遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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PWTのバトルに関する説明・独自設定入れておきます。

・バトル形式はゲーム準拠、3体3のシングルバトルです。

・ゲームだとゲノセクトは参加できないんですが、ここでは大目に見てください。

・最後に、各対戦ごとにポケモンのワザ構成が多少変わることがあります。ゲームだと途中で調整とかできないんですけど、ここでは大目に見てください。



23.検診の時間‼

 

「ヤーコンめ。まったく大した興行師よ」

 

 ドームの歓声が扉越しに聞こえる、ステージ手前の特設控室。

 試合の時を静かに待ちたい海馬であったが、ギャラリーの喧噪は否応なしに控室をも揺らしてくる。まるで古代の闘技場だ。おちおち座ってもいられない。

 

(……まぁいい。ヤツのおかげで組み直せた、このデッキを試すにはいい機会だ)

 

 壁に寄りかかってほくそ笑む。ベルトに取り付けられたボールは先ほどより重く、現在持てる最高のデッキと言っても過言ではない出来だ。

 初の大型大会ということもあってか、参加者に対するヤーコンの気前はかなり良かった。売店に並ぶわざマシンは無料開放。加えてポケモン用の道具まで、ある程度支給されている。

 決戦に向け、手持ちを強化したい海馬にとっては都合の良い環境だ。

 

(ふん、宣伝費は惜しまぬというやつの意気込み。せいぜい利用させて貰うとしよう)

 

 頭の片隅で呟きつつ、海馬はふと開かれた、ステージに続く扉の方へと視線を向ける。

 煌びやかなスポットライトに荒ぶる熱気がどっとなだれ込んできて、サウナのロウリュのようになる中、スタッフが声を張り上げ入場を促した。

 

「海馬様、出番です! ご準備の方お願いします‼」

「……ふん、出番か」

「はい! あ、それと遅れましたが、これがトーナメント表でして」

 

 試合直前になって手渡された表をしげしげと眺め、海馬は興味深げに目を細めた。

 決着を付けるべきメイも、ついでにヒュウも、エントリーを共にした連中は皆反対側のブロックにいる。要は決勝まで相まみえることもない。歯痒い時間が続くだろう。

 

(まぁいい、やつは必ず決勝まで勝ち上がってくるはず。……当然、対峙するのはこのオレということになるだろうがな)

 

 そう思いつつ海馬は、こちらのブロックに刻まれた名前の一つに目をやり、食い入るように見つめた。

 

「……ほう」

「どうかされましたか? お早めにご準備を――」

「ヤーコンのやつもいい組み分けをするではないか」

「え……?」

「ふん、どうやら決勝まで退屈はせんですむらしいな」

 

 

 首を傾げるスタッフはまるっきり無視して、壁に預けていた背を起こす海馬。

 そしてわずかにマントの裾を払い、堂々とした足取りでライトアップされた眩いステージへとその身を向かわせるのだった。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

『いよいよ開幕、ホドモエトーナメント第一回戦!! 選手入場――――ッ!!!!』

 

 

 実況のアナウンスを受け、ステージ上の照明が一斉に点灯する。熱に滾るバトルフィールドを煌々と映す光。ゲートから姿を現した二人の選手の姿に観客たちが沸き上がる。

 

 

『まずは青コーナー!! バトルの貴公子、海馬瀬人!! 颯爽と登場!!!!」

 

 

 やたらテンションの高いアナウンスに閉口しつつも登壇した海馬は、押し寄せる歓声の波にも動じず、鋭い眼光で対戦相手を待ち構える。

 

 

『続いて赤コーナー!! まさかの人選ッ!! 白衣の天使が殴り込みかーッ!? ホドモエPC(ポケモンセンター)のジョーイさんだーッ!!!!」

 

 

 スチームが噴き出す対面から現れた全く予想外の相手――白衣を身にまとった女性の姿に、客席のどよめきがさざ波のように広がっていく。

 

 ジョーイと言えばポケモンセンターの名物お姉さん。イッシュ地方においても各地の施設で傷ついたポケモンたちの手当に勤しんでおり、旅する海馬もその姿は幾度となく目にしている、が――

 

