遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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29.意地と意地

 

『ここでヒヒダルマがフォルムチェンジ !!自ら体力を削りダルマモードに移行した――――ッ!!!!』

 

 

「ダルマモード……‼」

 

 体力の減ったヒヒダルマが変身するもう一つの姿、ダルマモード。かつてのヒュウはそれを知らず、一度は敗北に直結したことすらあった。

 しかし、今はどうだ。自らの意志でフォルムチェンジを果たしたヒヒダルマを、彼は力強い瞳で見つめている。その佇まいに以前のような()()()はない。

 

(……むしろダルマモードになることを狙っていた、って顔だよね)

 

 メイはごくりと生唾を飲んで、石像の如く固まったヒヒダルマと相対する。

 ダルマモードの状態は以前から何度か目にしていたが、肝心のワザは未だ不明だった。わかっているのは通常形態とは違って足が遅いことと、瞑想によって集中力を高めていることくらい。きっと攻撃手段も大きく変化しているはずだ。

 

(……もう『つぶらなひとみ』は効かないかもね。それに恐らく『がんせきふうじ』も。対策も若干空回っちゃったかな……‼)

 

 しばらく黙ってヒヒダルマを観察していると、鼻を高くしたヒュウの野次が飛んできた。

 

「どうした、メイ! 今更ボーっとする暇なんてないぞッ‼」

「……頭の中で考えてたんだよ! どうやってそのヒヒダルマを倒そうかなってね‼」

「面白い、やれるもんならやってみなッ‼」

「もちろん‼」

 

 メイはヒュウの挑発に一言だけ返すと、手前の身代わり人形を指差しムーランドをけしかける。

 

「もっかいお願い、ムーランド‼」

「バウ‼」

 

▽ムーランド の おんがえし‼

 

 またも身代わり人形の破壊にかかるムーランド。一見すれば大型犬が玩具とじゃれ合っているような微笑ましい光景だが、当然そんな生易しいものではない。弾き飛ばされた人形はいとも容易く砕け散って消滅。そして他愛もない遊びだと主張するように「バウ!」と吠えて、豊かな髭をしならせた。

 

(よかった、一撃で破壊できた……‼)

 

 少しばかり安心したのは、以前ダルマモードを相手にした海馬が評した「守備表示」という言葉が頭に残っていたからだ。機動力を捨てて沈黙するので、防御力は間違いなく上がっているはず。身代わり人形の破壊に手間取る可能性を危惧したが、この調子なら心配はなさそうだ。

 

 だが、胸を撫で下ろしたのも束の間。ヒュウの方も黙ってはいない。

 吹っ飛ばされた身代わり人形を横目にニヤリと口角を上げて言う。

 

「へへっ、『みがわり』をいくら壊されたってヒヒダルマにゃノーダメージさ! この隙にオレは、更なる強化を施すッ‼」

「更なる強化……⁉」

「『てっぺき』発動‼』

 

▽ヒヒダルマ の てっぺき‼

 

 刹那、ヒュウのかけ声と共にヒヒダルマの体が青白い輝きを放つ。硬化した皮膚はより強固に、そして重厚に。質感もまるで磨き抜かれた青銅器のようにグレードアップして、その存在感を一層際立たせた。

 

▽ヒヒダルマ の 防御 がぐーんと上がった‼

 

 

『青コーナー、『てっぺき』で防御力を大幅にアップ!! 強固な壁となって赤コーナーの前に立ち塞がる――――ッ!!!!』

 

 

「くっ……『みがわり』に加えて『てっぺき』まで……! とことん守りに徹するつもり?」

「ああ。意外だろ? これも迷いの森にこもって磨いた腕さ! あの時の誓いを本物にするためのな‼」

 

 短気な一面が目立った以前からは想像もつかない堅実な戦術を披露し、ヒュウは誇らしげに胸を叩いた。

 

「ライモンシティでのバトル、覚えてるか? オレはあの時、色んな奴らに後れを取った……‼ だが、その程度で折れるオレじゃあないぜッ‼ もっともっと力を付けて、絶対に守るべきものを取り返すッ‼」

 

 そうして堂々宣言すると、カラッとした闘志を剥き出しにメイへ笑いかける。

 

「このバトルだってオレにとっては記念すべき一戦だ‼ 負けるつもりは微塵もないぜッ!!」

 

