遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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26.ゲノセクトを起動せよ

 

「ゲノム‼」

「……‼」

 

 アクロマに誘導されるようにして飛び出たゲノセクト。その機械めいて無感情な眼が放つ捕食者の威光には、オーベムも一瞬たじろいだように目を見開いた。

 

【ゲノセクト の ダウンロード】

▽ゲノセクト の 攻撃 が上がった‼

 

 それでもオーベムは、与えられた命令をこなすべく攻撃の構えをとる。

 対するゲノセクトも、相手の出方を伺うかのように身構える

 

 

『赤コーナー!! 交代直後のゲノセクトにオーベムが仕掛けます!!』

 

 

 実況の声と同時に、オーベムの指先から念動力が迸り、その体を浮遊させる。そしてそのままゲノセクトは、目に見えない力に全身を締め付けられて宙へと浮き上がった。

 

▽オーベム の サイコキネシス‼

 

 悶えるゲノセクトをものともしない強力なサイコパワー。オーベムは念動力を巧みに操り、鋼鉄の体をさらに高く持ち上げていく。そうして頃合いを見計らい、ゲノセクトを思い切り地面に叩きつけた。

 

「ゲノッ……‼」

 

 打ち付けられたゲノセクトはぐらりと傾いたが、すぐに体勢を立て直す。いかに強力な念動力といえど、科学の結晶たる装甲にはあまり効果が無いようだった。

 

▽効果はいまひとつのようだ……

 

「なるほど、装甲の強度も十分! 素晴らしい‼」

「……攻撃だ! ゲノセクト‼」

 

 興奮に目を輝かせるアクロマを無視し、海馬はすかさず反撃の指示を出す。ゲノセクトもそれに従い、自慢の鎌を光らせながらオーベムに迫った。

 

(アクロマめ、相変わらず気味の悪い男よ……!だが、このままやつの好きにさせるのは気に食わん! すぐさま片を付けてくれる‼)

 

 そう内心で毒づきながら声高に叫ぶ。

 

「貴様のモンスターを攻撃‼」

「おっと……! そうはいきませんよ」

 

 しかし、ゲノセクトの鎌が鋭く閃くより前に。アクロマは急に落ち着き払った声で、モンスターボールを取り出していた。

 

▽アクロマ は オーベムを引っ込めた‼

 

「なに……‼」

「交代です! 出てきてください、ギギギアル‼」

 

▽アクロマ は ギギギアル を繰り出した‼

 

 オーベムに代わって現れた、はぐるまポケモンのギギギアル。大小様々な歯車とリングギアが連結し、ゲノセクト以上にポケモンかどうか疑わしい見た目をしている。

 その機械的なボディで浮遊するギギギアルは、高速で接近するゲノセクトの一閃を難なく受け止め、これまた機械的な鳴き声を発してみせた。

 

「ギギギギギギギ……‼」

 

▽ゲノセクト の シザークロス‼

▽効果はいまひとつのようだ……

 

 

『交代に次ぐ交代!! 両者ともに猛攻を凌ぐ構えか――ッ!!?』

 

 

「ふん、小癪な真似をする。貴様の目的は、ゲノセクトのデータの収集なのだろう? ならば、わざわざ抵抗する必要もあるまい。ワザの威力を確かめて消えろ」

「フフ、それでは意味がないのですよ! わたくしはアナタを見込んでゲノセクトを渡したのです! 期待には応えてもらわねば‼」

「……貴様の要望に、いちいち付き合わされる義務などない!」

 

 海馬は忌々しそうに吐き捨て、現在の戦況を見定めた。

 アクロマが繰り出したギギギアルは鋼タイプのポケモン。虫・鋼のワザを得意とするゲノセクトではいささか不利な相手だ。それにゲノセクトは、元々アクロマの所有物であり研究対象でもある。自信満々で受け出してくるあたり、何らかの対抗策を持っていても不思議ではない。

 

(……となれば、ここは交代が安定か。幸いオレの手札には、やつに有利なモンスターが控えているしな……!)

