『準決勝、第一試合!! 決勝への切符を手にしたのは海馬瀬人だ――――ッッ!!!!」
熱狂渦巻くバトルフィールドの情報は例え舞台裏であっても、モニターを通じてリアルタイムで提供される。
特設控室より闘いを観戦していたヒュウは、ぐっと握り拳を作って一人呟いた。
「海馬が勝ちやがったか……! でも、これなら決勝行っても不足はないぜ」
海馬瀬人には以前から借りがあるのだ。それを返す絶好のチャンスが、今まさに手の届きそうなところまで迫っている。
ここは何としても準決勝を突破し、決勝の舞台まで辿り着かなければならない。そのためにも――
(メイには絶対に勝たないとな! 修行の成果を、アイツにも見せてやるのさ‼)
腰のベルトに取り付けられたモンスターボールをそっと撫でれば、やる気に満ち溢れた鳴き声がふと聞こえてくるような気がする。
修行の果てにパワーアップした仲間たちは第一回戦を見事勝ち抜いた。この勢いを持って準決勝も制す。そして、決勝へ進む。
そんな目標を改めて胸に刻み、ヒュウは勢いよく立ち上がった。
「……よし行くぜみんな‼ 次のバトルもオレたちが勝つッ‼」
ボール越しに激励を送れば、モンスターボールが応えるようにカタカタと揺れる。
その反応にニッと笑ってヒュウは控室を飛び出し、意気揚々とバトルフィールドへ駆け出した。
〇●〇●〇
「さぁさぁ急がなくては! もうすぐ第二試合が始まってしまいますよ‼」
大勢の人々でごった返すスタジアムの観客席。足を進める度にむせかえるような熱気を感じる、その階段を真っすぐ下りながら。
喜々として歩くアクロマは、前方を行く海馬の背中に向かって声を投げる。
「おや、ご覧なさい! あそこの席が空いていますね? 取られる前に早いところ座りましょう‼」
「……なぜ貴様が付いて来る。ゲノセクトのデータならくれてやったはずだが」
「フフフ……何もゲノセクトのためだけに参加してはいませんよ! わたくしとて研究者、開催されるバトルは全て確かめておきたいのです‼ それに、アナタと決勝で戦うトレーナーもね‼」
「ふん……」
海馬は心底鬱陶しそうな目を一瞬向けたが、やがて諦めるように嘆息した。やはりこの男に常識は通用しないらしい。
仕方なくそのまま観客席の最前列まで歩いていき、どかりと腰を下ろす。アクロマもそれに続きながら、目前に広がるバトルステージを見渡した。
「さて、どちらが勝ち残るのか。実に楽しみですね……!」
「………」
アクロマはバトルを楽しむつもりでいるようだが、海馬は違った。鋭い眼つきでステージの奥――赤コーナーの入場ゲートを見据えている。やがて登場するトレーナーの姿を脳裏に浮かべながら、ただただ静かに闘志を燃やす。
そんな彼の様子が気になったのか、ふとアクロマが問いかけた。
「どうしました? 随分と気が早いようですが」
「そう見えるか?」
「えぇ、とても。……何か、気になることでも?」
「ふん、別に大したことではない。貴様同様、
海馬はそう答えながら、顔を上げてステージ中央のスクリーンに目を向けた。巨大なビジョンには次の対戦カードがでかでかと予告されている。
メイとヒュウ――どちらも顔見知りの二人だが、正直ヒュウはどうでもよい。興味があるのはメイの
あの時魅せた実力は今も健在か。いざ対峙する前に見定めておくのも一興だろう。
(もっとも、相手がポンコツヒュウの時点で期待はできんがな)
実力を付けたらしいとかメイは述べていたが、それもどうやらといったところ。一度負かしている彼の力量には大して関心もない。
(ま、せいぜい実験ネズミとして奮闘して見せるがいいさ……!)