「お前見たことあるか? あのジョーイさんがポケモンバトルしてるとこ!」

「あるわけないだろ! まずポケセン以外で見たことねぇもん!」

 

 ざわめく声が客席からちらほらと聞こえ始めるも、当然の反応だ。ポケモンセンターで働いている姿がデフォルトな彼女がバトルに興じる様など、誰も想像だにしない光景である。

 しかし、そんな周囲の喧噪をよそに、白衣のジョーイは至って飄々とした態度をもって会釈する。

 

「アナタが一回戦目の対戦相手ですね。ふふ、お手柔らかにお願いしますよ?」

「貴様の顔には見覚えがある。確かタチワキやらライモンやらで、見たはずだが――」

「ああ、それは私の親戚です。顔が似てるのでよく間違われるんですけれど」

「なに?」

「タチワキのジョーイは母方の従妹で、ライモンのは2つ上の姉。……なんて、今はどうでもいい話題ですよね」

 

 微笑むジョーイは白衣の襟元を正し、その穏やかな双眸にいきなり鋭い光を宿すや、モンスターボールを手にして言った。

 

「それよりもバトルです。こんな格好でも、対戦には自信があるんですよ?」

「……ふん。よかろう、受けて立つ」

 

 海馬にとっては前哨戦となるべき試合。そして、新たなデッキの底力を試す一戦。いずれにしても狙うは勝利の二文字だけ。

 後に控えているであろう宿敵との戦いに思いを馳せつつ、手近なボールを構えると、再び眼前に立ち塞がる敵をぎろりと捉え直す。

 

 両者の準備が整ったタイミングで、実況もすかさずマイクに叫ぶ。

 

 

『第一試合! 海馬vsジョーイ、バトル開始ィィィィィィィ!!!!!』

 

 

 

 

「「バトル‼」」

 

 

 

 

▽海馬 は ゲノセクト を繰り出した‼

▽ジョーイ は タブンネ を繰り出した‼

 

 スタジアムに現れる二体のポケモン。

 海馬の先鋒として起動するゲノセクトに対して、ジョーイが繰り出したのは愛らしい見た目のタブンネだ。イッシュPC(ポケモンセンター)の看板モンスターとしてジョーイと共に働くパートナーである。

 

 両者の気質を端的に表したような組み合わせだが、その一方は得体の知れない改造兵器。未知のレア・ポケモンに会場がざわめく中、ゲノセクトは冷静に眼を光らせて相手の出方を窺う。

 

【ゲノセクト の ダウンロード‼】

▽ゲノセクト の 特攻 が上がった‼

 

(ククク……特攻アップとは運がいい。今回のゲノセクトは特殊ワザが豊富だからな)

 

『ダウンロード』のスキャン結果に不敵な笑みを浮かべる海馬。

 その僅かな吐息を敏感に感じ取ったか、タブンネの耳元がぴくりと動く。ヒヤリングポケモンらしい聡耳による反応と、海馬の表情を見比べて、ジョーイはそっと額に手を当てる。

 

「ゲノセクトですね。……詳しいことは存じかねますが、その子が貴方のエースかしら?」

「さぁ? それは今からわかることだ……! いくぞ、ゲノセクト‼」

「ゲノム‼」

 

 その宣言を合図に、ゲノセクトは自慢の砲塔を構えると、サイケデリックに色めく怪光線を発射した。

 

▽ゲノセクト の シグナルビーム‼

 

 直視し難い色合いに、一瞬にしてスタジアムを染め上げる光量。誰もが目蓋を閉じてしまいそうになる中、その輝きはまっすぐタブンネへと吸い込まれて、その体を思いきり仰け反らせる。

 

 

『ゲノセクトの先制パンチが決まるッ!! 流石のタブンネもただでは済まない破壊力――ッ!!!!』

 

 

「タブァ~……‼」

「タブンネ、大丈夫?」

「タブンネ~」

 

 体勢を立て直したタブンネのマイペースな一声。決して頼もしいとは言い切れないが、それでも気丈に振る舞う姿にジョーイはひとまず胸を撫で下ろす。

 そして口元に静かな笑みをたたえると、血気盛んなゲノセクトを見やり、医者らしく落ち着いた口調で言った。

 