 

 そう判断して海馬がベルトに装着したボールへ手を伸ばした時。アクロマは不敵に笑いながら言った。

 

「フフフ……アナタの思考は読めていますよ。ゲノセクトを下げて、有利なポケモンに交代したい。そんなところでしょうか?」

「なに……?」

「いえ、いえ! 仰らなくても結構です。しかし、それは悪手だと思いますがね……‼」

「……貴様に意見される筋合いはない‼」

 

 意味深な忠告も意に介さず、海馬はゲノセクトをボールに戻し、新たなポケモンを投入する。

 

▽海馬 は ゲノセクト を引っ込めた‼

▽海馬 は リザードン を繰り出した‼

 

『青コーナー、さらにポケモンを交代!! リザードンの登場だ――ッ!!!!』

 

 ボールから飛び出したリザードンは翼を広げてフィールドに舞い降りた。赤々と燃える尻尾の炎を揺らめかせ、猛々しく咆哮する。

 

「リザァァァァ!!」

「リザードン……! フフフ、まぁ予想はしていましたが……」

 

 そんなリザードンの雄姿にも臆さず、むしろ残念そうに両手を広げたアクロマは、「やれやれ」と呟いて海馬を見据えた。

 

「……残念ですね! わたくしはゲノセクトの戦う様を見たかったのですが、まさか別のカードを切ってくるとは!」

「ふん、貴様の都合など知った事ではない。オレはオレのやりたいようにやるだけだ」

「ほう……しかし、わたくしは忠告しましたよ? ここでの交代は悪手だと‼」

 

▽ギギギアル の ボルトチェンジ‼

 

 アクロマがそう言い放った瞬間、ギギギアルの体を構成する歯車が一斉に高速回転。中央の赤いコアの付いた歯車が発光し、周囲のスパイクリングギアから強烈な電光弾が撃ち出される。

 

「なにっ⁉」

 

(く……あの技は……‼)

 

 海馬もリザードンも、電撃が放たれた瞬間に危険を察知した。しかし時すでに遅し。電撃の弾丸に撃ち抜かれたリザードンはたちまち片膝をついてしまう。飛行タイプに抜群のワザだけあって、なかなか手痛いダメージだ。

 

▽効果は抜群だ‼

 

 

『スマッシュヒット!! 読みが冴えたか、青コーナーに大ダメージだッ!!』

 

 

▽ギギギアル は アクロマ のもとへ戻っていく‼

 更にギギギアルは、その精巧複雑な歯車の姿からは想像だにしない速度でボールへと引っ込んでしまう。まさにヒット&アウェイ。攻守に優れた『ボルトチェンジ』の厄介な追加効果である。

 

「フフフ、その交換は読めていました! 確実に相手を打ちのめす性格のアナタならば、弱点を突くのが容易なリザードンを出してくると!」

「く……!」

「さて、わたくしもポケモンを交代させていただきましょうか‼」

 

 歯噛みする海馬をよそに、アクロマは飄々とした様子で新たなモンスターボールに手をかける。

 

▽アクロマ は レアコイル を繰り出した‼

 

 再びフィールドに降り立つレアコイル。左右に引っ付いた磁石を回しながら、不規則な動きで浮遊する。

 

 

『ここでレアコイルの登場!! 赤コーナー、リザードン相手に強気の姿勢だッ!!』

 

 

(レアコイル……! やつは確か、雷属性のワザを持っていた! リザードンの弱点を突いてくる算段か……だが‼)

 

「……ふん、甘いぞアクロマ‼ 素早さならオレのモンスターの方が遥かに上だ‼」

「リザァ!!」

 

 海馬は得意気に鼻を鳴らして、リザードンをけしかけた。

 進化し翼を得たことで大幅に向上した機動力。ステージの上空を飛び回って攪乱しつつ、口には高熱の火炎を溜めて攻撃の準備は万端だ。

 

「このまま消し飛ばしてくれる‼ リザードンで攻――」

「フフフ……‼」

 

 

 

 しかし、海馬が攻撃宣言を行おうとした、その直前。

 先に動いたのはリザードンではなく、レアコイルの方だった。

 

 

 

▽レアコイル の ボルトチェンジ‼

 

 

 

