遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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【ウルトラホール】
無数の異世界を繋ぐ空間。ウルトラスペースの出入り口。
ホールから迷い込んだ『Fall』には注意せよ。
『Beast』が引き寄せられる前に、速やかに元の世界へ送り返すべし。


2.運命のカード‼

 

 とある事故からポケットモンスターの世界へ迷い込んだ決闘者・海馬瀬人。

 意識を失っていた彼は、やがてマサラタウンの小さなポケモン研究所で目を覚ます。

 始まりの地でオーキド博士に助けられた海馬の新たな物語が、今まさに始まろうとしていた。

 

 

 ……のだが。

 

 

「くだらん」

 

 

 差し出されたモンスターボールから目を逸らし、海馬はオーキドの提案を一蹴する。

 そして視線を向けた先は、左腕に装着されたデュエルディスク。

 この世界に迷い込んだ時、デッキと共に持ち込めた数少ないアイテムだ。

 

「オレはポケットモンスターなどに興味はない。デュエルモンスターズの挑戦なら受けてやってもいいが……この世界には決闘者、ましてやカードの類すらあるまい?」

「うーん、なかなか気難しいのう君は……」

 

そっぽを向かれたオーキドはバツが悪そうに頭をかく。

これほどまで相手にし難い人間というのもそういない。どう切り込むのが正解か。

しばらく考え込んだ末、彼はふと思い出したかのように言う。

 

「……君のカードは知らないが、この世界にもカードゲームはあるぞ。ポケモンカードじゃ」

「ポケモンカード?」

 

 聞いた事のある単語にピクリと反応を示す海馬。

 ポケモンカードというゲームは、元いた世界にも存在していたはずだ。巷で流行を見せていると、仕事の傍らテレビの特集を見た記憶もある。

 しかし、海馬の専門はあくまでデュエルモンスターズ。そのため実際に触れた事はない。

 

 そう思い返したのか、海馬の目は一瞬放った輝きを失い、またつまらなそうに顔を背けてしまう。

 しかしオーキドは、難色を示す彼をよそに引き出しを漁ると、やがて一枚のカードを取り出し、大袈裟に見せびらかしながら言った。

 

「これじゃよ、これ。ワシのコレクションの一枚でな」

「いらん。そんなカードに興味はない」

 

 塩対応の海馬だが、オーキドはカード片手に食い下がる。

 滅多に自慢する相手もいないのか、その様は妙に楽しげだ。

 

「まぁそう言わずに。貴重なレアカードじゃ、滅多にお目にかかれんぞ?」

「しつこいぞ。だいたい、この世界のレアカードに何の意味があると――」

 

 オーキドの手を払い退け、忌々しいと言わんばかりに声を荒げる海馬瀬人。

 その心底うんざりした胡乱な視線が、僅かにカードへ向けられた。

 

 

 

 まさにその時だった。

 

 

 

「――なに⁉」 

 

 

 

 いきり立っていた表情が一変、海馬は突如絶句する

 

 

 

「馬鹿な……‼」

 

 

 

 まるで雷にでも打たれたかのような、驚愕に満ちた異常な反応。

 

 その表情の変化に思わずオーキドが怯んだのも束の間。

 

 海馬はおもむろにカードの前へ歩み寄ると、声を震わせ呟いた。 

 

 

 

「なぜ幻の『青眼の白龍』が、こんなところに……⁉」

 

 

 

 海馬が瞬きもせず見つめる視線の先。

 カードに描かれた一匹のポケモン。

 大翼を広げて空を舞う蒼き眼のドラゴン。

 

 

 

 イッシュに伝わる白き英雄――レシラムのカード。

 ポケモンに疎い海馬はその名前すら知らないのだが。

 

 

 

「ブルーアイズ……」

 

 

 

 身に覚えのある感情が胸を打つ。

 

 

 

 そのモンスターが『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』に劣らぬレベルだと、海馬は一目で実感した。

 カードから感じる気品と貫禄はそれほどまでに、彼の魂を強く激しく揺さぶったのだ。

 

 

 