「海馬さん、だったかしら? あなたのゲノセクトはなかなかのパワーみたいね」

「ふん、この程度は序の口よ」

 

 海馬は煽るように鼻を鳴らして返す。

 

「どうした。早くも棄権する気か? ま、それでもオレは構わんが」

「あら、バトルはまだ始まったばかり。お楽しみはこれからですよ」

「その台詞がいつまで持つか、見ものだな。貴様のモンスターは既に虫の息――」

「ふふふ、それはどうかしら? 私はジョーイ、PC(ポケモンセンター)のドクター。ポケモンの診察なら右に出る者はそういません」

 

 キッパリ言い切ったジョーイは、そこで上品に手を合わせると、普段と変わらないにこやかな表情で海馬を見つめ――

 

 

「さぁ、早速検診の時間よ‼ タブンネ‼」

「タブンネ~‼」

 

 

 目を開いてそう宣言するが早いか、タブンネは両手を突き出し、その指先から微弱な電気をゲノセクトへと送り出す。

 

▽タブンネ の でんじは‼

 

「ゲノムッ!?」

 

 避ける間もなく、ゲノセクトの全身に微弱な電気が浴びせられる。すると、その赤眼がショートした電球のようにチカチカと明滅し、手足の動きが鈍ってしまう。

 

▽ゲノセクト は麻痺してワザが出にくくなった‼

 

 

『これは "でんじは" が決まったッ!! 鋼鉄ボディも麻痺には弱いか――ッ!?』

 

 

「ゲ、ゲノゲ――」

「なに‼ 麻痺だと……⁉」

 

 痺れて声までおかしくなったゲノセクトを驚愕の目で見つめる海馬。

 そんな彼の反応を楽しむように、ジョーイは「ふふふ」とゆったり微笑む。

 

「貴方のゲノセクト、おそらく高速特殊アタッカー。それなら麻痺で素早さを下げておかないと。危なっかしくて戦えないわ」

 

 麻痺状態になったポケモンの素早さは半減し、さらに低確率でワザが出せなくなる。安定した初速と高い攻撃性能、それを底上げする特性でモンスターを殲滅するタイプのゲノセクトにとって、機動力を封じる麻痺は致命的な一手になり得る。

 

「ふん、医者のくせに状態異常にしてくるとはな……!」

「ふふふ、これはバトル。どんなワザだって使いますよ」

「く……! だが、後手から麻痺にしたところで貴様に攻め手などあるまい‼」

 

 海馬は拳を握り締めると、したり顔のタブンネをビシリと指差し力強く叫ぶ。

 脚を痙攣させるゲノセクトも何とか態勢を整え、必殺の一撃を眼前の獲物に叩き込もうと意気込んでいる。

 

「ふざけた真似はここまでだ! 終わらせてくれる、ゲノセクトで攻――」

「そうはさせないわ!このターン、私はポケモンを交換する‼」

 

 しかしジョーイは、海馬の攻撃宣言に割り込む形でモンスターボールを取り出すと、タブンネを戻して新たなボールに手を掛けた。

 

▽ジョーイ は タブンネ を引っ込めた‼

 

 

『さぁ流れを引き寄せる赤コーナー、新たに繰り出すポケモンですが――』

 

 

▽ジョーイ は トゲキッス を繰り出した‼

 

 

『おおーっと、これはトゲキッス!! 翼を広げて華麗に登場――ッッ!!!!」

 

 

 弧を描くように宙を舞い、現れ出たのは平和の象徴。ふわふわした翼を持つ妖精のようなトゲキッスだ。包み込むような笑顔でゲノセクトの前に立ちはだかると、再度放出された極彩色のビームを真正面から受け止める。

 

▽ゲノセクト の シグナルビーム‼

▽効果はいまひとつのようだ……

 

 

『トゲキッス、全くの無傷!! タイプ相性が大きそうだッ!!』

 

 

「キスキッス‼」

「うふふふ、これで対等に戦えるかしら?」

「くっ……‼」

 

 タブンネの体力を大きく減らした『シグナルビーム』だが、フェアリー・飛行タイプには相性最悪。両翼で器用に受け止められては、そのダメージも微々たるものだ。

 忌々し気に舌打ちする海馬へ、ジョーイは追い打ちをかけるように攻め込む。

 

