遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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25.アクロマ再び‼

 

『既に会場では素晴らしいバトルが繰り広げられておりますPWT!! 決勝に進むのはどのトレーナーなのでしょうかッ!!?』

 

 

 熾烈な初戦が終了した直後。熱狂冷めやらぬスタジアムでは、早くも二回戦のカードが発表されるところだ。

 

 

『それでは皆様ァ!! ビジョンをご覧くださいッ!!!!』

 

 

 スタジアムの大型スクリーンに映し出されたのはトーナメントの一覧。バトルを勝ち抜いたトレーナーたちの名が羅列される。

 

 

 

『まずはAブロック!! 一進一退のシーソーゲームをものにしたのは、メイとヒュウだ――――ッ!!!!』

 

 

 

『続いて試合の長引いたBブロック!! 壮絶なポケモン勝負の末、残ったのは海馬!! そして――――』」

 

 

 

『――いったい何者ッ!!? 凄まじい読みで相手を圧倒したアクロマだ――――ッ!!!!』

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

(アクロマ……! やつがトーナメントにいるとはな……‼)

 

 ビジョンに映し出された選手名を見て、海馬は僅かに眉を顰める。

 アクロマはポケモンの強さを引き出す方法を研究するみょうちきりんな科学者であり――自分にゲノセクトを渡した謎の取引相手だ。

 しかし、そんな男が何故トーナメントに参加しているのか? 海馬には見当も付かなかった。

 

(研究にしか興味の無い男と思っていたが、何を企んでいるのやら……)

 

 だが今はそんなことを思考している暇もない。海馬は「ふん」と鼻を鳴らして雑念を振り払い、次の決闘(デュエル)へと意識を集中させる。

 一斉に行われた予選と違って、準決勝である第二回戦は一試合ごとに行われるらしい。最初に行われるのはBブロックの試合だそうだ。

 少ない残り時間を海馬はステージ裏の通路の壁にもたれて、一人静かに過ごしていた。

 

「あら、海馬くん。いたんだ」

 

 そんな折、ふと海馬を呼ぶ声がする。

 通路の曲がり角から出てきたのは、同じく準決勝を控えたメイ。彼女は海馬を見つけるなり、気さくに手を振り海馬のもとへと駆け寄った。

 

「お疲れ様! さっきはすごかったわね、マタドガスの猛毒コンボ!」

「……見ていたのか?」

「最後の方だけ、少しね。海馬くんの試合が一番もつれ込んでたから。それでも、面白いバトルだったよ」

「ふん、そうか」

 

 メイの称賛を軽く流した海馬は、誰もいない通路の先――ステージへと続く控室の扉へ目を向ける。そして、ぽつりと呟いた。

 

「次の決闘(デュエル)を終えれば決勝。オレたちの雌雄を決する闘いが始まるわけだが……覚悟はできているだろうな?」

「……気が早いよ。お互い二回戦で勝てればの話でしょ?」

「当然。だが、次の試合もオレの勝利は揺るぎない。貴様の方も、あの程度のポンコツに後れを取る決闘者ではあるまい」

「そうトントン拍子に進めばいいけどね。……聞けばヒュウも、かなりパワーアップしたみたいだよ。足元をすくわれないようにしなきゃ」

「ふん、その程度で狼狽えるな」

 

 海馬はそう一蹴すると、横目でメイを睨み付けた。

 

「貴様にはオレと闘う義務がある。必ず決勝まで勝ち進め、そうでなければ承知せんぞ」

 

「……‼」

 

 一切の迷いも、妥協をも許さない海馬のプレッシャーが正面から襲いかかり、僅かにメイをたじろがせる。

  だが、それも一瞬のこと。厳しい言葉に触発された彼女は軽く笑うと、その眼に強い光を宿して海馬をじっと見つめ返した。

 