「大丈夫かね、君? 具合でも悪いのか?」

 

 

 

 海馬は雷に打たれたかのようにしばらく呆然としていたが、オーキドの声で我に返った。

 すぐさま手を上げ平静を装うが、波打つ心像の鼓動は隠せたかどうか。

 問題のカードをじっと見つめたまま、彼は衝動的に言い放った。

 

「爺さん……! そのカード一枚と、オレのレアカードを交換してくれ!」

「な、なんじゃと? 交換?」

「それがダメなら言い値で買おう! 」

「いや、待て待て、落ち着きなさい! カードを見るなり目の色を変えて……! とにかく、これはお終い! あいにく売り物じゃないんでな‼」

 

 あまりの豹変ぶりと熱量を目の当たりにしたオーキドは、身の危険を感じてすぐさまカードを片付ける。

 そして興奮冷めやらぬ状態の海馬を宥め、何とか平静を取り戻させた。

 

「本当に大丈夫かね? 少し寝た方がいいんじゃないか?」

「……オレの事はいい。それよりもだ。」

 

 いくらか落ち着いたとはいえ、まだ彼の興味はレシラムのカードにあるらしい。

 海馬は真剣な表情で尋ねた。

 

「オーキド、このモンスターは何だ?」

「あぁ、これかね? このポケモンはイッシュ地方に伝わる伝説のポケモン、レシラムじゃよ。真実を追い求める者の前に現れると言われておるぞ」

 

 

 急な要望に対しても、咄嗟に図鑑並みの解説を披露するオーキド。

 流石はポケモン研究の第一人者といった手腕だ。

 その見事な話ぶりを耳にした海馬の眼には、ギラリと鋭い光が宿る。

 

「現れる……ということはつまり、この『青眼』はこの世界に存在しているというのか?」

「もちろんじゃよ。イッシュ地方では目撃例もあるしな。と言っても伝説のポケモンゆえ、そう目にすることもできん存在じゃがな。そもそもレシラムとは……」

「そうか。なら話は早いな」

 

 

 刹那、海馬の口角がニヤリと上がった。

 実在する事さえわかれば十分だと、そう言わんばかりの勢いで。

 

 熱が入り始めたオーキドの解説を一方的に打ち切り、「もういい」といった素振りで背を向ける。

 海馬の眼差しは、一層鋭さを増して決意をみなぎらせていた。

 特徴的なロングコートが彼の動きに合わせてはためき、持ち主よろしく威圧感のある音を一つ、ばさりと打ち鳴らしてみせる。

 

「ふん、世話になったな。失礼するぞ」

「お、おい! いきなりどこへ行くつもりかね?」

 

 

 躊躇いなく研究室のドアノブに手をかけた海馬に、焦燥した声がかかる。

 さっきから破天荒な言動に振り回されるオーキドだ。頭をポリポリ搔きながら、困惑した様子で問いかける。

 

「さっきから、勝手に行動するもんじゃあない。君は異世界の人間じゃぞ? 然るべき処置はすぐにしてやるから……」

「悪いが俺に保護など必要ない」

 

 善意に溢れるオーキドの説得を切り捨て、「ふん」と鼻を鳴らす海馬。

 次第に自分のペースを取り戻しつつある彼は、戸惑うオーキドに向けて堂々と言い放った。

 

「確か貴様は、ウルトラホールの捜索には時間がかかると言ったな? 今になってみれば好都合だ。その間オレは別の用を片付ける事にした」

「用事じゃと? しかし君は異次元から……」

「ふん、次元の差など微々たるものだ。

 むしろ、オレからすればこうなるのは必然とすら言えるだろうな」

「……?」

 

 頭上に無数の疑問符を浮かべるオーキドをよそに、海馬はぐっと拳を握りしめる。

 瞼を閉じれば蘇る魂の昂り。

 あのカードを見た時に受けた決定的な直観を、彼は信じて疑わない。

 

 

 

 ――この世界には、『青眼の白龍』が実在している。

 

 

 

 確信と共に血相を変えた彼には、もはや忠告など届かないだろう。

 声高に宣言したが最後、己のロードを突き進まんと急ぐ。

 

