでくれ……‼」

「……ふん」

 

 絞り出した悲痛な懇願に一瞬、片眉を上げた海馬は鼻を鳴らして腕を組む。

 

「戦う理由や信念なら、どんな弱小決闘者(デュエリスト)の胸にも秘められているだろうさ! 重要なのはそれに押しつぶされるか、それを守り抜けるかだ‼」

「……ッ‼」

「今の貴様が決闘者(デュエリスト)として立ち上がることなど、できはしまい」

「……言ったな?」

 

 その言葉にヒュウはボソリと呟いた。暗い瞳の奥にゆらりと炎が灯り、一歩を踏み出して叫ぶ。

 

「そこまで蔑むってんなら……見せてやろうじゃねぇか……‼」

「ほう」

「海馬、オレとバトルしろ‼ 今までのふざけたセリフ、全部撤回させてやる‼」

「ヒュウ……⁉」

 

 思いも寄らぬ展開に動揺するメイだが、当の二人は既に臨戦態勢だ。野生ポケモンのような戦意を持ち直したヒュウに、海馬は薄く笑みを湛えると、ひらりと身を翻して言った。

 

「面白い。その無謀な挑戦を受けてやる。」

「今日という今日は我慢ならねぇ! お前に吠え面かかせてやるぜ‼」

 

 メイが口を挟む間もなく、距離を取ってボールを構える二人。空気の変わりように取り残された彼女はしばし呆然としていたが、ヒュウに投げ掛けられた一言で我に返る。

 

「お前も見ていてくれ、メイ! オレのバトルを‼」

「……もちろん‼」

 

 幸い近くに人はおらず、この一騎打ちを邪魔する者はいない。それにヒュウも、怒りのせいとはいえ元の調子を取り戻しつつある。

 それなら、今は思いっきり応援するしかない。そう切り替えたメイがピースサインを向ければ、ヒュウはこくりと頷き、好戦的な瞳を海馬へ向け直した。

 

「手持ち三体のシングルバトルだ、いいなッ‼」

「構わん」

「なら早速いくぜ――」

 

 

 

「「バトル‼」」

 

 

 

 ヒュウの宣誓に被せて海馬が決闘(デュエル)開始を宣言。互いにボールからポケモンを繰り出す。

 

▽海馬 は ゲノセクト を繰り出した‼

▽ヒュウ は ハトーボー を繰り出した‼

 

 冷徹な甲虫と凛々しい野鳩がフィールド上で睨み合う。

 先に仕掛けたのは海馬の方だ。

 

「まずはゲノセクトのモンスター効果を発動する!」

「ゲノム‼」

 

【ゲノセクト の ダウンロード】

 

 不意にゲノセクトの瞳が光ったかと思うと、赤色の光線が発せられ、コピー機のごとくハトーボーの頭から足先までをスキャンする。するとゲノセクトは眼光の色を青に変え、より勇ましい雄叫びを上げた。

 

▽ゲノセクト の 特攻 が上がった‼

 

「なに! いきなり能力が上がるのかよッ⁉」

「フフフ……ゲノセクトの『ダウンロード』で、貴様のモンスターのステータスを読み取ったのさ!」

 

 開幕早々驚きを隠せないヒュウへ、海馬は得意気に解説する。

 

「『ダウンロード』は相手モンスターの守備力を算出し、それに応じて攻撃力を上げる効果を持つ! 今回は貴様の特防が低かったため、特攻が一段階上昇したのだ‼」

「チッ、そんな特性を持っていやがったのか……!」

「更にバトルフェイズだ! いくぞ‼」

 

 そうして立て続けに攻撃宣言。素早さではゲノセクトの方が勝っている。

 

「ゲノセクトの攻撃!『テクノバスター』‼」

「ゲノム‼」

 

 特徴的な背中の砲台から放たれる極太レーザー。リゾートデザートで大地を崩落させたそれはハトーボーに容赦なく襲いかかる。

 特攻が上がったことで凄まじい威力と化した一撃を受け止められるほどの守備力はなかった。回避不能の直撃を受けたハトーボーは狩られた野鳥のように地面へ撃ち落とされてしまう。

 

「ぐわっ……‼」

 

 衝撃と光の明滅に眩んだヒュウが次に目を開けた時、ハトーボーはぐったりと目を回して丸焦げになっていた。

 

▽ハトーボー は倒れた‼

 

「クソッ、馬鹿みたいな威力だぜ……‼」

「……悪くない」

 

