世界中の至る所に生息する、不思議な不思議な生き物。
トレーナーはそんなポケモンを捕獲し、共に旅をするという。
風の向くまま、気の向くまま、未知なるポケモンとの出会いを目指して――
1.ようこそ、ポケットモンスターの世界へ
「ク……ククク……」
オーキドの言葉を聞いた海馬は、堪えきれずに苦笑を漏らす。
(コイツは突然、何を言い出している?)
世界を股にゲーム事業を展開する海馬コーポレーションの経営者として当然、彼もポケモンの存在は知っている。
しかしそれは、あくまで一つのゲームタイトルとしての把握に過ぎないのだ。
仮に突然現れた老人が、急にポケモン博士を自称したところで、どうしてあっさり信じる事ができようか?
あまりにもくだらない。お粗末すぎるほど非現実的ではないか。
海馬は、他人の言葉をそう簡単に受け入れる口ではない。
それを妄言と判断すれば尚更だ。
「ふざけるなジジイ! お遊びなら他所でやれ! オレが聞きたいのは、貴様の正体とその目的だけだ!」
「ふざけてなどおらんぞ? わしはオーキド。このマサラタウンでポケモンの研究をしておるんじゃが……」
「黙れ! 貴様のくだらんゲームなどに付き合っている暇はない‼」
一向に噛み合わない不毛なやり取り。オーキドはお手上げとばかりに頭をかいた。
「わかった、わかった。そう声を荒げんでくれ。ゲームとは何のことかわからんが、ポケモンを信じられんと言うのならワシが直接見せてやろう」
オーキドポケットからモンスターボールを取り出し、優しく地面に転がして見せる。
するとボールは閃光を上げながらパカリと開き、小柄な獣が茶色い毛並みを震わせながら、その可愛らしい姿を現した。
「ブイブーイ!」
「なに……ボールから犬が⁉ ジジイ! 一体どこから湧きだした!」
「イヌ? このポケモンはイーブイじゃ。ポケモンはモンスターボールに出し入れできるんじゃよ」
「ブイ!」
「なんだと……!」
おおよそ信じられない光景に、思わず絶句する海馬。
この小型犬は何だ。「イーブイ」いう動物など聞いた試しはない。
そもそもどこから出現した? その野球ボール程度の大きさしかないカプセル玉からか?
いやありえない。現代の科学技術もそこまで発展してはいない。
どこを切り取っても非現実的過ぎる光景、俺は夢や幻を見ているというのか?
バカな、こんなゲームのような世界が存在するはずなどない――
(——ッ! ゲームだと……?)
思考を巡らせる海馬の脳裏に、とある記憶がふとよぎる。
昨晩、弟のモクバと交わした軽い雑談だった
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「……またそのゲームか、モクバ。何だそれは?」
「あ、兄サマ。最近出たポケモンの最新作なんだけど、ケッコー面白いんだ!」
「ふん、他社のゲーム研究とか理由を付けてはいたが、まったく随分とハマったものだな」
「へへ……意外と奥が深いんだよ。兄サマもやってみる?」
「オレは興味がない。それよりも明日の最終テストに向け、デッキの最終調整を行う。ほどほどにして、お前も早く休め」
「うん、兄サマお休み~」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
以前にもモクバがプレイするゲーム画面は何度か見ている。断片的だが、ポケモンとやらのゲーム性はある程度把済みだ。
そして今、目の前で繰り広げられる光景は、そのゲーム性と完全に一致していた。
(まさか俺の意識は別の次元、ゲームの世界に存在しているとでもいうのか……⁉)
咄嗟に浮かぶ馬鹿げた仮説。だが、一笑に付すことは出来なかった。
自分がその馬鹿げた世界に迷い込んだのは、『デュエル・リンクス』でのテストデュエルが原因とみて違いない。
この開発最終テストで、海馬は自身の意識を仮想世界に転送していた。
そこでシステムが不調を起こし、致命的なバグが生じたとしたら……
(オレの意識がネットワークの波に攫われ仮想世界を脱し、偶然にもモクバがダウンロードしたゲーム内に漂着した……ということか?)