海馬は胸中で意地悪く笑い、試合開始の時を今か今かと待つ。
やがて、ざわめく観客席を軽快なアナウンスの声が貫いた。
〇●〇●〇
『観客席の皆さま、お待たせいたしましたッ!! これより準決勝第二試合を執り行いますッ!!』
待ちわびたアナウンスの声を受け、興奮に沸き立つスタジアムのギャラリー。その歓声を一身に受けながら、今選手が入場する。
『まずは青コーナー!! 大切なポケモンを探すため、己を鍛える――――ヒュウッッ!!!!』
「よっしゃ、行くぜ‼」
ステージに勢いよく駆け上がったヒュウは肩をならして堂々と振る舞う。準決勝という大舞台に立っても動じることはなく、口元には不敵な笑みさえ浮かべて強気な姿勢だ。
『次に赤コーナー!! リングに旋風を巻き起こせ!! ヒオウギの新風、メイ――ッ!!』
立て続けに響くアナウンス。その呼び込みに応え、反対側のゲートからメイが姿を現した。
笑顔の初々しい彼女だが、既にステージ上でウォーミングアップしているヒュウとは対照的に、多少の緊張感を滲ませながらゆっくりと歩みを進める。
途中、観客席の方をちらりと見やってから、改めてステージに登壇。両者向かい合う。
「へへ、来たな! こうしてバトルするのも久しぶりな気がするぜッ‼」
「そうだね。ヒュウのポケモンもみんな絶好調って聞くし……楽しみだよ!」
「そっか、まだ見せてなかったもんな! オレが鍛え直した最強パーティ‼」
ヒュウはカラッとした笑顔で、腰につけたボールにそっと手を置く。
「見せてやるぜ……オレの新しい戦い方ってやつをな‼ いざ尋常に勝負だ、メイッ‼」
「……うん!」
『両者準備は整ったようだッ!! 準決勝、第二試合! ヒュウvsメイ、バトル開始ィィィィィィィ!!!!!!!』
「「バトル‼」」
実況が試合開始を告げると同時に、ヒュウのモンスターボールからポケモンが飛び出した。同時にメイもボールを放る。
▽ヒュウ は ケンホロウ を繰り出した‼
▽メイ は ルカリオ を繰り出した‼
ヒュウの先鋒は毎度おなじみのハトーボー――ではなく、その進化形にあたるプライドポケモンのケンホロウ。進化して得た誇り高き頭の冠を揺らし、翼をはためかせながら舞い降りる。
対するメイが繰り出したのはリオルが成長した姿のはどうポケモン、ルカリオ。逞しくなったその両拳を構え、凛々しい眼差しを眼前の敵に向けている。
両者ともに、旅の中で成長したことを知らしめる布陣だ。ギャラリーの海馬も、これには思わず反応を示した。
「ふん、少しはまともなモンスターを使うようになったか。フフ……見掛け倒しでないことを祈るがな……‼」
『ポケモンが出揃うッ!! 両者元気いっぱい、素晴らしいバトルが期待できそうだ――ッ!!』
(メイのやつ、最初からゼンリョクだな! でもよ、このケンホロウは今までとは一味違うぜ!)
(やっぱり最初はケンホロウ、そこは進化前から変わらないね。さて、ここはどう動こうかな……)
互いに相手の手の内を探るような沈黙が数秒間続いた後、最初に動いたのはヒュウだった。
「まずはこいつだッ! ケンホロウ、『フェザーダンス』!!」
「ホロロ……‼」
颯爽と飛び上がったケンホロウは翼を広げ、優雅な舞を踊るようにステージ上を旋回。その羽ばたきによって撒き散らされた数々の羽毛がルカリオに降りかかると、その体をたちまち灰色く覆う。
「よし! 『フェザーダンス』をくらったポケモンの攻撃力はダウンするぜッ‼」
「……‼」
▽ルカリオ の 攻撃 がガクッと下がった‼
物理を極めたアタッカーへの有効な手立てとなるワザに翻弄されるルカリオ。だが、被害はそれだけでは済まなかった。
全身で波紋を感じるルカリオにとって、絡みつく羽は邪魔そのもの。不快感に集中力が切れ、反撃の体勢を崩してしまったのだ。
(うっ……これはマズい‼)
▽ルカリオ の カウンター‼
▽しかしうまく決まらなかった‼
『おおっと、赤コーナーのワザが決まらないッ!! ケンホロウの羽毛が効いている――ッ!!』
「おいおい、『カウンター』なんて持ってたのかよ。開幕早々、油断も隙もないやつだぜ……‼」
「ホロロロロ……‼」
「でも、上手い具合にかわせたな! どうよ、これも修行を積んだ成果だぜッ‼」
「む……やるじゃん……!」
妨害を敷いた上で運よく罠を回避。無償で舞い戻って来たケンホロウを前に、ヒュウは得意げに胸を張る。
対するメイも負けじと微笑むが、パートナーの表情は険しい。物理攻撃が来なければ『カウンター』は無意味。実質1ターンを無駄にしてしまったようなものだ。
(ヒュウの性格なら最初から突っ込んで来ると思ったんだけどな……!)