「もちろんだよ、海馬くん。あくまで負けるつもりなんてないから」

「ならばいい。先に決勝で待っているぞ」

「うん、観客席から楽しみに見させてもらおうかな。……けど、油断はしちゃだめだからね?」

「問題ないね」

 

 短く答えた海馬は、自慢気に鼻を鳴らして左腕のデュエルディスクを見せつけた。

 

「勝つのはオレと決まっている。気を揉む余裕があるなら、せいぜい首を洗っておくことだな……‼」

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

『さぁ、まもなくお待ちかねの第二回戦――準決勝の開幕です!!』

 

 

 しばしの休憩時間を挟んで、舞台は再びスタジアム。場内の熱に浮かされた観客たちのムードは未だに衰えを知らない。

 そんなフィールドを取り仕切る実況のアナウンスも、次第に脂が乗ってきたとみえて、力のこもった声はキレを増してきている。

 

 

『まずは青コーナー!! バトルの貴公子、海馬瀬人ッ!! 今回はどんな一手を見せてくれるのか――ッ!!!?』

 

 

 心なしか前回よりも湧き上がる観客席。相変わらずのやかましさだが、海馬も既に慣れたものだ。今回は特に気に留める様子もなく堂々とフィールドに入場した。

 

 

『続いて赤コーナー!! アクロマ登場ッ!! 願いはポケモンの力を引き出すこと――――ッ!!!!』

 

 

 そんなアナウンスが響くと、今度は反対側のゲートから見覚えのある男が顔を覗かせる。やはり常軌を逸した髪型に、怪しげな微笑をたたえるアクロマだ。

 白衣をたなびかせて入場した彼は海馬の前に立ちはだかると、仰々しく一礼をして口を開いた。

 

「これはこれは、お久しぶりですね!どうですか、その後の調子は? ゲノセクトの使い心地は――」

「……つまらん世間話などよせ」

 

 海馬は鬱陶しげに一喝して、長くなりそうなアクロマの話を遮った。

 

「オレは貴様の目的に興味もない。何かあるならさっさと言え、決闘(デュエル)の邪魔だ」

「おや、これは失敬しました! やはりアナタには、キッパリと申し上げるのが良いようだ。久々の再会で失念しておりましたよ……!」

 

 掴みどころのないアクロマの態度に、海馬は内心で舌打ちする。そんな彼の苛立ちを知ってか知らずか、アクロマは「コホン」と咳払いまでして、ようやく本題へと入った。

 

「今回はアナタにお渡ししたゲノセクト――そのデータをいただきに参りました。

果たしてどのようなパワーアップを遂げているのか、これが非常に興味深く――」

「そういうことか。ならば、さっさと始めるぞ。これ以上貴様との談義を続けても、ブーイングが来るだけだろう」

 

 そう皮肉交じりに笑い、海馬はモンスターボールを突き付ける。

 

「……それもそうです。時間も押しているようですし、手っ取り早く始めましょうか!」

 

 アクロマも案外素直にボールを取り出し、クスリと微笑む。人並外れた静と動のバランス。やはり思考の読めない男である。

 

「私が追い求める理想と真実……! すなわちポケモンが持つ力を、今から引き出して見せるのですッ‼」

「ふん、良かろう。この海馬瀬人の実力、その目でとくと味わうがいい‼」

 

 両者がボールを投げ放ったタイミングで。すかさず実況もマイクに吠えた。

 

 

『準決勝、第一試合! 海馬vsアクロマ、バトル開始ィィィィィィィ!!!!!』

 

 

 

 

「「バトル‼」」

 

 

 

 

▽海馬 は マタドガス を繰り出した‼

▽アクロマ は レアコイル を繰り出した‼

 

 バトル開始と共に、丸っこいポケモン二体がステージに並び立つ。

 マタドガスの前に現れたのは、じしゃくポケモンのレアコイル。U磁石二つにネジが刺さった形状のコイルが連結した、三位一体のポケモンだ。両者はふわふわと不規則な動きで宙を漂いながら、主人の指示を待ち受けている。