「オレはそのイッシュ地方とやらに向かう‼ この世界に存在する伝説の『青眼の白龍』を、この海馬瀬人の手中に収めるためにな‼」

 

 それが海馬という決闘者なのである。

 

 

  

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 数時間後。

 海馬瀬人が嵐の如く立ち去って行った研究所内にて。

 一人残されたオーキドは、黙々とキーボードを打ち鳴らして呟いた。 

 

「……いやはや、ワシはどうも面倒な奴を助けてしまったのかもしれんな」

 

 その表情は疲労感に溢れていて、椅子に腰かける姿勢もどこかぐったりとしている。

 異世界から来た人間と実際に話すのは初めての経験であったが、まさかあれほど話が噛み合わないモノだったとは。

 ウルトラホールの被害者――『Fall』と呼ばれる存在を、楽観的に捉えていたのかもしれないと自省する。

 もっとも、単に海馬瀬人が厄介すぎるだけという可能性もあるのだが……

 

(そうは言っても、彼が元の世界へ帰れるように手配はせねばなるまい)

 

 オーキドがエンターキーを叩くと、PCのモニター画面が切り替わった。

 そこに表示された『通信中……』という文字の背景には、南国の雰囲気を漂わせる景観に、小綺麗な施設が建っている。

 

 カントーからは遠く離れたアローラ地方に位置する『空間研究所』。

 ウルトラホールの研究を主に、迷い込んだ『Fall』の保護・送還も執り行っている場所だ。

 

 まもなく、再び画面が切り替わり、モニターには一人の女性が映し出される。 

 

「アローラ! こちらは空間研究所よ! ……あら、お久しぶりですねオーキド博士! どうされましたか?」 

 

 通話に出たのは、空間研究所のトップであり、ウルトラホールの調査における第一人者。

 ラフな格好で陽気に手を振る姿が印象的なバーネット博士だ。  

 

「アローラ、バーネット博士。相変わらず元気そうじゃのう。なに、今日は折り入って頼みたいことがあり、連絡させてもらったんじゃよ」

 

 画面越しに微笑みかけながら、早速要件を切り出すオーキド。

 海馬の事を思い返しながら手短に告げた。

 

「ついさっき、ウルトラホールに巻き込まれたと思しき青年を保護してな。その青年を元いた世界へ帰してやって欲しいんじゃ」

「あら、そういうことなら、私たちにお任せくださいな! 急いで調査に取り掛かりますが、そのウルトラホールは何処で開いたんです?」

「恐らくマサラタウンじゃろうな。直接ホールを見たわけじゃないが、救助したのはワシの研究所の庭じゃからのう」

「オーケー! すぐにそちらへ伺って、ウルトラホールの痕跡を調べてみますね! 」

 

 事情を聴いたバーネットは即座に了承してくれた。

 プロに任せれば一安心だろう。オーキドもほっと胸を撫で下ろす。

 

「うむ、ありがとう。頼むよ」

 

 と、礼を述べて、適当なタイミングで通信を切ろうと試みる。

 だが、丁度その時。バーネットはふいに思い出したように手を打った。

 

「あ、そうそう。最後に一つだけ聞いておきたいことがあるんだけど、いいですか?」

「何じゃね?」

「その子の世界に関して、特徴か何かあったりします? 言動とか、知識とかに表れていると思うんだけど。具体的なデータがあれば、作業効率も上がるので!」

「ふむ、特徴か……」

 

 返答に困ったオーキドはふと、顎に手を当てて熟考する。

 そうして少し黙った後に、ポツリと一言。

 

「……どうにも、カードゲームの存在が大きいようじゃ」

 

 




【レシラム】(青眼の白龍)
ご存じ、海馬の誇りと魂を象徴するエースモンスター。
それと同時に遊戯王の看板的存在でもあります。
青き眼に白い体を持つ、女性モチーフのドラゴンということで、何かと共通点の多いレシラムが選ばれました。
強力なステータスを持つ伝説のポケモンですから、決して見劣りはしないはず……!
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