今までの素直なバトルスタイルとは打って変わった戦略。なるほど本人の豪語する通り、今までとは一味違った闘いになりそうだ。
気を引き締め直したメイは、納得したように頷きながらヒュウに語り掛けた。
「……フフ、どうやら修行の成果はあったみたいだね」
「当ったり前だぜ! まだまだ勝負はここから、お前らに見せたい戦術は山ほどあるからな‼」
ヒュウは瞳に燃え盛る闘志を宿らせながら、拳を突き出し力強く叫ぶ。
「いくぜ、メイ! ヒオウギ最強決定戦に備えて鍛えた、オレたちの戦略を見て驚くなよッ‼」
「フフ……! 今のセリフ、そっくりそのまま返してあげたいくらいだけど‼」
メイは煽るように言い返して、ルカリオへ目配せをする。ケンホロウを見据えながら小さくうなずき合うと、勢いよく動きだした。
「今度はこっちのターンから! ルカリオで攻撃‼」
「ッ……!!」
地を蹴り高く跳んだルカリオは両手を前に突き出し、その掌に念を集中させる。やがて凝縮された
▽ルカリオ の あくのはどう‼
「ホロロォ……‼」
「おっと、特殊ワザか……‼」
撃ち出された黒い
ルカリオを牽制するために使った『フェザーダンス』だが、特攻に干渉することまではできない。ルカリオはその分類に相応しく、多種多様な波動のワザを覚えられるポケモンだが、今回はそれらを主体に攻めるつもりだろうか。何事もとんとん拍子にはならないものだ。
「ホロロ……‼」
せっかく纏わりつかせた羽毛も関係ない、手痛い一撃が襲いかかる。予想外のダメージにはケンホロウも驚き、一瞬豆鉄砲を食らったような表情を浮かべたが、まだまだと言わんばかりに空中で体勢を立て直す。
(意外と効いてるか? ……いや、特殊アタッカーならこれくらいの火力も出せるよな)
そもそもルカリオは、武闘派なイメージとは裏腹に特攻の方が高いのだ。そう考えればまだ想定内のダメージ量。そこまで気に留める必要もないと判断し、ヒュウは強気に笑い返してみせた。
『赤コーナー、攻撃ダウンをものともしない『あくのはどう』で手堅いダメージを与えたッ!! しかしケンホロウもまだまだ無事ッ!!』
♢♢♢
「まさか……⁉」
一方、観客席の最前列では、隣のアクロマが不意に素っ頓狂な声を上げていた。眉間に皺がにじり寄るのを見て、ふと海馬が問いかける。
「急に喚くな。どうした、アクロマ」
「いえ、失礼。……少し気にかかったもので」
アクロマは顎に手を当てながら思案するようにルカリオを一瞥すると、その口元にうっすらと笑みを浮かべて言った。
「これは面白い展開になりそうですよ」
「ほう?」
意味深な言葉を残し、アクロマは再びバトルフィールドへと視線を戻す。その横顔を海馬は訝しげに見つめていたが、すぐさま興味を失ったように視線を外した。
彼が何を不思議に思ったかは定かでない。しかし、少なくともバトルの内容が変わるようなことはまだ起こっていない。癪な話だが
(ふん、何を遊んでいる……! 小賢しいキジバト如き、さっさとその手で粉砕してやれ……‼)
♢♢♢
『まだ余裕のある赤コーナー!! お次はどんな一手を打つのか――ッ!!?』
(ちょっとばかし反撃は許しちまったかもしれないけどよ……オレの計画は順調だ! この調子で続けさせてもらうぜ‼)
「お前の番だぜ、ケンホロウ! 『おいかぜ』だッ‼」
「ホロロ……‼」
意気込むヒュウが次なる指示を送れば、ケンホロウは力いっぱい羽根をはためかせ、たちまちステージ中に強風を発生させる。
▽ケンホロウ の おいかぜ‼
▽ヒュウ の場においかぜが吹き始めた‼
『ここで"おいかぜ"発動!! 自軍の素早さを上げて攻め込む準備は万端だ――ッ!!」