 澄んだ眼差しから覗く強固な意志。それを真っ向から感じ取ったメイの口元が、思わず綻ぶ。

 

(フフ……楽しいよ、ヒュウ! 本当に強くなったんだね‼ ……だけど‼)

 

「負ける気がないのはこっちだって同じ‼ そのヒヒダルマだって、仲間たちと打ち砕いてみせる‼ いくよ、ムーランド‼」

「バウ‼」

「『おんがえし』っ‼」

 

 今はただ攻めあるのみと繰り返される、ムーランドの『おんがえし』。幾度となく『みがわり』を蹴散らし続けてきた最高威力の一撃が、満を持してヒヒダルマの本体へと迫る。

 

▽ムーランド の おんがえし‼

 

「そんなの無駄だぜ‼ 耐えろヒヒダルマッ‼」

「……‼」

 

 しかし防御を固めたヒヒダルマは、綿の詰まった人形なんぞとは訳が違う。地に座す巨体は微動だにせず、ムーランド自慢の攻撃を真正面から受け止めてみせる。

 

 

『赤コーナーの攻撃、しかしあまり効かないッ!! "てっぺき"の効果が効いている――ッ!!』

 

 

「むむっ……予想以上に固い……⁉」

「当然だぜ、既にヒヒダルマの防御は万全! この程度の攻撃なんて、痛くも痒くもないのさ‼」

 

 手応えのなさに驚くメイへ余裕たっぷりに言い返した、ヒュウの瞳がキラリと輝く。

 

「そして更に! この攻撃でヒヒダルマに持たせた木の実の効果が発動した‼」

 

▽ヒヒダルマ は アッキのみ で 防御 が上がった‼

 

「『アッキのみ』は物理攻撃を受けたポケモンの防御を上げる木の実! ダルマモードとのシナジーはバツグンだぜッ‼」

「な……⁉」

 

 ただでさえ突破困難な今のヒヒダルマが更なる守備力を得てしまえば、いよいよ手も足も出なくなる。もはやHPが半分以下などと言っていられない状況。メイは冷や汗を滲ませながら、目の前に立ちはだかる不屈の石像を睨み上げた。

 

「へへっ、いよいよ大詰めだぜ、メイ……‼ 今こそお前に勝つ時だッ!!」

「……‼」

 

 ヒュウの威勢のいい声に反応し、ヒヒダルマの巨体がゆらりと浮き上がる。石ころのように固まった姿のまま念力を使い、自身の体を持ち上げたのだ。

 相変わらず一言も発しないくせに、普段の怒り狂った状態の時より感じる重圧がメイの背筋をぞくりと伝う。

 

(来るっ……‼)

 

 そう思わず身構えた時、ヒュウの口角がにぃと上がって、高らかな攻撃宣言が響いた。

 

 

「『ボディプレス』――――ッッ!!!!」

 

 

▽ヒヒダルマ の ボディプレス‼

 

 

 たちまち繰り出された、宙を浮くヒヒダルマの急転直下による圧殺攻撃。

 鍛え上げられた重厚な肉体は落下地点のムーランドもろともステージにめり込み、雷のような轟音と激しい白煙を巻き上げた。

 

 

▽効果は抜群だ‼

 

 

♢♢♢

 

 

「決まりですね……‼」

 

 ワザの衝撃による爆風が吹き荒れる観客席。アクロマは今の攻撃を見て、乗り出していた体をゆったりとシートへ落ち着ける。

 

「防御力三段階上昇、しかも弱点のワザ……! ムーランドは耐えられないでしょう! もちろん、控えのルカリオも‼」

「ふん……」

「カウンターまでは見事でしたが、彼も一枚岩ではなかったということ! 見事な形勢逆転……‼」

「……果たしてそうかな」

 

 ふと。無言でステージを眺める海馬が口を開いた。舞い上がる白煙の先を見据えて、その鋭い眼光をすっと細める。

 

「おそらく、やつはまだ負けを認めていないだろう」

「え?」

 

 アクロマが海馬の視線を辿ってステージの方へ目を向ければ、徐々に薄れゆく白煙の隙間でゆらりと影が揺れるのが見えた。

 そして、それと同時に舞い上がる砂埃の中から雄々しく響く獣の雄叫びが――

 

 

「バウアアッ!!!」

 

 

 立ち込めていた煙が一気に吹き飛ばされるほどの声量。よろよろと起き上がるムーランドがそこにいた。

 

 