 

 

『さあ、バトル開始です!! この対面は、少々トリッキーな展開になるか――ッ!!?』

 

 

「ほう、マタドガス! いいポケモンですが、こちらとしては少々読みが外れましたね……!」

 

 アクロマは、対面で煙を吐き出すマタドガスを見るなり、大げさな手振りでそう呟く。

 開始早々一体何をほざいているのか。仏頂面の海馬はつまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「……ふん、貴様の読みなどオレの知ったことではない。一人で勝手に悔やんでいろ」

「フフフフフ、そうですね。ここは交換から入りましょうか……『ボルトチェンジ』‼」

「なに……?」

 

 ポケモンの交換を示唆した刹那。唐突にアクロマがワザを叫べば、レアコイルの体が電気を帯びてバチバチと激しい音を立てる。

 そうしてチャージした電気をマタドガスに向けて放出すると同時に、自身は反動を利用し、後方へとカッ飛んだ。

 

▽レアコイル の ボルトチェンジ‼

 

 電撃は中サイズの弾丸となってマタドガスに命中。風船のような体を僅かに仰け反らせたが、問題はその後だ。

 ワザを撃ち出したレアコイルはそのまま高速でアクロマの下へ舞い戻り、自らモンスターボールの中へ吸い込まれていった。

 

▽レアコイル は アクロマ のもとへ戻っていく‼

 

 

『初手から"ボルトチェンジ"が決まった――ッ!! 赤コーナー、ここでいきなりポケモンを戻しますッ!!』

 

 

(なんだと‼ 攻撃宣言したモンスターがやつの手札に戻った‼)

 

 突然の出来事に驚く海馬をよそに、アクロマは別のボールを取り出すと、それを天高く放り上げる。

 

「ここはこのポケモンで迎え撃ちましょう‼ オーベムです‼」

 

▽アクロマ は オーベム を繰り出した‼

 

 レアコイルに代わって新たに現れ出たのは、頭でっかちな宇宙人といったフォルムのブレインポケモンことオーベム。三本の指をピコピコ点滅させてゆったりステージへ降り立つ様子は、得体のしれない雰囲気を十全に醸し出している。

 だが、海馬の意識は攻撃しつつアクロマの下へ返ったレアコイルの方へ向けられており、あまり印象には残らなかったかもしれない。

 

 それもそのはず、『ボルトチェンジ』はその攻撃後に控えの味方と入れ替わる追加効果を持つ、掟破りな攻防一体のワザなのだ。

 

(なるほど、こいつは曲者……! 単なる交代では飽き足らず、オレのモンスターに削りを入れるとは‼)

 

「おや、どうかされましたか? ワザ一つで戸惑われているようですが。 ……フフフフフ」

「……安い挑発なら結構だ。オレのターン!」

 

 先手を取られた海馬は少し機嫌を損ねつつも、至って冷静に指示を出す。

 

「まぁいい。どちらにせよ、最初は様子見と決めていた……! この程度のダメージなら想定済みだ‼」

「「マタドガ~ス」」

 

▽マタドガス の いたみわけ‼

 

 するとマタドガスの小さい方の頭が、その口を大きく開き、灰色がかった特殊なガスを吐き出した。

 そのガスはたちまちオーベムを包み込むと、体を締め上げるようにうねりを上げた後、再びマタドガスの方へ戻って霧散した。

 

 

『青コーナー、ここは”いたみわけ”を選択ッ!! 二体のポケモンの体力が分割されるッ!!』

 

 

▽お互いの体力を分かち合った‼

 

「ふん、これでLP(ライフポイント)を回復だ‼」

 

 体力満タンだったオーベムが、生気を吸われたように少しやつれた様子を見て、海馬はニヤリと口角を上げる。

 対するマタドガスは『いたみわけ』により幾分か元気を取り戻し、ただでは転ばない姿勢をしかと示した。

 