「ッ……‼」
「わわっ、凄い突風……‼」
ヒュウの背より吹く『おいかぜ』は4ターンの間、味方の素早さを2倍にする強力な変化ワザだ。
轟轟と唸る文字通りの逆風に煽られ、一歩退くことを余儀なくされるメイとルカリオ。彼女らが翻弄される様はヒュウの目にもハッキリと映り、ますます彼を得意にさせた。
「どうだ、メイ! これが特訓の果てに辿り着いたケンホロウの新しいワザさ‼ いつまでも無謀な攻撃ばっかりするオレじゃあないってことだぜ‼」
「くっ……やるじゃない‼」
「そうだろ! でも、本番はここからさ‼ 『おいかぜ』で強化されるのは別のポケモンだからなッ……‼」
ヒュウはそう呟くと、ベルトのモンスターボールに手を掛け思考を巡らせた。
(概ね計画通りだ! 『おいかぜ』を使ったら、後は『とんぼがえり』で交代すると決めている‼ この状況なら、普通に交換するより価値があるぜ……‼)
彼の脳裏に浮かぶのは、1ターン目にルカリオが使った『カウンター』。地雷とも呼べるあのワザを不発にできたことは、今なおヒュウにとって絶大なアドバンテージを生んでいた。
ルカリオは優秀な耐性を持つポケモンだが、防御力自体は並み程度だ。『カウンター』を使いこなすには、強力な攻撃に備えた道具を持たせる必要がある――となれば、自ずと候補は絞られてくる。ポケモンの防御を底上げできる道具なんて数えるほどしかないのだから。
(あいつの持ち物はズバリ、『きあいのタスキ』だ! ここで対処しておくほかないな……‼)
そう自信満々に推理する『きあいのタスキ』は、持たせれば体力が満タンのときに限り一度だけ、瀕死になる攻撃を受けてもギリギリで踏みとどまることができる。当然『カウンター』との相性は最高。そうでなくともルカリオのステータスと噛み合った、シンプルかつ強力な道具だ。
強力なアタッカーと入れ替えたいが、面倒な『きあいのタスキ』は発動される前に潰しておきたい。そこで攻撃と同時にポケモン交換が行える『とんぼがえり』を使えば、その問題が一気に解決できるというわけである。それにルカリオのタイプなら極限までダメージを抑えられる。『カウンター』を返される心配もない。
「へへっ……オレにしちゃ完璧な作戦だ‼ 迷いの森で鍛えに鍛えまくった甲斐があったってもんだぜッ……‼」
「むむむ……‼」
向かい側のメイを見やれば、強風にサンバイザーを抑えて厳しい表情をしたままだった。これならいける。
淀みなく進行する作戦に、ヒュウは思わず笑みをこぼした。
♢♢♢
「雑魚を相手に何を手こずることがある……! さっさと攻めればよいものを‼」
ギャラリーで足を組む海馬は向かい風に吹かれるメイを睨みつけ、苛立たし気に呟いた。
その隣ではアクロマがタブレットに記録を纏めながら、ふむふむと相槌を打つ。
「なるほど! しかし、ヒュウとかいう彼の戦略は見事ですね! ケンホロウの強さを引き出し、シンプルながら理にかなった行動をする……‼」
「ふん、おかげで
「まぁそう焦らずに!」
アクロマは一人愉快そうな口調で、憤る海馬を宥めた。
「確かに現状、ヒュウさんの戦略は完璧に近い! しかし……だからこそ隙が生まれるもの!」
「なに?」
「フフ、わたくしの感じた疑問が解決される瞬間も近そうです……‼」
その言葉の通り、ステージ上で事態が動き出す。
♢♢♢
「いくぜケンホロウ! 交代の『とんぼがえり』だッ‼」
「ホロロウ‼」
▽ケンホロウ の とんぼがえり‼
