遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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19.ホドモエシティとプラズマ団‼

 

 潮風の薫る気持ちのいい朝。

 快晴に照らされた水面はキラリと光り、青々とした空を鏡のように写す。時折聞こえるコアルヒーのやかましい鳴き声に、早朝から行き交う人々の声が重なって、賑やかな喧騒が織り成されている。

 ホドモエシティ。先のライモンを西に進み、赤い跳ね橋を渡れば、その景色は一転して国際色豊かな港湾都市へと変貌する。

 数多の貿易船が並ぶ港は、イッシュ中でも最大級。さまざまな地方から貨物や人、ポケモンが毎日大量に出入りするこの街は、多数のマーケットに観光ホテルが軒を連ねるイッシュ地方の玄関としてその名を馳せている。

 

 

「ここか」

 

 

 ホドモエの地を踏みしめた海馬は、街の手前に浮かぶ小島にかかった石橋に身を寄せ、一面に広がる港湾の様子を眺めている。規模こそ比較にならないが、どこかタチワキシティを想起させる景色だった。

 

(……遠くまで来たものだ)

 

 イッシュを訪れてから何日経過したのだろうか。ふと考えてみたものの、我ながら馬鹿げていると思い直して苦笑した。道半ばの旅で感傷に浸るなどナンセンスにもほどがある。小うるさい連中のせいで気が緩んだなら、さっさと切り替えなければならない。

 

「さて、どうしたものか」

 

 そう、考えるべきは今後の行動だ。この街で引き続きプラズマ団の捜索を続けるのか、それとも別の方角を目指して歩くべきか。

 行き場もなく思案に暮れていた、丁度その時である。

 

 

「いい加減お前も戻れよ。俺たち仲間だったじゃないか!」

「……いいや、僕はもう戻る気はないよ」

 

 ふと耳に入った奇妙な会話。声のする方へ視線を向ければ石橋の欄干にて、二人の人物が話し込んでいる様子が目に映った。

 片方は白と銀で彩られた鎖帷子を着込んだ、まるで中世の騎士のような格好の青年。対するもう一人は、もはや見慣れたシルエットの――

 

(プラズマ団か……‼)

 

 真昼間からのこのこお出ましとは、下っ端の分際で妙に肝が据わったやつだ。海馬はすかさず気配を殺し、遠くを見つめるふりをしながら動向を窺う。

 幸い二人は会話に集中しており、距離が近いにもかかわらず、第三者である海馬の存在には気付いていない。

 

「なぁ、前みたいに楽しく人のポケモン奪おうや!」

 

 周囲の人影がまばらになった隙を見計らって詰め寄るプラズマ団員。

 

「ダメだよ」

 

 しかし、対峙する青年は首を振ってそれを否定。そっと目を瞑り、言い辛そうに目を背けながら、

 

「人のモノを盗ったらドロボウだと、身にしみてわかったからさ……」

「はぁ? 今更マジメぶったって遅いんだよ‼」

 

 青年の言葉にプラズマ団員は素っ頓狂な声を上げた。目を剥いて苛立ちを顕わにすると、青年を突き飛ばして熱心に言い聞かせる。

 

「プラズマ団を辞めたって、世間は冷たいだろ? 居場所なんてないじゃねぇか! それならいっそのこと俺たちとポケモンを奪いまくり、世界征服をしようや‼」

「………」

「今は冷たい奴らも、お前のこと凄いって平伏すぞ‼」

「……ダメだ」

 

 それでも、青年は頑として首を縦には振らなかった。

 

「N様が悲しむ……そんなことはできない……!」

「N! あんな奴の何がプラズマ団の王様だ‼ 困ったおれたちを見捨てて消えちまった、ただのせっこい裏切り者――」

 

 その名を聞いて怒りを増したプラズマ団員が不満を爆発させかけた時。

 これまで耳を欹てていた海馬がついに反応し、颯爽と二人の間に割り込んだ。

 

「ふん、Nねぇ……! 面白い名だ、話を聞かせろ」

 

 それまでの流れをぶった切る唐突な乱入者には、二人ともさぞ驚いたに違いない。目の前に迫った海馬は好奇心に顔を歪ませ、威圧感を持って炯炯(けいけい)と両者を見据えている。

 

「……なんだ、この野郎⁉」

 

 目をパチクリさせるプラズマ団員だが、海馬が無言でモンスターボールを構えると、及び腰になって後退る。

 

「いや、ここで騒ぎを起こすなって言われてるんだ。……お前の相手はまた今度‼」

 

 渋い顔で吐き捨て、青年を置き去りにしたまま一目散に逃げ出した。相変わらずの逃げ足の速さだ。

 もっとも最初から、自身にビビって退散する負け犬風情に用などない。話を盗聴する中で目をかけたのは反対の人物。プラズマ団員の勧誘を拒んだ青年の方である。

 海馬は尻もちをついたまま呆然とする青年を見下ろし、息つく間もなく問いかけた。

 

「プラズマ団と話していたな。貴様も仲間か?」

「……い、いえ」

 