♢♢♢

 

 

「なッ、耐えた……⁉ 嘘だろ……⁉」

 

 

『なんと赤コーナーのムーランド、どうにか持ち堪えたッ!! これは一体どういうことだ――――ッ!!!?』

 

 

 想定外の事態に激しく動揺するヒュウの耳を、やかましい実況のアナウンスがつんざいた。

 会場の誰もが目を疑う中、ムーランドは全身の毛をブルブルッと震わせて埃を振り払って体勢を整える。大ダメージを受けたにも関わらずしっかりとした足取りで地面を踏みしめ、臆する様子も見せない。

 

 その背後では、メイが「ふぅ」と大きく息をついていた。

 

 

「危なかった……! こっちも木の実の効果を使わせてもらったよ‼ 『ヨプのみ』は効果抜群になる格闘ワザのダメージを半分にする‼」

 

 

▽ムーランド へのダメージを ヨプのみ が弱めた‼

 

「なに! ダメージ半減だと……⁉」

「このパーティ、格闘タイプに弱いからね! 対策しといてよかったよ‼」

「くっ……命拾いしたってわけか……‼」

 

 苦々しげに唸るヒュウだが、しかし負けじと強気な態度で言い返す。

 

「……けどよ、どうせ次の一発を食らったらムーランドも終わりなんだ‼ たった一回凌いだところで状況は変わらないぜッ‼ 」

「それはどうかな……‼」

 

 対するメイは穏やかに微笑み、指示を待つムーランドとアイコンタクトを交わした。

 

「……バウ‼」

「頼んだよムーランド‼ 最後の力を振り絞って攻撃‼」

「なに……‼」

 

(まだ突撃してくる気か……⁉)

 

▽ムーランド の おんがえし‼

 

 この期に及んで愚直すぎるほどの突進がヒヒダルマを襲う。だが、やはり堅牢な防御を固めた巨体を弾き飛ばすまではいかない。たった数センチ後ろへ押しのけるのみに留まり、その結果がいよいよヒュウを勢いづかせた。

 

(何か策があるかと思ったけど、勘違いだったみたいだな……‼ ヒヒダルマの体力はまだ残ってる……この攻撃でお終いだ‼)

 

「『ボディプレス』ッ!!」

「……‼」

 

▽ヒヒダルマ の ボディプレス‼

 

 高らかに突き出された拳を合図に、ヒヒダルマは宙を漂いムーランドに圧し掛かった。二度目のボディプレスによる重い衝撃が地響きの如き轟音を上げて会場にこだまする。勝利を前にありったけの力が込められたその一撃は今度こそムーランドを捉え、その体を毛玉のようにあしらい地面にねじ伏せた。

 

▽効果は抜群だ‼

▽ムーランド は 倒れた‼

 

 

『強烈な一撃が炸裂――ッ!! ムーランド、健闘虚しくここでダウン――――ッ!!!!」

 

 

「よし、よしッ‼ ようやく追い詰めたぞメイ‼ 今回ばかりは、勝たせてもらうぜ‼」

 

 残るメイのポケモンは一体。それもルカリオでは、突破なんてできっこない。タイプもステータスもすべてこちらに分があるのだ。

 一時は押されかけた戦況を巻き返して得た高揚感と、ほとんど手中に収まった勝利への安堵が背中を押してくれている。

 

(へへ! あとはこのまま攻め込んで、メイを打ち負かすだけだ……‼)

 

 目前まで迫る白星の感触を心の底から噛みしめ、ヒュウは意気揚々と前を向いた。

 その視線の先には、いよいよ後がなくなったメイが佇んでいる、のだが――

 

 

 

 

「フフ……‼」

 

 

 

 

 意外にも彼女は穏やかに笑っていた。倒れ伏したムーランドを前に一歩も引かず、肩幅まで開いた足が毅然とした態度を物語る。

 そのひたむきな眼差しは、勝ちを確信したヒュウの心を見透かすように射止めて離さず、彼の動揺を誘った。

 

「な、なんだよその目は……⁉」

「さっき言ったでしょ? この勝負、私も負ける気はさらさらないって……‼」

「……‼」

「私だって一人のポケモントレーナー‼ 目の前のバトルには最後までゼンリョクを注ぐのみ‼」

 