「まだまだ検診は続きますよ‼ トゲキッス‼」

「キッス‼」

 

▽トゲキッス の エアスラッシュ‼

 

 白い翼から立て続けに放たれた真空の刃がゲノセクトを襲い、その重厚な体を、ぶ厚い装甲ごと容赦なく地面に叩きつけた。

 

 

『エアスラッシュが決まった――ッ!! これはかなりのダメージか!!?』

 

 

「チ、目障りな……‼ 反撃しろ、ゲノセクト‼」

「ゲノ……‼」

 

 怒涛の疾風攻撃から立ち上がったゲノセクトへ攻撃を指示する海馬。

 ゲノセクトはすかさず照準を合わせて、漲るエネルギーを一点に集約。今まで以上に強力な一撃をぶっ放そうと踏ん張るが、しかし――

 

 

「ゲ、ゲ――」

 

▽ゲノセクト は怯んで動けなかった‼

 

 

「――馬鹿な‼」

 

 フルチャージした砲塔を突き出そうとするも、ゲノセクトは一歩も前に踏み出せず、あろうことかその場で片膝をついてしまったのだ。その後どうにか立ち上がるも、既に出力が低下した砲台ではワザを撃ち出すことはできない。

 

 

『ゲノセクト怯んだ――――ッッ!!!! 渾身の一撃も不発に終わってしまう――――ッッ!!!!」

 

 

「ふふふ、これがトゲキッスの得意ワザ。『エアスラッシュ』の追加効果よ」

 

 ジョーイはステージの上空を飛ぶトゲキッスを眺めつつ、得意げに解説を挟む。

 

「追加効果だと……!」

「そう、30%の確率で相手を怯ませる。……もっとも、トゲキッス自身の特性なんかも相俟って、発生確率は大幅に上がっていますけどね」

 

 トゲキッスの特性『てんのめぐみ』はワザの追加効果の発生率を倍にする特殊能力を持つ。これにより、相手を六割の確率で怯ませる『エアスラッシュ』を連打する驚異の戦術が可能となっているのだが――

 

(やつの戦略はそれだけではない。オレのモンスターを確実に潰すための手を打っている……!)

 

 海馬の視線の先で荒い呼吸を繰り返すゲノセクトは、体が麻痺してまともに行動できない状態。ジョーイは最初からこれを狙っていたのだ。

 素早さが半減した体へ一方的に『エアスラッシュ』を叩き込み、怯み効果と麻痺の状態異常で相手の行動の一切を封じる。単純だからこそ厄介なコンボ攻撃。

 

(く……! 一見無害に見える者ほど、ろくでもないことをしでかすものだ……‼)

 

「海馬さん、あなたのゲノセクトはもう診断済みよ。このコンボから逃れる術はないわ」

 

 歯噛みする海馬にジョーイが告げる。その諭すような口調は優しくも、どこか底知れぬ雰囲気を帯びている。

 PC(ポケモンセンター)のスペシャリストが使う前代未聞の極悪ロック。その衝撃は大きく、観客のコールは圧倒的にジョーイの方へと傾いている。

 戦況的にも、会場の空気においても流れを握られている現状。じりじりと詰められる海馬だが、しかし、

 

 

「……ふん、くだらん」

 

 

 そうバッサリと切り捨て、毅然な態度で一人腕を組み笑ってみせる。

 

「たった一体を執拗に狙うその戦略。成立時のインパクトは高いだろうが……その程度でオレが怯むとは思わんことだな」

「……随分と強気ですね。でも、ゲノセクトが怯んで動けないのは紛れもない事実。このコンボに隙なんてない‼」

 

 快然たる面持ちで断言するジョーイ。そんな彼女の意気込みに応えるかの如く、トゲキッスは翼を広げてゲノセクトに接近すると、再び『エアスラッシュ』を放つ姿勢へと移行する。

 

「いくわよトゲキッス‼ もう一度攻撃――」

「今だ‼ オレは主力モンスターの変更を行う‼」

 

 だが、トゲキッスがワザを使う、そのすんでのところで。

 すかさず海馬はボールを掴み、機能不全のゲノセクトを回収。新たなモンスターボールを手に取ると、それを天高く放り投げる。

 

▽海馬 は ゲノセクト を引っ込めた‼

 

「戻れゲノセクト‼ そして――貴様の出番だ‼」

 

▽海馬は リザードン を繰り出した!