 我に返った青年はそこでようやく立ち上がると、砂埃を払いつつ答えた。

 

「あいつ、昔はプラズマ団で友達だったんですよ……」

「昔? それはつまり貴様も……」

「ええ。お恥ずかしながら、かつてはプラズマ団として活動していました」

 

 道理でユニフォームが異なるわけだ。海馬は密かに納得する。

 それにしても、こんな場所で旧プラズマ団の残党と接触できるとは。見たところ青年は大人しく敵意も持っていないようだ。なんという行幸、この機を逃す手はない。

 

「では、プラズマ団の『王』も知っているな?」

 

 単刀直入に尋ねると、青年は不思議そうに首を捻った。

 

「もちろんですが、貴方もN様をお探しなのですか?」

「……野暮用でな。貴様らから話が聞きたい」

「でしたらぜひ、私たちの館までお越しください。そこで詳しい話が聞けますから」

「ほう?」

 

 そう言って青年は「ささ、こちらです」と手招きしながら、石橋の先の広場へと歩み出す。

 かつて粗暴なプラズマ団員に所属していたとも思い難い、その物腰柔らかな態度に若干眉を顰めつつも、海馬は無言で彼の後に続くのだった。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

 案内されたのは街の北側、見晴らしの良い高台の上に佇む質素な屋敷である。

 飾り気のない玄関を潜って中へ入れば、こじんまりとした内装が視界に飛び込んでくる。必要最低限の家具が置かれただけの空間だ。

 

「どうぞお寛ぎください。今からお呼び致しますので」

「ふむ……」

 

 広間のソファに腰かける海馬は物珍しそうに室内を見渡した。

 元々あった洋館を改装しただけの素朴な住処。あのプラズマ団特有の怪しげな雰囲気は微塵もなく、むしろ牧歌的とすら形容できた。その証拠に、今いる広間には多くのポケモンたちが放し飼いにされて、殺風景な館を鮮やかに彩っている。

 

「バウッ、ワウッ‼」

「待ちなさい、ブラッシングの時間よ‼」

 

 ふと騒がしい物音が響いたかと思えば、部屋の隅から鎖帷子の女がブラシ片手に走って来て、机の下に隠れたハーデリアを引っ張り出した。スポン、と抱き上げられたハーデリアは特に抵抗する様子も見せず、それどころか元気に女の顔を舐め始める。まるで心の通った飼い主と愛犬そのものといった様子であるが。

 

「あははっ、くすぐったいってば」

「バウッ!」

「……貴様のモンスターか?」

 

 その光景に懐疑心を抱いた海馬が問うと、女はちょっと戸惑ったような顔をし、静かに首を振った。

 

「こいつ、身寄りがなかったんだけどすっかりアタシに懐いちゃって。……だから今は道具扱いせずに、ちゃんと向き合おうと思ってるの! ほら行くよ‼」

「バウッ‼」

 

 ハーデリアは一鳴きすると嬉しそうに尻尾を振って、女と共に広間から姿を消す。

 

「ふん……」

 

 女の態度と愛犬の懐きよう。あれも元プラズマ団員なのだろうか? 少なくとも、プラズマ団特有の陰険さは感じられなかったが――

 

 

「ここにいる者たちはN様の遺志を受け継ぎ、ポケモンの保護をしておるのだよ」

 

 

 海馬の疑問に答えたのは、奥の部屋から暖簾をくぐって現れた一人の老人だった。黄土色の外套をはためかせ、豊かな白髪を蓄える糸目の好々爺といった印象を受ける。

 しかし、こいつもプラズマ団に属していた人間なのだろう。あくまで警戒は緩めず、海馬は鋭い目つきで老人を睨んだ。

 

「それにしても、今日は来客が多い。お前で三人目だ。さっきは少女と、友人らしき少年が駆け込んできたぞ。知り合いか?」

「どうだかな」

 

 どうせあの二人に決まっている。言われずともわかるので、つっけんどんに返してやったが、老爺の話は止まらない。

 

「少年は荒れていて、こちらも申し訳なかったが……少女の方にはN様のトモダチを預けてな。あれは芯の強そうなトレーナーでな……」

「ふん、そろそろ話題を変える頃合いではないか? あいにくこちらは、貴様の名を呼びたくともそれがわからんのでね……‼」

 

 海馬はたまらず遮って叫んだ。名前も知らぬ爺さんの長話ほど、聞くに堪えないものはない。

 当の老人は「おお、これは失礼した」と軽く詫び、改めて口を開けた。

 

「わたしはロット。元プラズマ団で七賢人をやっていた。『王』たるN様の補佐役だな」

「ほう、それは興味深い」

 

 早々に耳寄りな情報を聞いた海馬は愉快そうに「フフ……」と鼻を鳴らす。

 