 毒づきながらハトーボーを戻すヒュウを眺めて、海馬は満足気に呟いた。対人戦は初だが理想的なスタートアップであり、確かに戦闘兵器と呼べる無駄のない性能だ。

 

「クク……早速一体葬らせてもらったが、休む間もなく次のターンだ‼ さぁ、早くモンスターを出せ‼」

「お前に言われなくともッ……‼」

 

 開幕からペースを握る海馬に煽られてヒュウは、歯ぎしりしながらも次のボールを素早く掴む。

 

「頼むぜ! フタチマル‼」

「フタッ‼」

 

▽ヒュウ は フタチマル を繰り出した‼

 

 二番手に選ばれたのは二枚の貝殻ことホタチを両腰に付けた、しゅぎょうポケモンのフタチマル。すたりと着地し自慢のホタチを手にする様子は、その勇ましい風貌も相俟って勇猛果敢な若武者のようにも見える。

 

(ハトーボーよりレベルが高い、こいつならッ……!)

 

 未知のポケモンを前に己の直感を信じて、ヒュウはフタチマルに指示を飛ばす。

 

「フタチマル、『シェルブレード』だ!!」

 

 その声と共にホタチの刃がギラリと輝く。『シェルブレード』はフタチマルが最も得意とするワザだ。

 目にも留まらぬ速さで振るわれる斬撃はゲノセクトへ肉薄するが、しかし――

 

「攻撃は無駄だ! 迎撃しろゲノセクト‼」

「ゲノゲノッ‼」

 

▽ゲノセクト の テクノバスター‼

 

 素早さで上回るゲノセクトが再び砲台を構え、即座にエネルギーを放出させる。鋭いホタチが振り下ろされるよりも速く、高圧のレーザーがフタチマルへ浴びせられた。

 居合抜きの最中にまともな防御ができるはずもない。直撃を受けたフタチマルは一撃で倒され、ヒュウも強烈な衝撃波に思わず膝をつく。

 

▽フタチマル は倒れた‼

 

「ぐっ……‼」

「ふん、単調なバトルでつまらん。貴様のモンスターも残り一匹か。諦めるがいい、ヒュウ‼」

 

 嘲笑する海馬を、ヒュウは鋭く睨みつけるが何も言い返せない。ここまでゲノセクトに圧倒され続けて、最悪の記憶が脳裏にふと蘇った。あのダークトリニティ相手に味わった敗戦の記憶だ。

 海馬に啖呵を切ったはいいものの、試合運びは前と変わらず、終始翻弄されているだけ。このままでは何度やっても結果は見えている――

 

 

 

(ダメだ、勝てない……! ここまでなのか、オレは……⁉)

 

 

 

 ふと浮かんだ一抹の諦観。決して認めたくなかったその感覚は弱った心に付け込むようにして、じわじわと増殖つつある。

 額に流れる汗と速まる心臓の鼓動にも押され、ヒュウが目を閉じてしまったその時。

 

 

 

「立ち上がって、ヒュウ‼」

 

 

 

 メイの凛とした声援が、ヒュウを現実へ引き戻した。

 

「まだ勝負はこれからでしょ‼ 今諦めたら、そこで全てが終わっちゃうんだよ‼」

「メイ……!」

 

 自分を信じる仲間の想い。それが挫けそうな心に暖かな光を灯す。

 

「……わかってる! オレはまだ終わらない、終わるわけにはいかない‼」

「よし!」

 

 ゆっくりと、だが着実に立ち上がる姿を見て歓喜したメイは誇らしげに海馬へ目配せする。それが届いたかは定かでないが、海馬は「ふん」と口元を緩ませると、やはり小馬鹿にしたような態度で言った。

 

「まだ立ち向かってくるつもりか。しかし、もう手は残されていまい?」

「それは気が早いぜッ! オレの意地を受けてみろ、海馬‼」

 

 ヒュウは威勢よく言い放ち、最後のモンスターボールを高々と掲げる。手にしただけでも熱気が伝わってくる、そのボールから飛び出したのは雄々しい咆哮を上げるヒヒダルマだ。

 

▽ヒュウ は ヒヒダルマ を繰り出した‼

 

「ヒヒィィィィィィ!!!!」

「いくぜ必殺‼ 『フレアドライブ』だッ‼」

 

▽ヒヒダルマ の フレアドライブ‼

 

「先んじて倒せ! 『テクノバスター』‼」

「ゲノム‼」

 

▽ゲノセクト のテクノバスター‼

 