「なるほど、手堅いワザだ。そのマタドガスも、なかなかどうして強さを引き出されているようですね……」

 

 対するアクロマも数回頷きつつ、先程の一手を冷静に評価してから、しかし純粋な笑顔とも言い難い表情で海馬の顔を仰ぎ見る。

 

 

 

「しかし、そうではないでしょう?」

 

 

 

 そう異議を唱えた彼の瞳には、はっきりと不満の色が浮かんでいた。

 初めて目の当たりにするアクロマのマイナスな感情にピクリと眉をひそめつつ、海馬は「ほう?」と続きを促す。

 

「何が言いたい。オレの決闘(デュエル)に、文句でも付ける気か?」

「……確かにマタドガスとの長期戦にも関心はあります。ですが、ワタクシの興味は全く別に向けられている――」

 

 電源の入ったタブレットを片手に、眼鏡の鼻当てを押し上げながら、アクロマは淡々と語った。

 

「少し面白い話をしましょう。このオーベム、タイプはエスパー。得意ワザはもちろん『サイコキネシス』です」

「なに?」

 

 海馬がそこで不審そうに顔をしかめた時。アクロマは待ってましたと言わんばかりに、ニヤリと笑う。

 

「どうやら、お気づきになられたようだ。では見せてもらいましょうか! オーベム‼」

「ッ……‼」

 

 その掛け声に反応したオーベムは、突き出した片腕の指を色鮮やかに光らせ、マタドガスを威圧するように前へ進み出る。

 無感情な顔だが、明らかに攻撃を仕掛けようとする仕草。海馬はようやくアクロマの言わんとすることを理解した。

 

 

(……オレにあのモンスターを出させようという算段か! つくづく自分本位な……‼)

 

 

 自尊心の高い海馬にとって、アクロマに被検体として見なされているこの瞬間は、屈辱以外の何物でもない。

 しかし、このまま何もせずにオーベムの攻撃を受けてしまうわけにもいかなかった。数がものをいうポケモンバトルで、己の感情に固執するがあまり貴重な戦力を失うなど愚の骨頂。

 癪だが他に方法はない。海馬は大きく息を吐き出すと、モンスターボールのスイッチを押す。

 

「くっ……やむを得まい……! オレは主力モンスターを入れ替える‼」

 

▽海馬 は マタドガス を引っ込めた‼

 

 

『青コーナー、ここでポケモンを戻しますッ!! 交代先は――ッ!!?』

 

 

 無意識に煽り立てる実況の声を鬱陶しく思いながらも、海馬は別のモンスターボールを手に取り、高々と天に掲げた。

 

 

「いくぞ‼ ゲノセクト召喚‼」

「ゲノム‼」

 

 

 そう叫ぶと同時に、海馬の手の中でボールが開き、中から閃光が溢れ出す。

 勢いよく飛び出したのは主力モンスターのゲノセクト。降り注ぐスポットライトに鋼鉄の装甲を光らせ、華麗なフォームでステージ上に着地した。

 

 

▽海馬 は ゲノセクト を繰り出した‼

 

 

「出ましたッ!! 詳細不明な謎の虫ポケモン!! ゲノセクトの登場だ――――ッ!!!! 」

 

 

 迫り来る攻撃に備えて繰り出されたゲノセクトは、頑丈な腕で鉄壁の防御の構えをとる。

 一方のオーベムは、ゲノセクトに向けて指を突き出して身構え、得意のワザを発動させんと念を込める。

 そして、そんなポケモンたちを見守る双方のトレーナーたちだが――

 

「ふん……‼」

「出ましたか……! フフフフフ……‼」

 

 海馬の鋭い視線は最奥のアクロマへ注がれて、しばらく離れそうにもない。

 そのアクロマに至っては満面の不気味な笑みを浮かべながら、見開いた眼でゲノセクトを射止め、その挙動の一つ一つを見逃すまいとしきりに眼鏡を持ち直していた。

 

 

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