「オレはわけあって貴様らが崇めたそのNとかいう男を追っていてね……! 情報があれば教えてもらおうか‼ 側近であればやつの動向にも詳しいだろう?」

「ふむ、N様の動向か。気になるのは無理もない、あれは超人のような御方だからな……」

「貴様の思い出話は必要ない。知りたいのはやつの行方、確実な情報だけだ。オレを誤魔化すと何をしでかすかわからんぞ?」

「まぁ待ちたまえ、私とて誤魔化すつもりは微塵もない。しかし、わたしたちもN様が今どこにおられるかは知らぬのだ」

「なに?」

 

 ロットの口から出た期待外れの言葉に、海馬は眉間に皺を寄せて彼をねめつけた。

 

「ここにいないだと? 貴様は自らNの派閥とかほざいていたではないか!」

「それは間違いない。だが、N様は旅に出ておられるのだ」

 

 そう言ってロットはようやくソファに腰かけると、深いため息をついて対面の海馬を悲しげに見やる。

 

「N様は二年前、プラズマ団の『王』としてイッシュを騒がせてしまった御方。その罪を償えるよう、伝説のポケモンとの旅で成熟為されている最中なのだ」

「伝説のモンスター……‼ 『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』のことか‼」

「いや、レシラムだ」

「名前などはどうでもいい‼」

 

 伝説の白き龍が話題に上がれば、荒々しく机を叩いて興奮を露わにするのが海馬である。怒りに奥歯を噛みしめる彼は、身を震わせてロットに問いただした。

 

「オレに二年前の知識は毛ほどもないが、そのNとやらは伝説の白龍を従えて、随分評判になっているようだな。それほどまでに腕の立つ決闘者だというのか?」

「もちろんトレーナーとしては一流だ。何せレシラムに英雄と認められた御方なのだからな。それに……」

 

 感傷に浸るような口調でロットは続けた。

 

 

「N様はポケモンの言葉がお分かりになられるのだ」

 

 

 一瞬海馬は、目の前の男が何を言っているのか理解できなかった。

 

「モンスターと、会話だと……?」

 

 目をしばたかせながら遠い目で過去を偲ぶロットの顔をじっと見つめていたが、やがてタガが外れたかのごとく盛大に笑い出す。

 

「フフフフフ……ハハハハハ……! ワハハハハハハハハ――――!!!!」

 

 突然の奇行に驚いたロットと元プラズマ団員たちに囲まれる中で、海馬はひとしきり笑い終えると、あまりの可笑しさになお口元を緩ませながら言った。

 

「ここに来てから、奇天烈なモンスターだの超技術だのといった、わけのわからん代物を見続けてきたが――それもここに極まったな‼『王』たる人間の力が、碌に証明もできぬモンスターとの会話とは聞いて呆れる……‼ イッシュのイカサマキングの間違いではないのか?」

「疑いたくなる気持ちもわかるが、これは事実だ。N様は幼少の頃に壮絶な経験をしてな。バトルを嫌い、ポケモンと心を通わせることに精通しておられたよ」

「ふん、流石のオレでも俄かには信じがたいがね……!」

「急に知らされたお前さんがそう感じるのは無理もない。現にプラズマ団も、それが理由で分裂したようなものだ……」

 

 そう語るロットの寂し気な表情に、海馬は呆れて鼻を鳴らした。

 

「ふん、その程度で分かれる袂など自ら引き裂いてやればよい。どだい貴様らの夢見た正義とやらは、最初から踏み躙られる定めだったのだろう。むしろ幸運とでも思うことだな」

「……驚いた。まさか、そのような言葉を聞かされるとは」

「勘違いするな。当然Nのことは好かんが、それ以上に『青眼(ブルーアイズ)』を侮辱するプラズマ団どもが気に入らんだけだ」

「そうか。だが、感謝するよ。君の名は……

「海馬瀬人。覚えておけ」

「わかった、海馬よ。何かあればわたしたちも力になろう」

「勝手にするがいいさ。オレは別に、プラズマ団の野望に興味があるわけではない。Nを探し出せればそれでいいからな……」

 

 ぶっきらぼうに話す海馬が、ため息混じりにそっぽを向いた時。

 バサリと暖簾をかき上げて、元プラズマ団員の一人が走って来た。受話器を握りしめた彼は、海馬とロットを交互に見ながら報告する。

 

「すみません、ロットさん。客人にお電話です」

「電話だと?」

 

 先に反応したのは、胡乱げに眉をひそめる当事者の海馬であった。この地でわざわざ固定電話をかけてくる者などそういまい。

 

「なぜオレに? ここは貴様の屋敷ではないのか?」

「いやはや、私にもわかり兼ねる。何処からかかって来たのだね?」

 

 同様に首を傾げるロットが訊くと、部下の元団員までもが不思議そうに頭を掻きながら伝言を話した。

 

「ええっと、ホドモエジムのヤーコンさんからです。ぜひその……海馬さんに会いたいそうでして……?」

 

 




BW2のプラズマ団は内部分裂した挙句、シンボルを失った方がどんどん過激化していくってのがいやにリアルなんですよね。

この屋敷で発生する思い出リンクが個人的に好きなので、ぜひともメイの視点で鑑賞されることをお勧めします。
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