 ゆったりとした動作で回していた磁石を高速逆回転。急速でチャージされた電撃が、バチバチと激しい音を立てて一点に収束し。解き放たれる――

 

「なに⁉」

「リザァッ⁉」

 

 凄まじい速度で撃ち出された雷弾は、寸分の隙も与えずリザードンの懐に直撃。その巨体を瞬く間に焼き焦がし、フィールドに墜落させた。

 

▽効果は抜群だ‼

▽リザードン は倒れた‼

 

 

『直撃ぃ――ッ!! 効果抜群の『ボルトチェンジ』が炸裂ッ!! これにはたまらずダウンですッ!!」

 

 

「馬鹿な……‼ オレのモンスターが先手を取られるだと⁉」

 

 予想外の展開に、海馬も思わず声を荒げる。

 

(リザードンのステータスに変化はない……!だとすれば、先制するのはこちらのはずだが……これは一体……⁉)

 

「フフフフフ……わたくしにも戦略というものがありますよ!」

 

 アクロマは眼鏡のブリッジを押し上げながら、奥底の瞳をギラリと輝かせた。

 

「レアコイルには『こだわりスカーフ』を持たせてありました! レアコイルの素早さは1.5倍になっていたというわけです! 今やサンダースをも凌ぐ速度ですから、リザードンなど追い抜けないはずがない‼」

「ッ……! 素早さアップの装備アイテムか……‼」

 

(最初のターンで相対した時は、元よりマタドガスが遅すぎたために気付けなかった……‼ぬぬぬ、アクロマめ……‼ 始めからジバコイルに進化させていればよいものを‼)

 

 悔しさに顔を歪める海馬。現状は完全にアクロマの手のひらの上だ。

 更にアクロマは彼を煽るように、ワザの反動で戻って来たレアコイルを引っ込めながら、別のボールをじっくり選定する素振りをみせる。

 

▽レアコイル は アクロマ のもとへ戻っていく‼

 

「いやはや……こうも景観が目まぐるしく変化すると、息をつく間もありませんね! しかし、もう大丈夫でしょう! フフフフフ……‼」

 

▽アクロマ は オーベム を繰り出した‼

 

 

『ここでオーベムが帰って来たッ!! 体力にはまだ余裕がありますッ!!』

 

 

 再びフィールドに舞い降りたオーベムは鳴き声の一つも上げず、ただ眼前のトレーナーをじっくりと観察する。主人によく似た生意気な態度だ。

 

「わたくしのポケモンはオーベムです! さぁ、次はアナタがポケモンを出しなさい‼」

「貴様ごときに言われなくとも……‼」

 

 神経を逆なでするようなアクロマの物言いに眉を吊り上げながらも、海馬は冷静に次のモンスターボールに手をかける。

 

(……ここまではやつの思惑通り。癪ではあるが致し方あるまい。今召喚できるモンスターは実質、こいつしかいない……‼)

 

「来い! ゲノセクトを攻撃表示で召喚‼」

 

 

『ゲノセクト再びッ!! 気合十分で戦闘態勢に入ります‼』

 

 

【ゲノセクト の ダウンロード】

ゲノセクト の 攻撃 が上がった‼

 

「そのままバトルだ‼ ゲノセクトでオーベムを攻撃‼」

「ゲノム‼」

 

 ボールから飛び出したゲノセクトが赤い眼光でオーベムを射抜く様子を見て、海馬はすかさず攻撃を指示。それを聞いたゲノセクトの鎌が鈍くぎらついた光を帯びる。

 

▽ゲノセクト の シザークロス‼

 

 一鳴きするや否や姿勢を低く構え、目にも止まらぬ速さでオーベムに急接近するゲノセクト。瞬時にその距離を詰めて大鎌を振り抜けば、渾身の一閃は今度こそ標的の胴を捉えた。

 

▽効果は抜群だ‼

 

 オーベムは交代されることなく無抵抗で斬り伏せられ、そのままフィールドに倒れ込んで動かなくなった。

 

▽オーベム は 倒れた‼

 

 

『いった――ッ!! 交代早々、鮮やかな攻撃が決まったッ!! これにはたまらずダウンッ!!』

 

 

「ゲノム‼」

「ふん……」

 