あまりに荒唐無稽で、乾いた笑みさえ浮かんでくる。
だが、この仮説を完全に否定する気にもなれなかった。
海馬瀬人は基本的に現実主義者だが、同時にオカルトにも順応できる男である。
過去にその身で味わった超常現象の数々。オカルト全開な事件へ介入した経験は、彼に「科学では及ばぬ存在もある」という認識を徐々に植え付けている。
幾分か冷静さを取り戻し、徐々に現実を受け入れつつある海馬にとっては、馬鹿げている仮説でも、あるだけまだ納得できるというものだ。
一方のオーキドは、この奇妙な風貌の青年を物珍しそうに眺めていたが、その視線はやがて腕に装着された奇妙な機械に向けられた。
「ところで君は腕に妙な機械を付けとるようじゃが……これは何じゃ?」
「……貴様、デュエルディスクも知らんのか? 決闘者の盾とも呼ぶべき道具だ!」
「いやぁ、見た事も聞いた事もない」
「ふん、いいだろう。ならばその目に焼き付けるがよい! 出でよ、『
デュエルディスクも知らんとは、どこまでもデタラメな世界だ。
海馬はやり切れぬ感情を声にのせ、高らかに青眼の名を宣言する。
さすれば主人の怒りを代弁するかの如き凄まじい雄叫びを上げ、翼を広げた青き眼の龍が研究所内に現れ出る。
「おお、カードの絵柄が実体化しよった!」
未知なるドラゴンの出現には、オーキドもかなり驚かされたようだ。
目をぱちくりさせながら、ブルーアイズを物珍し気に観察している。
「どうだ、これが『
海馬がソリッド・ビジョンをオフにすると、『
「なるほど『ブルーアイズ』か。じゃが、そんなポケモンは見た事も聞いた事もない……」
「くどいぞ、『
「さいじょうきゅう……もんすたー?」
「ふん、非現実世界の住人たる貴様にはわかるまい! オレの世界において、ブルーアイズの名を知らぬデュエリストなど存在せんのだからな!」
「なるほど? ……だいたいじゃが、わかってきたぞ」
「デタラメを! 貴様如きに何がわかる!」
「では言い当ててやろう。君は別の世界からやって来たんじゃな?」
「なに……?」
怒りに震える海馬の拳がピタリと止まった。
不条理に見舞われる中、己を納得させるため無理やり出した「別の世界」という暴論。
それをオーキドとかいうジジイは、さも当然のように言い放ったではないか。
これには怒り心頭だった海馬も、驚きを隠せない。
「貴様は最初から、オレを異界の人間として見ていたというのか?」
「うむ、ここまで話がこじれればな。君も薄々感じていたんじゃないか?」
「……にわかには信じがたい話だがな」
「ふん」と鼻を鳴らす海馬だが、疑念は確信に変わったとみえ、初めて大人しく引き下がる。
ようやく会話が成立したことにオーキドも安堵し、またゆっくりと話し始めた。
「ふむ……おそらく君は、ウルトラホールに飲み込まれてしまったのじゃろうな」
「ウルトラホールだと?」
「うむ、時空の歪みによって生み出された次元の裂け目をそう呼んでいるんじゃよ。そこから異世界のポケモンや人間が迷い込んだというニュースが、この前も報道されておったよ」
「……なるほど、つまりオレもその一人というわけか」
時空の大穴『ウルトラホール』。明らかに常軌を逸した話だが、そういう存在もあるのだろう。
次第に現状を受け入れつつある海馬は、特段突っかかる事も無く頷いた。
どの道ここは、自分が元いた世界とは別の世界。
今更理由や、原因を詮索したところで、状況は何も改善しないのだ。
つまらない理屈にいつまでも拘り続ける道理はない。
となれば、優先すべきことはただ一つ。この世界からの脱出だけだ。
全てを受け入れる事に決めた海馬は、足元にじゃれつくイーブイを鬱陶しそうに眺めていたが、ため息を吐くとオーキドの方へと向き直る。
「ジジイ、貴様の話は認めてやる。ここが異世界だというなら、その事実も受け入れてくれる! だが……オレは、オレが元いた世界に帰らねばならない‼」
自らが経営する海馬コーポレーション。
開発途中の『デュエル・リンクス』計画。
そして最愛の弟・モクバの顔。
元の世界に残したものの数々がフラッシュバックして、海馬の語気は強くなる
「ジジイ……いや、オーキドと言ったな! 何か手があるなら教えろ、今すぐだ‼」
「ま、まぁ落ち着くんじゃ。君には協力してやるから……」
怒れる海馬に気圧されつつも宥めるように、オーキドはゆっくり口を開く。
「安心せい。君を元の世界へ送り返す方法はちゃんとある!
というのも遠方の知り合いで、ウルトラホールの研究をしている博士がおってな。
彼女に頼めば、おそらく元のホールが開くはずじゃが……」
引っかかるような物言いに、海馬は眉をひそめる。
「何か言いたげだな?」
「うむ、実を言えば懸念点もあってな。君の元いた世界のデータが一切不明なのが厄介じゃ。ワシもウルトラホールに関する報告は耳にしておるが、君の話は全く聞いた事も無い。そんなホールの捜索をゼロから始めるとなると、やはりそれなりの時間がかかってしまうぞ」
「くっ……忌々しいが仕方あるまい。この地に堕ちた時点で覚悟はできている」
「じゃが、おそらく君の性格では、このむさくるしい研究所に留まるのも好かんじゃろう?
……そこで提案があるんじゃが」
そう言ってオーキドは、手にしたモンスターボールを掲げて海馬に尋ねる。
数々の皺の刻まれた彼の目は、まるで若き青年を試すかのように。
だが同時に、少年のような悪戯っぽい光を帯びていた。
「ここに来たのも何かの縁じゃ。ポケットモンスターの世界を冒険してみんか?」
【海馬瀬人】
誕生日 10月25日
星座 さそり座
身長 186cm
体重 65kg
血液型 A型
好きな食べ物 牛フィレ肉フォアグラソース
嫌いな食べ物 おでん
(遊☆戯☆王キャラクターズガイドブック 「千年の書」より抜粋)
原作・アニメを見返す度に、初期と後期でキャラが別人すぎて笑ってしまうのですが、
そんなところも我らが社長の魅力です。