 

 

『ここで青コーナーもポケモンを交代!! 体力満タンのリザードンだッ!!』

 

 

 眩い閃光を上げて登場したリザードンは、そのごつごつとした質感の翼で空中を羽ばたき、迫り来る真空の刃を全てブロックしてみせる。

 

▽トゲキッス の エアスラッシュ‼

 

 出たばかりのリザードンには怯み効果も関係ない。連撃を受けてなお有り余る体力、強靱な肉体を見せつけるかのような雄叫びを上げてトゲキッスを、そしてジョーイを威嚇する。

 

「リザァァァァァァァ!!!!」

「お次はリザードン……! やはり強力なポケモンをお持ちのようで」

「ふん、このモンスターが出たからには、貴様の小細工などもう通用せんぞ‼」

「リザリザッ‼」

 

 海馬が手を振りかざすと同時に、リザードンは大きな翼でステージの上空を扇ぐ。噛み付くような眼でトゲキッスを捉えると、ごつい口から灼熱の業火を放出した。

 

▽リザードン の かえんほうしゃ‼

 

 スタジアムの熱気を更に焦がすほどの火炎は真っすぐ飛んでトゲキッスに命中。その体を包み、焼き尽くす勢いで紅の渦を巻く。

 

「トゲキッス‼」

「キッス‼」

 

 激しい炎に煽られた翼を振り回し、どうにか火の粉を振り落とすトゲキッス。急旋回して低空飛行に切り換えると、そのままリザードンの周囲を旋回し始める。

 その様子を見定めたジョーイは「いいわよ!」と激励し、海馬の方へ視線を戻した。

 

「危なっかしいんですから。でも流石はリザードン、トゲキッスより素早い……!」

「ふん、もう少しダメージを受けてもいいとは思うがな」

 

 海馬は不遜に鼻を鳴らしてリザードンを見やったが、やがて「まぁいい」と呟き口角を上げる。

 

「これで貴様のコンボは封じられたぞ、ジョーイ。トゲキッスに遅れを取らん限り、エアスラッシュの追加効果も起こり得まい」

「……まだまだ! こっちにだって手はあります‼」

 

 だが、対するジョーイも負けてはいない。トゲキッスがリザードンの背後を取ったタイミングを見計らって、高々と指を差して叫ぶ。

 

「『でんじは』‼」

「キッス‼」

 

▽トゲキッス の でんじは‼

 

『でんじは』が使えるのは何もタブンネだけではない。自らコンボが始動できるよう、トゲキッスも同じワザを持っている。

 再度放たれた弱い電撃がリザードンの体を駆け巡れば、筋肉のけいれんによって翼の動きは次第に弱まり、ふらりふらりと空中でバランスを崩し始めてしまう。

 

「ふふふ、ポケモンを変えても同じこと! 上から『エアスラッシュ』を叩き込んであげます‼」

「フッ……甘いわ! リザードンに装備した『ラムのみ』の効果発動‼」

「リザァ‼」

 

 麻痺を浴びせたジョーイがそう言い放ったのも束の間。リザードンはどこからともなく木の実を取り出し、一口で丸呑みする。

 すると、その実を食らったリザードンの体がぼんやり光って、何事もなかったかのように元気を取り戻したではないか。

 

▽リザードン は ラムのみ で麻痺が治った‼

 

「なんですって⁉ 麻痺が……‼」

「『ラムのみ』は状態異常を治す木の実だ! これで素早さは元通り‼ 次の攻撃で貴様の最後だ‼」

「くっ……でも、そうはさせない‼ 『かえんほうしゃ』ならまだトゲキッスは――」

 

 

 ――体力が半分残っており、必ず耐えられる、と。思わず反論しようとした時。

 正面のリザードンが、溢れんばかりの炎を口いっぱいに溜めている光景が視界に入っていた。

 この時点で、先ほどの『かえんほうしゃ』とは桁違いの迫力。元から熱いスタジアムの空気を、さらに上から焦がさんとする熱量。

 それらを目の当たりにして、つい黙りこくってしまった。刹那、

 