追い風を翼に受けたケンホロウは意気揚々とステージ上空をアクロバティックに飛行し、頃合いを見計らってから直滑降。そのままルカリオとの間合いを一気に詰めつつ、キックの要領で鉤爪の付いた脚を突き出す。
「なっ……しまった……‼」
対するメイが叫びを上げた時には、もう両者は肉薄していた。ケンホロウが繰り出す鮮やかな攻撃、強烈な蹴りを浴びせられたルカリオが大きく仰け反る姿を目の当たりにして、ヒュウはしめたと言わんばかりのガッツポーズを決める。
(よし、これできあいのタスキは葬った‼ このままダイケンキと交換して――)
――だが、しかし。
▽効果は抜群だ‼
「……え?」
どさりと片膝をつくルカリオの鈍い音が響き、ヒュウは思わずボールを選ぶ手を止め正面を見返した。
「フフフ……なーんっちゃて‼」
すると、先程までの渋い表情が一転。メイは溢れんばかりの喜びに目を輝かせていたのだが――いや、問題はそこではない。
彼女の手前で膝をつくルカリオ。その、どう見ても
傷ついたルカリオの全身がゆらりと蕩けるように消え去り、ぼんやりした景色の中から新たなシルエットが浮かび上がる――
【ゾロアーク の イリュージョン】
▽ゾロアーク のイリュージョンが解けた‼
「なッ……!?」
突然現れた全く別のポケモン。ルカリオとは似ても似つかぬその姿に目を剥いて驚愕するヒュウ。
狐につままれたように呆然とする彼の顔を、メイのいたずらっぽい笑顔が覗き込んだ。
「フフフ……驚いたって顔してるね! どうにか誤魔化せてよかったよ‼」
「おい、何なんだよこれは……‼ お前が出したのはルカリオだったはずだぜ⁉」
「今まで戦っていたルカリオは幻想の姿……! これこそ悪タイプのゾロアークが得意とする【イリュージョン】の特殊効果だよ‼」
「ゾロアーク……⁉ 幻想の姿だとッ……⁉」
「そう! 他のポケモンの姿に化けて登場できるの! あくまで騙せるのはガワだけだから、『とんぼがえり』はルカリオ相手じゃありえないはずの大ダメージを与えたってワケ‼」
「くっ……‼」
混乱のあまり目を白黒させるヒュウ。頭の整理をさせる間もなく、メイは更に畳みかける。
「フフ……! ところでヒュウのポケモン、これから交代するんだったよね? それを見越してワザを選択しておいたんだけど……‼」
「……なんだと⁉」
ヒュウはハッと我に返ると、今の状況を再確認した。
カタカタと出番を待ちわびるモンスターボールに、攻撃を終えてこちらへ戻ってくるケンホロウ。もはや止めることのできない一連の交換処理。
(しまっ――)
気が付いた時には、何もかもが手遅れであった。
赤い光に包まれたケンホロウがボールへ帰還するや否や、手持ちに控える、かんろくポケモンのダイケンキが満を持してステージに降り立つ。立派な兜を被った頭をもたげ、平たい尻尾で地面を打ったダイケンキは勇ましく咆哮。その分類に相応しい貫禄をこれでもかと見せつけるが。
その雄姿が見られたのも僅か一瞬。ダイケンキの眼前には、すでにゾロアークの鉤爪が迫っていた。
「ダッ……⁉」
「ゾアークッッ‼」
▽ゾロアーク の カウンター‼
刹那、ザシュッと唸る鋭利な斬撃。
あっという間に叩きだされた限界を超えるダメージに、ダイケンキの巨体はぐらりと傾き、そのまま力なく崩れ落ちる。
▽ダイケンキ は 倒れた‼
この、誰も予想だにしなかった一瞬の大番狂わせは、のぼせ上がった実況ブースすら唖然とさせた。
ステージで起こった出来事全てをギャラリーが理解し、爆発的な歓声が沸き起こるのは、それから数秒を要した後のことであった。
ポケモンの対戦から離れて数年にはなりますが、連日このようなバトルを書いていると、また復帰したくなるものですね。