 倒したかった獲物をようやく手にかけ、ゲノセクトは満足そうに鳴く。だが、海馬の方はあまり喜んでもいられない。

 

「フフフフフ……素晴らしいですね、このパワー‼ 弱点を突いたとはいえ見事なものだ‼ よく育てられている証拠‼」

 

 オーベムを倒されたにもかかわらず、アクロマが感嘆の声を上げているからだ。

 ゲノセクトの攻撃を見届けるや否やタブレットを起動し、データの収集に勤しみつつ実験対象を細かく観察しながら、薄ら寒い微笑を一人浮かべ続けている。

 

「その調子です! その調子で、わたくしをもっと満足させるのです‼」

「ふん、解せん男め。勝敗より貴様の欲求を優先させるか?」

「このバトルは全くの偶然でした! まさか、アナタまでPWTに出場しているとは……‼ 手間が省けましたよ! この機会は逃せません‼」

「貴様……‼」

「……しかし、です! 勘違いして欲しくないことが一つだけありますよ‼」

 

 アクロマは苛立つ海馬を制止するように、人差し指を立てて言った。

 

「わたくしも、ここでは一人のトレーナー! あくまで目指すは純粋な勝利のみ‼ そこはアナタと同じです‼」

「……‼」

「フフフ……‼ わたくしなりにポケモンの力を引き出させていただきますよ‼」

 

▽アクロマ は レアコイル を繰り出した‼

 

 

『赤コーナー、レアコイルが再登場ッ!! ゲノセクトを迎え撃つ――ッ!!」

 

 

 奮起するアクロマにより、三度フィールドに送り込まれるレアコイル。感情を悟らせることなく不規則に磁石を回し続ける、異様なまでの静謐さに、ゲノセクトも半歩下がって主人の命令をしかと待つ。

 

「……どうやら、この決闘(デュエル)も佳境のようだな」

「フフフ……‼」

 

(オーベムは十分役割を果たしてくれました! ゲノセクトさえ引き出せればこちらのもの……‼)

 

 アクロマは口元に手を当て、海馬を見据えながら胸中で笑む。

 

 レアコイルが持つ『こだわりスカーフ』は同じワザしか繰り出せなくなる代わり、そのポケモンの素早さを1.5倍まで引き上げる。これにより、普通パッとしない中間進化形のレアコイルは最速の電磁砲台と化す。ゲノセクトをも上回る速度で先制攻撃を仕掛ければ、まず間違いなく押し負けることはない。

 

(しかも、それだけではありません! レアコイルの特性は『がんじょう』‼ よしんば反撃されたとしても、HPは必ず1だけ残る――つまり、死角はないというわけです‼)

 

 まさに無駄のない完璧な構成。アクロマは勝利を確信したかのように、眼鏡の奥でひっそりと目を細める。

 しかし海馬も負けてはいない。ゲノセクトとレアコイルとを交互に眺めながら、覚悟を決めたように一息ついて――そうして、カッと眼を見開く。

 

「いいだろう、アクロマ! このターンで勝負を決めるつもりなら、受けて立つ‼」

「フフフ……当然です‼ もはや勝負を長引かせる理由もない‼」

 

(海馬さん‼ アナタにわたくしの戦略が崩せるかどうか……‼ 見ものですね!!)

 

「さぁいきますよ、わたくしの先攻‼ レアコイルの攻撃です‼」

「「「レアレアレアレア……‼」」」

 

(来たか……‼)

 

 一瞬たりとも見逃さぬよう注視していた海馬の視界から、ふとレアコイルの姿が消失する。()()対抗する術がない、『こだわりスカーフ』の恐るべき効果。ここはどうにか耐え凌ぐしかない。

 

「守備表示だゲノセクト‼」

「ゲノム‼」

「フフフフフ……見事な信頼関係です‼ しかし、今度の攻撃は『ボルトチェンジ』の比ではありませんよ‼」

 

▽レアコイル の 10まんボルト‼

 

 アクロマが言い放つと同時に、レアコイルの体から目も眩むほどの電撃が迸った。高電圧は装甲に直撃し、激しいスパークが駆け巡る。その威力にゲノセクトは眼を点滅し、体を酷く痙攣させた。