 

 

 

「『ブラストバーン』‼」

 

 

 

 

 高らかに叫ばれる攻撃宣言。リザードンの全身全霊をかけた火炎弾が一直線、トゲキッスに向けてぶっ放された。大気を揺るがすほどの火球が白い体を吞み込むや否や、それは尋常でないほどの熱波と爆炎を撒き散らして大爆発を引き起こす。

 

 

 

 

▽リザードン の ブラストバーン‼

 

 

 

 

 耳をつんざくほどの衝撃と爆音が轟く。濛々と立ち込めた黒煙が晴れる頃には、トゲキッスはすっかり羽を焦がして戦闘不能状態。呆気なく目を回していた。

 

▽トゲキッス は倒れた‼

 

 

『ト……トゲキッスがここでダウンだ―――――ッッ!!!!』

 

 

 両者の間で繰り広げられた目まぐるしい攻防に入る余地もなかった実況アナウンスは、ジョーイのポケモンがダウンした途端、まるで堰を切ったように絶叫する。

 それに続いて、戦闘を固唾を飲んで見守っていた観客たちも、我に返って歓声を上げ始める。

 

 

『なんということでしょう!! 初戦から息を呑むほどの激戦に、ギャラリーも大興奮――――ッ!!!!』

 

 

「リザ……リザ……‼」

「ふん……!」

 

 どうにか手繰り寄せた試合の流れ。しかしまだ安心はできない。

 会場に響き始めた海馬コールを聞き流してリザードンを見やる。案の定、息を切らして地面に降り立ち、乱れた呼吸を整えていた。

 

 トゲキッスを葬った隠し玉の『ブラストバーン』。炎タイプとしては屈指の威力を持つワザだが、パワーが高い分代償も大きい。使用した次のターンは一切身動きが取れず、実質相手に無償でターンを提供してしまうという、特大のデメリットを抱えているのだ。

 

(ワザのデメリットはやつも把握しているはず。さて、どう動いてくるか……)

 

 瀕死のトゲキッスをボールに戻したジョーイを見据え、次なる一手に備える海馬。

 対する彼女は顔を上げ、リザードンと海馬を交互に見ながら悔しそうに唇を噛みしめる。

 

「やるわね、海馬さん。まさか私のトゲキッスが翻弄されるなんて。けど、まだ終わるわけにはいかないわ。せっかくヤーコンさんにお呼ばれしたんだし。それに私、イッシュのジョーイの中ではトップクラスの腕なのよ?」

「貴様の腕なぞ知らんが。諦めぬというなら来るがいい」

「ええ、そうさせてもらいましょうか。ちょうど好きに使えるターンが回ってきたことですし」

 

 そこでジョーイはフッと肩の力を抜くと、モンスターボールをアンダースロー。壇上に再度パートナーを呼び出す。

 

▽ジョーイ は タブンネ を繰り出した‼

 

「またそいつか。この期に及んでまだ『でんじは』を使う気か?」

「ふふふ、もうその手は通用しないでしょう? 今度は違う手を用意しました。ね、タブンネ?」

「タブンネ~」

 

 またもや炸裂する、タブンネの能天気で緊張感のない鳴き声。

 とはいえ油断は命取り。この1ターンで、何を仕掛けてくるのか身構えていると。

 

 

 

▽タブンネ の トリックルーム‼

 

 

 

 不意にゆらりと歪む視界に、海馬は空間が、急にねじ曲がったような感覚を覚えた。

 

 




大会1回戦目にしてジョーイさんと戦うってのも我ながら滅茶苦茶ですが……。
顔がほとんど同じなだけで性格とか趣向は個人差がすごいキャラクターですし、もしかしたらこんなジョーイさんだっているかもしれない(?)。
ちなみに手持ちはタブンネだけ先決しました。あとは完全にオリジナルです。

あと余談ですがジョーイって名前、アニメ版だけの呼称なんですよね。でもPCお姉さん呼びはまどろっこしいし、ここではジョーイで通していきたいと思います。
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