 業火のタックルをお見舞いしようと猛進するヒヒダルマへ、鈍くぎらつくゲノセクトの砲塔が向けられる。ただちに発射された高火力の『テクノバスター』はヒヒダルマの正面に命中するが、しかし。

 

 

「怯むな‼ そのまま突っ走れッ‼」

 

 

 強烈な火力に吹き飛ばされそうになったものの動きの鈍らないヒヒダルマを見て、ヒュウはゲノセクトへ突撃するよう叫んだ。その指示通り炎を纏ったヒヒダルマは勢いを殺すことなく突進し、ついにゲノセクトへ激突。

 

▽効果は抜群だ‼

 

 鋼鉄のボディに獄炎をぶち込み、強烈な衝撃と轟音が周囲を震わせる。

 爆煙の中、反動ダメージを受けながらもどうにか下がって来たヒヒダルマに対し、ゲノセクトは弱点となる炎の一撃をまともにくらい、ガシャンと機械めいた音を立てて突っ伏し、ついに動かなくなった。

 

▽ゲノセクト は 倒れた‼

 

「ヒヒィィィィィヤァァァァァァァァ!!!!」

「やった! ゲノセクトを倒した‼」

「よっしゃあ‼ 見たか海馬ッ‼」

 

(ふむ、オレに掠り傷を負わせることは出来たか……!)

 

 大ワザの打ち合いを征して勝鬨を上げるヒヒダルマに続き、喜ぶメイとガッツポーズを決めるヒュウ。しかし海馬は冷静な笑みを崩さぬまま、ゲノセクトをボールに戻すと次なるポケモンを繰り出した。

 

「……1ターンのバトルに勝った程度で浮かれるとはおめでたいヤツだ。だがそれももう終わり。このターンで引導を渡してやろう!」

「リザァ‼」

 

▽海馬 は リザード を繰り出した‼

 

 主人同様気の強いリザードがふんぞり返って叫ぶ中、ヒュウはニヤリと笑い返してみせる。

 

「このターンで決着だと? そいつは無理だな! リザードの素早さじゃ、オレのヒヒダルマには勝てっこない‼ このまま押し切ってやるぜッ‼」

「果たしてそう上手くいくかな?」

 

 だが、海馬はあくまで不敵な笑みを浮かべたまま、呆れたようにヒヒダルマを指差し告げる。

 

「貴様がそのモンスターを捕獲できた理由を疑問に思ってはいたが……なるほど、ようやく理解したよ。目の前のそいつをよく見るがいい!!」

 

「……なッ⁉」

 

 瞬間、ヒヒダルマを見やったヒュウは驚愕にあんぐり口を開けた。

 あれほど猛り狂っていたはずのヒヒダルマの様子が一変、手足を丸めて静かに鎮座しており、その見覚えある姿は古代の城周辺に放置されていた石像と完全に一致しているではないか。

 唐突な変身にわけもわからず困惑していると、海馬が呆れ果てたように首を振りながら言った。

 

「どうやらそれが貴様のモンスターの効果らしいな。体力が減ると石像となって守備表示に移行する……!」

 

【ヒヒダルマ の ダルマモード】

 

 ヒヒダルマの中でも特殊な個体は『ダルマモード』という特性を持ち、体力が半減すると瞑想状態に入る。精神を研ぎ澄ませることでタイプとステータスを変化させるという効果があり、リゾートデザートの厳しい環境で生きるヒヒダルマは、時折この『ダルマモード』のフォルムで休息を取るのだ。

 ヒュウが捕獲したのもこの特性を持つ個体。だが、全く異なるノーマルモードとの変わり様に混乱するばかりで、この特性の真の効果までは把握できていなかったのである。

 

「フフ……生物の習性としては理に叶っているかもしれんが、真相がわからねばデメリットにしか成り得んな」

「クソッ、まさかこんなことが……!」

「これでヒヒダルマはただの置物と化した! 覚悟するがいい‼」

 

 微かに見えた希望は潰えた。海馬が吼え、リザードが裂帛の気勢で応える。

 

「リザードの攻撃、『りゅうのいかり』‼」

「リザァァァッ!!」

 

 リザードの口から放たれる衝撃波は『ダルマモード』のヒヒダルマを直撃残る僅かな体力も刈り取られて、石ころ同然に地面へ転がりダウンする。決着だ。

 

▽ヒヒダルマ は倒れた‼

 

 陽が沈みゆく遊園地には、天を仰ぐリザードの咆哮が響き渡った。

 

 

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