 

 

『"10まんボルト"が襲いかかる――ッ!! これは効いたッ!!』

 

 

「ゲ、ゲノ……‼」

「く……耐えろ! ゲノセクト‼」

 

(貴様の守備力なら、ライフを僅かに残して耐えられるはずだ‼)

 

「ゲ、ゲノム……‼」

 

 ぐらり、と。一瞬傾きかけた体をどうにか持ち直してゲノセクトが踏みとどまる。海馬の一括が届いたのかは定かでない。だが苦しげに呻きながらも、闘志はまだまだ健在だ。

 

 

『おおっと青コーナーなんとか持ち堪えたッ!! 見事なタフネス――ッ!!』

 

 

「ほう……!」

 

 その光景にはアクロマも感心したように唸るが、それでも笑みは崩さない。

 

「あの一撃を耐えましたか! しかし、それでも無意味です‼ レアコイルに有効な一手などはない‼」

 

 戦況はこちらが優勢なのだ。たった1ターン伸びたとて、それは変わらない事実。

 アクロマは焦らず騒がず、ゲノセクトのラストターンを観察しようと目をやった。その時――

 

 

 

 

「それはどうかな?」

「なに……?」

 

 

 

 

 ステージの奥から響く海馬の声に、ふと違和感を覚えたアクロマは、そこで言葉を失った。

 

「……ゲノム‼」

 

 対峙するゲノセクトが、炎に包まれ燃えていた。

 当然、レアコイルの電撃にそんな追加効果はない。

 ゲノセクトは自らの熱で発火し、その体を赤々と燃え上がらせているのだ。

 

 

『これはどうした青コーナーッ!!? ゲノセクトが大炎上、平気なのか―――ッ!!!?』

 

 

「フフ……できれば決勝まで隠しておきたい手だったがな。まぁ、ここで貴様を葬れるなら問題はない」

「ゲノ……!!」

 

 海馬は不敵に笑いながら、燃え盛る炎の中で息巻くゲノセクトの背中を見つめる。自らの発熱で生み出した火炎は平気なようで、装甲一つ焦がしてはいない。

「これがゲノセクトの隠し玉、『ニトロチャージ』だ‼ 体内の機構をフル稼働させて発火し、その炎を加速させる‼」

「ニトロ……チャージ……‼」

 

 海馬の口から発せられた予想外のワザの名を、アクロマは思わず反芻する。

 そうしている間にもゲノセクトは、レアコイルに急接近していた。

 

「ゲノッ‼」

 

▽ゲノセクト の ニトロチャージ!!

 

 ゲノセクトは恐るべき脚力で地面を滑るように駆け抜けながら、赤い閃光となってレアコイルの眼前に迫る。そのまま勢いに任せ、炎のタックルをお見舞いした。

 

▽効果は抜群だ‼

 

「「「レアッ……⁉」」」

「くっ……何という猛攻! だが、しかし‼」

 

 それでもアクロマは、平静を保って前方のレアコイルを見定める。

 手痛い反撃に悲鳴を上げて仰け反るレアコイルだが、まだ倒れない。頑丈な体に鞭打ち、何とかステージの上で持ち堪えた。

 

【レアコイル の がんじょう】

▽レアコイル は攻撃をこらえた‼

 

「フフフ……そうです! レアコイルにはこの特性がある‼ 一撃で倒されることはありません‼ 再びわたくしの番さえくれば――」

「フハハハハ……そうはいかんぞ、アクロマ‼ もはや貴様にターンが回ってくることはない‼」

「ゲノム‼」

 

 アクロマの声を遮って高らかに叫ぶ海馬。その宣言を合図に、ゲノセクトは蒸気を放出。より磨きのかかった速度で走り出す。

 

「『ニトロチャージ』の追加効果だ! 攻撃後に素早さを一段階上昇させる‼ これにより互いの素早さは逆転した‼」

「なんですと……⁉」

 

 衝撃に、アクロマの目が見開かれる。『ニトロチャージ』が決まりステータスの差が埋まった今、純粋に速度の高いゲノセクトがレアコイルを圧倒し始める。

 