 蒼い眼に静かな炎が燃え上がる。今まで胸に秘められていた闘志が、ゆっくり語られる言葉に乗せられ、次第に色濃くなっていく。

 勝利は決して譲らない、譲りたくない。そんな想いはやがて、彼女が切り札を紐解くと同時に現れた。

 

 

 

「ムーランドの頑張りだって無駄にはしないよ‼ いって、ルカリオ‼」

 

 

 

 瀕死のムーランドを戻した直後、メイは別のボールを天に放って高らかに叫ぶ。一段とまばゆい閃光がステージを白く塗り潰し、その向こうに佇む影を煌々と照らした。

 それは幻想(イリュージョン)などではない。正真正銘、本物のルカリオの登場だ。

 

▽メイ は ルカリオ を繰り出した‼ 

 

 勇ましく現れ出た相棒へ、メイは気合を込めた指示を叫んだ。

 

 

 

「『きあいだま』‼ 波動最大ッ‼」

「ルオン‼」

 

 

 

 一糸乱れぬ完璧な動作。ルカリオが両腕で弧を描けば、手のひらに凝縮された青白い光弾はたちまち膨れ上がって巨大な球体へと変貌する。波動が渦巻き周囲の空気を歪ませるほどのパワーを持った、とっておきの必殺ワザ。

 

「『きあいだま』……⁉ だが、そのワザは――」

「ええ。ヒヒダルマには威力半減、普通なら削り切れない! ……けど‼」

 

 メイはヒュウの動揺を塗り潰すように続けた。

 

「ダルマモードを維持できるのは半分以下の体力‼ そして鉄壁の布陣もムーランドが削ってくれている‼ 今なら、押し切れるッ‼」

「なに……‼」

「いくよ……波動最大ッ‼」

 

 その時。突き出されたルカリオの手から、蒼く輝く光球が放たれた。

 

▽ルカリオ の きあいだま‼

 

「ルアアアアッ‼」

 

 腹の底から絞り出すような咆哮と共に打ち出されたそれは、凄まじい風圧を伴って一直線にヒヒダルマのもとへ飛来し、着弾。炸裂する青白い閃光から遅れて強烈な衝撃波が、ステージをめくり上げながら会場中を駆け抜ける。

 巻き込まれたヒヒダルマは場に留まり続けるが、波動のパワーを一身に浴び続けた巨体は少しずつ、ジリジリと後ろへ押し出され始めた。

 

 

 

「く……‼」

「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」

 

 

 

 身代わりを退け、攻撃を耐えて繋いだ一つのバトン。

 決して無駄にはできないと叫ぶ声が、パートナーにも届いたのか。

 体を固めて必死に食い下がっていた、ヒヒダルマの姿勢が僅かに傾く。

 

 

 

「……‼」

 

 

 

 ピシリ、と。そんな音が聞こえてきそうなほど乾いた音がして。

 次の瞬間、前線を張っていた不屈の石像は、遂に力尽きて転がり倒れた。

 

 

 

▽効果はいまひとつのようだ……

▽ヒヒダルマ は倒れた‼

 

 

 

『き……決めた――ッッ!! 赤コーナー、ギリギリの死闘を征しヒヒダルマを撃破だ――――ッッ!!!!』

 

 

 

 鳴動する会場を割るように響く実況の声が耳を突き抜けた。心臓が早鐘を打ち、額にじんわりと汗が滲む。

 瞳も虚ろにステージで横たわるダルマモードのヒヒダルマは、ターンを重ねて築いた作戦の瓦解を、そしてこの闘いの決着をも意味していた。

 

(残ったケンホロウじゃもう巻き返せはしない……! オレの、負け……‼)

 

 バトルの中で、一瞬でも見えた勝機。それが崩れ去る時は、こんなにも呆気ないのか。

 途端に脳裏へ浮かぶ敗北の二文字。ずしりとのしかかる重圧に立ち尽くすヒュウは、向かい合うメイの顔を呆然と見つめる。

 そうして、何度逆境に追い込まれても決して折れなかった彼女の眼が、より一層の希望を宿して凜然と輝いていたことに気付いた時。彼は深いため息を吐きだし、ふっと口元を緩めて思う。

 

 

(目の前のバトルにはゼンリョクを注ぐ、か……)

 

 

 ポケモントレーナーは皆それぞれの胸に、戦う理由や信念を抱えている。それゆえバトルは、常に意地と意地とのぶつかり合いだ。先に折れた方が負け、己を貫き通した方が勝利を手にする。駆け引きだってその一環。奥深くとも、その本質はシンプルなもの――