「そしてオレのターン‼ ゲノセクトで攻撃‼」

「ゲノム‼」

「『とどめばり』‼」

「くっ……‼」

 

 上を盗られた以上、アクロマに手立てはない。対するゲノセクトは『ニトロチャージ』の勢いそのままに、鋭い鎌をレアコイルの胴へ叩き込む。通常なら不利なタイプのワザでも、相手が虫の息なら関係ない。

 

▽ゲノセクト の とどめばり‼

▽効果はいまひとつのようだ……

▽レアコイル は倒れた‼

 

 レアコイルの体は力なく崩れ落ち、ゲノセクトはますます力を増していく。

 

▽ゲノセクト の 攻撃 がぐぐーんと上がった‼

 

 

『ゲノセクト、容赦のない"とどめばり"!! レアコイルを遂に倒した――ッ!!』

 

 

「なんと……‼」

 

 アクロマは倒れたレアコイルをボールに戻しながら、その驚異に思わず声を詰まらせる。少しの間額に手を当てていたが、それもすぐにダランと落とした。後から溢れ出るのは諦観と――興奮が入り混じった静かな笑みだ。

 その、傍から見れば奇妙としか思えない行動に、対峙する海馬も、闘いを見守る観客たちさえ沈黙を余儀なくされる。

 

「フ……フフフ……フフフフフフフ……‼ お見事です‼」

 

 静まり返った会場でひとしきり笑い終えたアクロマは、顔を上げて海馬に向き直った。先ほどまで興奮しきっていたのに、今は一転して爽やかな表情を浮かべている。

 追い詰めてもなお不気味な男だ。顔をしかめる海馬だが、アクロマは構わず続けた。

 

「やはり、アナタにゲノセクトを預けたのは正解でしたよ‼ ここまで力を引き出し、使いこなすとは‼ ゲノセクトも幸せでしょう、その能力を発揮できて‼」

「ふん、どうだかな」

「ご謙遜を! ワタクシとしても、このバトルは楽しませていただきましたよ‼ オマケにデータまで取れた……‼ この辺りが潮時でしょうね‼」

 

 呟いて最後のボールを取り出し、アクロマは最後のポケモンをステージに出す。

 

▽アクロマ は ギギギアル を繰り出した‼

 

 残ったギギギアルも、到底ゲノセクトには及ばない。もはや決着はついたのだ。

 それは海馬のみならず、アクロマ自身も理解する事実。

 

 だからこそ、彼は潔く海馬に言った。

 

「来なさい、海馬瀬人‼ そのゲノセクトで、わたくしにトドメを刺すのです‼」

「アクロマ……‼」

「無論、最後までデータは取らせていただきます‼ それがわたくし、アクロマの流儀‼」

「呆れたやつめ。……だが、いいだろう。ラストターンだ……‼」

 

 海馬も、もはやアクロマの悪癖に張り合う気は失せたらしい。とはいえ僅かに不本意な吐息を零しはしたが。

 

 鋭い眼差しをゲノセクトへ向け、力強く攻撃を宣言した。

 

 

「望み通りに粉砕してくれる‼ ゲノセクトでギギギアルへ攻撃‼ 『ニトロチャージ』‼」

「ゲノム――――」

 

 

 繰り出される最終命令。ゲノセクトは炎に包まれ、真紅の弾丸となって突進する。

 

▽ゲノセクト の ニトロチャージ‼

 

「フフ……‼

「ふん……‼」

 

▽効果はバツグンだ‼

 

 ゲノセクトの強烈な打撃に、ギギギアルのパーツが弾けて四散。

 もちろん歯向かえるわけもなく、バラバラと地面に落下し果てる。

 

▽ギギギアル は倒れた‼

 

 

 

『き、決まった――ッ!! ゲームセットッ!! 勝者は青コーナー……バトルの貴公子、海馬瀬人――――ッッ!!!!』

 

 

 

 緊迫しきった会場に、実況アナウンスの声が響く。

 そこでようやく観客たちは思い出したように歓声を上げる。スタジアムは再び熱気を取り戻し、湧き上がる喝采は二人がステージを出てからもしばらく続いていた。

 

 

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