 

 だからこそ、純粋に勝負と向き合う彼女の姿が、ちょっぴり眩しく映るのかもしれない。

 

(ニクイやつだよ、お前は……‼)

 

 胸の内でポツリと呟き、ヒュウは奥歯を噛みしめ目を閉じる。そして次に双眸を開いた時、彼の表情から迷いは消え失せ、清々しいほど晴れやかに笑った。

 

「ギリギリで押し切るとはオマエもやるな‼ 流石に驚かされちまったぜ……‼」

「フフ、それはお互い様でしょ? ここまで白熱する勝負は久しぶり……これだからバトルは楽しいの‼」

「ああ……! だけどよ‼」

 

 そこで一旦言葉を区切り、ケンホロウの入ったモンスターボールを構えてメイに向き直る。

 

「オレだってオマエと同じポケモントレーナーだ‼ 最後の時までゼンリョクで立ち向かうッ!!」

「……ええ‼」

 

 メイの顔がパァッと明るくなるのを確かめてから、ヒュウはボールをぶん投げ最後に残ったケンホロウをステージに呼び戻す。間髪入れずにワザを指示して、最後の一騎打ちへと持ち込んだ。

 

 

「いくぜケンホロウ‼ 『ダブルウイング』ッ‼」

「ホロウ‼」

 

▽ケンホロウ の ダブルウイング‼

 

 

 大きく旋回するや否や低空飛行に切り替え、両翼を広げたケンホロウ。

 超高速で飛来するその影を捉えたメイは、すかさずルカリオに反撃を命じた。

 

 

「ここで決めるよ、ルカリオ‼ 『かみなりパンチ』‼」

「オル‼」

 

▽ルカリオ の かみなりパンチ‼

 

 

 両者が肉薄する寸前。弾ける稲妻を纏った拳がケンホロウを迎え撃つ。

 疾風をはらんだ翼と、空気を打つ電撃の鉄拳。2つのワザは真っ向勝負でぶつかり合い、互いに拮抗するも――やがて、轟音と閃光と共に散っていった。

 

 

▽ケンホロウ は倒れた‼

 

 

『ケンホロウ、遂にダウン――ッ!! 試合終了ッ!! 勝ったのは赤コーナー……ヒオウギの新風、メイだ――――ッッ!!!!』

 

 

 激闘がようやく終わりを告げたバトルフィールド。

 どっと湧き上がるギャラリーの歓声に包まれる両者は、互いを健闘し合うように笑い合った。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「フフフ……辛勝というべきか粘り勝ちというべきか‼ なかなか面白い勝負でしたね……‼」

 

 場所は変わって最前列の観客席。周囲の人々がステージへ拍手を送る中、アクロマは一人満足げにブツブツと語り続けている。

 

「しかし青コーナーの彼もいいところまで押していたのですが、勝負の命運を分けたものははてさて何やら‼ この謎を解明することこそわたくしの目標ですからね、今回の試合は良いサンプルにもなりそうです‼ 現在、わたくしは一つの仮説を立てているのですが――」

「ふん、オレは控室に戻るとしようか」

 

 バトルに触発されて口数の減らない彼を一蹴し、隣の席の海馬が立ち上がった。無下にもそのまま立ち去ろうとする背中を横目に追いながら、落ち着きを取り戻したアクロマはコホンと一息、咳払いをしてから改めて口を開く。

 

「……おっと、これはまた失礼! しかしもう行かれるのですか? せっかく相手が決まったというのに……!」

「あいにくスポ根決闘(デュエル)のその後まで、ダラダラと見る気はない。オレはデッキの最終調整に入る。それが有意義な時間の使い道というものだ」

「なるほど、アナタらしいストイックさだ! ではその調整を楽しみに、ギャラリーの方で待たせてもらうとしましょうか‼ フフフ……‼」

「ふん、勝手にするがいい」

 

 上機嫌で笑ったまま見送るアクロマに背を向け、海馬は足早に会場の出入り口へ向かって歩き出す。

 待ち望んだ決戦に心躍らせ、口角をにやりと釣り上げながら。

 

 

(ようやくこの時が来たか……! 今こそ貴様を叩きのめし、タチワキでの雪辱を返す時だ、メイ……‼)

 

 

 胸中でほくそ笑む彼の表情は獰猛な殺気に満ち溢れていた。

 

 

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